オリキャラの拠点フェイズです。
初陣からしばらく経った。
あれからも黄巾の討伐に色々と駆り出されていて、指揮能力も多少は身に付いたと言える。
と言っても危ない場面がなかった訳じゃないし、指揮をミスった時もあった。
大きな損害を出さなかったことには安堵してる。
あの時は冷や汗を掻いたし、自分のミスで多くの自分の兵の命を奪ってしまうことに恐怖した。
心労が半端ない。
何とか真直や斗詩、意外にも猪々子にも助けられたりもして大事には至らなかった。
短いながらも濃い経験をしたとも言える。
そんな俺も気になる事がある。
――沮授ちゃんだ。
そりゃ、今まで見た事ない登場人物出てきたら気になるに決まってる。
おまけに袁紹陣営の筆頭軍師。
正直、田豊と沮授いたらあとの軍師は……まあ……
いたら小物系のポンコツ枠、間違いない。
何にしても仲良くするに越したことはない。
それに政務の関係で報告書を出したり、軍議で顔を合わせたりはあるがそれ以外だとあんまり会ってない。
ちょうど鎧や武器の補充見積もりの報告書の提出を沮授に出さないといけないので、彼女の部屋へ向かう。
これが終わったら今日の主だった政務は終了。
時間はある。
相手はどうかは知らないけど。
扉の前に立ち、思わずノックし掛けるが――やめる。
そんなマナー習慣この世界にはないから声を掛ける。
「沮授さん? 張郃です、補充見積もりの提出に参りました」
……。
……………。
………………あれ? 全く返事がない。
おかしい、部屋の中に気配は感じる。
気配を感じるって、我ながら武人っぽくなってきたなと思うがそんなことは置いておいて――
「沮授さん?」
寝てるのかと思ってゆっくりと入室。
「はい……?」
机の上にどてーとしてダレてる。
入室した俺を見て、顔だけを向けてその後にゆっくりと体を起こし始める。
「
「提出物ですけど……お疲れですか?」
「ああいえ、どうしてお嬢様はバカなのかと考え始めるとやる気がなくなりまして~」
ふっ、と自嘲気味な顔でなんてこと言うんだこの軍師。
事実だけど。
やさぐれ軍師だな~
なに? 恋姫の軍師は何かしらの属性でもないとダメなのか?
そんなどうでもいい事を考えていると、沮授は肘を付きながら手のひらを差し出す。
「それはそうと、拝見しま~す」
「どうぞ。ところで、随分と……仕事が溜まっているようで」
「溜まってるんじゃないです。追い付かないんです」
その沮授の言葉に、ああ……と納得する。
あの麗羽の下じゃ仕事は増えるだろうな、そりゃ。
沮授の左右には竹簡の山が机の上だけでなくその周りにもある。
「真直さんが来てくれて助かりましたが……どうせ絶望するんです。そうしてまた
ネガティブだ。
最早、真直に続いて不憫軍師その二だ。
嘆きを言いながらもすぐに報告書に目を通したところで沮授は、
「問題ないですね~。文醜のバカにも見習って欲しいほどに」
と表情はあまり変化してないが何やら満足気。
見直しはしてたが問題ないようだ。
さてここからが俺的には本題。
「そうですか。では、少しこの小さな机をお借りしても?」
「……何をする気で?
思ったよりこの軍師、闇が深いぞ。
やさぐれてる上に偏屈だ。
「別にどうもしませんよ。これでも真直さんに色々と教わってたので、少しでも助けになれればと」
「……本日の仕事は?」
「沮授さんに出したので終わりですよ。なので、この後は休務です」
俺の言葉に沮授は目をパチクリ。
それからすぐにいつものやる気のなさそうなタレ目に戻る。
「まあ……出来たら見せて下さい。まずはこちらの山からです」
言いながら沮授は自分の右側にある竹簡の束を指さす。
当たり前だろうが、俺の仕事の加減を信用できないらしい。
武官だしな……それに新参者じゃあ推し量られても仕方ない。
一緒に仕事を淡々と進めていく。
大して話題がある訳でもないので会話はない。
時折、こっちの仕事の様子を見てはすぐに戻る。
沮授の仕事は早い……こっちが竹簡一つを片付けてる間に三つは片付けてる。
山は減ってないけど。
本職の文官が武官に負けてたら確かに世話ないが……
しかし、この世界の報告書は修正が容易に出来ないからミスがあまり出来ない。
竹だし、墨だし、おまけに墨だから乾燥と言う作業が出てくる。
それから唐突に沮授から声が掛けられる。
「張郃さん」
「はい?」
「もういいですよ~。終わりです~」
終わりって言うけどまだ山が結構残ってるように見えるんですが、それは……
「今日の急ぎの分は大体片付きました~。今やってるのは明日の分なので~、それも大体片付きましたし~」
沮授は言いながら唐突に立ち上がって外に出る。
まあ、俺も切りが良い所で終わったのでそのまま部屋を出る。
部屋を出たところで沮授は何も言わずにどこかへと向かっていく。
「どちらへ?」
「
お節介で勝手に手伝っただけだけど、お礼もなしかい!
もしくはこの程度で信用はされないって事なんだろうか?
彼女の闇はどうも深そうだ。
「そうですか。困ったことがあればいつでもどうぞ」
ま、信用や信頼は積み上げるモノ。
だけどたった一度の失態や虚言で積み木のように容易く壊れる事は知ってる。
この乱世の時代じゃあ分かりきった話だけど。
「――なんて言いました?」
何を沮授は驚いているのか、俺の方に振り返ってそんな言葉を投げ掛ける。
「困ったことがあればいつでも言って下さいと申し上げましたけど……もしや、武官
もしや、何か不快にさせたか?
そう警戒して尋ねると、沮授は――
「いえ、
顔を少し下に、そして視線を下に向けて微妙に照れてるぞ。
……うーん、カワイイ。
そして同時にこの労働環境だと容易に想像できるので同情を禁じ得ない。
日本人形的な容姿に加えて、頭には烏帽子的な被り物をしてる彼女は
「そうですか……お互いに苦労しそうですが、何とか強く生きましょう」
「そうですね……辛くなったら此方を逆に頼って頂いてもよろしいですよ。心底、面倒臭いですがそなたなら良いでしょう」
言外に俺以外というか、一部の人以外フォローする気皆無ともとれる発言だ。
沮授はそのまま、挨拶をそこそこにどこかへと去って行く。
真名交換とはいかなかったが、第一印象はあまり悪くないと思いたい。
神聖な名前なのだし、預けるかどうかはこれからの俺の働き次第だろう。
そんな中で俺は仕方がないので色々と草案を出しては実行できそうなものをまとめてみる。
特に警備隊の治安維持のシステムをそこまでは知らないが、取りまとめる組織の長とそれ以外の役所ごとの部署をまとめる人物、そして報・連・相がしっかりしていれば独立した組織として機能するはず。
治安維持はこの時代で最も重要だと俺は考えてる。
安心できる場所が少ないからな。
安心できる場所があるなら、自然と人が集まり、金が集まり、経済は発展するはず。
真直と色々と考え、沮授とも話して煮詰めているから……問題はないはず。
沮授自体は「いい考えですが、どうせ無駄だと思いま~す」とまたやさぐれてた。
実際、問題は――麗羽だ。
こっちは部下であの人は一応は君主。
いっそ話を通さない方がすんなり進むんじゃないかと思いもしたが……組織的にはどうかと思うので、今度の軍議で出すつもりだ。
馬鹿正直にお認め下さい、と言うつもりはない。
性格的に名門に相応しい何かを説けば、麗羽は応じるはず。
そのための
そして――その軍議の時が来た。
「では、今後の私の袁家の威光を広める軍議を開くこととしましょう。何やら空さんにお考えがあるとか?」
遂に、来たな。
話はそれとなく流してたから麗羽の耳にも届いてるはず。
何で俺はこんな軍議で戦場以上に緊張してるのか……いや、企画を通すのは大事ではあるが。
難所が問題なく組織的に機能するかとか責任持てるかとかじゃなく、"君主に話が通るかどうかが"一番の難所なのが原因だ。
なので俺は静かに切り出す。
「ええ、ちゃんと考えていますよ。麗羽様のご威光が確実に広まるように考えた草案がここにあります」
お手元の資料をご覧下さい。
いや……君主の分しか用意してないけど。
プレゼンしようにも竹簡なので容易には同じ資料の複製なんて出来ない。
なので最低限、君主の分しか用意してない。
ちなみに筆頭軍師殿は頭に内容が全部入ってるらしい。
これが、古代中国のインテル入ってる……
そりゃあアナログなので自分の頭脳に色々と留めるしかないでしょうけど、その記憶力にドン引きしてます。
「あら、それは頼もしいですわね。この名族――袁本初の威光を広める素晴らしい草案なのでしょう?」
「もちろんです。議題としては警備体制の見直し及び新たな治安態勢の確立というところでしょうか」
「……そんなことですの? 警邏ならいつもしてるでしょう」
「そんな事ではありませんよ! これは空殿が――」
真直が熱弁をしようとしたところで私は「しー」と釘を刺す。
彼女じゃあ、麗羽も真剣に話は聞くものの結局は理解できずに意味の分からないモノとして片付けるだろう。
そう思って真直にも話しはして、俺に任せろと言ってある。
「今では黄色い布を持った謎の賊があちこちに出ている状況。それはこの名族の領内でも多く出ていますからね」
「そう言えば……そうですわね。朝廷からも軍令が出ている程ですし、余程酷いのでしょうね」
麗羽の言葉に真直は呆れ顔。
君主が世の情勢に疎くてどうするの……
そんな感じの顔だなあ、あれは。
ともかく俺は話を進める。
「そうです。という訳で、民たちは不安に駆られております。そこでここで治安を向上することで麗羽様の民を思う心、その名族たる寛大さに惹かれ……今よりも更なる威光が広まることでしょう。なので、その威光を広めるのにお願いがございます」
「あら……何かしら?」
「私と沮授殿にお任せして頂ければ、この草案を実行し今よりも名族の名声を高めて御覧にいれましょう。実際お渡しした竹簡では理解に及ばない部分はあるとは思いますが麗羽様の黄金のごとき器でしたらきっとご信頼してお任せして頂けると思っております」
私の言葉に斗詩と真直はドン引きしてる。
仕方ないだろ!?
名族と名声をダシにして前面に出さないとこの人には話が通らないんだからな?!
それに別に嘘でも何でもないし、治安向上するのは悪いことじゃないし問題はない。
「確かに、この竹簡には何やら小難しいことばかり書かれておりますわね。詰所の増築……兵役による情状しゃくりょう? まあ、ともかくこれを実行すれば
「はい。いかかでしょうか?」
「良いですわよ。許可しましょう。勿論、そんな大口を叩いたからには結果を出して貰わないと困りますのですけど」
「ご満足の頂ける結果でなければ私は名族の将として不足だったと認め、この軍を去りましょう」
まあ、そんな事にならないようはするが……真直は放っておけないし。
『……!?』
真直と斗詩の目が点になってる。
って言うか、真直は何故に涙目だ。
「あ~、空の姉貴が去るのは嫌だな~。よし、あたいも協力してやっから頑張ろうぜ!」
ようやく猪々子が口を開いたと思ったら気持ちのいい協力を申し出てきてくれた。
素直に嬉しいな。
「わ、私も協力します!」
あれ? 斗詩まで何でそんな必死?
俺ってそんなに好感度高いか?
普通に同僚的なアレだと思ってたんだが……
大したこともしてないし。
沮授も気付けば何やら目が点になってる。
話が通ると思ってなかったのか、そんな顔をしてるな。
取りあえずは第一段階はクリアってところだろうな。
その後も軍議は淡々と進み、今日の案件は終了した。
自室に戻ってあとは草案見直してどこから始めるか軽く考えた後にゆっくりするか……
兵の調練も今日はないし。
「ふふ♪ 昼間から酒も悪くないですね」
この世界には日本酒ないのが残念だ。
この間は安酒を買って失敗したしな。
そこそこ良い所のお酒を買った。
椅子に座って、
「ん~……ムラがあるけどまあ、美味いですね」
濁りとも言うべきか、たまに変な口当たりを感じる。
さて……実際問題、どこから始めるべきかと思い草案を見直す。
大まかには決まってるので具体的に煮詰めるしかない。
そう考えてきた時だ。
「張郃殿?」
唐突に沮授が入ってきた。
ノックぐらいしろと言いたいが、そんな風習がないので普通に対応する。
「はい? どうされました?」
「……終わって早々に酒とは良いご身分でございます」
ジト目で言われる。
まあ、確かにそうだが――
「職務がないので問題はないでしょう? 大丈夫です、出兵には差し障りが無いようにはしますので」
「別に、心配はしてないです」
「ではどうされました?」
「いえ、真名をお預けに来たのでございます」
「……へ?」
唐突にそんなことを言ってくる沮授。
俺も流石に、間抜けな声が出る。
そんなお茶しませんかみたいなノリで預けてもいいものだっけ?
軽々しくやってるけど結構重いんだよ、真名って。
の割には今みたいに気軽に言ってくる人もいるからこの文化は謎だ。
「それは……嬉しいのですけど、何故ですか?」
「今日の草案がバカお嬢様に通ると
「ああ……そういう……」
「張郃殿はまるで前からお嬢様を知ってるかのようでございました。人を判断するのが上手いのでございましょう。将たる器であると感じたので、信頼に足ると判断しただけでございます」
す、鋭い……この軍師、結構ぽけーとしてるけどやっぱりヤバいな。
「我が真名
「え、ええ……我が真名を
「用件はそれだけでございます。
本当にそれだけかよ……
いや、真名を預けるに足ると思ってすぐに行動に移した結果だろう。
この子はこの子で割と淡白だからな……
そう考えてると、部屋を出るところで――
「空殿、
微笑して問い掛けてくる。
え、なに……この薄ら寒い笑顔。
顔に影が差してる感じがする。
もしかして真名の通りに夜みたいに腹の中真っ黒だったりするのか?
「空殿はそんなことをする人物ではないと、
逃がさないって言葉を言外に言ってるような感じを残して沮授――小夜は去って行った。
そこで俺は薄っすらと気付く……
まさか
俺が本性に気付くのはまだ先の話。
恋姫勢で明確な腹黒いのってあんまり見ない気がする。
というか、ヤンデレみたいなのいなくない?