私は少し元気がないです。
しかし! 他の人がわたしの物語で元気になってくれるなら嬉しいことです。
という訳で恋姫、董卓ルートが出ましたが(約4ヵ月前)もっとがっつりやってくれていいのよ?
と思いつつも、政治的なあれこれが結構描写されてて良いと思いました。
へぅ、は清涼剤です。
異論は認めん。
一章:董昭、鉅鹿を治めるのこと
「空様……最近、あの董昭様の動きが怪しいです」
という鈴花の報告から一日が始まる。
私は執務部屋で椅子の背もたれに体重を預けながら天井を仰ぐ。
遂にか……って裏切りではないでしょう。まず。多分。
断言できないのはアレです。彼女の行動故です。
「放っておきましょう。必要ならお声が掛かるでしょうし」
「ええっ……いいんですか? もしかしたら、公孫賛に寝返るつもりかもしれないんですよ」
「いや、それはないでしょう」
裏切るならあからさまに過ぎますし、小夜さんとか軍師陣が勘付かないはずがありません。
それに彼女であればもっと回りくどくていやらしい感じでやりそうです。
「何故ですか?」
「ああいう手合いは、もっとねっちょりしてます。それこそ私達に勘付かれるようなことはしません」
「ねっちょり……気持ち悪い表現ですね」
「鈴花は正直ですね。いえ、良いんですけど」
裏表のない鈴花は何と言うか、ある意味恐ろしいですね。
たまに無礼討ちみたいな感じでさっくり殺しますからねこの子。
まあ、罪のあるなしで言えば向こう側なので問題ないんですけど。
さすがに誰かれ構わず切り捨てない程度の理性はあります。
逆に言えば大義名分があれば
お前、賊だろ?! 賊なら首置いてけ! みたいな。
どこの島津ですか、と言わんばかりです。
「いや~忙しいですね~。わたくし参っちゃいます」
無遠慮に執務室に入って来たかと思えば董昭さんは、そんなことを
「忙しいのに楽しそうですね」
「ええ、色々と裏も取れましたので。これからあんなことやこんなことをしようかと」
「別に隠さなくてもいいでしょうに……」
鉅鹿郡にいる公孫賛に
やることはそれです。
「ということで少しばかりお付き合いください。わたくし、一仕事終えましたので暇で暇で」
いい笑顔でそんなことをいう董昭さん。
何か企んでそうな印象しか受けません。
「太守としての仕事はどうしたんですか?」
「そんなものパパ―っと片付けましたよ。わたくし、張郃殿にとても興味があって……一度じっくり触れ合ってみたいと思いまして」
そう鈴花の言葉にあっけらかんと答える。
それよりも後半の言葉で鈴花の視線が鋭くなる。
私は面倒そうな予感にげんなりです。
「まあ、お互いを知るのは良いことです。敵を知り己を知らば……」
「やーん、嬉しいです。ささ、参りましょう」
そのまま私の手を引いて、小柄ながらも艶めかしい肢体ですり寄って来る。
鈴花の目がさらに鋭くなる。
「……空様、この女狐の皮を
「もしかしたら剥ぐ皮なんて被ってないかもしれませんから、ダメです。私も仕事はある程度終えてるので、兵の方はお願いします。まあ、心配しないで下さい」
「ぐぬぬ……変なことあったらお呼び下さい。すぐに飛んでいきます」
本当に飛んできそうな雰囲気ですね。
飛ぶというより跳躍的な意味で。城から。
そんな訳でどこに行くつもりか分かりませんが、董昭さんに連れられて城の外から街へ。
こっちの
活気もそこそこで、何とも言えない。
賊が出てる割には治安がすこぶる悪い訳ではないので。
「まるで
「そうですね」
董昭さんの言葉に私は女ですと答えそうになりましたけど、この世界では何も珍しいことではないのを知ってるので何も言いません。
男性で優秀な方がいない訳ではありませんが、有名どころが女性になってる以上は女尊男卑っぽい気がしますが。
「しかし、こうして見ると美丈夫というか……噂に違わぬ凛々しさですね~」
「それはどうもです」
胡散臭い感じしかしない距離の詰め方。
私も流すような返事になります。
いや、いきなり美女に言い寄られたら普通は嬉しいですよ?
でも……何か裏があるんじゃないかってレベルで変な距離の詰め方です。
残念ながらそこまで味のある返しが出来る性格ではないですし……お酒があればもうちょっとチャラけますけど。
それこそ舐めるような感じに
「それで、何か目的でもあるんでしょうか? それとも市井の様子を見ておきたいとか」
「ふむ……そんなところです。治めるにあたって街の有力者を下見しておきたく」
と、私の問いにあっけらかんと答える。
それも真面目な理由です。
こういう手合いは油断なりませんね。
「ふむふむ。もし、そこのお兄さん」
「ああ、なんだい?」
「わたくし最近、この街に来たばかりなんですが有力な商人や街で地位のあるお方はどなたか教えていただきません?」
「ん、おたく商人か何かかい?」
「お金を回すことをする人ではありますね」
道行く街の人に何か当たりをつけて話し掛ける董昭さん。
しかも、かなり濁した言い方。デロデロしてます。
「そうかい。まあ、別に教えても構わないが――」
そこの町人さんー!
もうちょっとなんか怪しんで下さいーー!
太守で立場的には向こうが上で上司なんですけど、怪しんで下さいーー!
と、私は内心で思いつつも董昭さんはつつがなく情報を入手した。
「では、引き続き参りましょう。
「はあ……」
そう、連れられ茶店のような場所に案内される。
「はい、いらっしゃい」
中年の女店主に迎えられそのまま店へ。
董昭さんは注文をして饅頭と茶が流れのままに出されていく。
「はあ……いいお店ですね~」
一口含み、お茶を飲んだ後に艶めかしい吐息と共に彼女はホッとする。
私も飲んでみるが、確かに美味しいです。
しかし、何とも言えない感じ。
警戒心は抜けませんがそんなに怪しい行動はありません。
怪しい雰囲気があるのは彼女の性質みたいなものでしょうか?
「そうですね」
「先程から素っ気ないですね~。いじけてしまいます」
「そう申されましても、あまりお互い知りませんし」
「ふふふ、でしたら……色々と教えて差し上げますよ。手取り足取り」
「…………」
なぜこうも距離感が近いのか意味不明です。
私にそんな趣味はありません……今のところ。
別にキャッキャウフフの渦中にいたいとも思いませんけど。
そういうのは主人公の役目であって、私にそんな女難はいりません。
いらないと思ってても、既に主君が女性でアレな時点で女難な気はしますが、そこは何も考えないでおきましょう。
いや、そもそも有名武将が女性の世界で女難に遭わない方が無理がある気が――あ、今……私とんでもない真実に辿り着いてる気がします。
誰ですかこんな外史作ったの。
正史の人間でしたね……などと現実逃避。
「私は武官としてのお役目で十分です。それで、どうされますか?」
「まあまあ、今は仕事の話はよろしいではありませんか」
などと董昭さんははぐらかす。
うーん……何もしてないように見えて、きっと何か考えがあるのでしょう。
今は情報の収集と仕込みと言ったところですかね。
と、思いつつしばらくは普段通りに武官としてお役目をしていましたが――
董昭さんがとんでもない行動に出るのを私は予想もしておりませんでした。
町の警邏に出ているとやはりこの時代の噂というのはその街の情勢を表すもので――
実際問題、黄巾党の残党を私達程ではありませんが吸収しており、白馬義従の異民族撃退の勇猛さは轟いている。
その事実がこの郡が公孫賛の派閥に傾くことを後押ししています。
民を不安にさせてなし崩し的にその勢力へと組み込む。
なかなかに
実際に公孫賛が望んでいるかは別として、ですけど。
麗羽様を知ってると公孫賛の方が頼りになるのは否定が出来ません。
でもまあ、麗羽様は麗羽様で悪評を立てられる行動が出来る立場でもないですし、名族的なプライドで変な事はするつもりはないでしょう。
お金遣いが荒いのとその配下が振り回されるのはともかくですが――
「郡を騒がせている豪族である
「いやいや……いきなり何を……」
どうやって鉅鹿を治めるかの会議を開いたかと思えば、董昭さんは開口一番にそれです。
私は待ったとばかりに言葉を挟みます。
「そうですよ! 切るのはいいですけど、理由は大事です!」
……鈴花さん?
私の副将、こんなに血の気多かったでしょうか……
片鱗は隠すこともなかったですけど。
「もちろんです。この郡の豪族である孫伉らと数十人が徒党を組んで官民たちに不安を煽っていると、裏が取れました。このままでは、公孫賛の勢力に組み込まれそれを足掛かりに攻められるのも時間の問題です」
まあ、この世界だと公孫賛が自ら攻めるような気質ではありませんけど……麗羽様が小夜さんの政策である北を取ってからの南下をする気ですからね。
こちらの動向が分かれば戦いたくなくても先手を取っておきたい、と思うのは当然と言えば当然です。
なので董昭さんの言うとおりになる可能性は高いですね。
「ということで、こちらに袁紹様の命令の書状を頂きましたので、法の下で処罰してしまいしょう。それから民には孫伉達が裏切りを企ててその影響で商売や治安の状況が上手くいかずにいたと、でっち上げさせて頂きます♪」
え……でっち上げ?
「ちなみにこの命令書は偽物ですが、全て丸く収まれば何とでもなりますのでお気になさらず。でっち上げると言っても状況が悪い理由としては事実を含んでいるところもございますので事が終わり次第、わたくしから袁紹様に
「空様、やっぱり女狐でしたよ! とんでもないこと言い始めました!」
「まあまあ、高覧さん。結果的に袁紹様になるように動くので、大事ではありません」
「君主の命令をでっち上げるのは大事じゃないんですか?!」
「大事の前の小事です。どうか信じて下さい」
「ここまで信じられない信じて下さいを初めて聞きましたよ!?」
確かに鈴花の言うとおり、ここまで信じられない信じて下さいもありません。
うーん……信じたくないのですが――
「本当に信じて欲しいのでしたら、真名でも賭けて頂きたいところですね」
と、私は提案します。
この時代では本当の名前というのは、秘匿される存在。
呪術的な話も信じられていますからね。
だからこそ、真名は重いということです。
過去の日本でも
……まあ、この世界では呪術がない訳ではないので実際問題、恐ろしい話ではありますけどね。
「――もちろんです。
あっさりと真名を預けましたよ。
にっこりとしていて表情は読み取れませんけど、真名を預けるくらいには信用して欲しいということでしょう。
ハクが白という字だとしても、これ程に白が似合わない
「分かりました。補佐を任された以上は、やりましょう」
「空様?!」
「鈴花、真名を賭けられた以上はそれに背くようなことはしないでしょう」
「それは、確かに……そうですけど……だからと言って私は預けませんからね!」
「働きを見届けてからどうすればいいかを考えれば良いでしょう。それで構いませんね? 孤白殿」
警戒心がありまくる鈴花を
その言葉に彼女は袖を口元に隠して微笑み、静かに頷いた。
「とは言え、一方的に預けるのは居心地が悪いので……私の真名、空だけでもお預けします」
『……ッ?!』
2人して私の行動に目を見開く。
鈴花は驚き、孤白は呆気に。
そこまでおかしいですかね?
まあ、信用してない相手に易々と預けすぎな感じはしますけどもね。
理由としては……私はそこまで真名に対してこの世界の住人程に神聖視はしていません。
前世がある以上、価値観はその時がある程度のベースですし。
名前で信用や信頼を得られるなら安いものということでの結論です。
「そこまで信用ないと思ってましたのに、酔狂なお方ですねえ」
自覚あるんかい、とクスクス笑う孤白に対して私は内心そう思いつつ――
「真名を預けたのですから、少なくともこちらも信を見せようということです。そこまで不思議な事ではありません」
とまあ、武人らしい返しをする。
ですが鈴花は口を尖らせて
「いくら何でも信を置くには……」
「これでも信を置く相手は選んでるつもりですよ」
その私の回答に鈴花は納得はしなくても、とりあえず私の言葉を信用するといった形で落ち着いたようです。
「公孫賛の斥候、
「……何を根拠に」
孫伉という者が所在する屋敷へ兵と共に訪問した私達。
悪辣な顔とも言えませんが、それなりに後ろめたいことがありそうな人相をしています。
あまり人を見た目で判断したくありませんが、この時代だと人相の悪さで疑惑を持たれることが少なくないので怖いことです。
史実の
孤白の言葉を一笑する孫伉ですが――
「あら、そうでしょうか? 街の有力者とそれなりに親しい間柄であるとも聞いておりますが、例えば東の商家の……とか?」
何やら揺さぶりをかける孤白。
そう言えば自分の足や兵を使って色々と聞き込みをしていましたが、やはり裏を取ってましたね。
裏があるなら別に命令をでっち上げる必要はないと思うのですが。
「ただの噂ではないか? 私にそんな、後ろめたい繋がりなどありはせぬ」
「ですが、袁紹様は私の言に既に信があると判断致しました。この書状がある理由も、お分かりでしょう? 抵抗するならば、色々と書き換えるよう進言しなければいけませんねえ……連座の部分、とか」
ちなみに連座とは、犯罪をした本人だけでなく家族含めてまとめて処断することです。
戦国時代でもこういうのはよくありましたが……ある意味では人質ですね。
しかし、単純ですが容赦のない脅しです。
ゴリ押しをするのにでっち上げた書状を用意したのでしょう。
しかもある程度は裏が取れてることをチラつかせて。
もし、ここで言い逃れをした場合……本腰で調べられて余罪が出てくるなりすると罪は当然に重くなる。
だからこそ、孤白は完全な裏を取って追い詰めるより自主的に捕縛されるように仕向けている……という感じですかね。
追い詰めて抵抗された場合には時間も労力も掛けることになりますし、他の諸侯含めて付け入る隙ができることになりますしね。
短期決戦ということで、この方法なのでしょう。
いやはや……恐ろしい人です。
「……………」
「さて、どういたしましょう?」
ニコニコと笑みを絶やさない孤白。
主導権はどちらにあるか、など明白です。
孫伉は冷や汗を一つ流したかと思うと――
「……袁紹様の命令に従いましょう」
これまでと、諦めて礼をした。
こうして迅速に孤白は鉅鹿を治めることに成功した。
ということで、いきなり豪族を捕縛して処断したことで民は混乱するのですが……そこは私達の出番ですね。
治安の維持をする為に警邏をして、これを機に良からぬことをする賊を捕らえて安心できるようにということで孤白からも指示されてますし。
物流をよくしたことで経済的にも安定し、民を慰めることに尽力しました。
よって混乱もすぐに治まって、鉅鹿の平穏は短期で訪れることとなった。
「おーっほっほっほ! おーっほっほっほ! 素晴らしい働きですわ、董昭さん。こうも早く鉅鹿にこの袁本初の名を広めることに成功するなんて」
「いえいえ、わたくしとしてもお名前を勝手にお借りして許していただけるとは喜ばしいことです」
「わたくしの名で丸く収まったのですから、何を責める必要がありますの? 当然の帰結というものです」
本拠地に戻り、孤白は自分がどのようにして鉅鹿を治めたかを正直に話しました。
ですが、麗羽様の反応は御覧のとおりです。
桂藍さんを除いて軍師陣は微妙な顔をしてますが……
勝手に君主の名前を借りて偽の書状を作ったのですから、当然と言えば当然なんですけどね。
これで許される辺り、麗羽様らしいと言いますかなんと言いますか。
「では、董昭さん。引き続きこの袁本初の名を広めることに尽力なさい」
「もちろん、誠心誠意やらせていただきますぅ~」
ある意味では胡散臭くも、頼もしい人が正式に袁紹配下となったのでした。
最近、やろうと思っていることを活動報告にあげようと思います。
気になった方は御覧下さい。
ちなみに董昭さんのやったことはほぼ史実通りです。