姉はリモコンをしまう代わりに、自前の携帯端末で遊び始めた。
モバイルバッテリーで充電しつつ鼻歌交じりに撮りためた画像を手繰っていく。
写真には遊戯に興じる姉妹の姿があった。
食事会の直前、私は外の広場で遊んでいた。食事会の場所が自宅前の坂を登ったところにある女子大学研修センターであったため、ひとりブランコに座って、鳥の囀りに耳を澄ませながら心を落ち着かせていたのである。
ほどなくして幼い姉妹の声が静寂を穿った。
更識姉妹がとなりのブランコで二人乗りを始め、更識刀奈は立ちこぎ、年若い妹のほうは座って背筋を丸めて縮こまって座った。あまりに勢いをつけすぎて、妹がバランスを崩して落下。ブランコから飛び降りた私がすかさず受け止めたのである。
布仏真や後にオータムと名乗る
「可愛いっ……あーあ、束さんもこんな可愛い女の子が欲しいなー」
姉は携帯端末に映る幼女たちを眺めながら、うっとりし始めた。
私や布仏真にも画面を見せつける。西秋や暗部関係者と思しき女性たちと戯れる更識姉妹の映像であった。
「早く済ませてお外で遊びたーい! 箒ちゃんもそう思うでしょ! ね!」
「うんっ!!」
私は満面の笑みとともに答えた。この場から離れられるならばすぐにでも離れたい。そんな私のささやかな願いが表に出てしまったのだ。
「可愛いっ……しまっちゃいたいくらい可愛いっ。そだ! しまっちゃえばいいんだ!!」
「しまっ……ぇ?」
不穏な発言を耳にしたような気がして、聞き直した。
姉は私の言葉に耳を傾けることなく、思いつきで心がいっぱいになっているようだ。
「刀奈ちゃんと簪ちゃんを選んで、画面の上に、ぽーいっ!!!」姉は画面の上に向かって指を滑らせた。
「へへへ……
「え、今、なんて」「しまっちゃった♪」「その前」
私は耳を疑った。
生前の私は自らが生み出したISコアの能力を100%引き出すことができなかった。
タチの悪い食中毒によって研究半ばで
当時の経験から、私は、絶対に人体を量子化しないよう強く忠告した。
実験結果、エラー。ヒューマンイズデッド。ミスマッチ。
「ふっふっふー。しまっちゃう束さんイズエアヘッド、もーまんたい」姉は根拠のない自信満々な顔つきである。
私は真っ青になって布仏真の裾を引っ張ろうと手を伸ばした。
彼女ならどうにかできるかもしれない、というすがりつくような思いだ。
なぜなら前回の社会実験において、更識楯無に代わって彼女が実行部隊を指揮していたのだ。更識楯無への仕事の依頼に失敗し、布仏家を通じて【暗部】の手を借りねばならなかった。
今の時点でも布仏家の息がかかった者は【暗部】の半数に及ぶ。それだけいれば、社会実験はどうにか実行できるはずであった。
だが、クズ姉は布仏家との交渉材料を潰してしまった。更識姉妹をゼリーガールに変えてしまったのである。
「……箒ちゃん?」姉が私の上着を引っ張る。
「お顔がぐずぐずのてろてろだよ?」
振り返った私の顔は青ざめていた。姉はおどけた顔つきで釈明した。
「てへぺろ♪ 束ちゃん様、嘘吐いちゃった♪」姉の声がうわずっている。
「実は量子化してないんだよねー。ほら!」
携帯端末の画面には、上空でうろたえる更識姉妹が映し出されていた。
姉は慣性消去機能を使い、更識姉妹をとても高く持ち上げたのであった。
「何メートル……」
「ざっと、20メートルかな? 今すぐ戻すよーんっ!」
20メートルはマンションで言うところの6階にあたる。慣性を取り戻した姉妹は、運動法則に従い、地面へと落下していった。
携帯端末から更識姉妹の悲鳴が聞こえる。今度は布仏真が青ざめたが、姉は気にしていないようであった。
「お嬢様!!」「だいじょーぶ、だいじょーぶ、束ちゃん様に考えがありまーす」
更識姉妹が地面から30センチのところで急停止したかに見え、もんどり打って1メートルほど跳ねたあと、地面へと着陸したのであった。
『う、わっわっわっ……うわぁあああああん!!』更識刀奈が泣き出した。つづいて状況を認識した簪もまた声を上げて泣き始めたのである。
『……ひっぐ、ぐすんっぐすんっ……うぁぁああ、わっ、わっ……ああああああんんん!!!』
携帯端末のバイブ音を感知する。布仏真が下を向き、端末を耳に宛がった。
「はい、私です。秋ちゃんっ!? え!?」
あわてた素振りで更識夫人に耳打ちし、ふたり連れだって部屋を退室していった。
更識姉妹が泣きわめいているのだから当然の反応であった。
姉は扉が閉まるのを見届け、興奮状態の楯無氏にのほほんとした面持ちでこう言った。
「楯無さん! いまから依頼内容のご説明をしまーす。聞いててくださいね♪」姉が分厚い方の書類をめくる。
「やってほしいことは大きく2点でーす! お手元の書類をごらんくださいっ!」
姉は元気よく指差した。花柄で縁取られた書類には、見出しと詳細が書いてある。簡単な計画書もつけてあったのだ。
「………………なにぃ!!」楯無氏の眼がこれ以上ないほど見開かれた。
最初の見出しで驚くのはわかっていた。何しろ、書類の大部分を私が書いたのだ。姉は数字を入れたに過ぎない。
「………………誤字ではないのか!?」
「見出しですよぉ、間違えるわけないじゃないですかー。クスクスクスッ」
楯無氏の身体が震えた。報酬総額10兆円の理由を理解して冷や汗を流す。
「
「
「バカなっ……どういうことだ……」
「布仏
「……テロリストどもと手を組んでまで、何をしたい……」
「革新たる新商品による新時代の構築、そして既存商品の陳腐化を知らしめること…………」
姉が私のほうを横目に見ながら告げた。
「具体的にはぁ東京湾に3000発のミサイルを撃ち込みます。そして、これをすべて撃墜した……………………という演出をします!!!」
そう、演出だ。
演出こそが重要なのだ。
3000発のミサイルが撃ち込まれたことによって
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※繰り返しますが、本作は「アンチ・ヘイト」タグは不要であると判断しております。「念のため」も不要です。全体を通しての判断です。よろしくお願いいたします。