ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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訪問先でシャニーは泣いていました。でも、今日はとっても嬉しいから。
騎士団内ではなかなか認められなくても、村人たちが掛けてくれた言葉が新たな力を与えてくれます。
絶対に期待に応えなきゃ────そう誓うシャニーの心に燃え上がる決意の焔。

一方で、シャニーはアルマの母に再会します。道すがら彼女からアルマについて妙な話を聞く事に。
騎士団へ戻ったシャニーはその事をアルマに問いますが……。


第8話 絆繋ぐ(後編)

 レウスに降り立ち颯爽と天馬から降りてきた十八部隊。彼女たちは流れるような動きでてきぱきと活動の準備を始めだした。

 部隊の中に張り付いていた黒く濁ったものを吐き出して、やりたい事と出来る事をまた一つ鮮明とした彼女達は雪道に強い軌跡を残していく。

 

(絶対、やってやろうよ!)

 

 レンと目線があったシャニーはウインクしながら彼女と気合を入れた。今この瞬間を戦い抜こうと不屈の闘志を燃やして。

 自分たちの帰る場所、大事な家族を守るために最後まで諦めたくない。まだ何も決まったわけでは無いはず。決めるのは、今の自分だ。描き続けた軌跡が未来を決めるなら、振るい続けるしかない。目の前の出来る事を果たし、やりたい事と出来る事の間にある壁を、手にした(誓い)でどう崩していくか……諦めずに考えるしかない。

 

「第十八部隊、作戦を開始する! よぉし、みんな、いっくよー!」

「イエス、リーダー!」

 

 リーダーから吹く前向きの気勢に仲間たちもはきと頷くと、それぞれが持ち場へと散っていく。結果を残して、必ず守って見せると瞳に決意を宿して。

 

「こんにちはー! 天馬騎士団のシャニーでーす」

 

 一か月も村人に声を掛けないなんて、十八部隊に配属された四月から考えても初めての事。どこか緊張するが、それ以上のわくわくする気持ちが明るい声に乗ってあたりに響く。

 いつも心を温めてきてくれた声。すぐ住人の女性は家から飛び出し、久々に現れた陽の風に思わず目元を綻ばせた。

 

「あっ、シャニーちゃんじゃない!」

 

 歓迎してくれるその顔を見るだけで、シャニーはなぜか自分が救われた気持ちになっていた。自分を待ってくれている人がいる、それを実感できた気がして喜びがわっと心に広がっていく。大変でも、だからこの仕事が好きだった。

 

「良かった、罰解けたんだね!」

 

 ところが、女性がシャニーの手を取りながら続けて口にした言葉に、彼女は目が飛び出しそうになった。

 

「へっ?! どっ、どうしておばさんがそれを?!」

 

 ここはイリアの最西端と言っても過言ではない場所だ。カルラエからは遥か遠く、そんな場所に住んでいるこの女性が、なぜ自分が受けた罰の事を知っているのだろうか。

 最初は驚きばかりだったが、ジンジンして顔が赤くなっているのが自分でも分かる。人の噂というものはどうにも恐ろしい。イリア中に自分の失態が広がっていると思うと頭がパンクして卒倒してしまいそうだ。

 

「伝わってくるわよ。あなた達十八部隊は、私たちにとっては希望なのよ」

 

 だけど、直後に女性が口にしてくれた言葉は、そんな顔から火が出る思いを吹き飛ばしていった。

 何度も心の中で復唱してみる。あなたたちは、私たちの希望──そう言って祈ってくれる人たちがいる。笑顔で帰りを待ってくれている人がいる。

 

(そんな風に……思ってもらえていたなんてなぁ……。夢みたい)

 

 希望──それはシャニーにとって至上の言葉だった。辛いこともたくさんあるけれど、それを全て吹き飛ばして余りあるほど本当にありがたい宝物をもらった気がする。

 心から湧き上がる気持ちにシャニーはいつの間にか目頭を拭っていた。

 

「へへっ……。ありがとう、嬉しい……」

 

 極寒に帰ってきた自分を温かく迎えてくれた故郷の人たち。みんな大好きな人たちだ。

 彼らも最初は、天馬騎士団と聞いても見向きもしてくれなかった。動乱で敵国ベルンについた騎士たちを、彼らは故郷の同胞と決して迎えてくれなかった。

 半年以上足しげく通って声を聞き、何とか力になろうと奔走して。悔しさと虚しさから始まった仕事が今ようやく認められた気がする。

 おかえり──嬉しさに紅涙を絞る彼女を、女性はハグして迎え入れる。

 

「ちょっとみんなを呼んでくるわ。ずっと顔を見せてくれなくて心配してたんだから」

 

 走り去っていく女性の後姿を、シャニーは涙を堪えて見送る。

 守りたい、救ってあげたい。そう思って空を駆けてきたのに、救われているのは自分だった。

 

(えへへ……。なんであんな、みんな温かいんだろうなぁ)

 

 涙を拭っているとますます膨らんでくる気持ち。何があっても、大好きなあの人たちを守ってあげたい。脳裏に浮かぶイドゥヴァの顔にも立ち向かう勇気が湧いてくるのを感じていた。

 

 

◆◆

 ルシャナ達も呼んで待っていると、続々と村人たちが集まって来た。

 最初は数人だけかと思っていたが、村人が村人を呼んで賑やかになり、最後には村長まで出てきた。

 

「鉄路計画を実行に移してもらって、本当に感謝しているよ。本当にありがとう」

 

 村長から掛けられた労いの言葉に、はにかみながらも嬉しくて四人はお互いの顔を見つめあう。やってきてよかった、その気持ちは皆同じ。今まで個人同士で感謝や労いの言葉をもらう事はあっても、こんな規模で集まって長から言葉をもらうのは初めてだ。おまけに、この村長からだなんて。

 ──貴様ら売国奴に用はない! とっとと帰れ!! 

 初見で鍬を振り上げて怒鳴られた事を、シャニーは今でもはっきり覚えていた。この人は、ベルンに付いた天馬騎士団を目の敵にしていたのだ。

 歩み寄ってきた村長に両手をしっかりと握られた。彼の表情はとても柔らかい。

 

「あたし達も嬉しいです。積み上げてきた事がようやく形になって」

 

 鉄路計画だけではない。七月あたりまでは、もう何を言っても天馬騎士団に語る事など無いくらいの剣幕だった。その村長が、こんな優しい顔をしてくれることが何より心にわっと希望を湧きあがらせてくれる。

 希薄となった管轄地域の住民との関係を修復することに徹してきたこの半年間。少しずつ、戦後のイリアに笑顔が戻っていることが何より嬉しい。

 

「良かったっスね! やっぱり十八部隊は守らないとダメッスよ!」

 

 こんな事を出来るのは十八部隊を置いて他にない自信はある。嬉しそうに拳を突き上げるミリアに誰もが頷いていた。

 

(絶対に……──負けない!)

 

 ようやく、ようやく形になって来たのだ。それを今までの企画と同じように取り上げられて堪るか。シャニーの瞳にも隼のような厳しさが浮かぶ。

 

「何かあったのか?」

 

 ミリアのオーバーなリアクションは村長の気を引くには十分で、彼はすぐに声をかけてきた。

 

「い、いえ、なんでも」

 

 慌ててシャニーは取り繕った。決定事項でもなければ、まだそうした動きがあると聞いたわけでもない。あくまで、現状を考えたら浮かぶ最悪の道というだけ。

 それを村人に伝えても動揺を広げるだけだと彼女は思ったのだが、横にいたレンがギュっと手を握って来た。

 ────戦おうよ

 今まで知らなかった部隊を想う彼女の気持ちにあっと口を開けて驚いていると、レンは一歩前に出ていく。

 

「もしかしたら……三月でなくなっちゃうかもしれないんです」

 

 どよめきが広がり、それは次第に騎士団への怒気を含んだものが増えていく。

 自分たちを大事に想ってくれている人たちがこんなにもいる。それだけでも、もう勇気を行動に変えるには十分な力だった。

 

「お願いします。助けてください。私たちの十八部隊……守りたいんです」

 

 何度も、何度も頭を下げて銀髪を揺らすレンの姿を、仲間たちは呆然と見つめていた。こんなに感情を顕にして、身振り手振りするレンは初めて見た。

 救う側の騎士が守るべき村人たちに頭を下げて助けてくれだなんて、弱さを見せて良いものだろうか。シャニーは瞳を閉じて考えてみた。

 

(やりたいのに出来ない事……それを果たすのに、今あたし達が出来る事ってなんだろ……)

 

 民の傍にあれ──自分たちの誓いは彼らと共に戦い続けること。決して一方通行な関係を目指したものではなかったはずだ。そっと瞳を開くと、彼女もレンの横に並んだ。

 

「あたしからもお願いします! 十八部隊はあたし達の帰る場所、生きる意味なんです。力を貸してください!」

 

 守る側、守られる側、それは常に一緒でなくてもいい。

 希望と言って頼ってくれるのに、弱いところを見せたら彼らは不安になるかもしれない。だけど、イリアを変えていくには彼らにも戦って貰わなければ成し遂げられない。

 光を、あるべきを求めて歩くのは騎士だけではないはず。深く頭を下げて動かないリーダーの後姿に、仲間たちが続かないわけはなかった。

 

「分かったよ」

 

 村長はシャニーに歩み寄り、彼女の手を取ると頭をあげさせた。

 

「もしそんなことになったら我々も嘆願書を出そう。他の村にも連絡してみる」

「ありがとうございます……」

 

 嬉しくて、嬉しくて。入団からそろそろ一年。人生の中で一番泣いた一年だった。

 仲間の前では泣かないと決めて、士官服に着替えてからますます涙を見せられなくなっていたが、嬉しくて泣いたのは今日が初めてな気さえする。

 敵が多い騎士団の中にあって、こうして外から自分たちを見つめ護ってくれようとする人たちの存在は心を温かく包んでくれる。

 

「シャニーちゃん、ほら顔あげて。みんなが頑張ってるから、村長もこう言ってるんだよ。これからも頑張って」

 

 聞こえてきた声にはっとして振り向く。視界に見えたのは今日一番に会いたかった人の顔だ。

 疲れた顔に浮かぶ笑顔を忘れるはずも無い。アルマのお母さんだ。まっすぐな言葉で褒めてくれる彼女の言葉は、両親をあまり知らないシャニーにとっては母に励ましてもらえたような気さえして真っ赤な瞳が綻んでいく。

 

「……はい!」

 

 いつまでも泣いてはいられない。目頭を押さえて崩れる声を整えると力強く答えた。

 仲間たちを振り返れば、誰もがいい顔をしている。彼女たちとなら戦える。もう一度、胸に咲いた言葉を唱えた。

 ────あなた達は、私たちの希望

 

(絶対に期待に応えなきゃ。みんな信じてくれてるんだ。みんなの希望であり続けなけるんだ。十八部隊は!)

 

 

 

◆◆

「アルマのお母さん、お元気でしたか?」

 

 皆自宅へと戻っていき、シャニーも足が悪いアルマの母を連れて彼女の家まで送り届けていく。

 

「ええ。今日はあの子は一緒ではないの?」

 

 やっぱり聞かれた。こうなることは分かっていたからあれだけ渋っても誘ったのに。

 どうやって言ったら母を傷つけないであげられるだろう。色々考えを巡らすが、やはり気の利いた言葉が思い浮かばない。

 

「ごめんなさい。誘ったんだけど……」

「そう……。分かっているわ」

 

 寂しそうな顔が俯き、ぽつりと漏らした言葉は自分を言い聞かせるように弱い。

 唇を噛み、シャニーも言葉を何とか絞り出そうといつの間にか俯いていた。この人を悲しませたくはない。けど、アルマの気持ちも伝えてあげたい。二人の気持ちを慮っていると、先にアルマの母のほうが口を開いた。

 

「誓いを果たすまでは帰らないって言われたんでしょ? あの子は頑固だから。でも、いい子なのよ」

 

 娘の事で友達を困らせるわけにはいかなかった。あのつっけんどんな娘が心を開いた相手なのだ。村でシャニーが見せてきた朗らかな風を見ても、優しく娘の手を取ったことは優に想像できる。

 

「うん。アルマ、すごいお母さんのこと心配してたんだ。だから誘ったのに」

「ふふ、あの子らしいわ」

 

 彼女の言葉全てにうんうんと頷くシャニーはアルマが羨ましかった。こんなに優しい母が無事を祈ってくれているのだから。自分の母も今頃天国から見守ってくれているのだろうか。不意に恋しくなる。

 

「あの子は元気?」

「うん。それを伝えるように言われて来たの。昨日も二人で稽古してたんだ」

 

 部隊の仲間はアルマのことを異様に警戒しているが、シャニーにとっては彼女たちと同じくらいアルマも大事な仲間だった。同期で、自分にはない力強さと先まで見据える眼があって。羨望さえする好敵手と剣を交えることは少なくない。

 彼女は母へアルマの様子を少しでも伝えようと稽古の内容を伝え始めた。剣では相手の槍を弾いたこと、手槍の精度ではまるで相手にならず地団太を踏んだこと、そして稽古のあと一緒に食事に行って笑いあったこと……。

 

「あの子にも友達ができたのね」

 

 嬉しそうにうなずく母の微笑みは柔らかかった。

 

「うちのアルマをよろしくね」

「もちろん! アルマにはスゴイなっていつも驚かされてるよ」

 

 最初はどんな奴かと警戒していた。無防備な自分へ平気で武器を突き向けてきたり、仲間を引き連れて突然部隊を出て行ってしまったり。

 だけど、騎士団の先輩たちをあっという間に追い抜き、第一部隊まで駆けあがるライバルの行動力と実力は、羨ましくて眩しく見えた時期もあった。

 今でもそうだ。あの力強さには尊敬の念すら覚える。だからこそ、負けたくなかった。互いに騎士として誓い、そしてリスペクトし合って来た、すべてはイリアの為に──この気持ちだけでは絶対に。

 

「お友達なら少し気にかけてあげて欲しいの。あの子は時々目的のために手段を択ばないところがあるから」

 

 ふいのお願いにシャニーはきょとんとして母を見下ろした。

 時々というか、いつもの気がする。騎士団の中では本来以上に肩ひじを張っているということか。

 確かに、騎士団を出て街で食事をした時は表情が柔らかかった気もする。自分が鬼の仮面を被れるのは、部隊長会議で企画を通す時くらいが精いっぱい。それをいつもつけていると思うと……息抜きさせてやれる時間になってやればいいのだろうか。

 そう考えを巡らせていると、母から思わぬ言葉が飛び出した。

 

「この前だって。何かの決意か分からないけど、髪をあんな色に染めちゃって」

「え、アルマって……(髪を……染める? いつ??)」

 

 

 以前この村にアルマを連れてきた時を思い出してみるが、あの時だって普段通り赤い髪だったはずで、特別染めていたようには見えなかった。

 もう一度、指を口元に当てて空を見上げながら記憶を絞ってみるが、やはりこの白の村に映える赤を間違えるはずがない。

 

「アルマって元からあの(赤髪)じゃなかったんですか?」

 

 入団した時からよく覚えている。寒色系の多い髪質のイリア人の中でも明るい青髪の自分と、自分と同じようにショートヘアにまとめながら、その青たちを喰ってしまおうかと言う程に際立つ赤髪の彼女。二人は十八部隊のどこにいるかすぐ分かるくらい目立ってきた。その色しか見た事など無かった。燃えるような赫こそがアルマ、そう言っても言い過ぎではないくらいに。

 

「ええ。私と同じ黒だったのに」

 

 母から返ってきた言葉はにわかには信じられないが、彼女の髪は加齢で疲れているもののはっきりとした黒だ。

 

「ベルンから帰ってきたらあの色になってて……何があったのかしら」

 

 シャニーも同じことを考えていた。別に染めてああなったとは思えないような鮮やかな色。

 

(アルマ……ベルンで一体何があったんだろう。やっぱり、すっごい苦労したのかな……)

 

 その後、いつも通りに村での聞き込みをし、アルマの母に代わって水汲みに何度も往復する間、ずっとそのことばかりを考えていた。

 

 

 

◆◆◆

 翌日、シャニーは食堂に向かう道中で、いつも以上にきょろきょろとあたりを見渡していた。

 いつもなら一緒に突撃していく仲。今日も人気のおかずの取り合いに駆け出そうとしていたミリアは、乗ってこないリーダーに気づいて急ブレーキをかけた。

 

「どうしたんスか?」

「ええと……あっ、ごめん! 先行ってて!」

 

 突然に食堂とは正反対の方向へ走って行ってしまった。

 リーダーが朝食を放り出して飛んで行ってしまうなんて珍しい。人の流れを縫ってもうあんな遠いところにいる鮮やかな青髪を目で追っていき、その先を見つけてミリアの口元がげっと歪んだ。

 

「アルマ、お母さんやっぱり心配してたよ」

 

 第一部隊は朝から外征の予定なのか、アルマはすでに出撃の準備を始めている。

 上がった息を整えないまま声を掛けると、アルマは静かに振り向いて口元に笑みを作ると手を挙げてきた。

 これが仮面を被った顔だと思うとその裏に何を隠しているのか気になるが、今までその心を知れたためしはない。彼女から口にしてくれた時以外は。

 

「そうか、元気は伝えてくれたんだろ?」

「もちろん! お母さん、喜んでた」

 

 その短い言葉だけ聞ければアルマには十分だったのだが、シャニーは母の事細かな表情や言葉をいちいち伝えてくれる。

 彼女は自身の口元が次第に柔らかくなってしまうのが分かったが、今は気持ちに任せる事にした。それが、親友を一番に安心させるはずだ。

 

「お前に頼んで良かったよ」

 

 シャニーの手をしっかりと取って感謝を口にすると、それだけでアルマは歩き出した。

 

「その心配に応えるためにも、私は行くよ」

 

 士官服がサマになってきた気がするライバルの前で、未だ平隊員に甘んじる自分の情けない姿は、絶対に母には見せられない。今出来る事を、自分に出来る精いっぱいで。それが母を支えることになる。

 

「アルマ!」

 

 ふるさとの母を想いながら戦地に旅立つ赤い背中をシャニーは引き留めた。

 

「お母さんにも言われた。そんなに何を思い詰めて先に行こうとしてるの?」

 

 誰にも頼らず、休むこともせず、涙を見せた事だって一度も無い。

 自分以上にただひたすら前へ歩いていく親友の事が、彼女の母の言葉を聞いているうちに心配になって来た。

 蹴落とされた先輩の中には良く思っていない者も多いと聞くし、何より彼女は謎の組織から命を狙われている。

 一体何が彼女をそこまで駆り立てるのか知りたかった。ライバルとして認めあい、誓いをリスペクトし、背中を任せられる親友の決意を。

 一度は立ち止まったアルマは再び歩き出し、そしてまた止まった。

 

「いずれ話すさ。お前なら……話しておきたい事でもあるし」

 

 止まった足は踵を返し、振り向いた顔には普段の厳しい眼光があった。

 赤の瞳に突き刺さされ、青の瞳がギンと固まる。逃げられないくらいの覇気を伴ってアルマが歩いてくる。

 目の前に再び立った彼女は、抱き込むように伸ばした手をしっかり両肩へ乗せてじっと見つめてきた。

 

「その為にも、お前も負けるなよ。絶対生きて、生きて。生きるんだ」

「う、うん……」

 

 要領を得ないまま返事だけすると、アルマにしっかりと手を握られ、再び踵を返した彼女は背を向けたまま手を上げて部屋を出ていった。

 

「生きろ……か。うん、生きるよ。あたしには誓いを果たして帰りたい場所があるもの」

 

 あれが親友の精一杯の優しさ。仮面をつけ身動きが取れない中で見せてくれたありったけの友情。そう受け止めて、シャニーも自分の道を歩み出した。

 道は違い、互いに背を向けていても必ず見つめる先は一緒──そう、友の無事を祈りながら。

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