真・恋姫☨夢想 革命 張郃転生伝   作:青二蒼

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六章:新たなる乱の予感に備えるのこと

 

 反董卓連合が終わり、全てが終息。

 安息が訪れる……訳はありませんね。

「そちらの物資は西の倉庫でいいわよ。えっと……予備の武器と防具は城の南の倉庫に――」

 と、何やら桂藍さんが城の一角にある倉庫で慌ただしくしているのが見えた。

 なかなかに大変そうなので、一つ尋ねようと近付く。

「お忙しそうで、何か手はいりますか?」

「あら、空殿。お気遣いなく……間もなく連合に参加していた兵達が帰って来るので準備を進めていまして、兵站を送ってはいましたけどきっとボロボロでしょうし」

「装備の修理や補充に、兵達の休息の準備ですかね」

「そういうことよ。空殿は野盗とかでそこそこ出てるでしょう? 治安維持の方の職務もあるでしょうし、気にしないで」

「手が必要ならお呼び下さい。鈴花も元気が有り余ってるみたいですし」

「どうかしら? 竹簡とかに目を通してたら、すぐに疲れそうね」

「否定できませんね。まあ、終わって余裕があればまた来ますよ」

 そうして、すぐに事後処理に追われるのが戦後というものですしね。

 既に何度もやって来たので、大体は分かります。

 桂藍さんは柔和な笑みを浮かべ「お気遣いなく」とばかりに手を軽く振る。

 しかし、まだまだこの外史は始まったばかり。

 私の英雄としての一歩はまだ遠い。

 そんなものになろうとも思いませんけど――

 時は流れて内政に力を入れている我ら袁紹軍ですが……思ったよりも公孫賛の勢力が日に日に増している知らせを受ける。

 どうやら、公孫賛の勢力圏に流れて来た黄巾党の残党の輜重(しちょう)隊を打ち破ったり、異民族の撃退でその兵や物資を取り込んでいるらしいという話です。

 普通とかハムさんとか言われてますけど、やっぱり北方をまとめてる豪族ですよね。

 勢力的には曹操の所よりもよっぽど恐ろしい脅威ですよ。

 そんなことは軍師の方々は既に承知の上でしょうけど。

 これを聞いた我らが君主様は――

「なんてことはありませんわ。所詮は辺境の豪族ですもの。この名・族であるわたくしの敵ではありませんわ! おーっほっほっほ! おーっほっほっほ!」

 何も考えてません。

「そうですよ、ハクバだかバクハだがバサシだか分かりませんけど。あたいと斗詩がいれば問題ありませんって!」

「白馬義従だよ……文ちゃん」

 何も考えてませんその二。

 斗詩のツッコミは相変わらず哀愁だらけです。

 というか、この世界に馬刺しってあるんですか?

 いやまあ……馬を潰して食べることはあるらしいですが、生モノは流石に違うでしょう。

 いかんですね、あるならお酒のツマミに欲しいところです。

 最近の私のトレンドは豚の出汁で煮た水餃子です。

 どうでもいいですね。

「それよりも、問題があるのでございますけどね」

 小夜(シャオイェ)さんはいつも通りに面倒そうにそんな風に答えた。

 

 ♦      ♦      ♦

 

 幽州啄郡(くぐん)――公孫賛の居城では反董卓連合が解散し、大変なことになっていた。

「仕事が終わらーん!」

 どこも一緒である事後処理に追われていた。

 太守の執務室では、竹簡の山に埋もれた桃色の髪を束ねた女将であり太守――公孫賛が叫ぶ。

「いやー、大変ですな~」

「おい、(せい)……酒盛りなら別でやってくれ。あと、仕事はどうした」

 杯を傾けて他人事のように水色の短い髪に、白の装束が映える女将――趙雲・真名を星――が答える。

「仕事を終えたからここにおるのです。その竹簡の山に報告したものが埋もれていると思いますが」

「埋もれさすなよ!?」

「いや、私がここにきて出そうと思えば『あとで』とおっしゃったではありませぬか」

「うぐ……確かにそうだが、竹簡の山に埋葬することないだろう?!」

「なに、その左の山に分かりやすいように差し込んでおいてあるので問題はありませぬ」

 そうして、星の視線の先にある自身の左側に確かに飛び出している竹簡がある。

 ただしそれは、うず高く積まれた山の中腹に突き刺さるような形で。

 それを見た瞬間に公孫賛は、思わず持っていた筆に力が入る。

「なんでもっと取りやすい位置じゃないんだ!!」

「ちょうどいいところに穴がありましたので、我ながら難行を完璧にこなしたと自負しております」

 という、星は何故か達成感に満ちた声音を放つ。

 確かに竹簡の山の中腹……それも触れてしまうと崩れてしまいそうな均衡(きんこう)を保っているそれに、竹簡を突きさすのは難易度の高いことであるだろう。

「無駄に変なところで達成感を感じるな! おいおい、どうやって取ればいいんだ……」

「それはもう、シュバっと神速のごとき速さでですな――」

「お前の槍みたいにできるかー! くっ……」

 竹簡の山を睨む公孫賛。

 まるで強敵に出会ったかのように、身が縮こまる。

 今日の仕事は今日の内に片付けなければ忘れる、そしてまた片付かなくなってしまう。

 そうなれば現状は改善しない。

「――てぇいッ!!」

 一気呵成(いっきかせい)――!

 公孫賛は見事に目的の竹簡を抜き取る。

 その様子に星は目を少し丸くして、

「……ふむ、何も起こらぬとは。つまらないですな……白蓮(ぱいれん)殿」

 なんとも残念そうな顔である。

「そこは見事とか褒めないのか」

「そっちにはあまり期待してなかったので」

「それは残念だったな」

 と軽口を叩いて公孫賛――真名を白蓮――は持った竹簡で軽く肩を叩いて席に座る。

 やれやれとばかりに席に座った瞬間。

 どっかりと座った振動で、竹簡を抜き取った山に異変が出る。

 そして、そのまま――

「うわぁぁぁぁぁあ!?」

 竹の雪崩(なだれ)が執務机の白蓮に襲い掛かる。

「いやはや、期待を裏切りませんな」

 愉快とばかりに星は杯を傾ける。

「ちょっと!? (ハク)姉ー!」

 扉を開けたのは桃色に三つ編みのツリ目の女将。

 白蓮の叫びに反応したかのように扉を開け放った。

「おや、春蓮(しゅんれん)殿。お早いお帰りですな」

 そう星に真名を呼ばれた彼女は――公孫越。

 公孫賛の妹であり、公孫賛の勢力で貴重な人材である。

「ああ、白姉――多忙で竹簡に埋もれて死ぬなんて」

「勝手に殺すな!」

「白姉!! 無事でよかった!!」

 竹簡の海から這い出た白蓮に春蓮は飛びつく。

 ちなみに重度のシスコンである。

 さっき冗談ように言ってたが竹簡に埋もれて死ぬの下りで本気で悲しんでいた。

「春蓮殿もどうです? 一献」

「結構です……白姉に嫌われたくないので」

「もしかしたら逆に構ってくれるかもしれませんぞ」

「それなら考えなくもないです」

「変なこと吹き込むな」

 早くも星の口車になりそうなところに白蓮は待ったを掛ける。

「黄巾党の残党は未だに暴れ。おかげで青州からは事実上、手を引いてるようなものだ。なのに袁紹の勢力が青州の残党を上手くまとめて徐々に勢力を増してる。そんな中で悩みを増やさないでくれよ」

「そうですな……いずれこちらへ来るのも、時間の問題かと」

 現実的な問題に星も、真剣に予想されることを話す。

 現在、幽州は北方にいる異民族とも未だに小競り合いが続いてる。

 そんな中で黄巾党の残党への対処である。

「それよりも、もっと深刻な問題も出てきてるでしょう?」

「先生」

 と、白蓮から『先生』と呼ばれたメガネに白髪の妙齢の女性も入室。

 先生と白蓮に呼ばれた彼女は――盧植(ろしょく)・真名を風鈴(ふうりん)――彼女は正史では袁紹軍へと参入することになるのだが、反董卓連合により洛陽が落ちてからは教え子でもあった白蓮を助力すべくこちらへ移っていた。

「劉虞殿か……」

 白蓮は思い当たる点を答える。

 劉虞――(あざな)伯安(はくあん)

 劉姓ということで、宗室(そうしつ)……つまりは皇帝の一族の血筋でもある。

 しかし、当代の皇帝である霊帝との繋がりは薄いために一人の役人として現在は幽州牧として幽州を治めていた。

 州牧とはいえ、地位をあまり誇示せずに質素な暮らしをして民と同じ目線に立っているために民からの支持は(あつ)い。仁徳のある者であると言えよう。

「異民族との講和……理想だけど、長く対峙してきた私だからこそ分かるが無理だろう」

「ほう、その心は?」

「今、講和してもそれが守られる保証はないし……ただの一時しのぎだ。皇帝がいなくなった今、世情は混乱してるから異民族を懐柔しておきたいというのは分からないでもないんだけどな。それにあいつらは弱いと見ればすぐに南下してくる。下手(したて)の懐柔策はこちらが弱ってると思われるだけだと思うんだけどな」

 その白蓮の説明に質問した星は「なるほど」と頷く。

 長年、北方の異民族に敵対したからこそよく知っている白蓮の経験でもあった。

「まあ、異民族にも桃香(とうか)みたいにお人好しがいないとも限らないが……そこまで楽観的にはなれないさ。だから、劉虞殿には困ってる。悪い人じゃない、何度か謁見した身としては良い人だよ」

「その様子だと謁見して、陳情は済んでるみたいね」

「ええ、先生……さっきみたいな理由を話しましたが、『賊が未だにのさばる中で無駄に戦をして民が傷付く必要もない。贈呈品で血もなく懐柔できるならそれでよいでしょう』と言われてしまいました。私もそう思ってますけど、今まで何度も異民族を退けた私だからこそ無理だとなんとなく思ってます」

「そうね。でも、多少の小競り合いがあっても今は安定してるし……上手くいかなかった時に備える程度でいいんじゃないかしら? それよりも、袁紹軍の動きが気になるところね」

 そう風鈴は一つ息を吐く。

「袁紹が?」

「軍備と内政に力を入れてるそうよ。色々と人材も豊富なようね」

「風鈴先生、それは言わないでくれよ」

 実際問題、公孫賛の勢力は一族を除いて有用と言える人材が少ない。

 それもまた一つの悩みでもあった。

「いずれにしても、早々に攻められることはないと思うわ。冀州全てが袁紹の勢力という訳でもないし、白蓮ちゃんはまだまだ強力な豪族の一派よ。こちらに与する勢力もいるはず。それまでに、備えるところを備えておきましょう。この間の黄巾党の残党で物資や人も得られたことだし」

「……ですね」

 と、幽州でも対策を立てていた。

 

 ♦      ♦      ♦

 

 冀州は未だに完全には麗羽様の勢力になった訳でありません。

 公孫賛は異民族を撃退している勇猛な将で、為政者です。

 なのでこの冀州内でも公孫賛の勢力に(なび)く派閥は多い。

 ……公孫賛、つまりは遂に名のある諸侯との衝突は間近に迫っていると言ってもいいでしょう。

 我々袁紹軍も軍事力そして地位としては上で、かなりの勢力を誇っているとはいえ、決して楽な相手という訳ではありません。

 なので打てる手は打っておく、そう小夜さんは判断しています。

 という訳で早速ですが胡散臭い人が呼び寄せられました。

「召喚に応じました、董昭です。何やらわたくしにお願いがあると聞きました」

 そう……例の董昭さんである。

 玉座に案内されてニコニコしながらも掴みどころのない彼女は、丁寧な挨拶ながらも怪しい雰囲気です。

「ということで、董昭殿にお越しいただきました」

「それで、その董昭さん? は何の為にお呼びしたんですの?」

 その言葉に思わず吉本的な転倒をするところでしたが、これは麗羽様なので仕方ありません。

 董昭さんが来る前にさっき説明してたでしょうに。

「麗羽様……さっき説明されてたでしょ。鉅鹿(きょろく)郡で公孫賛の勢力に行こうとする怪しい動きがあるって」

「そう言えばそうでしたわね。まあ、この名・族である袁本初からあの田舎太守に鞍替えしようなんてあり得ませんけど」

「その自信はどっから来るんですか……」

 と、あまり大きくない声で耳打ちした真直(まぁち)が一息吐く。

「とは言え、我らの軍はまだ調練の最中でございます。田舎太守だとか言ってるでございますが異民族を何度も相手にしてる白馬長史の武勇とその兵の精強さはは十分に轟いてるでございます」

 うーん……本人は普通とか言ってますけど、凡人ではないですよね。

 小夜さんの評価も妥当でしょう。

 銀鈴(いんりん)の話を聞く辺り異民族、マジヤバいって感じです。

 一度戦いましたけど銀鈴がほとんど片付けてしまったので、脅威はあまり感じられませんでしたが。

「仮にそうだとして董昭さんはどうするつもりですの?」

「はい、まずは彼らの計画がどのようなものか知る必要がありますね。一人で大勢の計画を防ぐのは無理がありますから。なので彼らが計画に乗ってどのような作戦を立てていたのかを知った上で、状況に応じ対応しようと考えております」

 麗羽様の問いにうっすらと糸目だった瞳が開かれる。

「なんとも曖昧(あいまい)な答えですわね」

「わたくしに万事お任せ下さい。田舎太守より、袁紹様の方が素晴らしいとご威光を広めさせていただきます~」

「まあ、そう言うことでしたらお任せしますわ。小夜さんの推薦でしょうし」

 董昭さんが猫なで声で口を開いたらコロッと流されましたよ、この人。

 いやまあ、小夜さんの名前を上げてるあたり小夜さんを信頼してという感じもありそうですけど。

「ということで、鉅鹿郡の太守として彼女を派遣するでございます」

「ええ、分かりましたわ。では董昭さん、わたくしのご威光をしっかりと広めてらっしゃい!」

「御意に」

 そうして、彼女は鉅鹿の太守へと任命されることになりました。

 

 ――が。

 

「なんで私がここにいるのでしょうね」

 鉅鹿郡に私と鈴花が董昭さんの補佐役として同伴しました。

 理由は小夜さん(いわ)く「胡散臭いので、監視と補佐を兼ねてお願いするでございます」とのことです。

 正直な話、私も信用ならないとは思いますが……

 今は既に太守としての取り次ぎも終わっています。

 なんとも小夜さんの根回しもお早いことです。

「張郃さん、高覧さん。お待たせしました~……滞りなく終わりました」

「それはお疲れ様です」

「うふふ……わたくしにこんな優秀な方を同伴させて頂けるとは、これはやりがいがあります」

 怪しげに舌を出す董昭さん。

「うわあ……すっごいねっとりしてます」

「あら、そんなねっとりだなんて。わたくしは色々とお役に立ちたいだけですよ」

 鈴花が怪しげな雰囲気の董昭さんに若干引き気味。

 というか、胸中が口に出てます。

 正直な感想にも関わらずそれをいなす董昭さん。

「高覧さんは正直でいいですね。張郃さん」

「否定はしませんけど、あんまり彼女をイジメないで下さいよ」

 彼女はこの鉅鹿をどう平定するのか……

 早くも嫌な予感を感じさせます。

 

 




本来なら公孫越死亡→界橋の戦い

へと移りますが、色々と端折ります。
劉虞との一件を書いてたら話が進まなさそう。

多分、平気で5章とか超える予感がしますので。
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