あれから幾度かの暴徒鎮圧を得て、将としての経験値がいくつか積めた。
もちろん兵への労いは忘れない。
福利厚生じゃないが、死亡したりしたら手当は親族や遺族に配分したりしてる。
命を賭けてみんな戦ってるのだからその報いぐらいあってもいいはずだ。
既に暴徒鎮圧だけで幾人か犠牲が出てしまったし、それを経験した俺は……少しこのままで良いのかと疑念を抱いた。
だけど、目的を果たすのが将だ。
ここで俺が何も成せずに投げ出す方こそ彼らが報われない。
張郃だからと言うわけじゃないが、上手く用兵することがきっと彼らを守ることに繋がる。
少なくとも俺は彼らが無事帰るための平和を勝ち取る為に戦う。
そう決めた。
漫画の主人公っぽい謳い文句だが……もちろん血を流さなくて和平が出来るならそれに越したことはない。
そう思うと劉備の方が良いとは思うが、ただこのご時世では理想ばかりでは理想に潰される。少なくとも現実をいくつか受け入れて進んだほうが、精神的には楽だと思う。
それに腹の内を明かして仲良くとはそう簡単にはいかないだろう。
この世界は疑心暗鬼の世界だ。
だからこそこの世界の劉備は精神的な傑物と言えるかもしれない。
まあ、適度に頑張ろうとは思う。
自分の手の届く範囲ぐらいは平和を守ろうと。
そう決意してた、数日後。
早速、自分の平和が崩れそうな話題が舞い込んできた。
突然に軍議が開かれることになり、玉座の間に主要な将が集められる。
「嫌な予感しかしないのは何故でしょう……」
「空さんもですか? 実は……私もそうなんです」
斗詩も同じ予感がしてるのかそう同意してくる。
これフラグでは?
というか付き合い長い彼女が嫌な予感がするって既にアウトでは?
そう思いつつ、俺は現実逃避気味に周囲を観察する。
猪々子は、なんだろうなぁ~って何も考えてない感じだ。
真直は……既に疲れた顔をしてる。最初の子供みたいな喜びようはどこに……
うーん、この軍大丈夫か?
大丈夫じゃないんだろうなぁ……これは官渡の戦い負けるわ。
割と先の話だけど。
麗羽様は話は聞くけど、私情と名家の誇り(笑)を挟み込むから最終的に話を聞いてない感じになってしまう。
そして、心の中で噂をしていると麗羽様が満を持したように玉座へ来られた。
一応主君なので心の中でも敬意を払って様付けにすることにした。
態度に出そうだし、こっちは雇われてる立場だからな。
「皆さんおそろいですわね。では、こうして集まって貰ったのはめでたい話が朝廷の先駆けの使者から来ましたの」
めでたい話、か。
なんだろうな?
予想としてはこういう時は大体、官位を与えられるとかそんな感じだろう。
朝廷の使者の先駆けが来たなら尚更、可能性は高い。
「おめでとうございます麗羽様」
とりあえず投げやりに謝辞を述べておく。
すぐさま
「空さん、まだ何か分からないのに」
ツッコミを受ける。
「多分、朝廷からですから官位を授けられるとか太守的な任命とかではないのですか?」
「そうでしょうけども、そこは主君の発表を待つべきでは……」
俺の予想を話すと、真直から今度は正論のツッコミが入る。
麗羽様の返答を待ってたら本題に入らないと思うのは俺だけだろうか?
とは言わずに俺は上手い返答が見つからないので沈黙する。
「あら、空さん。鋭いですわね。ええ、この度は噂の黄巾の賊の討伐の功労として朝廷から
いつもの高笑いを出すあたり機嫌はかなり良いらしい。
っていうか、冀州牧ですか……
韓馥さん名前すら出なかったな。
哀れな……そもそも田豊と沮授が既にいる時点でお察しだったが。
そもそもゲームから入ったにわか知識がさらにこの世界で色々と知識を学んでたせいで薄れてる感がある。
武将の名前はある程度なら覚えてるが、マイナー過ぎると誰? って感じにはなるだろう。
ってあれ? そう言えば
まだ黄巾党が出て結構初めも初めだろうし。
天の御遣いの噂もまだ聞かない。
「という訳で、朝廷の使者をお迎えするためにこれから準備に取り掛かりますわ。丁重にお迎えなさい」
俺の考えとはよそに麗羽様は迎賓の用意をする言葉を発する。
まあ、朝廷……要はお偉いさんが来るからもてなす準備をしなければならない。
そのまま頭脳担当が段取りを練るらしいので会議は解散となった。
なんだかな~、朝廷は蠱毒の
そんな朝廷から州牧の任命なんて裏がないと思うのが無理な話だ。
大体、黄巾討伐なんてどこもやってるし、この軍も功績がない訳じゃないが何かを
俺は何となくそのまま玉座の間に残って、軍師陣に意見を聞いてみる。
「個人的に何か裏があるように思えるんですが、気のせいでしょうか?」
「空さんもそう思いますよね……」
真直も同じ見解みたいだ。
「ですよねー」
「朝廷なんて
相変わらずやさぐれ気味に自嘲じみた顔をしながら小夜は視線を斜め下に向ける。
朝廷の伝手と言えばーー
「そう言えば真直さんは元朝廷役人ですから、まともな伝手の一つや二つはあるのではないですか?」
「いい思い出はありませんけどね。ないこともありませんが、現状必要な情報は特にないですし、いらない借りを作る必要はありませんからね」
俺の質問に真直は肯定を示すが、重要なことでもない限りはそれを頼りにするつもりはないらしい。
まあ、実際こういうのって貸しだの義理だのが重要視されてるっぽいし、それを計略に利用されたりもするから何とも怖い話だ。
知り合いだからと気軽に交渉すればいつの間にか裏切られてる場合もある訳だからな。
うーん、乱世乱世。
そんな訳でつつがなく麗羽様の州牧への任命は語るべきところがないほどに呆気なく終わった。
朝廷の使者は誰か有名どころが来てるのかと思ったが、名前を聞いてもピンと来なかった。
あと、女性じゃなかったからな。
有名どころは一通り女体化してるこの外史なら、女性じゃない=有名ではない可能性は非常に高い。
そんなことはないかもしれないが、あくまで仮説だ。
そんな訳で冀州でデカい都であるとの話である
俺と真直、猪々子も麗羽様と共に先行で入城する。
事実は小説より奇なりというが、入城しても本城が遠いぞ。
指くらいのサイズしか見えない。
なのに大通りが続いてるということは、まあとんでもなくデカい。
真直が言うには冀州は北ではかなり豊かであるとの話だ。
ちなみに俺の村はこの鄴のさらに北、この冀州の中でも最北の地方の一つである
とりあえずはここが新たな麗羽様の本拠地となるだろう。
何か色々と掌握することが多そうな場所だ。
二つ前の前世でも新しい部署に異動した時は、業務内容とか状況を掌握するところから始まるからな。
そこは国だろうが仕事だろうが変わらないだろう。
とりあえず、通りを馬で歩かせながら見た感想としては……通りは人で多いが、 活気は微妙にない印象を受ける。
情勢が不安定だし、黄巾党の噂も出始めてるから無理もない話だ。
鄴の本城に入城してしばらくは内政に力を入れて、小夜と斗詩も豫州での引き継ぎを終えてこちらへ合流を果たす。
それからすぐにある有名人物が鄴へと現れた。
「姓は荀、名は彧、
ネコミミフードにウェーブのかかった金髪ショート、つまりは
お前出くるの今かい!
運が良いのか悪いのか、袁家陣営以外での初の三国志筆頭、魏の陣営になるであろう桂花こと荀彧が玉座の間へと現れた。
士官のため、突然に玉座の間へと袁家の主要な武将が集められたと思ったらまさかの荀彧である。
だが、同時に原作でも見ならぬ人物が隣にいた。
「姓は荀、名は
同じくネコミミフードに、こちらも金髪ウェーブではあるがセミロングっぽい髪に、荀彧よりも柔らかな雰囲気を受ける人物。
妹と言う辺り、荀彧の姉だろうがマイナーで分からねえ……
荀彧の家系、荀家は兄弟ーーもといこの世界では姉妹ーーが多いのは何となく記憶に残ってるがどの荀が誰に仕えてたなんて余程の三国志マニアでもなければ知る訳もない。
「あら、あなた達があの有名な荀家に連なるものですの」
「はい、私達は
「まさか、"八龍"に連なる者が我が袁家に入るとは。とても光栄ですわ。どのような経緯であれ、この"袁家の正統後継者"たる袁本初は歓迎致しますとも。おーっほっほっほっ! おーっほっほっほっ」
色々と余計な文脈と高笑いを除けば、主君してると思う張郃こと俺です。
八龍とか全然知らんし。
っていうか、やっぱり女なのね。
荀淑とか荀緄とか。
記憶になくとも正史では男と思われる人物も軒並みやっぱり女性なんですか。
どちらかと言えば、荀家ってネコミミフードが特徴なのかと、個人的にはそっちに興味が尽きない。
こうして荀家の二人が我が袁家に加わったのであった。
しばらくはこの二人と色々と話さないと俺の命とか今後の人生を左右するであろうと予感するのであった。
荀彧は今は女性である俺を敵視することはないだろう。
多分……
荀淑……荀緄の父、この世界では荀彧の母である荀緄の母、荀彧からすれば祖母(祖父)にあたる。「神君」と呼ばれるほど尊敬を集め、かなりの知恵者であると思われる。
荀緄……荀彧の母(父)、荀緄を含め荀淑の子である八人の兄弟(姉妹)は「八龍」と称されいずれも優秀であったとか。荀彧って恋姫じゃあアレだけど家柄的にお嬢様なんですね。
荀諶……荀彧のお姉(兄)ちゃん。もう一つ上に姉(兄)がいる。韓馥が冀州を袁紹に譲り渡すのに巧みな弁舌を奮い、一役買ったのだが、史実の資料が何故かない。結構な知恵者であることを感じさせるが袁紹陣営からその後に関しては不明。
鄴……冀州でもデカい拠点の一つ。魏でも主要な都市であったとの話。
時間がない中で要点だけまとめました。
補足があればお願いします。