ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ 作:宵星アキ
彼女は団長の使者としてきたらしい。
きっと、十八部隊の存続についての話だ。いい話だといいな……。
爽やかに透きとおる朝日。シャニーは朝食を終え、食堂からの帰路を仲間と歩いていた。
はずんで止まらない談笑。笑い声に揺れ、木の上の残雪がまた一つ落ちて緑を取り戻していく。
じっとなんかしていられない。詰所に戻っても、武器を手に取るやドアを開け放ち、跳ねるように飛び出した。
イドゥヴァと戦って一週間。部隊には、今までと同じ時間が流れ始めていた。
一度は途切れかけた十八部隊の軌跡。それを全員で繋ぎ止め、掴み取った朝に映える顔はどれも明るく前を向く。
「よしっ、さぁ今日もがんばるぞ! ねえ、どこ行こうか?」
帯剣ベルトにしっかり剣をさし、シャニーは弾ける笑顔をレンにむけた。彼女が見下ろす地図を、背後から一緒に眺めてあちこち指さす。
「朝から燃えてるッスね! ウチも何だか燃えてきたッス」
駆けてきたミリアが、シャニーの肩に寄りかかるようにして、一緒に地図を見下ろしはじめた。
彼女の指は、すぐに南の方角をさす。みんな行きたい場所、やりたいことがたくさん浮かんでくるみたいだ。
「嘆願書をお願いしに行ったとき、困りごとも一緒に聞いたんスよ。もっと詳しく聞きに行きたいんスよ!」
「おっ、いいね、いいね。行こう! レン、お願いね」
ミリアの提案にうんうんと頷き、レンに航路計算を指示したシャニーは、ふと視線に気づいて振り向いた。
「なぁに、ミリア?」
気づかれると思っていなかったのだろうか。ミリアはびっくりしてみせ、なぜか照れながら目線を外して頭の裏をかき始めた。
「いやぁ……」
「また昼にどこの名物食べようか考えてたのか?」
ルシャナの怒り滲む声が聞こえてきて、ミリアはぶるんぶるん首を振った。
「ち、ちがうッス! シャニーの笑顔が傍にあると、勇気が湧くなって」
相変わらず、ミリアは大げさなことを言う子だよ。
シャニーは手を払い、無い無いと笑って見せた。
「ははっ、おだてたってオゴんないよ」
「ホントッスよ、朝一番で気力は満タンなのに、あふれ出す感じッス」
よく分かんないけど、ミリアが元気になるならそれでいっか。
そこに飛んでくる、ふいの質問。
「ミリアは今日のお昼、なに食べるの?」
「そりゃあ今日は南部だからキイチゴのスイーツ……」
レンにミリアが軽く答えた途端だった。
「……って、それは目的じゃないッスから、副将!」
「行きたい場所をアンタから指定してくるから怪しいと思ってたけど、やっぱりそう言うことか!」
「ちがうッス! 誤解ッス!」
ぎろりと睨む視線に気づいてももう遅い。必死に弁解しながらレンの頭を小突くミリアを、ルシャナが叱ろうとしている。
でも、スイーツに釣られたシャニーは、お構いなしに肩をぶつけてミリアに情報をせがんだ。
「いいなー、いいなぁー! あたし何にしよっかなぁ」
ミリアのベルトに挟んである雑誌がずっと気になっていた。
待ってましたと言わんばかりにミリアが手に取って、折り目をつけてあったページを開いて得意げに語りだす。
それは予想どおり、スイーツの特集記事。今日の目的地、イリア南部の記載箇所を二人で爛々とした目で見つめ、あれこれ指さしてはしゃぐ。
「……元に戻ったのは良いけど緩すぎでしょ、あんたら」
ぎくっと肩を跳ね上げ、後ろ目に恐る恐る祈ってみたが現実は変わらない。やはり、そこには角が生えたルシャナがいた。今日も朝っぱらから説教を受ける。
トホホ……これじゃだれが部隊長か分かんないじゃん!
しおれたまま、説教が早く終わることだけを祈っていた時だ。
「シャニーさん、おはようございます」
穏やかで落ち着いた壮年の声。
小さくなっていたシャニーは名前を呼ばれ、おっと口を開けながら振り向いた。
「あ、おはようございまーす! 何かあったんですか?」
やっぱりこの声はそうだ。総務部長のエニスだった。
人柄はとても良い人なのだが、この人が持ってくるものは、いつも重い話ばかりでどうしても内心は身構えてしまう。配属の時、12月の処分の時、そしてこのタイミングで彼女が来たということは……何となく予想できる。
「イドゥヴァ団長がお呼びですよ」
ああ、やっぱり……。そんな心の声が漏れ出しそうになった。
スイーツの話に混ざってくるワケがないことくらいは分かるけどさ、朝だし、もう少し軽い話にしてよー。
シャニーはイドゥヴァの名前を聞いて一瞬顔に出かけたが、周りを見てぐっと堪えた。
もう、あの人には頭を下げて全部水に流したはず。これからは、いい関係を作って行かないといけない。周りの仲間たちが、汗を流して集めてくれる人々の祈りを、あの人に認めてもらうためにも。
「みんなそんな顔しないで。大丈夫だよ! きっと悪い話じゃないって」
すぐにそれまでの笑顔に戻ったシャニーは、沈む仲間一人ひとりの顔を見つめて明るい声で前を向かせる。
「ほら、笑って笑って!」
最後まで下を向いていたレンの背中に手を添え、にこっと白い歯を見せたら、ようやくに小さな口が上を向いた。
「シャニー、何かされたら、ちゃんと私達にも教えてね」
ふいにそう言われ、シャニーは胸がドキンとなった。
「え……? ……うん。そうするよ」
手を振りながらエニスと一緒に歩き出す。でも意識はずっと背後にいる仲間達にあった。
レンのあの言い方、きっとレイサから聞いてしまったに違いない。やっぱり、隠しごとはダメだ。
次はもうしないと決めて、シャニーは前を向いて歩き出す。
「どうですか? 最近は?」
すぐにエニスが穏やかな口調で聞いて来た。
「イイ感じです。毎日楽しくやってます」
ニカっと白い歯を見せ、シャニーは爽やかに答えた。
思い出す。この中庭は、一年前、十八部隊の集合場所だった辺りだ。国外で仕事をしたくて、それを叶えてくれなかった姉に、悶々としながらこの場所に立っていた。
あれから一度も国外で仕事をしていない。なのに、毎日楽しいってさ。一年前の自分が聞いたらどう思うだろう。
「最近はあちこちの部隊長からも、貴女の話はよく聞こえてきますよ。みんないい子だって」
エニスからかけられた言葉に、シャニーは一瞬きょとんとした。
何せ周りは敵だらけだと思っていた。イドゥヴァを敵に回し、戦場で敵を見るような目が会議室を包んでいた気がしていた。
「え、それは嬉しいなぁ。ありがとうございます」
それは、ほんの一部の話だったと知って心が軽くなる。
今でも、イドゥヴァの腰巾着──第五部隊長マリッサの口調は刺すようなものがあるが、派閥を越えて声を掛けられる機会が増えた。
彼女らと話をしてみて、怖い存在でも、敵意を持っているわけでもなく、根は優しい人達なのだと気づいていたが、こうしてエニスに言われると確信できた気がする。
みんな、イドゥヴァが怖くてあんな怖い顔をするしかないのだと思うと可哀そうに思えた。逆らえば……自分のようになるのだから。
「ふふ、貴女の顔を見ていると、貴女のお母さんを思い出しますよ。とてもいい子だった」
最近、よく言われる。あのイドゥヴァからも同じことを言われた。
なんだか恥ずかしい。でも、それ以上に、母がこんなにも騎士団の中で慕われていたことが誇りに思える。
「お母さんやお姉ちゃんみたいに、あたしもみんなに頼られる人になりたい」
物心ついた時にはいなくなっていた母だが、写真を見ても自分がそっくりなのは分かる。
母や姉の背中を夢中で追いかけてこの世界に入ってきて、ずっとあの背中のように大きくなりたいと願ってきた。
今は、少し違う。
「でも、あたしにはあたしの誓いがあるから。あたしは、あたしの道を行こうと思います」
自分を形作った大きな背中に間違いないが、もう目の前に彼らの背中はない。後ろで支えてくれる、背負っていくべき大事な信と変わった。
彼らのやることが正で、敷かれたレールに沿って走ればいい時はもう終わった。
誓いを果たし、イリアの未来を掴み取るために自らレールを敷いて、その先頭で刃を掲げる立場になったんだ。
「貴女の道ですか?」
エニスは興味津々の目を向けた。
「うん。イリアに春を。……今の夢はこれ。だからちょっぴり、団長に何言われるか怖いんだけどね」
もう、震えて春が来るのを待つのは嫌だ。ずっとそう思ってきたし、アルマと友情を結んだ時にも、そうはっきり口にしたことは覚えている。
あの時は、ひとりの新人騎士にとっては途方もない大きな夢で、何が自分にできるのか分からなかった。
けど、もう今は夢じゃない。背中から聞こえてくる信たちの声が、為すべきを教えてくれる今、明確な目標となって誓いの拠り所となっている。
この誓いのためなら、みんなの祈りの為なら、どれだけ剣を折られても戦う。その剣が掴み取った未来を、今しっかりと歩んでいるから確信できる。進む道は、間違っていないのだと。
「悪い話ではないわよ。ほら、行ってらっしゃい」
それでも隠せない不安を少しだけ零したシャニーの背中を、エニスは優しく押して送り出した。
直線廊下の先に見えてきた団長室の扉。
振り返ったシャニーは改めてにこっとしてエニスに感謝を伝えると、力強い足取りで廊下を抜けていく。
その後ろ姿を見つめ、エニスは満足げな笑みを浮かべて、静かに敬礼していた。
「イリアに春を……。ふふ、良かったわね。志を継いでくれる人が現れたわよ」
目の前に現れた大きな扉。他と変わらないはずなのに、飲み込まれてしまいそうな威圧感。
扉の前で大きく息を吐き出し、マントを、服を、そして髪を整える。
大丈夫、きっと悪い話ではない。エニスだってそう言って送り出してくれた。
頑張れと自分を励まし、両頬に手を当てて気合を入れると、部隊長のスイッチを入れた。
「第十八部隊長、シャニー。参りました」
「入りなさい」
思わず腰が引けた。
そうだ……もう中にいるのは姉ではなかった。分かっていたはずなのに、返ってきた声に驚いてしまった。
あの時は厳しい声だと思っていた“どうぞ”の声。それがもう、聞けないと思うとふいに寂しくなった。
妙に心細い……。何をしてるのさ。あたしは部隊長だよ!
小さく首を振って、腹の中に溜まった不安をふうっと吐き出すと、シャニーはドアを開けて一気に中へと踏み出した。
やっぱり、団長席に座っていたのはあの優しい姉ではなく、ベテランの威圧感溢れるイドゥヴァだった。
手招きされるまま机の前まで歩いて行くと、ふいにイドゥヴァは優しく笑いかけてきた。
「シャニー部隊長、貴女に正式に回答しようと思いましてね」
「部隊の存続の話ですよね」
その笑顔で、やはり悪い話ではないと悟ったシャニーが単刀直入に聞くと、イドゥヴァは紫紺の瞳で彼女を見上げて静かに頷いてみせた。
凛としていても、ごくりと鳴る喉を抑えきれない。
「十八部隊の存続を決定しました。これからも頑張りなさい」
本当に? 今本当に存続って言った? ねえ本当に、本当に? あれだけ十八部隊を目の敵にして潰そうとしていたイドゥヴァさんが? ねえ、夢じゃないよね、これ、本当なんだよね?
思わず聞き返す。
「存続なんですね?!」
「ええ。一度で聞き取りなさい」
本当に、掴み取ったんだ。本当に、戦いに勝ったんだ。
みるみる見開かれていく青い瞳が震えて、言葉にならない声が漏れだす口を、シャニーは思わず手で覆った。
「はいっ、ありがとうございます! ありがとうございますッ……」
何度も何度も、青のショートレイヤーを揺らして頭を下げる。
最初こそ、春風のような爽やかさを湛えていたが、すぐ雪解雨のように涙がぽろぽろこぼれだした。
この嬉しさをどうやってみんなに伝えようか。一番はやっぱり共に戦った仲間たち。アルマにもお礼をしたいし、ロイにだって頑張ったと伝えて褒めてもらいたい。
天馬で飛び立ったかのような高揚感に包まれ、嗚咽を漏らすシャニーを、イドゥヴァは相変わらずの冷厳な声で呼び戻した。
「その程度で泣くんじゃありませんよ。騎士団の幹部なのですよ、貴女は」
「申し訳……ありません。……でも、あたし達にとっては、生きるか死ぬかくらいの話だから」
真っ赤なままの目で涙をすすり、袖で目元を強くこすったシャニーは、背筋を伸ばしてもう一度部隊長の姿勢を取り戻す。
長い夜を抜けて、ようやく息を吹き返した気がする。これでこれからも、夢のためにイリアの空を駆けられる。
雨が止んだ顔に浮かぶ爽やかな笑み。イドゥヴァは視線を切った。
「以上です。さ、任務に戻りなさい」
「イエス、マム!」
◆
春風過ぎ去り、静寂が戻ってきた団長室の中で、イドゥヴァはじっと扉の向こうを見つめていた。
背を向けて歩き出した足取りは、駆け出そうとするのを堪えているのが外から分かるくらい軽やかだった。
あれだけ生に満ちた笑顔を見せられると、罪悪感さえ湧きあがってくる。何か、あの笑顔をそれ以上見ていられなかった。
「私も……あんな感じだったんでしょうかね」
まだ十六になったくらいか。そんな小娘が部隊一つの為にあそこまで熱心になる姿には、イドゥヴァも何も言えなかった。確かあのくらいの年で自分も部隊を持ち始めたから、部隊長の気持ちは十分理解しているつもりだ。
……本当に、あの剣が自分の懐刀となればどれだけ良いことか。
「生きるか死ぬか……ですか」
だが、これから先、必ずあの顔はこちらへ向けて剣を抜く。
イドゥヴァはおもむろに引き出しを開けると、中から一枚の紙を取り出した。
騎士団の幹部の名前がずらりと並ぶ職制表の中にペンを置く。思案に揺れるまま放置されたペンは、置かれた名前を黒く塗りつぶしていく。
────ならば、お望みどおりにしてやろう
イドゥヴァはインクが黒く広がっていく様子をじっと睨みつけていた。
◆
翔ける。翔けて、翔けて、青髪で風を切る。
廊下を抜けて中庭に飛び出したシャニーは、足元にぐっと力を込めて曲がり、まっすぐ前を向いて風のように翔けていく。感激を少しでも早く伝えたい。
「みんな!! おーい!!」
見えてきた。仲間たちに手を振りながらありったけで叫ぶ。
仲間たちも待っていたのか、顔を見るや駆けてくる。
「十八部隊の存続が正式決定したって!」
ぶつかるくらいの勢いで駆けてきた仲間たち。最高の吉報を届けたら、耳を劈くくらいの歓喜が返ってきた。
あまりの姦しさに、他の部隊の連中が好奇の眼差しを送ろうが、彼らはお構いなしにはしゃぎまくる。
「ヤッター!! やったんだ!! あたしたち、やったぞー!!」
仲間たちの歓喜する姿に、シャニーもはち切れそうだった喜びがついに爆発した。あまりに嬉しくてその場に倒れこむと、両手を広げ、腹いっぱいに力を込めて空へと叫ぶ。
それを真似して、ミリアも一緒になって叫びだすから周りの視線が痛いが、ルシャナやレンも今回ばかりは止めずに彼らの歓喜を笑って見ている。
ようやく一息つくと、シャニーは上体を起こして仲間たちを見渡した。
危機は去った。長かった……部隊存続の危機を覚え始めた一月から、本当に長かった。
でも、ずっとひたむきに前を向き、イリアの空を駆け続けた一年が間違いではなかったと、こうして叫ぶことが出来た。
もう、深い夜に飲みこむ悪夢は終わり。さぁ、春の到来とともに、新たなスタートを切ろう。
彼女は自身に一つうなずくと立ちあがった。
「あたし達は一足先に春を迎えた。新しい一年に向けて、あたしは一つ、新しく誓うよ」
すっと剣を引きぬく。銀の刀身に陽射しを乗せ、爽やかな声を春陽に響かせた。
「イリアに春を!」
その姿を、ミリアやレンは呆然と見上げていた。
「さっきまで、一緒にスイーツの話してたのに……」
「ん。何だか、リーダーじゃない気がする」
恍惚とした表情を浮かべて拍手する二人の尻を、ルシャナが叩いて引き戻した。
「ほら、そこの二人、拍手してないであんた達もこっちくるんだよ」
シャニーの許へ歩くルシャナの手には、しっかりと槍が握られている。ミリアも机に放り出してあったクロスボウを手に取って駆け戻る。シャニーが彼女を待っていると、横にどこからともなく黒い風が現れた。
「あっ、レイサさん、おかえり」
「混ざって良いかな? 私の短剣は血みどろだけどさ」
シャニーはその問いに一瞬きょとんとしたが、すぐに笑って返した。
「あったりまえだよ! レイサさんだって十八部隊の仲間じゃない」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。今なら
レイサはシャニーの横で短剣を高く掲げた。その時にレイサが見せた笑みは、今まで見たことの無いような、アサシンとは思えない柔らかさだった。
「レイサさん……」
「姉貴、見ててくれてるかね。……この希望を支える短剣の向く先をさ」
その短剣に次々加わる仲間たちの武器。
「その誓い、私たちも乗せてもらうよ。これは十八部隊の誓いだ」
シャニーの剣に槍を掲げると、ルシャナはシャニーの肩を後ろからがっちり抱き寄せた。
「へへっ、待ってたよ、ルシャナ」
シャニーも抱きしめ返すと、掲げる剣の先を眩しそうに見上げ、ルシャナは懐かしそうにつぶやいた。
「部隊が崩壊しかけてレイサさんに頭さげに行った時も、妙な魔術師やソルバーンと戦った時も。十八部隊が正式部隊になった時も、聖天騎士団とぶつかった時も、んでク
「ええ? ははっ、どーしたのさ、いきなり」
なんだか照れくさい。笑って茶化してみたが、ルシャナの顔は変わらなかった。いや、それどころかもっと強く見つめてくる。
「あんたはいつも、先頭で剣を掲げてきた。あんたについて行けば、こいつと一緒に夢を語って戦っていけば、イリアに春を呼び寄せることだって出来るんじゃないかってさ。……──独りにしないよ」
肩を抱き寄せる力が強くなった。なんだか、胸がいっぱいになって苦しい。
リーダーとして、少しはディークに近づけたのだろうか。いつも先陣に立って、その背中でたくさん教えてくれた、今どこにいるかも分からない恩師に。
「ルシャナ、……ありがと。みんなもついてきてくれて、頼もしいよ」
最初は小さな夢だった。誰かの役に立ちたい……それくらいの気持ちだった。それがどんどん膨らんでいき、大きくなってきた未来の鼓動。
自然と湧き上がる希望。今までだって、小さな春をあちこちに呼び寄せてきた十八部隊なら、きっとできる。
希望が生み出した、どんどん大きくなる明日への鼓動。目を閉じてそれを静かに聞いていたシャニーは、再び開いた瞳で仲間たちをぐるりと見渡し、新たな誓いの号令を春の始まりに轟かせた。
「行こう! あたし達が懸け橋になるんだ!」
────イリアに春を!!
一人の夢は、またひとつ大きくなって青空に広がっていった。