荀諶さんマジで資料ないな。
荀彧が有名だからってその兄弟まで有名であるかと言われればうーん、なんですけども。
坂本龍馬は有名だけどその兄弟の話はあまり聞かないですしね。
冀州ヘと拠点を移してしばらく。
相変わらず内政は軍師陣が頑張ってる。
君主である麗羽様が豪遊ではないが、相変わらず無駄な出費をするので頭を抱えてる。
主に真直が。
やる気ない感じをいつも出してるが、無駄なことはしたくない主義なんだろう。
いつも思うが、何で小夜は麗羽様に仕えてるのか疑問だ。
それはともかくとして荀彧だ。
いずれ去るにしても張郃も魏陣営。
顔を会わせることもあるだろう。
なので色々と親睦を深めてはおきたい。
だからと言って今の麗羽様を見限る気もない。
仕えていて分かったが、麗羽様ほど表裏のない人物がこの世界では貴重であると分かったのでしばらくは彼女を支えようと思った。
ちゃんと労いはしてくれるし、君主はしてる。
話は大体聞いてくれねえけど。
そこは愛嬌ということで諦めた。
それから警邏や調練といった一通りの武官としての仕事を終えて、部下と意見交換を兼ねて賊討伐後の宴会をする。
「張将軍、もう……飲めません……」
「はいはい、気持ち悪くなる前に水でも呑んで下がりなさい」
「張将軍、杯が空いております」
「ああ、ありがとう。酔わせても私は抱かせませんからね」
「めめ、滅相もありません。張将軍を抱こうなどとーー」
「まあ、面白くもないでしょうしね。貧相な体ですし」
魏は大部分がロリ体型なのは逃れられない運命なのか!
俺の体は既に成長が止まってしまった感じが最近はしてる。
曹操と胸はいい勝負だ。
身長はこっちが高いかもしれんが、せっかくの女性体なんだからもうちょっとあってもいいだろう。
などと、性転換を楽しんでる俺だ。
「いいえ、そんなことはありません! 美しい細身の体型であると思います!」「そうです。私も文醜将軍みたいな方が好みです!」「私も大きいより小ぶりな方が……」
あれ? 気付いたら俺の部隊って貧乳スキーが集ってる感じになってる?
知りたくなかったぞ、そんな事実。
とまあ、部隊の団結力は悪くないと思う。
酒は良いコミュニケーションの潤滑油だ。
二つ前の前世もうちょい物分かりの良い話せる上司なら気に病んで自殺なんてしなかったろうに。
まあ、今となっては知ったこっちゃないが。
ここではせめて、俺は話せる上司として振る舞おうとしてる。
「物好きですね。別に私は気にしませんが。こういう場でなければあまり
『ひえッ……』
一気に酔いが冷めたのか部下が戦慄する。
酔いながらも若干、俺は本気で言う。
駄目だろ。軍属がそういうのは。
何を民が安心して信頼していいのか分からなくなるしな。
とまあ、武官としての心構え的なのを自分の中である程度は確立しつつある。
「そうならないことを祈ってますよ。信じてますからね」
とまあ、部下との
飲みすぎたかな……
人がいるとたまに自分のペースを見失ってつい飲みすぎてしまう。
そんな中で部屋に戻る途中で荀姉妹の部屋の前を通り掛かる。
少し脚を止める。
話はしたいが、重要なことでもない限り話すような時間帯ではないしな。
ましてや政務中であればこっちは暢気に飲んでるので気まずくなる。
今日はやめておこう。
そう思ってそのまま立ち去ろうと、再び脚を進めた瞬間。
「あら、あなたは……張郃殿?」
名前を呼ばれて足を止め振り返れば、
「こんばんは」
俺は無難に挨拶をしておく。
「はい、こんばんは。酒宴の帰りですか?」
「ええ、まあ……部下と親睦を深めておりましたよ」
特に隠す必要もなかったので問い掛けに素直に答える。
酒の匂いでもしたのか、荀諶はすぐに見抜いてきた。
軍師陣ってやっぱり観察力と洞察力高いよな。
「ちょうどよろしいところに、少しばかりお話でもしていきませんか?」
願ってもない話だったし俺としては助かる。
だが、油断はしない方が良い。
軍師は腹黒いのが多いし、ましてや荀彧の姉だ。
何かしらひねくれてる可能性はゼロじゃない。
「ええ、いいですよ。私も話をしてみたいと思ってましたので」
そのまま招かれるままに部屋へと入る。
「桂花、少し休憩にしましょう。丁度いい人を招いたわ」
と、荀諶は机に座ってる荀彧に声を掛ける。
同じくネコミミフードを外した荀彧は何やら書を見て、竹簡を広げている。
勉学でも励んでいるのだろうか?
「これは……張将軍」
俺と視線が会い、椅子から立ち上がって荀彧は手を合わせ一礼する。
「お茶をお出ししてくれる?」
「はい、分かりました。姉様」
荀彧が姉様呼びなんて新鮮だな~
ちょっと対応が淡白な感じがするが、まあ……初対面ならこんなものだろう。
しかし、姉とは言うがそこまで荀彧と体格は変わらないな……荀諶。
荀彧より一回り大きいがそれでもロリ体型だ。
しかし、雰囲気はどことなく大人な感じがする。
これがロリ姉か。
「どうぞ、お座り下さい。突然のお招きに応じて頂きありがとうございます」
そして品位を感じさせる自然な動作。
「ご丁寧にありがとうございます。しかし、休憩というのであれば堅苦しい雰囲気は無用ですよ。楽にして下さい」
と俺が言うと、荀諶はーー
「袁家の重臣の方ですから、すみませんがご厚意だけお預かりします」
とやんわり遠慮された。
「重臣、ですか。それは誤解ですよ。私なんて村の田舎者です。袁家に士官できたのはたまたまで、この陣営では新参者です。大した内情など話せませんよ」
何か探ろうとしてるのかとちょっとだけ、カマを掛けてみる。
「私、そんなに腹黒くありません。ひねくれて腹黒いのは妹だけで十分ですよ」
と、荀諶は少しだけ子供っぽい不貞腐れた感じで否定する。
「お茶をお下げするわよ」
「ほら、可愛げがないでしょう?」
お茶を持ってきた荀彧がジト目で姉を睨む。
そんな荀諶は睨まれてもニコニコと笑顔だ。
うーん、この人も一筋縄じゃいかなさそうな感じがプンプンするんだがな。
「どうやら姉妹仲はよろしいようで」
「今のを見て、本当にそうお思いですか?」
呆れた感じで荀彧はお茶を置きながら俺の言葉に反論するように聞いてくる。
「そうですね。姉に頭が上がらない感じは何となくします」
「そうでもないですよ。私より桂花の方がずっと優秀です。知恵比べでは、とてもとても……」
「知恵比べ以外では負ける気はないと聞こえるようですけど……」
「フフ、村の田舎者とは……謙遜されてました?」
「事実ですよ。これでもまだまだ学んでる最中なんです」
酔ってるせいかいつもより饒舌な俺。
何か、微妙に駆け引きっぽくて楽しいぞ。
「それはそうと、荀彧さんはもう少し砕けるのですか?」
「あら、桂花。猫被ってるのお気付きみたいよ」
「ちょっと姉様!? ……っコホン。お戯れも程々になさいませ。お客人の前です」
一瞬、素が出かけてたがいつも通りに荀彧は澄まし顔に戻る。
それからようやく全員が席に着いた。
とりあえずは、俺は気になることを聞いてみる。
「ところで私は荀家のことはよく分からないのですが、袁家に士官された理由をお聞きしても?」
「別に大した話ではありません」
荀彧の言葉は何だか「あんたに話す必要なんてない」って感じに聞こえる。
態度も微妙に男性に接する態度というより不機嫌な感じのツンツンした雰囲気だ。
「まあ、無理にはお聞きしませんよ。荀彧殿が私に話す必要がないと仰るのであれば仕方ありません」
「ちょっと! そんなこと一言も言ってないでしょっ!?」
自分の発言にハッ、となる荀彧。
思いのほか猫の皮が剥がれるの早いな……
そんな中、荀諶はクスクスと笑う。
「思ったより曲者ですね、張郃殿。いえ……人が悪いと言えばよろしいでしょうか?」
ゾクリとするような視線。
そして口元はニヤけながらも目を細める荀諶さん。
あんたも猫かぶりやないかい……
軍師は黒いのしかいねえという偏見に拍車が掛かりそうだ。
「荀諶殿も悪い目をしてますよ」
「ごめんなさい。でも、話していて思いの外楽しくて」
「姉様、顔がしちゃいけない顔してるわよ。ひねくれてるのはどっちなのよ」
「私は素直よ」
荀彧の言葉にブレないなこのお姉様。
弁舌が強い感じがする。
「それはそうと、質問にお答えします。元々、私と桂花ーー荀彧は冀州牧に招かれていたの。袁紹様より前のね。名前は……何だったっけ?」
「さあ? もう失脚した州牧なんて覚えてないわ。それに戦乱の予感がしたから故郷から逃げ出したようなものだし、渡りに船だっただけよ」
荀諶の言葉に荀彧は砕けた感じで補足するように話しだした。
もう取り繕う気もないらしい。
しかし、名前すら出ないとは
「なるほど。それでそのまま招かれるまま冀州入りを果たし、そのまま流れで士官した訳ですか」
「だから言ったでしょ。大した話じゃないって」
「もう桂花、そんな噛みつくような言い方をしないの。いらない敵を作るわよ」
荀諶は困ったように荀彧を
「耳に痛い言葉は良薬と同じよ。それが分からないなら大した人物じゃないのよ」
と、良薬は口に苦しを交えた言葉を荀彧は返す。
「嫁の貰い手がいなくなるわよ」
「男なんて願い下げよ。所詮は下半身でしか、モノを考えてない猿と変わらないわよ」
うーん……元男なので複雑な心境。
姉妹なのに荀諶は特に男を毛嫌いしてない感じなのが謎だ。
「あら、じゃあ張郃殿はいいの? 良い人だと思うわよ」
あれ、荀諶さん?
「……私、女ですけど」
「えっ……?」「え?」
荀諶と俺の言葉が被るように続く。
荀諶は初めて余裕そうな表情が崩れた。
「あの、ゴメンなさい。その……酒の匂いに混じって男の臭いもしてたもので、てっきり……」
いやー、真直にも女性なのが勿体ないって言われたことはあるがまさか男と勘違いされる日が来るとは……
スレンダーですけども、そこまで中性的な顔してるかなぁ?
結構、愛嬌ある顔だと我ながら思うんだが。
普段は引き締めてキリってしてるからそう見えなくもないと思うけど。
「どおりで男にしては不愉快じゃないと思ったわ」
ただ単に荀彧の男センサーに引っ掛かってなかっただけらしい。
「語るに落ちましたね、荀諶殿。まあ、お気になさらず」
「あ、ああ……恥ずかしいッ! 私を穴に放り込んでください!」
顔を覆って、羞恥する荀諶。
「久々に姉様が墓穴を掘ったわね。いい気味よ」
そして姉に対しても性格悪いな荀彧。
「良いモノが見れましたので、お暇しますよ。荀諶殿は確かに可愛げがあるのも分かりましたし」
「ちょっと、私は可愛げがないって言うの?!」
「いえ、別に……。そうですね、撫でようとすると威嚇する猫みたいな愛嬌ですかね?」
「あんたも性格悪いって自覚してる?」
荀彧はジト目で俺を睨む。
「性格が悪くなくては戦えませんよ。用兵とは相手の裏をかくんですから」
「姉様に負けず口が回るわね。まあ、バカよりは好感は持てるわ」
「それは恐悦至極で。それでは、おやすみなさい」
そうして俺は荀姉妹の部屋を後にした。
なかなかにいい話が出来たな。
しかし、時系列が若干前後してる感じがするな。
そこはあまり気にしない方がいいか。
真直とか小夜の例があるし。
部屋に戻って、水を桶に汲んで水面の顔を覗く。
うーん、女だよなぁ~
試しに凛々しい表情をしてみれば中性的に見えなくもない。
別に男と間違われて悲しい訳じゃないが複雑だ。
これが乙女心かと、少しズレた認識を持つ俺であった。
張郃こと空が宴席を先に去ってからの兵の雑談
「なあ、張将軍って美しいよな……」
「どうした急に」
「綺麗とかじゃなくて、こう華麗というか」
「分かるぜ。しなやかな感じで、戦い方も美しいしな」
「でも、たまに無邪気な笑顔がこう……何だろうな、胸が熱くなるんだよ」
「そうだな。ちなみにどこが好きだ?」
「……脚だな」
「同士よ!」
「違うな。小ぶりな胸だろ」
「分かる」
「お前は小ぶりな胸なら誰でもいいんだろ」
「甘いなお前ら、あの細くて綺麗な指だろ」
「む、確かに捨てがたい」
「待て、尻はいないのか」
「ここにいるぞ!」
「……田豊将軍の部下に聞いたんだが、寝顔がカワイイらしい」
「なに!?」「詳しく」
「田豊将軍はどうやら胃痛持ちらしくな、時折寝込むことがありそうだ」
「俺もある、あれは辛い」
「いやお前のは飲みすぎだろ」
「ともかく、たまに張郃将軍が見舞いと看病に来てくれるらしい」
「俺も見舞いされたい」
「ええい! 話の腰を折るな! それである日、寝ている田豊将軍の隣に張郃将軍が座りながら寝ていたらしい。その時は机に倒れてだらしなく無防備であったそうだ」
「疲れてるんですね、張将軍も」
「うむ、ここ最近は出兵が多いからな。それもあってか普段の凛々しいお姿ではなく子供のような緩みきった表情であったそうだ。しかも田豊将軍の様子見と伝令として袁紹様よりそいつは命じられたので直接見たらしい」
「くッ……羨ましい」「けしからんな」
「そこでこういうのはどうだろう? もしこの先、長期の出兵があったら将軍は休まれるだろう。その時に交代で将軍の不寝番として立てば……」
「ハッ!? 何かあれば伝令として入って将軍を起こせるし寝顔を覗ける!?」
「天才か」
「うむ、その時は恨みっこなしだ」
「もちろんだ」「ああ!!」
謎の団結力が張郃隊に生まれていた。