真・恋姫☨夢想 革命 張郃転生伝   作:青二蒼

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恋姫、どこまで続くんですかね。

董卓ルート的なのが制作されているようですが……気になる!

戦国もあるし恋姫でOROCHI的なの出来そうだな。
時折そういう小説見掛けますが。


六章:張郃、高覧と出会う

 本拠地を移してからは徐々にではあるが内政が安定してきつつある。

 俺は俺で器用貧乏な感じで武官と文官を兼務してる感じだ。

 事務仕事は前世で慣れてる。

 本職が武官なのでそちらを優先しつつも、手が空けば手伝っている。

 休みを貰ってもやることが限られているのでどうしても退屈になる。

 やることはたくさんあるんだが、やっぱり娯楽が少ないよな。

 鍛錬して、書を読んで、酒を飲む。

 今のところはそれが休みのルーティンだ。

 (がく)でも始めるか?

 そんなことを最近は思う。

「そう言えば空さん。最近、妙な噂が出始めたみたいですよ」

 真直(まぁち)の手伝いをしていると、彼女から唐突に話し掛けてきた。

「例の御遣いの話でしょ。くだらない」

 そして荀彧もいる。

 彼女は馴れ合うつもりはないという感じで、ここに来てから誰も真名を許してはいない。

 荀諶(じゅんしん)さんは……何考えてるか分からん。

「何でも天より流星が落ちて、天の御遣いをもたらしこの大陸に安寧が訪れるだろう、と。細かいところは違うと思いますが概ねそんな内容ですね」

 と、真直は噂の内容を話す。

 遂に一刀が来るのか……どこに落ちるやら。

「大体、そんなので安寧が訪れるなら苦労なんてしないわよ」

 荀彧の言うことはもっともだ。

 天の御遣い一人で平和が訪れるなら確かに苦労はしない。

「ところでこの間違いだらけの報告書は誰よ!?」

 そう荀彧がプリプリしながら竹簡を見せてくる。

 字に覚えがあるので俺は素直に答える。

「あ~猪々子、もとい文醜将軍ですね」

「もうちょっと採算合わせなさいよ! 何で出兵する兵より装備が少ないのよ!」

 あ〜、兵の数>装備って感じになってるのか。

 この世界に計算式なんてないから難しいよな、そういうの。

 というか計算いらないか。

 どちらかと言うと調査だな。

 会社の監査のためのそういう調査とか面倒くさかった思い出が蘇る。

「まあ、猪々子さんですし……返してもきっと間違えてくると思いますのでこちらで修正したほうがマシですよ」

「真顔で毒を吐かないで下さい、空さん」

 真直にツッコまれつつも事態は急変する。

 一人の兵が慌ただしい様子で入って片膝を着いて報告してくる。

「将軍方、大変です!」

「また賊ですか?」

 この時期に火急の用なんて大体それなので俺は先に尋ねる。

 兵は軽く頷くと、

「はっ! 安平(あんぺい)国の中央にて現れたとのこと、その数は二千五百!」

 そこそこに多いな。

 安平国はこの北の広平(こうへい)群という土地を挟んだ北にある場所だ。

 さらに安平国の北には俺のこの世界の故郷の村があるーー

「しかも集団はさらに北を目指しているとのこと。おそらくそのまま北上して河間(かかん)を目指しているものかと」

 そう、河間だ。

 それを聞いて俺はいつか恐れていたことが現実味を帯びる。

「……やってくれますね」

「なに、河間に故郷の村でもあるの?」

 荀彧は俺の様子を見てそう当たりをつけてきた。

「そういうことです。故郷のある郡が襲われると聞いては捨ておけませんね。どっちにしても賊は放置出来ませんが」

 俺はすぐに出立の準備を考える。

 真直と荀彧もすぐに切り替えるように指示を出す。

「すぐに軍議の準備と出兵の準備を、先鋒は張郃将軍で機動力を重視して騎馬の準備も合わせてお願いします」

「それと、糧食は軽めにしておきなさい。機動力が勝負というなら余計な荷物は不要よ。それと、早馬を出して広平郡と安平国の太守に賊討伐通行の旨を伝えてちょうだい。兵数に関しては追って知らせると付け加えて」

 必要なことは淡々と冷静に指示を出す二人。

 頼もしいことこの上ない。

「はっ! ただちに取り掛かります!」

 兵は一礼すると足早に去っていく。

 さて、冷静にいこう。

 

 

 軍議が開かれ、軍師や文官として田豊、沮授、荀彧、荀諶。

 武官は顔良、文醜、張郃である俺っと。

 真名じゃない名前だけ見れば袁紹軍って感じだ。

 まず麗羽様が疲れたように口火を切る。

「また賊ですの? こうも賊が多いと主上さまもお嘆きでしょうに」

「ふぁ~あ……ここら辺はあんまり出なくなったけど、別の所で多いよな~。出兵が多くて眠いよ」

「それはみんな一緒だよ、文ちゃん」

 斗詩の言うとおり確かに多少なりとも疲労は溜まっている。

 交代で出兵してはいるが、主力の武官が三人しかいないのはいささか少なすぎる。

 武官の確保も今後の課題だな。

「仕方ないのでございます。官軍も頑張っているようでございますが、些か数が多く手の回らない状況でございますから。まあ、他にも要因はあるのでございますが……」

 最後に含みのある言い方をする小夜(シャオイェ)がそう付け加える。

「それはともかく誰が行って下さいますの?」

「私が行きます」

 麗羽様の問い掛けに俺はすぐさま答える。

「空の姉貴、なんか妙にやる気だな」

「まあ、故郷のある河間郡に向かってると言われればね」

 猪々子の疑問に答えるように俺は言う。

 その様子に「なるほどな~」と猪々子は納得したようだ。

 斗詩は俺の出身地に少し食いつくような感じで言葉を掛ける。

「空さん、河間郡の人だったんですね」

「正確には河間郡の北にある鄚県(ばくけん)ですがね。どっちにしても放っておいていい理由にはならないでしょう」

 討伐に動かなければ、州牧が守ってくれないと民は不安になることだろう。

 そして同時に反感も買うし、他の野心ある者につけいる隙を与えるだろう。

 あの州牧は民の為に動かない、為政者として相応しくないって感じに。

 良いことなんて何もない。

「では、空さんにお任せしますわ。いつものように華麗に討伐してらっしゃい。ちなみに兵力はどうしますの?」

「まずは先鋒で騎馬を五百ほど。あとは、真直さんにお任せします」

「仕方ないですね。歩兵と弓、合わせて千五百でどうでしょう? あまり多く動きますと逃げられるかもしれませんし」

 真直は素早く見積もりを出してくれた。

 数は少ないが、賊の練度的に数は少なくても大丈夫だろう。

「仕方ないので此方(こなた)がそれを率いるのでございます。ここ最近の罪人達の判決も付けて調練も完了してるので〜。人選はこちらでするのです」

 と、小夜は前に話していた兵役による情状酌量の処置を終えた兵士達の調練が終了したらしい。

 まあ、戦場に行く条件とは言えお金は出るし飯も出るのであれば文句は少なくともないはずだ。

 もし戦場に行きたくないというのであれば、別口で農作や土木関係の仕事を斡旋(あっせん)している。

 人間、(しょく)(じゅう)があるなら盗もうとは思わないだろう。

 困窮してるからこそ盗むのがこの時代の人だと俺は思う。

 俺の住んでた時代はどうかと問われれば、一部の国を除いてそう言った飢えはあまりない。どちらかと言うと、精神的な病の方が多く抱えてるように思う。

 話が逸れたな。

 そう言った政策のおかげで兵力は徐々に増えつつある。

「というわけで、真直さん。あとは任せたでございます」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべて意地の悪い顔をしてる小夜。

 その表情を見た瞬間、真直はしまったという顔をする。

「……はっ!? 小夜さん、珍しく積極的だと思いましたらそういうつもりですか!?」

「それだけではないでございますけどね。空殿の用兵を一度も見たことがざいませんので~。軍師として将の力量を見極めるのは大事なことでございますし」

 そこまで小夜が言ったところで俺は察した。

 真直に麗羽様を押し付けやがったな。

 しかも、もっともらしいことで論理武装してやがる。

「なあ、沮授〜。何で空の姉貴や真直は真名を許してあたいはダメなんだよ~」

 袁紹軍の古株なのに猪々子には真名を許してないんかよ……

 そう言えば、以前も真名じゃなく普通に名前で言ってたな。

「まともに報告出来るようになってから出直しやがれでございます」

「別にいいじゃん。細かいことは得意なやつに任せりゃあさ〜」

 小夜はそう言えば気難しかったな、そこら辺。

 まあ、真名は自分が認めないと許さない神聖な名前だからな。

 実際、小夜は武官としては認めてても将としてはあまり猪々子を認めてない感じだ。

 猪々子は気にしないだろうが(はた)から見ればギスギスしてるようにしか見えんぞ。

「雑把に過ぎるんでございます。斗詩を見直して下さい」

「斗詩ぃ〜。沮授があたいをイジメるよ~」

「あはは……ハァ〜」

 猪々子の助けに斗詩は苦笑い。

 これはアレだな、思うところは多少なりともあるから何も言えないんだろう。

「では先鋒で私も同行してよろしいでしょうか?」

 と、意外な人物が声を上げた。

「姉様!?」

 荀彧が驚くのも無理はない。

 それまで一言も話していなかった荀諶(じゅんしん)さんが名乗りを上げたからだ。

 麗羽様も流石に尋ねる。

「あら、荀諶さん。よろしいんですの?」

「ええ、これからお世話になりますから少しくらいお役に立っておこうかと思いまして。桂花程ではありませんが、私にも用兵の心得はございます。それに交渉事がないとも限りませんし」

 などと、穏やかに言うがーー

「ある程度は強行軍になりますよ?」

 騎馬のみの先鋒。

 五百と二千五百で策もなしに戦うつもりはないが、足止めにしてもハードなことにはなるだろう。

「承知の上です。足は引っ張りませんのでご安心を」

「私は別に構いませんが……」

 俺はチラリと荀彧を見る。

「まあ、確かに姉様なら多少面倒なことになっても舌先三寸でどうにかなるでしょうけど……あんまり役に立つ場面がないとは思うわ」

 心配してないのかディスってるのかよく分からん言い方だな。

「口の減らない妹ね」

「減らないのは姉様の方でしょ」

 荀家はネコミミフードだけじゃなく性格もひねくれてるのがデフォなのか?

「では、方針は決まりましたわね。さあ、空さん! 袁家を彩る華麗な活躍をしてらっしゃい!」

「御意」

 空気を読まずに麗羽様が締めくくってくれたので俺と荀諶さんはそのまま鄴を発つ準備をする。

 

 

 兵の準備を終えて幾日。

 馬を飛ばし、広平群を越えて安平国へと入った。

 そのまま情報を収集しながら北を目指す。

 糧食を少なめにしてる分、機動力は出るがいかんせん持久戦は出来ないし無駄な消耗も出来ない。

 本隊を待つしかないが、問題は敵の行動だ。

 荀諶さんが幾人かの兵士を連れて近く村や街に情報を集めて回っている。

 そして、今戻ってきた。

「どうでしたか?」

 馬に乗ったまま荀諶さんが俺の質問に答える。

「安平国の中央にある信都(しんと)扶柳(ふりゅう)の間くらいに現れ、そのまま北を目指したそうです。それがつい二、三日程前である、と」

 なるほど……

 地名はある程度は勉強してる。

 今の場所だと……ここは信都から北に何里か離れたところだな。

 向こうの行軍はそこまで速い訳ではないらしい。

「思ったより近いかもしれませんね」

「私もそう思います。北を目指すのはどう思われます? 張郃将軍」

「どう思うと申されましても、北を目指す意味なんて特にないとは思います。しいて考えるなら官軍のいる洛陽より遠くであれば好き勝手出来るくらいにしか考えてないのではないですかね?」

「だとしたら単純で良いのですけれど。確かに未だに散発的にしか現れてない上に組織的な行動もある様子もないので順当な話ですね」

 荀諶さんが冷静に分析する。

 馬を再び走らせ、再び北へ。

 巻き上がる砂塵、馬足が地面を揺らす。

 走らせながら俺はこの際、気になってることを行軍の音に負けないように声を張り上げて聞く。

「荀諶さんは陣営に残るつもりですか?!」

「ええ! どうしてそんなことを聞くのかしら?!」

「荀彧さんはあまり残るつもりがないように思えましたので!」

「あの子は優秀過ぎるのよ! きっともっと大きなことを考えてる! 私は私でこの陣営は悪くないと思ってるわ! だから残ることにしましたの!」

 にっこりと彼女は微笑む。

 何かしらの思惑があるのだろう。

 それ以上、俺は深く聞かない。

 そこで会話は途切れ、ある程度行軍したあとに再び斥候を放ったり周辺の村々から情報収集をする。

 そして賊がいるであろうと思われる、かなり近いところまで絞ることができた。

 大体、北東の位置にある武邑(ぶゆう)の方へと向かっていったらしい。

 俺の住んでた河間郡へと確実に近付いている。

「さて、そろそろ見えそうなものですが……」

 独り言が多くなる。

 冷静に努めようとするも内心、穏やかじゃない。

 斥候を更に放ちながらも少し速度を落として前進する。

 そして馬に乗った一人の兵士がこちらに近付き、報告してくる。

「伝達します! 前方に賊と思われる集団を発見! 何者かと戦闘している模様です!」

「ふむ……ここの太守の軍でしょうか? 旗は?」

 一番考えられそうなのはそれだがーー

「いえ、それが旗はなく……どこの者かまでは判別出来ません!」

 その言葉を聞いて荀諶さんが首を傾げる。

「旗がない。つまりは義勇兵や抵抗する民兵の可能性は大いにありえますね。敵はどちら側で戦っていますか?」

「南側です。北の方で抵抗を受けているものと思われます!」

 兵から詳細を聞くに、どうやら河間のある北の方から何かしらの抵抗を受けているらしい。

 さて、救援をしたいところだが彼我の戦力差は圧倒的。

 横腹を突けば混乱は見込めるだろうが撤退時期を見誤れば数に呑まれてせっかくの騎馬の機動力もなくなる可能性はある。

「北で抵抗してる者を援護します」

 ならば機動力を活かして翻弄するしかないだろう。

 深入りせず、キツツキのように穿つように攻めつつも退()くのがいいだろう。多分。

 そして、相手がこちらに目が向くように俺は荀諶さんに策を提案する。

「荀諶さん一つお願いがあります」

 

 ◆       ◆       ◆

 

 張郃こと空が一計を案じていた間にもその北側では、一人の若武者とも言うべき女性が抵抗していた。

 肩より少し上の短めの紺色の髪。

 緑の瞳は強い意志を感じさせる双眸(そうぼう)をしている。

 先と石突きの両方が槍となっている両刃槍(りょうじんそう)を持って、賊を薙ぎ倒している。

「てりぁああああーー!!!」

 気合一閃。

 賊を食い止めるように奮闘する彼女。

(限界じゃ、ない……っ)

 心が折れないように奮い立たせているが身体は正直であった。

 既に何十合と打ち合い、百以上の回数は武器を振るっていた。

 腕に鉛のような重さを感じている。

 そして、自分達の居場所を守ろうと勇敢に共に立ち上がってくれた人々も数を減らしてしまっている。

 状況はどう見ても劣勢。

 だが、ここで折れてしまえばなおさら共に立ち上がってくれた村民、義勇兵には申し訳が立たなくなってしまう。

 今は士気がまだ辛うじて残っている。

 それも紙一重であり、奮闘する彼女が折れてしまえば終わりだ。

 それを予見しているからこそ、彼女は折れてはいけないと自らを奮い立たせている。

 槍を回し、遠心力で賊の首を刎ね、時に背後に回ってきた者を反対の刃で突き刺す。

「そのまま押し潰せ! アイツは疲れてるぞ!」

『うおおおおお!!』

 あれだけ目の前で仲間が斬られていても数の暴力が士気を低下させない。

「困っちゃいますね〜、ホント……」

 独り、言葉を漏らしながらも目の前には人の波。

 最早これまでかと目を閉じた瞬間ーー

「て、敵襲だぁぁあああ!!」

 戦場の流れが変わった。

「み、南からすげえ数の旗がこっちに来る!!」

「た、大軍だああ!」

 突然の大軍。

 それに奇襲され賊は突如として混乱に陥る。

「仕方ねえ! こっちは後回しだ、迎え討てええ!」

 それから目の前に迫っていた波が反転する。

 何人かはこちらに来るが、この程度ならばと彼女は気合と共に斬り捨てる。

「ハァ……ハァ……!」

 しかしそこが限界だったか、迫ってきた数人を斬ったあとは槍を杖のようにして片膝を着く。

 鈍くなっていく頭で、思考を巡らす。

(軍……どこの?)

 同時に馬の音と(いなな)きが近付くのに気付く。

「やれやれ、思ったより単純でしたね」

 馬上から一人の女性が呟きながら数人の兵士と思しき者と共に彼女に近付く。

「大丈夫、ではなさそうですね。腕に覚えがある者とお見受けします」

「は、は……い」

「私は冀州牧、袁紹が配下の張郃と言います。なので安心して下さい。これよりあなたを含めて義勇兵と思しき方々を安全なところまでーー」

 そこで彼女は意識を手放した。

 

 ◆       ◆       ◆

 

「おっと」

 素早く馬から降りて、倒れそうになった彼女を抱きとめる。

 どうやら孤軍奮闘、という訳ではないがほとんど一人で奮戦していたらしい彼女。

 名のある武将だろうか?

 誰だろうな~、と思いつつもそんなことより……だ。

「では、あとは任せましたよ。私はこれより指揮に戻ります」

「ハッ! お任せください!」

 兵に義勇兵の残党と彼女を引き渡し、私は騎馬隊へと戻る。

 策は単純で旗をできる限り多く持って大軍に見せ掛け、荀諶さんが北に集中している賊を南から奇襲。急造で手作り感がある粗雑な旗もあるが仕方ない。

 その間に俺が北の抵抗勢力と接触して彼らを逃がす。

 南に大軍が来たと分かれば、そっちに戦力を移すと思っていたが上手くいったらしい。

 まあ、分かりやすい目標があればそっちに注意が向くよな。

 もう少しまともな指揮官がいれば北を潰してから南に注力するとかも考えただろう。

 もし北にも戦力を割いてたらどうするのかって?

 今頃は荀諶さんが東に移動して側面を突いてるだろう。

 キツツキのように当てては下がる。

 これがキツツキ戦法……まあ、違うけど。

 ともかく旗を持った大量の集団がいれば大軍で来たと思われるだろう。

 そしてあちこち突かれれば包囲されてると勘違いするかもしれない。

 そうすれば北以外を固めるだろうと思っていた。

 もし釣られなかったら……そこまで考えてなかったな。

 うん、まだまだ迂闊だな。

 軍師を騎馬隊で前線指揮させるのはどうかと思ったが、状況が状況だ。

 救援の方がより危険と判断したのだが……

 とにかくあとは無理せず撤退だ。

 

 

 荀諶さんと合流を果たし、一旦撤退した。

「当初の目的は果たした、というところですかね。目標は健在ですが」

「見事な引き際です。幸いにも兵の損失はありません」

 と、荀諶さんは俺を褒めてくれるが少々無茶が過ぎたかもしれない。

 偶然で上手くいったでは意味がないからな。

 馬を追い掛けようとは思わなかったのか、こちらが撤退すれば賊達は抵抗を止めた。

 近くの森に一度退避し、俺と荀諶さんは先程の義勇兵と合流しに向かう。

 退避させた兵に案内をさせると、どうやらこの義勇兵が集った村へと案内された。

「おお……これは将軍様。皆を助けて頂きありがとうございます」

 と、髭を伸ばしたいかにも長老な人物が謝辞を述べにやってきた。

「いえ、随分と犠牲が出てしまいました。出来得る限りは尽くしたのですが」

「良いのです。我らが血気にはやってしまったが故の結果でございます」

 自分達の責任だと長老は述べる。

 殊勝なことだ。遅かったなどと責められるかと思ってたんだがな。

 どうやら心は荒んでいないらしい。

「何やら腕の立つ女将を見ましたが彼女は?」

「"高覧"殿でございますか? 彼女でしたら既に意識を取り戻して今はあの家で休まれております」

 と、長老は村の中のよくある家屋を一つ指差す。

 大きくもなく、小さくもない。

 俺の村のところの家と似たもんだな。

 しかし高覧……聞いたことある名前なんだが誰だったか……

 張郃と縁のある人物なのは覚えてるんだが、全然分からん。

 取り敢えずは会ってみることにする。

「荀諶さんは小夜さんに伝令を。こちらの状況と小夜さんの現状を送って貰うように願います」

「御意。では失礼しますね。ふふ……これが無事に終わりましたら私の真名をお預けします」

「それは嬉しいですね。認めて貰えたということで」

「ですけど正式に呼ぶのは客将でなくなった時でお願いします。特別に袁紹様より先にお教えするだけですからね♪」

 荀彧に比べて茶目っ気のある顔をする荀諶さん。

 君主より先に真名を呼ぶのを控えているのは体裁的な問題を考慮してだろう。

 それから彼女は伝令の指揮をするためにネコミミフードを被って何処かへ行く。

 仕事モードはネコミミなのか……

 まあ、そこは置いておこう。

 俺は俺で長老に言われた家を目指す。

「お邪魔します」

 家に入ったところで見つけたのは何やら寝台に腰掛けながら物憂げな表情をしている少女。

 ボーイッシュな印象を受ける顔立ち、髪は紺色で肩に届くくらいで手入れされてる感じはある。

 雰囲気的にはスポーツ少女的な感じだな。

「はっ!? 貴方様は?!」

 緑の瞳が俺に気付き、驚きに満ちたところで俺は手でそれを制す。

「礼を取らなくてもいいですよ。安静にしておきなさい」

「し、しかし……!!」

 寝台から出ようとする彼女を俺はそのまま抑えるようと言葉を掛ける。

「よいと言っています。充分に礼節を尽くそうとしてるのは分かりましたから、今はそのままで構いません」

「す、すみません」

「なに、あの時は意識は朦朧(もうろう)としていたようなのでもう一度名乗りましょう。私は冀州牧である袁紹配下の張郃と申します。此度の奮戦、感謝します」

 俺は手の平と拳を合わせ、軽く一礼をする。

「そんな……州牧の配下である将軍様に礼を言われる程ではありません」

 その言葉に俺は哀愁を感じる。

 自分は礼を言われる程に守れてはいないと、無力感に囚われている感じだ。

 まあ、俺も似たような経験はあるから気持ちは分かるがな。

 頑張っても結果が伴わなかった無力感ってやつだな。

 ヤバい……前世を思い出してヘラりそう。

 気を取り直して、彼女に向き直る。

「名をお聞きしましょう」

「は、はい。姓は高、名は覧と申します」

 知ってる。

 様式美的なところはあるが、この世界だと名乗りは大事だ。

 古事記には載ってない。そもそもまだないし。

「高覧殿ですね。遠くではありましたが、見事な武勇でした」

 救出する機会を伺っていたが見たところなかなかのパワータイプだった。

 槍使いってテクニカルなイメージがあったんだが、どうやら剛力の持ち主らしい。

 女性でも武将は武将って感じだ。

 俺はそこまで力が強いつもりはない。多分。

「いえ、私など若輩です……」

 自己評価が低いのかまたしても物憂げな表情。

 メンタルケアが必要だろう。

 そう思い、俺は彼女を傷付けないよう言葉を選ぶ。

「確かに多くを失ったのでしょう。ですが、救えたモノもあります。その事実はよくご理解下さい。できればこのあとも手を貸して頂けると幸いです」

「私を、ですか?」

「はい、必要なのです。他の誰でもないあなたが」

 俺の言葉に少しドキリとした感じを見せる高覧。

 あの武勇を捨ておくにはもったいない。

 在野(ざいや)の人材確保は乱世では必要なことだ。

 少し勧誘の言葉にしては熱烈だったと思うが……まあ、誘い文句は臭いくらいがいいだろう。

 我ながら乱世で図太くなったものだ。

「返答はともかく今は体を休まれて下さい。それでは失礼。いつ賊が動き出すかも分かりませんので、私は隊に戻ります」

 それだけ言い残して俺は隊へと戻る。

 すると、荀諶さんが戻ってきたようで俺を見て近付いてくる。

「張郃殿、沮授殿から伝令が来ております」

「向こうも同じようなことを考えてましたかね」 

「そうみたいですよ。内容はあとニ、三日で信都の近くへ到着するとのことです」

 小夜は既に伝令を飛ばしていたようだ。

 そこら辺、俺より慣れてるよなそりゃ。

 まだまだ経験不足だと感じる。

「それまで賊が変な動きを見せないことを祈りますがね」

「既に斥候を放っております。今は休息しつつ、兵が少ない今は相手の出方を見るしかないでしょう。ここまで強行軍でしたから」

「助かります、荀諶さん。とりあえずは村から少し離れたところで野営と致しましょう」

「そうですね。村を戦場にする訳にはいきませんし、ここは守りには適しません」

 というわけで、俺達は村の長老に離れて野営することを伝えた。

 もし、何かあっても問題ないよう伝令は村に残して置く方が良いと荀諶さんに助言されそのようにし、俺達は村を離れた。

 

 

 怒涛(どとう)のように一日が過ぎて、俺達は平野で野営地を設けて一先ず英気を養う。

 斥候からの報告を待ちつつ天幕で荀諶さんと休息していると、

「張郃将軍、高覧と名乗る者が訪ねております」

 外の兵から知らせが入る。

 来たか……思ったより決断が早かったな。

 来ればいいなあ、ぐらいにしか思ってはなかったが。

「あら、随分と手が早いですね」

「普通に共闘を申し出ただけです。あの武勇はなかなかですからね」

「張郃殿は人ができたお方だもの。案外、惚れたのかもしれませんよ」

 買いかぶりすぎでは? と荀諶さんの発言に対して俺は内心思った。

 俺が前世で嫌だった、こうして欲しかったと思ったことを実行してるに過ぎないだけなんだが。

 ともかく返答がどうか分からないので俺は通すように言っておく。

 すぐに高覧は入って片膝を着き、

「張郃様、申し出をお受けします。この高覧を是非お使い下さい」

 緑の瞳を力強く目の前に立っている俺に向けた。

 言葉を掛けたあのあとに意思は固まったのだろう。

「高覧殿の心意気、確かに受け取りました」

「それと我が真名をお預けします」

 おいおい……

「そこまでしなくともいいです。声を掛けたのは私ですから、信用ならばある程度しています」

「覚悟として、ということでお願いします」

 覚悟重いわ。

 硬派だな。さっきまで自己評価の低い感じは既にない。

 いかにもこの時代の武将って感じだ。俺の勝手なイメージだけど。

 俺もそれに応えようと思い申し出る。

「では、私も信用の証として真名をお預けしましょう」

「そんな恐れ多い!? 私ごときに州牧の配下の将軍ともあろうお方がッ?!」

「私も元はただの村娘ですよ。旅の途中で偶然出会った文官殿に口添えをしてもらったに過ぎません」

 真直と出会ったのは本当に感謝だな。

 彼女のお陰で将として生きていけるようになったものだし。

 兵法の「へ」の字も知らなかった上に文字を書けるようにもならなかっただろう。

 シミュレーションゲームで兵を動かすのと実際に指揮するのとでは違うのをある程度時間を掛けて学ぶことが出来た。

「今はそういう時代なのでしょう。まあ、州牧である袁紹様が寛大であるのもありますが」

 言い換えれば大雑把でもあるけどな。

 けど公の場で言うことでもない。

 不満があるとか思われても面倒だ。実際あるけど。

 気に食わないとかじゃなくて、もう少し考えて下さいという懇願地味た願いだ。

 今頃は城で真直が頑張ってるだろう。

「では、覚悟の証として真名をお聞きしましょう高覧殿」

 俺はそこで真剣に向き直る。

 相手の覚悟に気圧され緊張するが、負けじと俺も雰囲気を出す。

「は、はい。我が真名、鈴花(りんか)と申します」

 再び片膝を着いたまま礼をする高覧ーーもとい鈴花。

「鈴花殿。私の真名は(くう)です。よろしくお願いします」

「はい、空様」

 こうして彼女は一時的に俺の指揮下に入り、今回の賊を討伐することとなった。

 

 

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