ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

122 / 135
魔人との激闘から帰還したシャニーは医務室に向かいます。
傷薬を拝借してすぐ立ち去るつもりが、なかなかの大ごとに。
セチと共に戦う術を掴んで本人は満足のようですが、周りの想いは誰もが一緒でした。


第7話 春の夢

 崩れた足音が一歩、また一歩と少しずつ廊下を歩いていく。

 その足取りは、先程まで刻を跳び越えるように駆けていた風の妖精とは到底思えない。鞘を杖代わりに足を引きずる姿は、何か聞かずとも激戦を切り抜けてきたとはっきりと主張していた。

 遠目に見ても目に付くそれは、近づけばさらに異様に映る。服は破れてあちこちに擦り傷を残し、何より頭髪は真っ白。

 近づくことすら気が引けるような凄惨な姿が、ようやくに城のエントランスまで辿り着き、場の視線を一斉に浴びた。

 

「ちょっと、君大丈夫か?」

 

 シャニーは放っておいて欲しかったのだが無理な話か。早速声をかけられ肩を介抱された。

 見上げてみるとそこには見覚えのある顔。そうだ、いつも姉の傍で厳しく部下を指導している第一部隊の副将ソランだ。

 出撃の準備をする者、会議に向けて駆けていくもの、井戸端会議に花を咲かせるもの……エントランスにはたくさんの騎士や事務方が行き来しており、誰もが白と枯れた妖精の姿を一瞥しては目をむいて去っていく。

 恥ずかしくて恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。

 

「へーきです、へーき……ははは、ちょっと()()()()()ちゃって。えへへ……」

「何を頑張ったのかは聞かないとして……とても平気には見えないな」

 

 ソランは周りの騎士とは違い、特に表情を変える事も無い。背後に回って鎧を解いてくれ、そのまま肩を貸して歩き出した。

 厳しい人だと聞いていたからもっとあれこれ詰められるかと思ったが、頭やズタボロの服へチラチラ視線を注がれるだけだった。

 

「君のやんちゃぶりはよくお姉さんから聞いていたが……。優しいお姉さんで良かったな」

「うん。お姉ちゃんは大好き。あーあ……、これじゃまたしばらく顔出せないなぁ」

「まったく。医務室まで歩けるか?」

「大丈夫です、大丈夫……自分で行きますから……」

 

 自分の行動が引き起こしたことだ。最初は断ったが、医務室がある東棟の入口まで肩を貸してもらえることになった。

 支えてもらったら急に体の力が抜けてしまって尻餅。周りから突き刺さる視線が痛すぎる。こんな無様な姿を見られるなら、ちょっと無理してでも天馬で裏庭に回って直接窓から入れば良かった。

 

「無茶するなとは言わないが、お姉さんをあまり心配させないようにな」

「はぁい。ありがとうございまーす。あっ……。お姉ちゃん、元気してますか? 最近お喋り出来てなくて」

「やれやれ……。元気だよ。その状態に比べたらな」

 

 再び壁に身を預けながら体を引きずって城の奥を目指す。

 ソランは言いたくないのだと察してくれたのか、すぐ開放してくれたが、灰に沈む失った白を引きずる姿はやはり好奇の的か。井戸端会議中らしい騎士たちのヒソヒソが背中に突き刺さる。

 

「あの子、ちょっと前も髪が真っ白になってた子よね」

「相当イドゥヴァさんにやられてるみたいよ。早く折れておけばいいのに」

 

 どうやら皆は、執拗に個人攻撃を続けるイドゥヴァの餌食になって髪色が変わったと思っているみたいだ。

 今はそちらの方が都合はいい。セチには申し訳ないが、この力の事など誰に言っても話をややこしくするだけ。

 

「おいおい、大丈夫か!?」

「へーきですよ~。あはは……()()()()()なんで~」

「そうなのか……? いつもイリアの為に戦ってくれて感謝する」

 

 事務方のいる東棟に入ると好奇の視線はさらに激しくなり、何度も介抱の声に笑顔を向けて断りながら歩き続ける。……私闘だなんてとても言えない。

 ようやくに食堂の脇を経て、曲がり角を抜けると大きく息を吐きだした。ここまで来ればもうほとんど視線はない。

 自分の無様さを嫌というほど噛みしめて、次はこうはならぬと意気込んだシャニーは医務室のドアに体重をかける。

 

「ウッディ―、おーっす」

 

 今腹から絞り出せるありったけの声と、顔に浮かべられる精一杯の笑顔を湛えて幼馴染の名前を呼ぶ。

 研究に没頭する彼なら、元気な声で呼んでおけばまた遊びに来ただけだと思ってくれるだろうと考えたが、軍医が医務室に来る人間に視線を向けないはずもないか。

 

「何だシャニー久し……」

 

 今日はずっと静かだったこともあり、親しい声に心が弾んだウッディにとって、視界に入って来た幼馴染の変わり果てた姿は、時が凍り付いたかのようで一瞬動けなくなった。

 

「おっ、おい!? どうしたんだそれ!」

 

 試験管の割れる音。膝の上に置いていた分厚い医学書も、座っていた椅子も一切を放り出して立ち上がる。

 進路にあるもの全てを跳ね除けながら幼馴染の許まで駆けていき、崩れそうな肩の下に自身を突っ込んで静かに立たせてやった。

 髪の色を見て、またあの力を使ったのだとウッディにはすぐ分かったが、幼馴染の横顔は以前のように悲痛に沈んではおらず、弱々しくも笑いかけてきた。

 

「ちょっと……やんちゃしちゃってさ~。へへへ……傷薬もらおうかと」

 

 これだけボロボロになっているのに、何故そんなに笑っていられるのかウッディにはまるで理解できなかった。

 鎧をつけていたであろう部分はともかく、露出していた大腿はあちこち擦過傷だらけ。服はもちろん、下に仕込んでいた革鎧すら引き裂かれ、防御の薄い脇腹は肌が露出し純白を真っ赤に染めている。

 今もシャニーは傷薬を保管している戸棚に向かって歩き出そうとしていて、ウッディは無理やり進路を変えさせた。

 

「待て!」

「大丈夫だよ! ある場所分かってるから」

「そうじゃない! つか、数が合わない時があると思ってたがお前か! 勝手に持ってってたのは!」

「ギクっ。アハハ〜……ナ、ナンノコトカナ〜? と、とにかくケガしてんだし傷薬ちょうだい!」

「傷薬で済む状態じゃないだろ! 全く無茶して!」

 

 聞けばここまで歩いてきたと言うのでますます仰天してしまった。

 見た目は軽傷でも、どこが折れているかもしれないくらい凄惨な姿をしているというのに。おそらく今の彼女は、一度座ってしまったらしばらく起き上がれないに違いない。

 

「ごめんごめん、えへへへ……」

 

 今もへらへらと笑って誤魔化そうとする幼馴染の膝の裏に手を回すと抱き上げ、そのままベッドへと運ぶ。彼女は自分の体の華奢さ加減が分かっているのだろうか。

 

「まったく、一体何があったんだよ、こんなになるなんて」

 

 触診する限り骨折している様子はなく、ほっと胸を撫で下ろしたウッディは棚から治療薬とガーゼを持ってきた。

 市販品の傷薬ではない。ウッディが独自に配合した特製の治療薬だ。この分野を得意とする彼の治療薬は魔法を使わずとも傷跡が残らないと、騎士団の中でも評判がすこぶる高い。

 これも元々はこうして幼馴染が怪我をした時のためにと試行錯誤してきたものだが、いざ実際に機会が来てしまうと心が痛む。

 

「修行に決まってるじゃん、修行~。八英雄たる者、研鑽を怠らないようにしないとね!」

「八英雄ねえ。お前、騎士団入ってから負けっぱなしじゃないか。その称号も賞味期限切れじゃね?」

「グサッ……。あのね! 負けて無いの! 引き分けなの!」

「あー……。うん、イリアの為に体を張ってくれて──」

「もう言うなよぉ……」

 

 軍服を脱がせ黒のスポーツブラ一丁にさせると、ガーゼにしみ込ませた薬を患部に塗り付けていく。その都度、背中を弓のように反らして悶えながら歯を食いしばる姿は哀れ。

 ジロジロ見るなと物言いたげな視線を浴びせてくるあたり、見た目の具合通り軽傷で済んだらしいのは不幸中の幸いか。後でレンに魔法で治療してもらえば痕も残らないだろう。

 

「冗談抜きで無茶するなよ。修行ってレベルじゃないだろ。髪真っ白じゃないか」

「でもさ、バッチリ成果はあったし。あたしの剣、ようやく掴めそうだよ」

 

 何度絶体絶命に遭っても何かしらラッキーが起きて無事に済む。幸運の星そのもののようなヤツだ。

 とは言え、修行で毎回こんなことになってはこちらの気持ちが持たない。ウッディは呆れをため息にして浴びせてやった。

 

「何してきたんだよ」

「ソルバーンってオジサンとやりすぎちゃって。ほら、前に医務室に来たムキムキの人だよ」

 

 だが、シャニーがその男の名前を口にした途端に部屋の空気が一変する。

 

「ソルバーンだって?!」

 

 どこからか聞こえてきた動転する声。天井から降ってきた黒い影が駆け込むとシャニーの肩を乱暴に揺する。

 

「あんた、あの男と戦ってきたのか!」

 

 突然の出来事にシャニーは呆然としてなかなか返せない。ますます急かすようにレイサは肩を揺すってくる。その顔にはいつもの飄々とした表情はなく、こんな顔は初めて見るくらいに瞠目している。

 

「え、う、うん……」

「あれほど近づくなと言っただろ!!」

 

 吹き飛んでしまうかと思うくらいの怒声を浴びせられ、思わず目をぎゅっと閉じて顔を歪めた。

 止めようとしてくれたのだろうか。レイサに近づいたウッディも鬼気迫る双眸にとても声をかけられそうではない。

 その眼光を浴びせられているシャニーも、ベッドに座った状態で肩を押さえられていて逃げ場が無かった。

 

「でも、おかげでセチとちょっと仲良くなれたから。──ッ」

 

 鋭い音が響いて笑顔だったシャニーの視線が飛ぶ。

 ジリジリと熱くなる左頬に手を添えて正面に視界を戻したら瞳が揺れた。まるで鬼がいるのかと思うほど、怒りに満ちたレイサの目が串刺しにしてくる。目も、そして口元もわなわなとしているのがありあり伝わってくる。

 

「バカだねッ、あんたは!」

 

 今まで感じたこともない恐怖に駆られていると、それまで腹の中に留め、押さえ込んでいた想いがついに爆発するかのように炸裂した半狂乱の怒声。

 

「みんなを守る剣だろうが何だろうが、あんたが生きて無きゃ何にもならないだろ!」

 

 一年前の彼女ならともかく、徒な戦いは誓いに反すると剣を抜くのを嫌ってきたシャニーが、わざわざソルバーンなどと言う狂気の塊の許へ行った。理由など、レイサには聞かずとも分かっていた。

 迂闊だった、この子の性格ならやりかねないと分かっていたのに。レイサは怒鳴りながらも自身への深い後悔に今も拳を震わせていた。

 だがそれ以上に今は、目の前で青の瞳を震わせる乙女への怒りとも、安堵とも言えない感情をぶつけずにはいられない。

 

「あんたにもしもの事があったら、あんたを信じた私たちがどう思うか、考えたことないのか!」

 

 闇の世界に生きてきて、誰にも愛されない、誰も愛する資格などないと思っていた。その両手を取って、好きだと言ってくれた人が、業火に飲み込まれようとしているなど耐えられなかった。

 

 シャニーにグサリと突き刺さった手加減の無い怒声。それは半年前にティトからも釘を刺された言葉そのまま。

 レイサのこんなに感情を高ぶらせる姿も、ティトのあんなに悲し気な眼差しも見たことが無いものだった。分かっていた事とは言え、今更ながらに罪悪感がひしひしと湧きあがってくる。

 

「ごめんなさい。あたし、ついつい……」

「ついつい、じゃ済まないんだよ。死んだら取り返しつかないんだ」

 

 よく、あのソルバーンが生きて帰したものだ。この時ばかりはレイサも天に感謝するばかりだった。

 聞けばソルバーンと戦い、力負けした後の記憶が無いらしい。次に意識が戻ると、カルラエ城が視界に映るくらい近場の森に転がされていたと言う。

 あの男が慈悲を持ち合わせているわけがないから、おそらく喰い足りずに“熟成”させるつもりなのだろう。

 

 ふうっと安堵を吐き出してふらつくレイサの体をシャニーが支えていると、不意に声が聞こえてきた。

 

「ま、死にかけたけどね、キミ。またエーギル使い切るところだったじゃん」

「うわぁ?! い、いきなりびっくりするじゃん……」

「いい加減慣れて欲しいかな? それとも、毎回、発言よろしいでしょうか? とでも言わせる気なの?」

「い、いやぁ……。精霊様にそんな……。でも、また守ってくれたんだね」

 

 いきなりの声に仰天したが、またセチに命を守られていたことを知り俯いた。

 あの時、ソルバーンの挑発に乗ってエーギルを全開に放出し続けていたら、目の前で崩れる大事な人をもっと悲しませるところだったと思うと、未熟な自分が虚しくて唇をぎゅっと噛む。

 

「ありがとう、相棒」

 

 声をかけるとセチはツンとして意識の中へと消えていった。追いかけようとすると今度は外から呼ばれて意識を引き戻される。

 

「いいかいシャニー、もうあんたは新人じゃない。私たちのリーダーなんだ。前にも言ったろ、焦るなって」

 

 焦ってもろくな結果にならないことは、入団してからもうずっと味わってきた。ミリアを負傷させ、仲間との絆を傷つけ、11月の大事件……そしてこれだ。どれもこれも、大事な人たちを焦りが傷つけてきた。

 どうしたら一度抜いた青焔の刃を収められるか分からないままだが、これ以上大事な人たちを悲しませたくもない。自分が悪かった──シャニーは一旦剣の事は忘れることにした。

 

「みんな、守ってくれてありがとう。いつか必ず恩返しするから」

 

 その言い草にレイサは腰に手を当て、困ったように鼻からため息を漏らす。

 別に改めて恩返しなんてしてもらう必要はないと、この性分はきっと言っても分からないのだろう。その英気こそが、掲げる刃に百折不撓の炎を燃やす勇気をくれる朗らかな風。彼女の周りに皆が集まること、その時点で想いは十分に伝わり皆を包んでいるのだ。

 ピンと耳を弾いてやる。

 

「恩返しはいいけど、もうあんたは一人じゃないんだ。我侭一つで勝手に扱っていい身じゃないんだからね。あんたには帰りを待つ人がいる……忘れんじゃ無いよ」

 

 揺れるピアスを手に取り、シャニーはレイサに言われた意味を思い知って言葉に詰まった。

 つい、目の前に必死になってしまう悪癖。だが、目を瞑って静かにロイの顔を思い出すともう何も言えなかった。

 そっと目を開けて静かにレイサに頷くと、いつもの顔に戻り、彼女は頭を撫でてくれた。ようやく医務室に穏やかな時間が戻る。

 

「あ、そういえばウッディ、おめでとう。騎士団報見たよ」

 

 この場所に来たら真っ先に言おうと思っていたことを思い出して、シャニーはずっと蚊帳の外で様子を見守っていたウッディの手を取るように声をかけた。

 予てから彼が研究を続けてきた、イリア風邪の特効薬に関する研究成果が大々的に報じられていたのだ。

 高価になりがちな特効薬にあって、イリア民でも手が届くようにと研究を続けてきたウッディの不撓不屈は知っていたから、騎士団報を読んだ時は飛んで跳ねて喜んだものだ。

 

「ありがとう。もう少し効果を立証できれば、命を落とす人がぐっと減るはずだ」

 

 ウッディも照れくさそうにしながらも相好を崩している。

 なかなか結果が出ず、出資元から詰められ焦った時期もあるに違いない。民に寄り添い、彼らの声を守るために戦って来た者同士、彼の苦労はシャニーにとっても他人事では無く励まし合って来た。

 それでも彼は諦めることなく突き進んできて、ようやく長かった闇夜を抜け出した。

 黎明が広がる空の先には、きっと明るい未来が待つ。そう信じてきて良かった。

 

「シャニーが実験台になってあげればいいじゃないか、幼馴染の好で協力してやんなよ」

 

 後は立証実験を繰り返すだけだと聞くと、レイサが面白おかしく茶化してきた。突然最恐の病をパスされ、シャニーは首をぶんぶん振った。

 

「じょ、ジョーダンじゃない! イリア風邪なんかかかりたくないよ」

 

 あの風邪の恐ろしさは村でよく見てきた。嘔吐を繰り返して衰弱し、何日も続く高熱で意識を失って、そのまま息を引き取る同じ村の老人や幼子を。抵抗力のある若者なら軽症で済む事も多いが、かからないのが一番に決まっている。

 真に受けていたらウッディに笑い飛ばされた。

 

「風邪を引いたところも見たことない奴ですから。彼女じゃ検証にならないですよ」

 

 両手を広げて呆れる軍医に、レイサも腹を抱えて笑いだす。

 

「ははっ、そうか、そうだったね。何とかは風邪ひかなかったか」

 

 二人の様子をむうっと頬を膨らせて睨んでいたシャニーだったが、ふと窓の外を見つめるとその眼差しは不意に優しくなる。

 この雄大な自然の中で生きる人たちに、もしウッディの薬を届けてあげられたなら。

 その為に企画したエンジェルヘイローは、着実に進行している。少しずつ、少しずつだが描いた夢が形になっていく気がして、溢れた夢が口から零れた。

 

「村に病院を作って、そこで治せるようになるといいね」

 

 彼女の視線に気づいたウッディも、シャニーの座るベッドの縁に腰掛けて一緒になって窓の外を見つめる。冬が終わりを迎えようとする中、残照は再びイリアに闇夜の到来を知らせるように遠くまでぼやけた光を映す。

 

「ああ、そうだな。病院が出来ればみんなを救える」

 

 今は病院のない村が圧倒的に多い。施設が無いことはもちろん、戦争で多くの医者が野戦病院に駆り出されて命を落としていった。そこにまた、今度はイリア風邪と言う招かれざる客がやってくる。

 病院さえ、薬さえあれば救えるはずの者を救えない歯がゆさ。医者として一番に感じてきたウッディは隣でイリアを映す青い瞳をじっと見つめる。人も、資材も、何もかもが行き届いていない現状を訴えられるのは、この十八部隊しかいない。

 

「大きい病院に、ウッディみたいな人を育てる学校に……欲しいものは一杯あるよ」

 

 希望を映す紺碧の瞳から溢れ出すイリアの未来。村人たちの想いを受け止め、絆を繋ぎ続けてきた顔は常に夢を語っていた。

 太陽の如き笑顔が紡ぐ暖かな風に惹かれ、さらに大きな声が集まりつつある。

 混迷極める黎明のイリアに広がる紺碧。そこに描かれた一筋の希望に寄り添い、頷きながらウッディも静かに未来へ想いを馳せていると、シャニーは新たな夢を静かに口にし始めた。

 

「早くイリアに春を呼び寄せたい。もっともっと、皆に喜んでもらいたいんだ。その為の剣に、あたしはなりたい」

 

 願いと言うよりも、それはもはや誓いであった。

 彼らの為ならば、描いた夢が現実となった明日を掴む為ならば、どんな言葉を浴びせられようとも、千の矢が降り注ごうとも戦える気がする。

 イリアの礎たれ、半年前に掲げた誓いは更に磨き上げられて、自分たらしめる存在意義そのものと昇華していた。魂という名の刃をどれだけ折られても、ただひたすら前へと切り拓く剣、それこそ自分の名。

 それでも不安は残り続ける。自身の力が持つ破壊衝動は築き上げたもの全てを飲み込んでしまうかもしれない。

 どうすればいい……。そんな不安が聞こえているかのような、肩に置かれた優しい声が心を支えてくれる。

 

「発信し続けな、その夢をさ。そしたらみんなの夢になる。一人で抱え込むんじゃないよ」

 

 生きて、生きて生きて、生きて絆を繋ぎ続けること。それがお前の使命。レイサの手はそう伝えてきた。

 入団からずっと支えて来てくれたこの手。ありがたくて、シャニーは思わず手に取って頬に添える。先ほど自身を打ったこの手がなんとありがたいのだろうか。

 残照がすっかり消え入るまで、三人はイリアをじっと見つめていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。