ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ 作:宵星アキ
シャニーは静寂から逃れるように届いた手紙を読んでいた。
感謝がつづられ、抉れた心が癒されていく……その時だった。
手に触れた手紙に記された紋章は────
────何をすればいいんだろう。一体あたしは、明日から何処へ行けば……
頭の中にそればかりが浮かんでは、何も答えるものもなく繰り返される。
突然訪れた登城禁止令。騎士としての活動を奪われて急に村娘に戻っても、ぽっかり空いた心も時間も埋める術が思い浮かばなかった。
独房同然の実家に向けて呆然と歩く廊下に響き渡る声。
「シャニー。ちょっと待つッス!」
何やら駆けてくる声がどんどん大きくなってくる。惰性に任せて歩き続けていたら肩を掴まれて止められた。息を弾ませながら回り込んできた顔は見上げないと視線が合わなくて、これだけで相手がミリアだと分かる。
「今日の夕飯、一緒に喰いに行こうッス」
「えっ、嬉しい! うんうん、行こうよ。家に居ても寂しいしさ」
「そうこなくっちゃ」
どうせ家に居たって一人だ。出来る限り一人にはなりたくなかった。静寂に身を置いていると、どうしてもロクでも無い事を考えてしまう。ダメだと分かっていても、それでも。
元からエデッサのカフェで一日過ごそうと考えていたから断る理由なんて無い。二つ返事で了解を伝えたらミリアも嬉しそうに親指を立ててきた。
「ルシャナが行き帰りは乗せてくから手ぶらで待ってろって言ってたッス」
「げげっ。ル、ルシャナが……?!」
ところが、彼女が続けて伝えてきた話にはぞわっと髪が逆立った。
酒場へ行くのに、ルシャナの後ろに乗っていくなんて考えただけでも寒気がする。べろべろの酔っ払いが操る天馬なんて想像もしたくない。
「え、ええと……さ。ミリア乗せてってくんない?」
「言いたい事は分かるッスよ。了解ッス」
半分命乞いでミリアに手を合わせる。以前の温泉旅行でルシャナのうわばみ振りは誰もが思い知ったからか、ミリアは深刻な顔をしながら頷いてくれた。
待ち合わせの場所と時間を決め、手を振って部隊へ戻って行くミリアに無意識のうちに感謝が漏れた。
「みんな……ありがと」
随分と仲間に気を遣わせてしまった気がする。仲間は信じてくれたし、彼らの気持ちもよく分かった。
ただ……何を信じて良いのか分からなくなっていた。あの決断は────間違ってはいなかったのだろうか。
民を守りたい気持ちに偽りは無かったし、イリアの掟には納得できない。頑張ったと少しでもロイに言えるように努めたつもりだ。
だけど、掟を是として外からは非難と問責ばかりが降り注ぎ、多くの人生を変えてしまったことも事実。
誰も取り残さない────ロイの想いに憧れた身としては、正しかったとは言えない。自身の正義を曲げなければイリアの掟を貫けないのでは、今後も同じ事が起きる。
(あたし……間違っているのかな……)
結局、ミリアの迎えが来るまで過ごしたカフェでもそればかりが頭を巡っていた。
◆◆◆
同日 PM 6: 42────
吹雪が晴れ、珍しく月が明るいエデッサの冬夜。ミリアの天馬に乗せてもらって通い慣れたバーに入ったシャニーは、いつも通りの場所を陣取るルシャナとレンを見つけて手を振った。それに気づいたレンが小さく手を振り返してきて、ルシャナもジョッキを傾けながら手を挙げている。
「お、主役が来たね」
隣に座るとさっそくルシャナが背中をバンバン叩いて来た。この絡み方、嫌な予感がする。テーブルの上には既に空のジョッキが二つ。どうやら乾杯の練習は十分仕上がっているらしい。
シャニーはポーチから酔い止めを取り出すと一気に二瓶空けて飲み干した。
「今日は最後までルシャナに付き合うかな」
今日はここで時間が許す限り呑んで、そのまま酔い潰れて寝てしまう作戦だった。
家に帰って静かな時間を過ごしていたら、妙な事を考えてしまうに決まっている。帯剣も禁止されていて気を紛らわす手段も無いから、寝てしまうに限る。
「おっ、いいね。嫌な事は呑んで忘れよう! じゃあ私もウィスキーにすっかな」
それを聞いたルシャナが嬉しそうに指を弾いて席を立った。背中を目で追っていたら、マスターの所からボトルと湯の入ったポットを引っ張って来るのが見える。まるで自宅かというくらい慣れた動きだ。
彼女にお湯割りを作ってもらい、一口したらさっそく温まった心から愚痴が飛び出した。
「はあー、明日から何するかなぁ」
今日は十二月の七日だ。年末までまだ三週間以上もある。
聖天騎士団との契約が終わったら、年末まで企画提案や村への訪問とスケジュールはびっしりだった。それがいきなり何も無くなってしまうとさすがに途方に暮れる。おまけに、横からは説教みたいな事まで言われるので頭がテーブルに吸い付いた。
「ちょうどいい機会だし、家の掃除でもすれば?」
「ただでさえヘコんでる時に、気が滅入るような事させる?」
シャニーの家がごちゃついているのは、家が隣だからルシャナも良く知っていた。
服を脱ぎ散らかしているなど序の口。納戸を空ければ雪崩が起きるし、客間は物置状態。下着でふらついている事もザラだ。いつか失敗しないかヒヤヒヤする。
それを言っても、シャニーは顎をテーブルに乗せたままぶうっと頬を膨らせて気だるそうにするだけ。
「天馬には乗って良いんだし、村の様子でも見に行くかなぁ」
ばっと身を起こしたシャニーは蒸留酒を一口すると、ぼんやりと独り言のように天井へ呟く。
やっぱり家の中でじっとしている何て性に合わない。一個人としてイリアの人たちの顔を見に行くくらいバチは当たらないだろう……それを言うのを待っていたかのようにルシャナに止められた。
「ああ、それ団長から事付け預かってるよ。
「ぐっ……。さすがお姉ちゃん。読まれてたかぁ……トホホ」
何故分かったのかと悔しがり、肩を落として泣き言を漏らす。
その姿に仲間達は苦笑いしていた。じっとしていられないシャニーが思いつく事なんて自分達でも予想がつく。それをティトが勘付かない訳が無い。
それでも切替も早かった。シャニーは鞄からスケジュール帳を取り出すと、十二月を開いてルシャナに指さした。
「じゃあルシャナ、これ訪問予定だった場所と確認ポイント。お願いできないかな」
「こんなに?」
企画提案する場────部隊長会議は週に二回あるから、一日だって無駄には出来ない。既に何も出来ずに一週間終わってしまっているのだ。自分が動けない間は仲間に託すしかない。
シャニーの手帳の中身を書き写しながら、ルシャナは一度眉間にしわを寄せると鞄から地図を引っ張り出した。
「ってか、知らない場所もあるけど、いつ行ったの?」
「休みの日かな。暇な時とか散歩ついでに」
じゃあその時間で家を片付けろ────そんな眼差しが飛んでくるが気づかないフリを決め込み、シャニーは地図を指差す。天馬であちこち飛び回るのはもはや趣味だ。大好きな散歩の延長線に仕事があるようなもの。
「ごめんね、ルシャナ。イドゥヴァさんにも気をつけてね」
心配なのは国力向上活動の事だけではない。十二月の間は部隊長代理としてルシャナが部隊長会議に出なければいけないから、イドゥヴァにどんな事を言われるか心配だった。
彼女の性格だから上手くやるだろうが、カチンと来たら瞬間的に沸騰するからケンカをしないか不安だ。
ところが、彼女はウィスキーを豪快に飲みながら手を振って来る。
「あんたが寝てる時に一回出たけど、聞いてた程じゃなかったよ。嫌味は言われたけど」
何ともケロッとした答えが返ってきた。彼女にとっては、
でも、余計に気になった。同じ十八部隊でも、ルシャナと自分で何故そこまで態度が違うのか。確かに団長選出戦でのやり取りで心証を悪くしているかもしれないが、こうも露骨だと不安よりだんだん苛立ちの方が強くなってくる。
「それどころか、皆心配してたよ。キリネさんとかさ。第五の
それを優しく解いてくれたのはルシャナが続けてくれた言葉だった。イドゥヴァ派、ティト派に関係なく、殆どの人は優しくて声を掛けてくれる。彼らにも間接的に迷惑をかけたと思うと複雑だ。
(こんな事なら……あの時────)
そう思う事がまた一つ増えてしまった。一つ口にしたウィスキーをテーブルに置き、揺れる湖面をじっと見つめる。
団長選出戦でイドゥヴァに投じていたら……。開拓地で少年に振り下ろされた剣を弾くだけで済ませていたら……。いや、もっともっと前。ロイに誘われた時、あのままフェレに行っていたら────ぶんぶん首を振った。
あの頃は天馬騎士になりたかったし、ディークからもっと剣を教わりたかったし……とにかく夢を追いかけるのに一生懸命だった。
今なら、自分の心に気づいた今なら。……傭兵の道を選んだ今となっては────好きだからこそ、伝えられないものだってある。
前を向かなければ、何も見えない────己を律して顔を上げた時だ。ミリアと視線がぶつかって、彼女は思い出したようにポンと手を打って見せた。
「あ、シャニー。寝ちゃう前に渡しとくッス」
鞄からごっそりと取り出した大きな袋をぽんと寄越してきた。両手で受け取らないと滑り落ちてしまいそうな大きさだ。その割には軽く、何かごつごつしている。
「こんなに?! ありがとう。明日確認するよ」
中を覗き込んで驚嘆が漏れた。どっさりと入っていたのは手紙だ。
十八部隊は外回り営業をしないから、国外からの定型的な挨拶状などまず来ない。どれもそこらの店で売っている見慣れた封筒だから、イリア内の個人が出してきたものだろう。
それにしては量が多い。……三週間も空けていた事を改めて実感させられるし、ここから更に三週間空けるのだ。村の人たちに申し訳なくて思わず下唇を噛んでしまう。
「帰ってくるの待ってるッスよ。その間、ウチらしっかりやっておくッスから」
その気持ちを察してくれたのか、ミリアがウインクしてきた。言葉に詰まっていると横から小突かれ、振り向いたらなみなみ入ったグラスをルシャナに掴まされた。
「この前みたいに妙な事考えないでよ。皆気持ちは同じだったんだし、今回もあんたのおかげで生き残れたんだからさ」
「ありがと。うん、じゃあ改めて──乾杯」
ルシャナとグラスを交わして一気に飲み干す。
誓いを信じて最善を尽くした。結果が伴わず、多くの犠牲も出した。正しくは無かったかもしれない。だが、もうこれ以上を話しても騎士団内では理解もされないし、認めても貰えないだろう。
腹に煮える苛立ち。もどかしい思いを、ただ酒の灼熱で燃やして夜は更けていくのだった。
◆◆◆
「うぅ……寒っ?!」
目覚めたら十年以上見てきた天井が映った。
身震いしながら上体を起こすと、やはり見慣れた光景が広がっている。どうやって帰って来たか記憶は無いが、ちゃんと実家のベッドで寝ていた。
まわりをゆっくりと見渡す。昨日着ていた服があちこちに放り散らされている……見下ろしてウッとした。どおりで寒いわけだ。どうやら悪い癖が出てしまったらしい。
ベッドから起き上がり、ふらふらとそのままでシャワールームへ。
シャワーを浴びて戻ってくると、待っていたのはやはり静寂だった。
しばらくぶりに帰ってきた安心感と、深閑に押しつぶされそうな孤独感。ふらふら当てもなく歩き、リビングに着く。ソファの上に無造作に積まれた本を押し崩し、吸い込まれるように倒れこんだ。
「ふぅ。おうちってこんなに静かだったっけなぁ……」
いつもやりたい事が一杯で、あれこれ考えながら家事をしていたからか気にならなかったが、それら全てを奪われてしまうと居心地が悪い。
こうやって無の世界にいるとあれこれ浮かんできてしまう。あの流した血が一体何だったのか──思い出すだけで悔しくて、苦しくて、悲しくて……。
────あの……て……ば……か…………のに
「うっ?! ────何なんだよ……これ」
また聞こえてきた。何だか今までよりしっかり聞こえる気がする。
戦場ではっきり話しかけてきて以来、ずっと聞こえてくる声。制御出来ないのに使ってはいけない────その理由の一つがこれだと言うのか? これと後三週間も独りで付き合うと思うとうんざりだ。
「あーっ、ダメだダメだ!! あたしらしくないよ」
ばっと身を起こす。ポジティブが信条。こんなところでうじうじしていられない。生乾きの髪をヘアバンドでたくし上げ、鏡の前で頬を両手で引き締める。
でも、そんな無理をしなくても自然と顔が綻んだ。視界の端に映ったものに手を伸ばす。
「おっ、おっ。そうだそうだ。へへっ、どんな事が書いてあるのかなー」
みんなからもらった手紙の束。今日はこれを全部読むだけで一日終わってしまいそうなほどの数。きっと村の人たちが近況を伝えてくれているに違いない。
「せっかく時間あるんだし、久しぶりに
ふんふん鼻歌をうたいながら、慣れた手つきで軽い焼き菓子をどんどん拵える。バターと砂糖を奮発して作った良い香りを飾り付け、湯を沸かして熱い茶を淹れた。
時計を見たらもう午後。やりだすとついつい凝ってしまうが、その分なかなかの出来に仕上がった。プレートとグラスを重ねて作った、“なんちゃって”ケーキスタンドに飾り付けたアフタヌーンティーを満足げに見つめる。
本当なら仲間を誘ってティータイムにでもしたいが今は叶わない。独り占めの贅沢と割り切り、さっそく一つ口に放り込みながら手紙の束の一番上を手に取る。
「え! ホント?! 良かったねー!」
まるで目の前に村人がいるかのようだ。
部隊長会議で提案した、とある村の悩み事への対策。村に設置されたものへの感謝状が村長から届いていた。
解けていく心。次も、その次も。北のあの村、遠かった西のあの村からも便りが届いている。
朝から晩まで空を駆け抜けて集めたものが結果となって返ってきて、目を閉じるとそのままソファに頭を任せて天を仰ぐ。
「やっぱり……あたし達、ちゃんと頑張ってたんだよね。ありがとう。勇気出るよ」
解けた心が頬を伝っていく。誰にも認められていないなんて思っていたことが恥ずかしい。
熱い茶を一口すすって気持ちを落ち着かせようとしても、温まった心が更に動き出すばかり。遠くに居ても傍にある想いたちを両手で抱きしめる。
どれだけそうしていただろう。ようやくに涙を拭き、手紙たちを大切に畳んだ。菓子を口に放り込みながら手を伸ばして次を掴む────
「────ッ!」
上質な紙の感触────焦って掴んだ手紙が宙を滑る。何度もお手玉しながらようやく捕まえたそれの表を覗き込だ。間違いない。紋章はフェレ侯爵家のもの。
「ロイ様からだ! えっ、何通あるの、これ?!」
次も、その次も、さらに次もだ。全部で十通以上も。二日に一通のペースで送られてきている。
最後の手紙が届いたのは昨日。どうやらこの三週間、ロイは何もなく元気でいるらしい。それだけでほっとした。
「ロイ様ったら、傭兵に出るって手紙に書いておいたのに。やっぱり優しい人だなぁ」
手紙に目を落とすとすぐに目元が綻び、口元が緩む。
遥か遠くにお互い居るのに、手紙を読んでいるとまるで隣に居て、記された光景を一緒に眺めているような錯覚に陥るから不思議だ。
「ロイ様……。いいの? そんな事まで書いちゃって。あたしみたいな……傭兵にさ────…………」
日常も、新しくリキアで始まった政治的な試みも、その裏で上手くいかずに悔しくて漏らす弱音も。どの手紙にもたくさんのロイが書いてあって、読んでいるとふと涙が出てくる。溢れる。何故か止まらない。
あの時もそうだった。ヴァルプルギスの前に沈み、最期を覚悟した時、とっさに浮かんだ顔。
────ロイ様……ごめん、あたしは……もう……
「あの時……何を謝ったんだろ。あたし……」
死ぬなという約束はもちろんだ。だけど、それだけじゃない。
その時だった。ふいに頭に響く声。
────あのまま寝てればよかったのに────
ついにはっきりと聞こえてしまった。あの声が。
ぎょっとしてあたりを見渡す。もちろん誰もいるわけもなく、胸に手を押し当ててみる。もう何も聞こえない。
「な、なに……今の……」
気づいたら体が震えて、ロイからの手紙をぎゅっと握りしめていた。思い出した……あの時、あの時ロイを呼んだのは……。
「ロイ様……逢いたい。逢いたいよ……」
手紙に頬ずりしてすすり泣く。寂しくて、恐ろしくて、そして恋しくて。もう名を呼ばすにはいられなかった。
一度は奮起して会いに行こうとしたが姉から許可が出ず、二度と会えなくなるかもしれない極限を経験した今、もうこれ以上辛抱なんてできない。
気づいたら筆を執り手紙を書いていた。
────会いたい。十二月のうちのどこかで会いたい
今までずっと誘ってくれていた彼にちゃんとした答えを出してこなかった手前、自分の都合でこんなことを書いたら嫌われるかもしれない。
だけどもう、筆は止まらず、夜にミリアの家まで行って朝一での配達をお願いしたのだった。
◆◆◆
──── 12月 10日 AM 8: 50
二日後。シャニーは朝からぼうっとソファの上で天井を見上げていた。洗濯カゴの中で服が干されるのを待ちきれずに雫を垂らし始めているが、意識はまるで遠い所にある。
便りが来ない────あの時は勢いで手紙を書いてしまったが、時間が経てば経つほど不安が膨らんでくる。あれこれ理由を思いついては、勝手都合のいい解釈ばかりをする自分に嫌気が差す。
「はぁぁ……。軽率だったかなぁ」
今までのペースなら今日手紙が届くはずだが、もし届かなかったら……。
相手は貴族。自分は騎士とは言え平民でありただの傭兵。彼が良くしてくれるからと甘えすぎたかもしれない。
「あたしみたいな傭兵が時間作ってくれなんて。……ムシが好すぎるよね」
手紙なら気兼ねなくやりとり出来た。だが……死ぬ思いをしてようやく確信した本当の気持ち。それを知ってしまうと今更ながら恐ろしくなった。
憧れの人だからこそ怖くて言えないし、支えになりたいと想うからこそ……傍に居れない立場。なのになんで、会いたいなんて書いてしまったのか……。
「だぁっ────! 何かしよっ、何か!」
いつまでもここでじっとしていても仕方ない。家事を進めようと立ち上がった時だ。
聞き間違えるはずがない。外から届いたこれは────天馬の羽音。洗濯カゴを弾き飛ばし、旋風の如く玄関を突き抜けた。
「シャニー、おはようッス! 手紙来たッスよ!」
聞き慣れた元気な声がおはようを伝えてくるまで時間はかからなかった。朝一番で訪れたミリアの手には手紙が握られて、天馬から飛び降りるなり手渡してきた。
「ロイ様からだ!」
待ち焦がれた紋章。一抹の不安も、興奮が打ち勝った。その場で開封して中を見る。
────いつでも歓迎するよ。次の週末とかどう? 準備難しいかな?
「良かったッスね!」
「やったああ!! ……って!」
二人で思わずガッツポーズをしてから、ミリアが覗き込んでいたことに気づいて赤面する。
次の週末……今日は水曜日。本当なら今から飛んでいきたいが関所の通行許可証の発行を考えれば土曜日が最速だ。ミリアを家に連れ込み、ロイへの返事を急いで書くとそれを彼女に持たせた。
「ミリア、これ、すぐ出してもらえる?」
「ガッテンッス! 今日の最重要任務ッスね、コレは!」
噂には聞いていたが、リーダーにイイ人がいると分かってミリアはぐっと親指を立てた。こんな機会しか行けるチャンスはない。
「シャニー、ついに行くんスね。通行の事前申請、ウチが出しとくッスよ」
天馬騎士としての通行証は城に行かなくてはもらえない。登城が禁止されているシャニーでは取得出来ない事はミリアも分かっていた。
彼女は城にとんぼ返りすると、午前の内に許可書を取ってシャニーに手渡したのだった。