仕事の関係でなかなか更新できませんでした。
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良いお年を。
その日は物々しい感じで軍議が開かれた。
集まってみれば、珍しく軍師達は渋い顔です。
「全員そろいましたわね。
玉座の間にいつも通り両脇にニ枚看板を控えさせている麗羽様がいつになく真剣に号令を発する。
珍しくキリっとしています。
「では、面倒ですが軍議に移るのでございます。洛陽に縁のある
その言葉に、私はいよいよかと身構える。
それは、董卓が実権を握る
とはいえ、この世界での董卓は私欲のためではなく幼き帝の為ではありますが、それでも実権を握るのに変わりはないでしょう。
何せ、実権を握っていたのは大将軍である何進とその十常侍なのですからそれを排したとなれば、権力は粛清した者に集中するでしょう。
「ええ。どうやら都では不正をしていた役人を大粛清しており……噂では大将軍・何進は天子様の暗殺を企てそれが露見し逆に暗殺されたとか。気に病まれた霊帝陛下様はご退位し董卓が劉協様を帝として擁立なさったようです」
小夜さんの言葉に真直は事の詳細を告げる。
とは言え、それは
詳しくは忘れてしまいましたけど。
「ともあれ、今は董卓さんが洛陽の実権を握っているでしょうね~。直接お会いしたことはないけれど、真直ちゃんの話を聞く限り悪い子には思わないのだけど」
しかし、麗羽様は反論するように声を荒げる。
「いいえ。あんなカワイイお顔をしておきながら、きっとお腹の中は小夜さんみたいに真っ黒なのですわ! 天子様を擁するなんて……田舎領主の分際で、きぃぃーーーー!!」
ハンカチでも噛みながら悔しがってそうな奇声を麗羽様は発してますけど……
小夜さんは面倒くさそうに視線を下に向けた。
「腹が黒くなくては軍師ができないでございます。お嬢様は意地汚い腹をしてらっしゃいますが」
「誰が
「麗羽様、誰もそんなこと言ってませんから」
真直は麗羽様の言葉に呆れるようにツッコむ。
というか、小夜さんは相変わらずの毒ですね。
普通なら無礼と斬られるところですが、それをしない辺り麗羽様は器があるのかないのか……
「まあ、お嬢様のとこです。どうせ気に入らないのと、この間の黄巾討伐で
え……?
賄賂を要求する意味あります?
というかいつの間に。
「受け取らないなら代わりにわたくしが有効に活用してあげようという心遣いですわ。それに、お金はいくらあっても困りませんもの。なのにあの田舎領主ときたら、この名門袁家が好意で庇護しようというのにそれすらも断りましたのよ!?」
えぇ〜……
もうちょっとどういうお金かは考えて要求した方がよいのでは。
おまけに董卓を庇護って……
まあ、守りたくなる人ですけど現状では庇護しても旨味がなさそうに思うんですが。
というか――
『…………』
全員が同じように呆れるか、絶句してます。
ダメだこの君主、もうどうしようもない。
「……帰るでございます」
とうとう小夜さん色々と諦めましたよ!?
「シャ、小夜さん。せ、せめて方針を固めましょう!」
真直も必死に引き止める。
その言葉に小夜さんはまた息を吐いて進行を続ける。
「方針なんて既に決まってるでございますが、改めて。洛陽に詰めている官軍……それを何進を排した董卓が手中に収めたとなれば最早、一諸侯だけでは到底太刀打ちが出来ない規模でございましょう」
確か、官軍の規模は数十万との話もありますね。
それを董卓が手中に収めていたとしたら確かに一つの勢力では歯が立たないでしょう。
ともなれば、
「連合を組み、各諸侯と連携し打倒董卓を掲げます。そして、麗羽様が帝を保護すれば……きっと勢力としてより盤石になると思います」
「それはいい考えですわね。董卓さんが擁立した帝というのは気に入りませんけれど、空丹様も一緒に保護してしまえばよいですわね」
真直も同じように帝の擁護を提案して麗羽様も同意する。
「檄文を発し、募りましょう。陳琳さんならきっと相応しい文を書いてくれますわ」
そして、麗羽様が名前をそう挙げた。
陳琳さんですか。
確か、曹操に敵対する檄文を書いた逸話があった人と記憶しています。
結構、親に対する誹謗中傷も添えて散々に書いてたような……
「それで旧知の仲である曹操殿のところには直接誰かに行って貰いたいでございますが――」
と、小夜が見回す。
武官筆頭の猪々子と斗詩を最初は見ていたが、何かを諦めた様子。
それから私と目が合う。
「まあ、空殿でございますね」
小夜、
「そうなりますよね」
真直、
「無難じゃないかしら? 美紅さんでも良いと思うけど……」
桂藍と軍師陣がそれぞれ口を開く。
一応は確認で、
「私ですか?」
そう聞き返す。
「色々と行動を予測した結果と思って頂ければ……」
その言葉で私は、主要な将で考える。
猪々子――多分寄り道する。あまり武官筆頭が空けるのも微妙。
斗詩――猪々子の抑え役で一緒に行くことになるが大概は抑えられない。
美紅――惚れやすいので色々と暴走する可能性は少なくない。
銀鈴――多分大丈夫ですが、話が進まない部分はあると思われる。
みんな悪い人ではないのですが、いかんせん、その……まともに進行してくれなさそうです。
何で私がこんな常識人枠になってるんでしょうか?
「仕方ありませんね。では、書状が出来ましたら向かいましょう。鈴花も同伴させます」
「それで構わないでございます」
小夜さんはそう頷き、解散となった。
という訳で、本来なら猪々子と斗詩がやるであろう役目を私が仰せつかることになりました。
先触れを出して、陳留へと鈴花と共に向かいます。
はてさて、曹操は私を見てどう思うのか……
あんまり自意識過剰で対面して無礼と思われても困るので努めて平常心を保つようにイメージをする。
この時代、使者を務めるのも楽じゃないですしね。
流石に曹操が短絡的に斬るとも思えませんが。
そうして陳留へと到着。
陳留の街はやはりと言うべきか、曹操が統治していることもあってか活気に溢れている。
道行く人には笑顔があり、仕事にも活力があることを感じさせる。
統治している土地を見ればどういった君主かが分かる的な書物を読んではいましたが、なるほどと実感します。
「いい街ですね。空様」
同じように良い統治だという空気を感じ取っているのか鈴花もそう漏らす。
「ええ、そうですね。しかし、街の場所は調べていましたが城の場所を調べるのを忘れてました」
私としては珍しく抜けてましたね。
まあ、城なんて調べなくてもどこかの通りから見えるから分かるでしょうけど……
「空様でも忘れることあるんですね……」
「私だって人の子です。太公望でもあるまいし」
「たいこうぼう……?」
小首を傾げる鈴花に思わず肩の力が抜ける。
兵法書である
私が学んでる兵法書の一つです。
これを書いた人物が
小夜さんがそんなことを言っていました。
というか一緒に勉強してるでしょうに……何で太公望知らないんですか……
と言っても一介の元村人が過去の歴史を知ろうとするかといえば、ご時世的にノーですね。
歴史的に有名でも知らない人は知らないというのはままあることですし。
「六韜三略の著者とされている方ですよ。我らが生まれる前より遥か昔にいたとされる今のような乱世の時代にいた軍師と呼ばれる者の祖とも言うべき人です」
「軍師の祖ですか……小夜様達よりすごいんでしょうか?」
「さて、どうでしょう。一代で王朝の立ち上げに貢献したのですから並の軍師ではないでしょうね」
などと歴史的な話をしてると、鈴花から腹の虫が鳴く。
知識より食い気ですか。
「すみません……」
あはは、と申し訳なさそうに笑う。
まあ、鈴花らしいですが確かに昼時ですね。
急ぎでもないので適当に道でも尋ねましょう。
そこで見回していると目に入ったのは……聖フランチェスカの制服。
この世界では技術的にお目にかかれない化学繊維の衣服。
そして、整った顔立ち。
この世界でははじめまして……だな。
とは言え、正体を明かすには時期尚早というやつでしょう。
今の私は、袁紹配下の張郃。
そもそもどうやって切り出せばいいのかも分かりませんしね。
見た目も性別も違うのにいきなり立花ですとか言っても意味分からないでしょうし。
ここはしばらく、この世界の武将として振る舞って人間関係の距離を縮めて明かすのがいいでしょう。
もしかしたら、彼がこの世界を去るという外史を回避できるかもしれないですしね。
あれも一つの終わりの形ではあるでしょうが、恋した少女達が悲しむ未来を大手を振って喜ぶ人はそういないはずです。
私も、出来るならあの結末は少し避けたいところです。
私が帰れるかは知りませんがね。
元より、今が充実してる訳ですし。
狂ってるんでしょうかね?
平和な現代より命を奪い合う乱世の時代が充実してるなんて。
ま、とりあえずは話してみましょう。
「もし。そこのあまり見ない格好の方」
「あ、はい。俺……ですよね」
この時代でそんな制服着てるの北郷しかいないでしょうに。
ともあれ彼は一度冷静になって自分しかいないだろう、という感じで話に応じる。
「見たところ、それなりの立場の人とお見受けします。私は姓を張、名は郃、
私が一礼すると、一刀は日本での癖かお辞儀で返す。
「これはどうもご丁寧に……って、張郃?」
張郃を一応は知ってるらしい反応を彼は示した。
「ふふふ、流石は空様。早くも名が知れ渡ってきたのですね」
「何であなたが自慢気なんですか……」
「それは勿論、空様が褒められると嬉しいからです」
鈴花が私の代わりに胸を張るように、息巻いてる。
段々と忠犬になってきましたね。
可愛げはありますけど、その内不敬を働いたからと誰か斬りそうなところあります。
「いや、失礼。彼女は私の副将です」
「名乗りが遅れました。姓は高、名は覧です」
私の紹介に合わせて鈴花が一礼する。
対して一刀も再びお辞儀する。
「張郃さんと、高覧さんですね。えっと、どこに行きたいんですか?」
「私達は袁紹様からの使者として曹操殿にお目通り願いたいので、城まで案内して頂きたいのですが――」
空腹の鈴花のことを思って料理街のことを尋ねようと思った矢先、鈴花から再び腹の虫が鳴る。
そして、目線を逸らして照れ臭そうにする鈴花。
「……私のことはお気になさらず」
私は苦笑しながら、別件でお願いする。
「長旅で昼もまだですので、料理街への案内をお願い頂けませんか?」
「私なんかお気遣いなく――」
ぎゅううううぅ……
私の提案に口では遠慮してますが、腹の虫は主張しまくってますよ。
その様子に一刀は顔を綻ばせる。
「はは、了解。案内するよ。ついてきて」
その言葉に鈴花はわたわたし始める。
「いえ、本当に――」
「お目通りした時に鳴らされても困りますので行きましょう。私も減ってますので」
「すみません……今度の非番を返上して頑張ります」
「相変わらず極端ですね……別に気にしてませんから早く行きますよ」
「あ、空様!」
置いて行くように先に歩みを進めれば声を上げて、鈴花は追いかけてくる。
手の掛かる後輩ですね。
一刀に案内されて料理街へとやってきた。
屋台も立ち並び、なかなかに店の種類も豊富なのが一見して分かります。
その店の立ち並びに鈴花は目を輝かせる。
「わぁ〜、スゴいですね。
「気にいってくれて何よりだよ」
「すみませんね。仕事中に色々と」
私がお礼をすると一刀は、気にするなとばかりに――
「いいよ。それに使者ならこのあとも案内がいるだろうし、俺も食事にしようと思ってたから」
柔らかな表情を浮かべる。
知ってはいますが、相変わらず人がいいですね。
前にいた世界と変わらないところにどこか安心します。
そこへ――
「おーい、一刀っちー!」
活発そして快活そうな少女が、同じくらいの少女と共に大きく手を振ってこちらへ向かってくる。
一人は片側だけ縦ロールした金髪の髪、少々露出が多い意匠の服の彼女は曹仁。
その隣の小柄な桃色の髪、ホットパンツの服装が特徴の子は
どちらも三国志を少しかじってる人なら聞いたことはある名前ばかりでしょうね。
それを言ったら私もそうなんですけど。
「
「そうっすよ。一刀っちは……仕事っすか?」
一刀の傍にいる私達を見て曹仁は小首を傾げる。
対して私は少し観察してしまう。
うーん、陽気な感じではありますが侮れない雰囲気。
隙だらけではあるんですが、こうして相対すると何かしても直感的に反応しそうな感じです。
やっぱり歴史に名を残す武将ではあるんですよね……
そう感想を抱いていると、一刀達は話を進めます。
「ああ、華琳に使者が来たんだが……お昼がまだらしいから案内をね」
「そうなんだ。ボク達もお昼だから、ちょうどいいね」
「そっか。じゃあ、季衣。案内頼めるかな? 俺よりも美味い店には詳しいと思うし」
「うん。任せてよ!」
私が様子を見て観察してる間にも一刀と許褚の間で話が決まる。
「それじゃあ、案内するよ。それにしてもお姉さんでっかいね」
鈴花を見上げてそういう許褚は純粋な感想を述べる。
しかし、鈴花は微妙な表情。
「あはは……やっぱり大きいですよね……」
気にしてたのは何となく気付いてましたけど、別に大きくて困ることはないと思いますがね。ご時世的に。
まあ、女の子らしい悩みといえば悩みですが。
「別に、大きくても鈴花は鈴花です。私からすれば羨ましい限りですよ」
別に今のプロポーションに不満はないんですが、それでももう少し身長は欲しいですよね。
身長低いとお立ち台使わないと高所の資料とかが届かないんです。
三段目までは余裕なんですが、四段目が微妙に届かない。
「そうでしょうか?」
「そうなんです。力もあって頼りになる副将殿、ですから」
「うぅ〜、相変わらず空様は! 人前で褒めないでください! 恥ずかしいです……」
と、鈴花は照れている。
カワイイですね、ウチの後輩は。
とまあ、ここの夏侯淵的なムーブはここら辺にしておきましょう。
「それじゃあ、案内するよついてきてお姉さん達」
そのまま許褚に連れられて私達は料理街の中へと歩みを進める。
「おかわりお願いします」
「あ、ボクも〜!」
鈴花に続いて許褚も元気よく追加の注文を頼む。
相変わらずよく食べますね。
曹仁も彼女達程ではありませんが、よく食べています。
料理が運ばれては消え、空となった皿も忙しなく動いていく。
全員慣れてるのかその光景に何も戸惑うことはありません。
「よく食べますね」
「ああ、季衣や華侖みたいに食べる人が他にもいるとは思わなかったよ」
保護者みたいな心境で私と一刀は呟く。
「いっぱいいそうですけどね」
うちの猪々子といい、呂布といい私といい……割合的に大食いと酒飲みな武官は多い気がします。
「あたしもっすー!」
と曹仁も元気よくおかわりを頼む。
しかし、どんどん料理が運ばれてきますね。
知らないうちに空のお皿が消えては山盛りの料理が出現してる感じですね。
そんな様子に保護者のような微笑ましい感じで見ていれば、鈴花がこちらに気付き食べている手を止める。
「えっと……すみません。なんだか私達ばっかり」
我に返ったのか、気まずそうにそう言う。
「何を今更……遠慮しなくてもいいですよ。いっぱい食べる鈴花はいい笑顔で好きですし」
いっぱい食べる君が好きってやつですね。
実際、幸せそうに食べる人を見るのは何ともほっこりします。
自然と私も微笑む。
「ふひっ」
何とも女性らしからぬ声が聞こえた気がします。
鈴花が変な顔で狼狽し始めてる。
こういうのがダメなんでしょうかね?
まあ、最近は私に対する感情が敬愛以上のものを含んでる気がしないでもないですが。
これでも前世で他人の顔色をうかがうように仕事をしてきた末に疲れて命を断った人生ですから……どうも人を観察してしまうんですよね。
「確かに、高覧さんも季衣や華侖と一緒で幸せそうに食べるからな。俺も気持ちは分かるよ」
「とまあ、彼も同意が得られたところで。えっと……こちらの二人も曹操殿の将ということでよろしいでしょうか?」
「ああ、紹介が遅れたね。こっちの桃色で活発な子が許褚で。もう一人が華琳……曹操の親戚でもある曹仁だよ」
と、一応は知っているが自然に会話が成立するように一刀に紹介してもらう。
「ご紹介痛みいります。貴殿は?」
「ああ……俺は北郷 一刀、華琳のところで厄介になってる。今は警備隊長かな? 治安維持の方で貢献させてもらってるよ」
と、一刀についても知ってはいますがとりあえず事後の為に紹介してもらうよう促す。
「なるほど、その見慣れぬ衣服……天の御遣いと噂されてるのは貴殿ですか?」
「うん。まあ……そういうことになってるかな? というか、やっぱり噂になってる?」
「それは、一部の諸侯にはそれなりに。しかし、天子様がいる中で天の遣いなどと……曹操様もなかなかに豪胆なことです。気の早い天子様であれば自分以外に天を名乗るものなど不敬と
実際、皇帝以外に天など名乗るなどご時世的にアウトでしょうね。
中国の皇帝とは栄枯盛衰ではありますけど。
絶対的な権威を示すため芯のある者は無慈悲であるがゆえに優秀。
そんな感じですし。
まあ、
この世界ではさして治世に興味がないのがある意味では一刀にとっては救いですかね。
「……そうなの?」
その言葉に一刀は顔を青くしてる。
まあ、中国史なんて知るわけないですよね。
私もゲームから派生して設定が気になるから調べた程度の知識ですし。
とはいえ、現代より上下関係がシビアなのは当たり前でしょうけど。
「やれやれ……天から来たがゆえなのかは知りませんけど、地方の田舎の村娘でも何となく知ってることですよ? 相当に俗世に疎いんですね。あながち天から来たのも嘘ではないのか、それともただ単に知らないのか……」
まあ、私は事情を知ってる身の上ですけどね。
下手にボロは出しませんよ。
「あはは……まあ、教えてくれて感謝するよ。張郃さん」
「教えたのではなく、呆れですよ。まあ、話した印象としては悪い人ではなく優しそうな感じですがね」
「それなら張郃さんも、初めて会ったけどいい将だなって、思いました。高覧さんも含めてね」
「それはどうも」
歯に衣着せぬ物言い。
素直で真っ直ぐな言葉。
うーん、
さすが、主人公……生きることや上に立つ者の責務に追われて甘える耐性がないこの時代の英傑である少女だったらその優しさに寄りかかるでしょうね、そりゃ。
「失礼する」
と、この世界では初めて。しかし聞いたことがある声。
すぐに店に三人の女性が姿が現れる。
「あら、一刀たちも来ていたの」
金髪のツインロールの少女。水色の前髪を右目をメカクレしているお姉さん。そして青紫色のショートヘアのメガネの少女。
名前はもちろん覚えてます。メガネの少女が陳登、メカクレのお姉さんが夏侯淵、そして金髪の娘は曹操。
「あら……興味深い人がいるわね」
そして私を目敏く発見してすぐに目を付けられた。
耳が早いというか、桂花経由で既に知ってるでしょうね。
人材マニアと後世で伝わる曹操です。
まだ無名だろうとも発掘して育て上げる手腕ですからね。
私は、すぐに立ち上がり拱手の礼をする。
「こんな場所でお初にお目にかかります。曹操殿、袁紹様よりお話はかねがね。姓を張、名は郃、字は儁乂です……んん」
咳払いして鈴花に挨拶を促す。
慌てて持っていた食器とレンゲを落としそうにしながら、食卓に置いて立ち上がる。
「失礼しました。私は姓は高、名は覧。張郃将軍の副官です」
と、すぐに拳と手のひらを組んで
「これはご丁寧に。しかし、麗羽の配下がこんなところにいるとはね」
この方のことですしここに訪れた大方の予想は出来てそうですね。
一応補足的な感じで私は説明する。
「まあ、大方予想されてるとは思いますが使いですよ。急ぎではないので後ほど席を用意して頂けると幸いです。先触れで城にも既に送ってはいますが、時を決めてはいませんので」
「そう。なら、少しばかりゆっくり話を聞かせてもらいましょう。私としてはあなた個人に興味があるしね」
含みのある、寒気がする視線。
人材としてもでしょうが別の意味を感じる気がする。
好色家なのは知ってますけど、いきなり……なんてことはない、はず。
美紅のせいでしょうかね……貞操の危機感知能力が上がってる気がします。
曹操は毅然とした品格ある感じでゆっくりと同じ食卓へと腰掛け、陳登と夏侯淵も続いて腰掛ける。
「華琳と秋蘭はともかく
陳登ーー真名を喜雨が一刀に話しかけられ淡々と答える。
「ここは育てた野菜を
「そうなのか。色々やってるんだな」
陳登の言葉に一刀は一人納得する。
それから慌ただしく給仕の少女が注文を受けにくる。
「あ、いらっしゃいませ! 曹操様、夏侯淵様、今日もいつものでよろしいですか?」
「うむ、華琳様もよろしいですか?」
「ええ、それでお願いするわ」
夏侯淵の伺いの言葉に曹操は同意し、
「ボクも同じもので」
陳登も同じ物を所望する。
それからしばらく食事と雑談の時間。
内容は給仕もとい今目の前で注文を受けた典韋を召抱えたいことと、一刀が典韋の親友である子を捜す件について話している。
灯台下暗しですね。
経緯を知ってる私としては、身近で見ると少し笑っちゃいそうですがそこは
「ところで、話は変わるけど張郃……私に仕える気はない?」
「ぶふッ……えっほ……!」
いきなりの曹操の言葉にむせてるのは、私じゃなく鈴花です。
「華琳様……」
夏侯淵も半ば予想してた様子で、呆れ気味な口調。
自意識過剰ではありませんが、曹操と出会ったならば半ばあるかと予想はしてたので私は冷静に答えます。
「私など大した官職もない無名の将です。たまさか麗羽様ーー袁紹様に拾われた身の上ですのでわざわざ引き抜かれるような器でありませんよ」
いや、本当に。
まだまだ自信がないんですよね。
というか、勝手に陣営去るなんてダメでしょ。
それに不安要素(君主)が何をしでかすか気が気でないので抜けれません。
いや、でも小夜さんあの手この手で私を追い掛けてきそうなんですよね。
以前、そんな脅しをされましたし。
「そう? たった五百の騎馬で二千五百の黄巾党を足止めしたそうじゃない」
やっぱりその話知ってるんですね。
冷静に考えてヤバいことしてますよね。
歩兵しかいないとは言え五倍の戦力を足止めって。
「そうです! あの時の空様はまるで、窮地を救う仙女のようでした!」
なんか鈴花が興奮して自慢げに立ち上がりました。
いやまあ、確かに鈴花との出会いではありますけど……気恥ずかしいのでやめてください。
その鈴花の言葉に、曹操殿は面白いとばかりに微笑む。
「あら、随分と忠義に溢れる副将じゃない」
「当然です。私は空様の"初めて"ですから!」
言い方ぁ!
「主語をつけなさい……! あと、初めてを強調するんじゃありません!」
思わず鈴花の言葉にツッコむ。
誤解を招きかねない。
私にそんな気はない……今のところ……
自分でもよく分からないんですよね。
元はといえば男で、感性もまだ男ですし。
「ふふふ、今は無名でもきっと一角の将になると私は睨んでるのだけど。麗羽にはもったいないくらいの人材だとね」
「過分な評価痛み入ります」
「で、どうなのかしら?」
曹操は私の言葉を待っている。
多分、性格的にここで了承しても喜ぶことは喜ぶでしょうが……
「すみませんが、遠慮させて頂きます。恩を返していないのに主君を変える訳もいきません」
「なるほどね。まあ、道理ではあるでしょう」
私の言葉に曹操は理解を示した。
「だけど私は諦めるつもりはないわよ」
でも、納得ではないですよね。
史実では欲しい人材がいれば敵だろうが
「武勇を示さずに将が軍門に下るのはよろしくないでしょう。いずれ、戦場であいまみえることになるでしょうし」
「そう。それはそれで楽しみね」
不敵に笑う曹操のオーラに私は内心冷や冷やです。
やっぱり、こうして会話を交わすだけでも只者ではないと感じます。
存在感が違うと言いますか、元一般人としては気圧されそうになる。
ある程度の会話をイメージしといてよかったですね。
『あーーー!!』
そこで少女2人の大声があがる。
ようやく許褚と典韋がお互いを認知したようで。
「あー、
「遅いよじゃないわよーっ! あんな手紙よこしてわたしを手紙で呼んどいて、なんでこんなところにいるのよーーーっ!」
「ボクこそずーっとここで待ってたんだよ! 城にこいって書いたでしょ?!」
「お城じゃ分かんないわよ! まさか本当にお城なの?」
とまあ、あとのやり取りはどうやらお互いに認識の違いがあったようで、許褚が本当に城に勤めてしかもその城主の親衛隊になってるとは、
この流れは知っていましたけど、この先の展開も――知っていても知らなくても予想は出来ます。
いがみ合いが派手になることは予想できませんけど。
「っていうか、来たなら来たって連絡ちょうだいってば!」
「そんなの連絡先を書いてから言いなさいよぅ!」
とまあ、許褚と典韋は大暴れ。
店主さんもオロオロしています。
まあ、猪々子と斗詩の代わりに来たのが私と鈴花ですからそういうポジションは私になるでしょう。
「鈴花」
「あ、はい。空様、2人を止めればよろしいのですね」
ムグムグと食事をマイペースに食べながらも名前を呼べば切り替えが早い。
「流石に1人では荷が重いでしょう。桃色の髪の子をお願いします」
「頑張れば大丈夫です! 手荒にはなりますけど……」
「じゃあダメですね。お店に被害が出る前に止めますよ」
そのまま私が腰をあげると、鈴花も立ち上がる。
お互いに喧嘩で視野が狭くなっている様子だったので素早く背後に回って典韋の両脇を抱えて抑える。
「はいはい、お店に迷惑が掛かりますのでそこまでです」
「そうです。食事は静かにしましょう」
鈴花も同じように取り押さえて、2人を引き離す。
その様子を一刀を始め、曹操と夏侯淵の武に嗜みがある3人は興味深そうにこちらを見ている。
「さて、食事も終えましたので我々はこれで。また使いを送りますのでお目通り願います」
「ええ、このあとにすぐに取り次ぎましょう」
要件だけ告げて曹操の返答を聞いた後に一礼して私は鈴花との代金を支払い、そそくさと店を出る。
あんまり長くいても迷惑でしょうし、曹操との会話は少々恐ろしい部分もありましたので退散です。
「しかし、空様。あの曹操という方――空様を狙ってますね」
店を出て少し歩いた後に、珍しく鈴花が鋭く聞いてくる。
まさかいきなり勧誘されるとは思いませんでしたけどね。
「まあ、きっと先を見ているのでしょう。恐ろしい手合ですよ」
「そうですね。色んな意味で恐ろしいです。ですが、空様がどこに行こうとも私はお供します」
その言葉と共ににっこり笑う鈴花に思わず苦笑いする。
忠義の方向性が何か違う気がします。
しかしまあ、別に私が寝返らなければそういうこともないでしょう。
さて、初めての使者ではありますがやれることをやりましょうか。
そう心意気を決めて私と鈴花は城へと向かう。