エロいのも大事だがやはりこう、ストーリーで葛藤とか感情の動態があってこそのエロだと思うんですが皆さんはどう思いますか?
「よし、撤退! 野営地がある方向とは逆に進め!」
賊達を騎馬隊で一当てしたあとに号令を掛ける。
脱兎の如く俺達はすぐに野営地とは逆方向に逃げ、賊達を引き離す。
真っ直ぐ陣地に帰れば拠点を知らせるようなものだから大回りで帰って来るように、と
大きく円を描くよう、賊達の視界から消えるまではなるべく真っ直ぐに、だ。
こちらが大軍だと向こうはいつまで勘違いしてくれるかは賭けになる部分はあるが、もしかしたら次が来るかもと思わせることで相手の身動きを鈍らせる。
そういう時間稼ぎだ。
今のところは上手くいっている。
実際、賊達は多少なりとも移動はするが大きく何処かへ向かおうとする動きはない。
野営地に無事に戻り、一時的に指揮下に入った高覧ーー
「空様、ご無事ですか!?」
「心配しすぎですよ。高覧さん」
心配性な鈴花に対して、荀諶さんは落ち着いている。
馬から降りて、とりあえずは現状把握だ。
「被害は?」
「はっ! 未だに損失は出ておりません! 負傷者は何人か出ているようですが……」
近くに控えていた副官の報告に俺は少し安堵する。
死亡者が出ない戦はないが、それでもいたずらに兵を消費する訳にはいかない。
「ならば、すぐに負傷者の手当てを。傷が深い者は安静にさせなさい」
「はっ!」
一礼し、副官はその場から去る。
俺はそのまま荀諶さんに話しかける。
「上手くいってますね。今のところ」
「そうね。もうそろそろ沮授さんも到着する頃合いでしょう」
小夜の伝令が到着し、どうやら近くまで来ていることを伝えてくれた。
野営地の場所についてはこちらも伝令を出しているので迷わずに来るだろう。
と、荀諶さんの隣でさっきから両刃槍を持ってソワソワしてる鈴花が気になる。
「落ち着きがないですね」
「いえ、あれから結局何もしてないので……」
「この野営地と村の防衛をお願いしてますので、何もしてない訳ではないでしょう?」
「見回りくらいしか……」
「なら尚更、何もしてないという訳ではありませんね」
何もしてないというなら見回りすらせずに寝てる状況だろう。
しかし、それでも鈴花は不安そうな表情から変わらない。
「私よりいい
実際、鈴花の身長は俺より大きい。
頭半分くらいは差がある。
しかもスタイルいいし! 上からボンキュッキュだ。
胸はどれくらいかと言えば……真直より少し小さい。
そこは今はどうでもいいな。
俺の言葉に鈴花はまた不安な表情を浮かべる。
「……場違いな気がしてきました。やっぱり一人で賊の首を適当に刎ねてきます……」
おおい……ナチュラルに脳筋とサイコパスを混ぜるな。
思ったより思考が脳筋よりなのと発想が少々ぶっ飛んでる雰囲気が垣間見えちまったぞ。
鈴花が静かに野営地を出ようとするので肩を掴んで引き止める。
「待ちなさい」
「大丈夫です、空様。百……は無理ですが七十は頑張ればいけますから!」
別に刎ねてくる数は聞いてないし! そこ頑張らなくていいから!
最初とキャラ違うくないか、この
先日の武将っぽい振る舞いはどこいったんだよ。
「もうすぐ州牧の袁紹様の軍が到着しますから! 必要なのはその時ですので待ちなさい」
「はい、来たのでございます」
と、聞いたことのある口調に野営地の入口付近に目を向ければ兵を連れた小夜がいた。
「お待たせしたのでございます~」
そしてゆるい感じで挨拶してくる。
こんな人だが袁紹軍の総司令官殿です。
いや、それより……
「小夜さん、いつの間に……」
「つい先程、と申しておくのです。それで、そちらは何者でございますか?」
気だるげだった目にスゥと影と鋭さが出る。
相変わらず不穏な顔が似合うお方で。
文官ではあるがただ者ではない雰囲気を感じとったのか鈴花はすぐに、
「失礼しました。私は姓を高、名は覧と申します。張郃様に救援を頂き、武勇を認められて一時的に指揮下へと加わわらせて頂いた次第です」
礼を取っていた。
こっちも切り替え早いな。
その言葉に小夜は「ああ……」という何とも言えない顔をする。
「誑かしたんでございますね。手が早いことです」
「勧誘と言って下さい」
何でこの人は変な言い回しをするかな。
誑すのは
「ともかく、腕は立つのは保証します。一人でほぼ義勇兵の士気を保たせるほどの奮戦でした」
と、俺は口添えをしておく。
「採用でございますね」
話が飛躍した上に決断早ッ。
小夜は軽く言ってるが俺と鈴花は呆気にとられる。
当の本人である鈴花は「ふぇ?」と可愛らしい困惑の声を上げてる。
「士官しないかとお誘いですよ、高覧殿」
荀諶さんが静かに告げると鈴花は顔を俺に向けながら状況が理解できない表情で、
「え? あの……空様、え?」
若干、助けを求めているような眼差しだ。
「まあ……おめでとうございます?」
俺もなんて声を掛ければいいのか分からないので、取り敢えずは祝福しておく。
「えっと、よろしいのですか?」
少しだけ状況が理解出来たのか、鈴花は困惑が半分くらいで小夜に質問する。
「構わないでございます。お嬢様には
口早に言ったかと思うとすぐに小夜は天幕へと入っていく。
「荀諶さん、鈴花をあとでお連れして下さい」
「任されましたわ」
と、フリーズしてる鈴花を置いてまずは小夜と少し話をすることにした。
天幕入れば小夜は兵にテキパキと軍議の準備をさせている。
「あっさりですね」
「武官は他にもいるにはいますが、主力ともなれば三人しかいないのは問題でございましたしね~」
そこら辺は常々思ってたんだろう。
小夜は認めた理由と原因を簡潔に述べた。
「それに空殿が認めたのでございましたら、問題はないでしょう。真名を預ける程みたいでございますし」
ちょっと含みのある言い方をするな。
嫉妬か? と思ったが、流石にそれはないだろう。
いや、曹操の陣営の例があるから無いとは言い切れないかもしれない。
俺に対しての好感度ってどうなってんだろうな?
ふと、そんなことを思った。
そして、簡易的な軍議の間が設置され今回の討伐に参加する将が集められる。
「さて、状況を整理するでございます。賊の数は高覧殿と義勇兵、空殿の奮戦により賊の数はその数は二千まで減っているようでございます」
小夜が仕切り始め、斥候からの報告をもとに策を組み立てる段取りをする。
しかし、二千か。
こっちと同等の数まで減らせたんだな。
「空殿も随分と無茶でございますね。しかし、足止めとしては十分過ぎる戦果でございます。一体どうやれば二千五百を五百の騎馬で足止め出来るんでございますか?」
「偽装しただけですよ。旗を多く掲げて大軍のように見せかけて騎馬の機動力を活かしてこの場にとどまるようあちこち突いただけですので。相手は大軍に襲われていると勘違いしてくれたようです。お陰で守りを固めるしかなく、動けなくなったのでは、と」
「荀諶殿?」
「張郃殿の策です。私も少々助言しましたが」
その荀諶の言葉に小夜は、悩ましげな顔をする。
……何の話だ?
「空殿……
どうやら自分は大したつもりはなかったが、戦果がでか過ぎるらしい。
小夜は偵察だけを考えてたみたいだが、俺は本隊が来るまでの足止めを考えてたんだがな。
……確かに歩兵しかいないとは言え、二千五百を五百で足止めしてたって冷静に考えるととんでもないことしてないか、俺?
「それは、まあ……兵は詭道なりとありますし」
と、孫子から言葉を引用して答える。
「お嬢様には勿体ない人材でございますね。ともかく平野の何も無いところに賊達は留まっているので、取りうる策は特になく弓を射掛けながら正面からすり潰せるのでございます。向こうは弓なんてまともにないでございますし。空殿は騎馬隊を率いて横腹を突っつけばさらなる混乱が見込めるでしょう」
「それと私から報告がございます」
荀諶さんが静かに切り出す。
「高覧殿がいた義勇兵の村から援助を申し出されました。もちろんお断りしたのですが、向こうからこの度の賊の討伐を強く希望されており、何も惜しまない様子でしたので……」
その気持ちはありがたいが大丈夫か?
確かに村がなくなるよりはマシだが。
というか太守の方が動くべき案件な気がするが。
「なるほど。ところで安平国の太守からは?」
「何も」
「そうでございますか。冀州も一度"新しい水"に変えないといけないところがあるのでございますね……また此方の時間が……」
そこまで小夜が言って俺は気付く。
さっきの荀諶さんとのやり取りで、太守が動かないのはおかしい。
まだこの世界の政治に詳しくはないが、州牧の軍が動いたなら太守も軍を派遣するべきじゃないのか?
しかも村は何も惜しまないということは……それだけ必死だということ。
「鈴花……ここの太守は?」
「賊が出たのは知ってるとは思います。村からも使いを出してるそうですが……」
俺の問い掛けに鈴花は暗い表情だ。
太守の軍が来てるなら義勇兵なんて立ち上がらないだろう。
「ともかく、村の援助を受け入れる訳にはいかないのでございます。義勇兵も無用なのです〜。高覧殿は別でございますが」
「し、しかし……村を守る為に立ち上がった彼らの心意気は」
「義勇兵と言えど、村人でございます。調練されていない彼らが我が軍と連携なんて取れるはずもない。邪魔でしかございません」
鈴花の言葉をバッサリと小夜は切り捨てた。
練度の違いは連携力に直結するからな。それは既に何度か戦った身を以て知ってる。
なので、冷たいと思われるだろうが軍師である小夜からすれば合理的な判断をしてるに過ぎない。
「役に立ちたいのであれば徴兵にでも応じることでございます」
視線だけを横に向けて「ふぅ」と疲れた顔をしながらフォローする言葉を掛ける。
「それに……
その言葉に鈴花は何も言えなくなる。
まあ、そうだよな。
義勇兵なんて言ってるが結局は村人だ。
だから、義勇兵が参加して被害が出ては討伐に来た意味がなくなる。
「さて、話は逸れましたが手堅く用兵すれば負ける相手ではないのでございます。本隊は引き続き
『御意』
「とっとと終わらせるのでございます。休養は?」
「大丈夫です。足止めはされてましたが半日経たずの行動でしたので、休養は充分と。あとは糧食を補給すれば問題はないでしょう」
と、荀諶さんが俺が言う前に補足するように説明してくれる。
「では明朝には仕掛けるでございます」
そう小夜が締めくくって軍議は終わった。
明日には攻めるので早めに休もうと思っていたが、鈴花の様子が少し気になる。
軍議が終わった時に気落ちしてるように見えた。
前世の同僚にも似たような雰囲気のやつがいたし、俺もそういう時に陥ったから何となく分かるとしか言いようがない。
俺の場合は落ちるとこまで落ちて、生きる意思も落としてしまったからな。
少し見回ればすぐに鈴花を発見した。
自身に当てられた天幕の前で何やら
「鈴花」
「これは、空様。何かありましたか?」
声を掛けた俺には気丈に振る舞っているようだが、何とも落ち着かない様子だ。
防具の胸当と篭手を装備し、武器である両刃槍を持ってるあたりちょっと危ない人に見える。
「休んではどうです?」
「落ち着きませんよ」
「小夜さん……沮授殿の言うことに理があるのは分かってるようですが、納得はできませんか?」
「…………」
「今すぐに納得とはいかないでしょうけど、無用な犠牲をなくす為です。それに、鈴花が彼らの意思を代表して暴れればよいではありませんか」
「……空様」
「では私はこれで、明日の武運を祈ります」
やれやれと言ったところだ。
俺はそのまま鈴花から離れて自分の天幕に戻る。
明朝ーー既に軍は展開し終えている。
賊の方は疲弊しているのか動く様子はない。
俺は小夜のいる本隊から離れて側面を取りやすいように布陣している。
ちょうど本隊の北東くらいの位置だ。
これで完全に横腹を突く構図となった。
あとは小夜の軍が動きを見せて、賊の注意が向こうに集中した瞬間を狙う。
しかしまあ、未だにタイミングが難しいんだよな。
状況がよく見えないので砂塵とか旗とかで判断するしかない。
そしてーー砂塵が上がり、矢が振り注いだあとに剣戟の音が微かに聞こえる。
始まったか。
弓兵を両翼に配置して中央は歩兵部隊。
弓兵は味方に当てないよう賊の後方を狙うように射掛けている。
そして、俺達騎馬隊が見えれば弓兵は射掛けるのを辞める手筈となっている。
初撃でかなりの痛手を与えたのだろう、賊はすぐに後退し始めた。
「よし、機は熟した! 全軍、突撃!」
『うおおおおおおおおお!!』
後退しているならこちらなど気付いていないだろう。
すぐに俺は号令を発し、突撃する。
「う、うあああああ! 馬だあああ!」
俺達を視界に捉えた賊の一人が叫んでいるようだったが既に遅い。
最早五百の騎馬ですら彼らは太刀打ち出来ないほどに混乱、そして士気が低下している。
「せいやあああああ!」
騎馬なので鉤爪ではなく槍を持って馬の左右にいる敵を薙ぎ払う。
長物はそこまで得意じゃないんだがな。
練習はしてたので成果が出ている。
そして、そのまま賊を突っ切ってしまった。
3回目の横撃に賊は既に瓦解しており、残党となっていた。
そして、そこから半刻と経たないうちに賊は完全に討滅された。
本隊へと合流し、俺は報告に小夜に会う。
「思ったよりあっさりでございましたね。どうやら、空殿の足止めが士気をかなり下げていたようでございます」
「上々の戦果ですね。残党はどうします?」
「最早、残党とも言えないほどでございますので追撃しなくともよいです。再起はないでしょう」
と、小夜が言ったところで荀諶さんが戻ってくる。
「終わりましたね」
「荀諶殿、弓の指揮をどうもでございました」
「ええ、そんなに戦況が変わらなくてよかったわ。やっぱり、私は交渉や使者の方が合ってるわね」
どうやら軍師というより荀諶さんは普通に文官してる方が良いらしい。
外交官的な感じだろうか?
それはそうとまだ一人戻って来ていないので、俺は小夜に尋ねる。
「鈴花は?」
「さて? 歩兵に混じって一兵卒で戦って頂いたのでまだ戻ってくるのに時間は掛かるのでございましょう」
いきなり指揮を任せる訳には当然いかないだろう。
というか経験がないのだから無理だ。
ならば一兵卒として前線で戦って貰ったほうがいいだろう。
「戻りました」
噂をすれば鈴花が戻ってきた。
「無事ですか?」
武人なら仕方ないが、返り血が微妙に目立つ。
見たところ大きな怪我はないが確認しておく。
「はい、村のために犠牲になった人達の仇は討ちました。士官への返答ですがーー」
そこで鈴花は礼の姿勢を見せる。
「私でよろしければ、冀州牧様の配下に是非ともお加え下さいませ」
「まあ、それは
「えっと……はい? 我が真名、鈴花……証としてお預けします」
小夜の言葉に鈴花は首を傾げるが、取り敢えずは真名を預ける。
「では、私も真名をお預けします。凱旋のあとに客将ではなく正式に士官をお認め下さい。真名は
と、この賊討伐を機に二人が新たに麗羽様の配下となることを決意した。
高覧……演義と正史で活躍の度合いが違う人。官渡の戦いで張郃と共に曹操に降伏するが正史ではその後不明。演義では劉備を攻めた際に趙雲に落馬させられて生死不明になる。どっちにしても終わりが不明な人。