真・恋姫☨夢想 革命 張郃転生伝   作:青二蒼

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思ったより正史と原作の流れが違いすぎてどう折衷したものかと悩む。


九章:荀彧、袁家を去る

 

 それは唐突なことでした。

 本拠地を(ぎょう)から南皮(なんぴ)に移すとの話がいきなり議題に出て、あれよあれよと言う間に南皮へと移りました。

 この忙しい時に何故かは分かりませんが、何か狙ってますね。

「空様、どうして鄴じゃなく南皮なんでしょうか? あちらの方が都の洛陽にも近いと思うんですけど」

 同じ疑問を抱いたのか鈴花(りんか)が私に尋ねる。

「さて、何ででしょうね。おそらく何かこの先のことを考えているんでしょう」

「空様でも分からないんですね」

 鈴花にはそう答えたが、おそらく朝廷には諸侯を束ねる力がないと予期しているのでしょう。

 であれば、御せる存在がないのであれば自分が朝廷に変わり天下を治めると、野心を持ってる連中ならそう結論し行動する。

 三国志の歴史の流れはまだ崩れていませんし、そうなることでしょう。

 小夜さん含め、真直や桂花もそれを見抜いている。

 既に彼女達は何手か先を読んでいると見ていいですね。

「ともかく、今は賊の鎮圧ですね。右翼と正面に前進させて左の方へ追い込みなさい。あとは朱霊殿が何とかしてくれます」

 そう、今は黄巾の賊の鎮圧の最中。

 南皮周辺でもやはり出てきている。

 しかし、私も雑談しながら指揮が出来るとは……成長で良いんですかね?

「分かりました、空様! 正面と右翼に伝令! 前進し、朱霊様の部隊へ追い込め!」

『はっ!』

 鈴花が私の命じた通りに伝令を走らせ、

「では、空様。私は右翼に加勢します」

 鈴花は一礼する。

 その前に、

「何故ですか?」

 私は少し試すように鈴花に聞いてみる。

 正面ではなく、わざわざ右翼の加勢に行く理由について。

「え、えっと….…左に追い込むには、正面より右翼に兵を集中させる必要があるので、でいいんですよね?」

「よろしい。では、お願いしますね」

「はい!」

 私の言葉に鈴花は嬉しそうに答え、兵を連れて去っていく。

 カワイイ後輩ですね。

 案外、単純なことほど見失いがちになるのでこういうのは大事です。

 そして攻撃力が増した右翼が賊を左へ追い込み、その先に待ち受けていた朱霊隊に背後を突かれるような形となって黄巾党は討伐された。

 

 

「今日も美しく討伐出来ましたね」

「流石です、空様!」

 鈴花も褒めてくれる。

 とはいえ、ヨイショしてる訳ではなく純粋に羨望(せんぼう)の眼差しだ。

 輝くばかりの目にむず痒くなりそうです。

 兵の損失は微々たるもの。

 とはいえ、失われた命を(ないがし)ろにはできないです。

 彼らはゲームの駒ではなく人ですから。

「亡くなった兵は丁重に運び弔いなさい。遺族の所へ送り届けるのです」

「はっ!」

 私の言葉に従い、行動する兵を見届けていると朱霊――美紅(メイホン)が入れ替わるように戻ってくる。

「戻ったわ」

「美紅さん、お帰りなさい。美しい襲撃でしたよ」

「美しいって、イマイチよく分からないわね」

「相手がこちらに集中してると見るや、絶好の機会での突撃。おかげで敵は混乱し何も分からないまま攻めることが出来たんです。正しく、美しく優雅な戦運びだったでしょう」

「麗羽様みたいなこと言うわね……」

 美紅以下、桂花を除いて真名は既に麗羽様に預けている。

「私の場合は意味合い違いますけどね」

 私の美学はいかに兵を無駄な損失なく相手を倒せるか。

 それは兵力の無駄だけでなく、人間的に彼らを故郷に返したいという思いゆえ。

 それが指揮するものの責任だと思いますし。

寡兵(かへい)をもって敵を打ち破る。もっと言えば、戦う前に勝利するのが最上なんですけどね」

 百戦百勝は善の善なる者に(あら)ず。

 孫子の一節にもありますし。

「ま、ともかくあんたが戦上手なのは分かったわ。おかげで楽も出来たことだし。とは言え、多いわね最近」

 美紅の言うとおり、本当に黄巾党の規模は段々と大きくなっている。

 今までは千規模だった軍勢が急に五千以上に膨れ上がってきました。

 今回の黄巾党も七千に届くぐらいに多かったです。

「何とか首謀者を捉えたいところですが、流動的で不明ですからね。一先ずは撤収です。鈴花」

「はい。全軍、撤収! 南皮に帰還します」

 鈴花が帰還の号令を発し、我々は南皮へと撤収した。 

 

 

 帰還した私と美紅は報告に軍議の間へと行く。

 鈴花には隊の戦後処理に当たらせている。

「只今、戻りました」

「お帰りなさい、空さん」

 そう出迎えたのは真直。

 帰還の報告に行けば真直と小夜さんに桂花がいた。

 しかし、麗羽様がいない。

「麗羽様は……?」

「それが、洛陽より招集が掛かりそちらへ」

 と、真直が申し訳なさそうに報告する。

 洛陽ということは主上様――つまりは皇帝よりお呼びが掛かったのだろう。

 であれば、こちらの報告よりそちらを優先するしかないですね。

 そして麗羽様が行くとなれば側近である猪々子と斗詩も護衛として行くしかない。

 私個人としては朝廷に興味がない訳ではないですが、政治家やら宦官が蠱毒のごとく陰謀を張り巡らせる都に行くのは勘弁ですね。

 ちょっとした振る舞いで難癖つけられそうですし、空気が悪そうなので。

「いつも通り、問題はないようでございますね」

「ええ……しかし、規模が増えています。休む間もないとはこのことです」

「とはいえ、現状では打てる手は少ないでございます。首魁(しゅかい)の情報を集めつつ潰していくしかないでございますね」

 小夜は色々と確認しつつも方針に変化はないことを言う。

「仕方ないわね。本拠地が分かってるならまだしも、流浪の盗賊ともなればどこかに留まっている訳でもなし。あ、あたしも鈴花を手伝いに行ってくるわ」

 美紅も麗羽様がいないと見るや、そのまま去る。

「有用な情報がないのであれば、私も残る意味はないわね。私もお先に失礼するわ」

 桂花が残っていたのはそういうことらしく、用がないと見るや冷たく去っていく。

 相変わらずドライというか淡白ですね。

 それを見届けて、袁紹陣営のみになったところで私はニ人に向き直る。

「一つ聞きたいんですが」

「何でございます?」

「どこまで考えておられるのかと思いまして。別に勘繰る訳ではありませんけど」

 その言葉に真直は息を呑む。

 小夜だけは悠然と視線を向ける。

「考えているとは?」

「そうですね……いずれ乱が平定されてしまえば、朝廷に力がないと鈍い諸侯も気付くことでしょう。今は、群や州が独自に兵力を持っていますので野心あるものは我こそが天下に相応しいと動くことでしょう」

「…………」

銀鈴(インリン)を招いたのもその備え。彼女は騎馬戦に対して明るいとなれば……河北の平定をして北を固めればあとは南のみ。というところでしょうかね」

 そして北を主に治めているのは公孫賛(普通の人)。とはいえ彼女の精鋭騎馬隊である『白馬義従』は有名であり、時折は耳にする。

 取り敢えず袁紹陣営の勢力拡大はそんな流れだった気もしますが、小夜さんは既に相手にする勢力をもっと前に考えていた訳になります。

 どれだけ先に手を打ってるんですか……

「フフフ……末恐ろしいでございますね。軍師でもないのにそこまで読んでるでございますか」

 と、小夜は袖を軽く口元に添えて微笑する。

 わーい、いつにも増して黒い笑顔。

「まあ、私も世の動きくらい注意してますよ。仕官している君主がいなくなれば困りますし」

「しかし、それでは天子様に弓引くことになると思われるでございますが、その辺りは?」

「麗羽様は名門袁家であるが故に主上様の覚えもいいですし、諸侯が暴れてしまえば迎え入れるのは簡単ではないのですか? 迎え入れてしまえばあとは大義名分はこちらのもの」

「ええ、そうでございますね。天子様が此方(こなた)達を頼り他の諸侯が従えばそれでよし。刃向かえば逆賊でございます。他国を平定するのに都合がよいでございますね、ふふふ……」

「さっきから小夜さんがいけない笑顔なんですけど、空さん大丈夫ですよね?!」

 真直も小夜さんの雰囲気に怖くなったのか、私に助けを求めてくる。

 うーん、この顔をする時は上機嫌なんですよね、小夜さん。

 別の陰謀を考えてそうな顔してますけど。

「それは分かりましたけど、小夜さんは何を思って行動しようと?」

「そんなの決まってるでございます。穏やかな時を過ごす為に決まってるでございます」

 真直は真意を尋ねるが、めっちゃ平和な内容でした。

「ええ!? それだけですか?! もっとこう、麗羽様のためとじゃなくて」

「何を言ってるんでございますか? お嬢様も天下の名家となればお喜びになるでございましょう。なので、お嬢様の為でもあるでございますよ」

 と小夜さんは言ってるが、要はさっさと面倒を片付けてゆっくり過ごしたいだけというところはブレてないですね。

「まあ、真直さん。平和な世を目指す。結構なことではないですか」

「えぇ……」

 味方になると思っていた私からの言葉に真直は困惑してる。

「頭でっかちでございますね。戦とかに頭を悩ませるより、お嬢様の相手をする方が余程平和……でもございませんね。もし上手く事が運べばどっかの地方で適当に過ごして頂くのがいいでございますね」

「空さん、全然小夜さんが本心を隠さないんですけど!?」 

「別に探られて痛くなる腹などございませぬからね」

 気怠そうに仕事する割には、相変わらず精神が図太い。

「まあ、そういう訳でございます。お嬢様にはまだ話さなくてもよいでございます。どうせ、今言っても覚えてないでございましょうし」

 と、小夜さんは言葉を締めくくった。

 

 

 いずれ来たる乱世に既に備えているのを聞いた私。

 それよりもまずは目の前の問題を片付けないことにはどうしようもないですね。

 麗羽様が洛陽から戻り日もあまり経たない内に、玉座へと人が集められる。

 中心となるのは桂花。

「何ですの荀彧さん、急に大事な話があるだなんて……わたくし、主上様とのお話を終えて休もうと思ってましたのに」

「手間は取らせません。この度はこの荀文若、この陣営を去らせて頂きます」

 その言葉に誰もが絶句する。

 しかし私と姉である桂藍(けいらん)さん、それから軍師ニ人は驚いていません。

 ざわざわと他の文官達も顔を見合わせる。

「な、なんですって〜!? 賓客としてお迎えした上で勝手に去るなんて、一体どういう了見ですの?!」

「我が見聞を広めたく思い、願いました。理由を申せば袁紹殿はかの周公旦のように振る舞っておられるようですが、とても中身がありません。よって去らせて頂くのです」

 歯に着せぬ言い方に麗羽様がぷるぷると震えている。

 周公旦……過去の偉人の名前でも引用してるみたいですが、分かりませんね。

 あとで桂藍さんか真直に聞いてみましょう。

「な、中身がないなどとよくも言ってくれますわね! いいですわ、そこまで言うのでしたらさっさと去りなさい! 斗詩さん、猪々子さん行きますわよ!」

「あ、待ってください麗羽様〜!」

 怒涛(どとう)のように話が終わったかと思えば麗羽様は去って行った。

 斗詩は声を上げて追い掛け、猪々子はやれやれといった感じであとをついていく。

 遂に桂花が去ることに私は少しだけ寂しく感じる。

 言葉はアレでしたが、少なくとも思ったより話せる人でしたし。

 

 

 そんな桂花が去る日。

 私は、個人的に彼女を見送る為に城の門で待つことにした。

 待っていれば、桂花がそのまま城から出てくる。

 その傍には桂藍さんもいる。

 城に続く長い階段を降りる途中でこちらに気付いた様子。

「わざわざ見送りに来たの? 殊勝なことね」

 感謝はしないとばかりの言葉。

 その言葉に桂花らしいと微笑する。

「真名を預けあった仲ですし、私個人としては気に入ってましたしね」

「あら、空殿……妹の真名を頂いてたの? 水臭いじゃない、桂花」

「姉様には関係ないもの」

 そして相変わらず家族に対しても淡白だ。

「桂花ももう少し素直になれば良いのに」

「余計なお世話よ。姉様こそ、さっさとあんなヤツ見限ればいいのに。姉様こそ一緒に来ないの?」

 これは桂花なりに素直だと思っていいのだろうか?

 何だかんだ一緒に来ないかと聞いてる辺り、姉に対しては心開いている感じが見えますね。

「別に悪いところではないし、空殿をもう少し見てみたいとも思ってるの」

 そこで私ですか?

 そして、その言葉に裏を感じてしまう。

 たまにこの人、私に対して視線が怖いですし。

「それなら仕方ないわね。いずれ戦うことになるかもしれないけど。もし、私が曹操様に仕えることが出来て姉様やあんたを下したら、その時は口添えくらいしてあげるわ」

 割り切ってる感じですね。

 それにこの話し方であれば、いずれ乱世になることも読んでいるんでしょう。

「……間に合ったでございますか」

 と、おっとりした足取りで小夜さんが遅れて来た。

「珍しいわね。あんたが見送りに来るなんて意外だわ」

「お嬢様はどう思ってるのか知らないでございますが、此方(こなた)は色々と助かったので礼を尽くすのは当然でございます」

 桂花の言葉に小夜さんは一礼し答える。

「それと、もっと仕えるに足る魅力を引き出せないのは此方の不足であるところ。仕方のないことでございましょう」

「顔を上げなさい。私から見ても、貴殿の働きは認められるべき功績。頭を下げるのは君主である袁紹の方よ。大した献策を出来なかったせめてもの詫びとして我が真名、沮授殿にはお預けするわ」

 その言葉に桂花が小夜さんをしっかり認めている部分が見えた。

「いえ、真名を預けて情が移られても困るのでお断りするでございます」

 しかし、小夜さんは断った。

 情が移る……つまりは互いに敵対することは予見しているのであろう。

 しばらく、ニ人の間に沈黙が流れる。

 桂花が先に口火を切り、

「そう。なら、次に会う時の遠慮は無用ね」

「ええ……」

 一呼吸置いて――

「吠え面かかせてあげるわ」「鼻を明かしてやるでございます」

 お互いに挑発する言葉を掛ける。

 しかし、私にはお互いの智謀を認めているが故の挑発に見えました。

「それじゃあ、失礼するわ」

 小さい荷物を持って、桂花は去る。

 荀文若――見た目は少女でも王佐の才と謳われた、傑物。

 次に会うときは敵となることでしょう。

 まだ私には、そこら辺は割り切れない部分があります。

 見送り小さくなっていく背中は、気のせいか名残り惜しげな感じもありました。

 

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