ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

129 / 135
誓い────それは夢と背中を託しあう、二人のきずなの証

十八部隊の存続を勝ち取ったシャニーはアルマと共に詰所へ戻ります。
はやく仲間たちに伝えたい。勝利と、そして、その代償と。どんな顔をするかな?


第4話 黎き空の向こうに(前編)

 団長室を後にし、詰所へと戻る静寂の廊下。

 ろうそくが照らす薄明りの中、アルマの気まずそうな声に呼ばれた。

「おい、シャニー。……──大丈夫か?」

「うん? 何が?」

 振り向くと、彼女は顔に困惑が浮かび、珍しく眉がハの字に弱くなっていた。

 せっかく山場を越えたのに、どうして元気がないのだろう。

 アルマが何を言うのか気になり、目を合わせたらますます彼女は顔が渋くなった。

「さっきまで憤っていた人間と同じとは思えなくてな。拷問を受け続けて壊れてしまったか?」

「へ?! ど、どう言うコト?」

 親友の言い草に一旦は声を上げてしまったけれど、すぐにピンときた。みんな隙あらばからかってくる。

「あーっ、もしかして、バカにしてる? もうっ、いつもウッディにも言われるんだよね。お前は壊れてるーって!」

「いや……あんな仕打ちを喰らって、そんな笑っていられると気味が悪いのだが」

 人の顔を見て気味が悪いなんて、ずいぶんヒドイもんだ。でも、心配してくれているなら、安心させてあげたい。

「だってさ、もう終わったことだし。悔しいけど、大事なモノ守れたんだから勝ちじゃん?」

「……はっ。やはり、壊れてるな」

 寝不足だからなのかな。アルマの口調にはいつもの様な鋭さが無いし、どこか歯切れが悪い。やっぱり、彼女も思うところがあるのかもしれない。

 シャニーも、自分で口にしておきながら、どこか胸に落ちていなかった。

 確かに、過ぎたことで、前を向かなきゃいけない。でも、終わったこと……? 本当に、終わらせていいの? このままにしておいて、それで何とも思わないの?

「でもね、アルマ、ごめん」

 これだけは言っておきたかった。前置きなく謝ったからか、アルマは困ったような目をしている。

「あたし、アルマを、ううん。みんな裏切ったんじゃないかって。イドゥヴァさんに謝るって、きっとそういうことだし」

 真剣に謝ったつもりだったのに、アルマからはフッと鼻で笑われてしまった。そんなことか──そんな気持ちが、上向いた口元に見える気がした。

「お前なら、『そんなことは出来ない!』とでも言うかもしれないとヒヤヒヤしたが……それは別の機会に期待させてもらうさ」

「……そっか。えへへ、ありがと」

 なんだか、救われた。

 感謝を口にして笑ったら、視線を逸らすようにアルマは腕時計を見下した。一緒に追うと、深夜二時を指している。

 これで、二日寝ていないことになる。体はぐったり。それでも、心にはもう朝が来ている。

 早くみんなに勝利を伝えたい。そのままスキップするように歩く。

 

 ついに十八部隊の詰所まで戻ってきた。

 力尽きた戦友たちが互いに背を任せ、重なるように眠る安らかな顔が室内に見える。

「ありがとね、アルマ」

 アルマに視線を戻し、ニコッとして見せた。

 うまく笑えない。いつものような元気は出ないし、疲れ切った顔の筋肉が引きつって張り付くみたいだ。

 それでも、仲間の様子は安心させてくれるし、なにより、掴み取ったんだ。十八部隊の明日を。本当は、喜びを窓の外に叫びたいくらい。

「何のことだ?」

 別に感謝されるようなことをしたつもりなど無い──そう言いたげにアルマは眉をひそめている。

 照れ屋さんはいつものこと。笑って茶化しながら親友の肩を叩く。

「またとぼけちゃって~。さっき一緒にお願いしてくれたことに決まってるじゃん」

 自分だけでは、到底太刀打ちできない相手だった。

 部屋に入る際、先陣切ってイドゥヴァさんの警戒を逸らしてくれた。突き返されたり言葉に窮した時も、自然な形で間に入ったりして。とにかく、的確だった。

 なにより、一緒になって頭を下げてくれて、心に沈んだ重いものが吹き飛んだ。

 独りでは掴めなかった明日。感謝してもしきれないのに、やっぱりアルマはアルマだ。彼女は鼻で笑ってツンと視線を逸らした。

「私はイリアのために頭を下げたんだ。別にお前のためじゃない。あの女は、完全に私情で十八部隊を消そうとしていた」

 アルマの見立ても同じみたい。

 国家統一を今後果たそうという時に、国内強化の部隊が必要なことくらい、団長なら考えていたはず。それでも、イドゥヴァさんは槍を突き向けてきた。

 あの時を思い出したら、なんだか震えてきた。

 穂先が、部隊じゃなくて、あたしへ向いていた気がしたんだ。この目の傍に居ちゃいけない……直感がそう叫んでた。

「ねえ、アルマ……。なんでさ、あたし、こんなに嫌われてるんだろ……」

「分からん……」

 前も聞いたことがあった。今回も同じ答え。

 聞くなということか、アルマは視線を外してしまった。そんなふうにされたら、自然と俯いてしまう。

「だが……」

 アルマの声に顔を上げると、彼女は再びしっかり見つめてきた。

「私は、そんな私情で親友の背を守り、槍を敵へと向けたつもりはない。あくまで客観的に、イリアの未来のために必要だから決断しただけだ」

「アルマ。ありが──」

「それをまたお前はお人好しに……そんな風だからあんなザマを晒すんだ」

 アルマは相変わらず口が悪い。いつもなら笑ってやり過ごすところでも、今日はそうも行かない。

 彼女にも知って欲しい。頭を下げたのは、決して認めたからなんかじゃない。

「それはあたしだって同じだよ。勝つために負けたんだ」

「ハッ……。壊れてなんかいなかったか。そうか、そうだな。私が認めた親友だ。そう来なくてはな」

「十八部隊がイリアのためになるって思ってくれて、支えてくれたことが嬉しかったんだ。ありがとう」

 すっと手を差しだす。

 他でもないアルマが、誓いの号令の下へ集まり、約束のために身を挺してくれた。それが、シャニーには嬉しくてたまらなかった。

 誰も経験したことが無い、レールが無い道へと飛び出して、少しずつ敷いてきた未来への軌跡。それが間違っていないと言って貰えた。イリアの人々から、ゼロット義兄さんから、そしてアルマから。

 今が人生で最悪の瞬間。けど、同時に信の持つ大きな力の素晴らしさに、感動する瞬間にもなった。

 その気持ちを込めて労いを贈る。アルマは相変わらず無表情だけど、正面を向き、前髪を掻き分けまっすぐ見つめてきた。

「ふん、自分が認めたものを貶されては、私が貶されているも同じだからな」

 しっかりと互いの手を握り返す。

 ライバルと同じ先を向いている実感が湧き、またひとつ絆が繋がった気がして、シャニーは微笑んだ。

「アルマって不思議。冷たいって思うのに、熱い」

「別に冷たい態度を取っているつもりはない。認められないものは、認められないと言っているだけのこと。そして、認めたものに対しては、決して譲らないだけだ」

「あっ、じゃあ、あたしのこと、認めてくれてんだ?」

「甘くて反吐が出るがな。けど、到底勝てないものがあるのは確かだ」

 シャニーは内心驚いていた。アルマが人を褒めるなど見たことが無かった。たいてい、苦言を呈して先輩たちから渋い顔をされていた。

 今回もキツい前置きがあったものの、はっきり言った。勝てないと。

「わぁ、アルマにそう言って貰えると嬉しい! ねね、それ何? 勝てないものって何?」

「フン。それだけ見せつけて来て、何で分からないんだか」

 アルマは教えてくれなかった。それどころか、呆れたような目を向けてため息をつきだしている。

 彼女ほど──副団長昇進の噂もあるくらいデキる彼女が認めてくれるモノ、それを知っておきたい。

 何とか聞き出そうと、言葉を選んでいたら先を越されてしまった。

「……それに、隣で友があんな無様を晒すのは、長く見ていられないからな。小麦みたいな奴だし、心配はしていないが」

「まーたそうやって。さっき心配してくれてたじゃん」

「せっかく人に頭を下げさせたんだ。これからも頼むぞ」

 アルマは両肩に手を置いて、じっと見つめてくる。

 不思議な感じ。照れくさいのに、視線を外そうとは思えない。ううん、外しちゃいけない気がする。

 二日間眠っていなくて、目が疲れているからかな。なにか、ジンジンしてくる。

「絆を繋ぐ者。イリアに春を呼び寄せる暖かい風を、こんなところで失って堪るか。私には、お前が必要だ」

「アルマ……。ありがとう」

 何だか変な気持ち。嬉しいのに、笑っているはずなのに、涙が溢れてくる。

 ────お前が必要だ

 この短い言葉が、どれだけ心を打っただろう。

 理解されず、認められず。誓いを捻じ曲げられ、精根尽き果てた心にスッと沁みこんだ言葉。どんな慰めよりも癒してくれる──魔法みたい。

「アルマにそう言って貰えると、なんか自信出るなぁ。嬉しいよ」

 厳しい彼女に十八部隊を、自分たちの生き様を認めてもらえたなら、誰から否定されようとも、びくともしない気がする。

 イドゥヴァさんも折れてくれた。これだけ多くの人から認められ、信を託してもらえたなら、もう信じてひたすら前に飛んでいけばいい。

 掴み取った明日。湧き上がる希望に声が弾ける。

「アルマ、きっとあたし達、夢を果たそうよ。イリアの中は任せてよ!」

 朗らかに笑ってアルマの双肩に手を置き、シャニーは赤い瞳をじっと見つめて決意を口にする。

 互いの歩む道は違うかもしれない。背を向けることも時にはあるかもしれない。

 けれど、目指す先はきっと一緒で、困ったらどんな時でも駆けつける。

 生きて、生きて生きて、必ず明日へと軌跡を描き続けて夢を掴む。それをはっきりと、互いの胸に誓いと刻みこむ。

「ふっ……。誰にも、背中を見せられないと思って入団したのだがな」

「アルマ??」

 ふいに目を瞑り、独白のように喋り出したアルマに呼びかけてみるが、彼女はそのまま続けた。

「頂にいるのは常に私一人。周りは全て従わせる対象で、駒でしかないと、心を見ようとしなかった。だが、一年前とは決定的に違うことができた」

 それが何か聞こうとしたら、アルマは肩に置く手を退き、背を向けてしまった。

 気になって仕方なく、回り込もうとした時だ。シャニーはごくりと息を呑んだ。顔だけ振り向いたアルマが……笑っていたのだ。

「振り返れば常にアイツがいると思える────親友が出来たことだ」

「アルマ……」

「私は、今ここに誓おう。お前が刃で未来を切り拓き、天馬に希望を乗せて振りまく青空ならば、私はイリアの混沌を総て薙ぎ払う闇夜の槍となろう」

 言葉にならない声が漏れる。

 親友として、好敵手として、アルマは認めるだけでなく、誓いを立ててくれたのだ。

 なら、友にしてあげないといけないことは、ひとつだ。

 シャニーは剣を引き抜き、顔の前でまっすぐ掲げて、去り行く紅蓮の騎士に力強く誓言して見せた。

「あたしは誓う。アルマが騎士団として国家建設に全力を注げるように、あたしは人々を守って、彼らの希望であり続けるって。必ず、必ず呼び寄せるんだ。イリアに春を!」

「ああ。任せたぞ。私の背中はお前ぐらいしか託せないよ」

 とても清々しい。こんな夜は初めてだ。

 アルマの顔には、ポーカーフェイスが剥がれ落ちた満足げな笑みが広がっていた。

「よおし、明日からもがんばろっと!」

 その背にずっと手を振っていたシャニーも、ぐっと拳を突き上げて一人小さくジャンプすると仲間たちを見下ろす。疲れ果ててぐっすり眠っている。

 背を預けあって重なるようにして眠る三人の仲間に入れてもらい、そっとルシャナの肩に身を任せる。

 目を瞑ると突然に眠気が襲ってきた。この大事な仲間たちに、明日伝えてやらなければならない。十八部隊の未来を、イドゥヴァと結んだ約束を。そして、アルマが見せてくれた友情の証を。

「イリアに春を……呼ぶんだ。必ず……」

 戦い疲れた天空の騎士は、春が広がるイリアの夢に浮かぶのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。