ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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シャニーはティトをずっと待っていた。
姉に、イリア最後の思い出をとびきり良いものにしてもらいたい。
そして伝えたい。偉大な97代目団長の意志を継ぎ、イリアに春をもたらすその誓いを。


第Ⅱ部 最終話 風光る(後編)

「ああー、まだかな。まだかな! もうすぐ来るはずなんだけどなぁ!」

 岩陰からちらちらと城の様子をうかがいながら、シャニーはその場をバタバタ踏んで待ちきれない心を引き留めていた。

 こんな誰もいない道の影にずっと隠れていると、どうにもうずうずして落ち着かない。今頃みんなは姉と別れの挨拶をしているころだ。本当はその輪に入りたい。だけど、こうして待つことにしたのだから今はぐっとガマンだ。

 天馬騎士団として姉に最後の別れをするのは、絶対に自分だと決めていた。

 なのに、姉は来ない。きっとみんなと盛り上がっているんだ。そりゃそうだ。みんなだって、きっと同じ気持ち。でも、早く来て欲しい。もっともっと、一番のとびきりを準備してるんだから!

「来た、来た、キター!」

 空色の髪が外門に小さく見える。小声を弾ませ、ニシニシ笑って岩陰に隠れなおす。もう一度顔を出したシャニーは、今度は口を尖らせた。

「もーう、お姉ちゃんってば、何してんだろ」

 城を見上げたまま、ティトは動かなくなってしまった。

 ずっと、見ている。やっぱり、寂しいのかな。もし、同じ立場だったら、どんなことを想うのだろう。騎士を退き、去る気持ち……イメージが湧かない。きっと、寂しいんだと思う。

 いつの間にか、シャニーも同じようにカルラエ城を見上げていた。白く、大きな城。今日の城は静かで、どこか寂しそう。まるで、姉に行かないでくれと言っているかのようだ。

「あ……」

 ティトが城に背を向けた。ついに歩いてくる。さっきまであんなにこの時を待ちわびていたのに、妙に緊張してきた。姉は今、何を考えているのだろう。少しずつ大きくなってくる姉。見えてきた顔はいつも通り硬い……というより、重い。泣いてるのかな。

 イリア最後の思い出を、とびきり良いものにして欲しい。足音まで聞こえるほど近づいたティトの前に、シャニーはだっと飛び出した。

「お待ちしておりました。ティト名誉団長!」

 春風が寂しく吹き抜ける丘に響く、温かい朗らかな声。

 クリっとした青い瞳を綻ばせながら白い歯を見せたシャニーは、目を真ん丸にして驚くティトに敬礼して見せた。

 よほど驚いたのか、ティトは固まったまま動かない。もう一度ニカっとしてみせたら、ようやく駆けてきた。傍まで来たティトにシャニーは敬礼を解き、また白い歯を見せてしてやったりと笑う。

「えへへっ、驚いた?」

「あなた……どうして」

 ティトは言葉に詰まっているようだ。シャニーの手を取るティトの目はとても嬉しそう。ぐっとガマンして待っていてよかった。

「へへっ、名誉団長の右腕として、みんなとはちょっと違うコトしようと思って」

 これだけでも姉は喜んでくれたみたいだけれど、こんなのは序の口。本当のサプライズはまだまだこれから。なのに、握っていた手がするりと離れてしまって焦った。

「わっ、わっ?! な、泣かなくたっていいじゃん!」

「……こんなの……ズルいわよ。せっかく、覚悟を決めてきたのに」

 伏した顔を手で覆い、声が漏れないように堪えているみたいだ。誰も周りにいないのに。

「ふふん。そんなに感動してもらえるなんて。やっぱり仕掛けがいがあるなぁ、名誉団長は」

「名誉団長なんてやめてちょうだい」

 昔から、姉にはいろいろなサプライズを仕掛けてきた。もちろんイタズラだと口をきいてくれなくなったりもしたが、誕生日やお祝いごとの時は、いつもこうして照れながらも喜んでくれる。それでも、泣かれたことは初めてで、仕掛けたシャニーの方がドッキリだった。とりあえず、ハンカチを差し出す。

「まぁまぁ。今日くらい良いじゃん! それ、持ってるから、とりあえずこれ着て!」

 しんみりする空気を払う、太陽に負けないくらい暖かい声がはしゃぐ。

 ティトが持っていた花束を預かると背後にまわり、するすると彼女に外套を着せていく。周りを旋風のように動き回るシャニーにティトはなされるまま。

「何をするつもりなの? シャニー」

「ひみつー!」

 シャニーは訝しがるティトをその場に残し、小走りに岩陰へと駆け込む。後を追ってのぞき込もうとするティトの前に、隠しておいた天馬と共に飛び出したシャニーは、相棒の横で背筋を伸ばしてしゃきっと敬礼して見せた。

「名誉団長の門出を、天馬騎士団 第十八部隊長シャニーがお供いたします!」

 凛と立つ華奢な騎士。

 姉は口を半開きにしたまま動かない。どうやらドッキリはまた成功みたい。……と思ったら、姉は歩き出して顔をまじまじ見つめてきた。まるで何かチェックするかのようで、思わず退く。

「な、なあに? 大丈夫だよ、イタズラじゃないよ?」

「ふふ……。そうね。じゃあ、お願いしようかしら? シャニーさん」

「えへへっ、そうこなくっちゃ! 行こう、名誉団長!」

 ティトの背に回り、もう一度外套をしっかりと着せて天馬の後ろに乗せた。姉がいつもと違う場所に乗っている違和感がぎゅっと胸を締め付ける。

 慣れた身のこなしを見せつけながら飛び乗り、腰に差した剣が揺れ終わらない内にあっという間に空に舞い上がった。

「どこへ行くの? まさか、このままエトルリアに行く気じゃないでしょうね」

 急に心配そうな声が後ろから聞こえてきた。もっと楽しめばいいのに、姉の心配性は相変わらず。そうなると、心の中でニシニシ始まってしまう。

「えー? ダメなの?」

「あなたのことだから何しても不思議じゃないけど……まさかなの?」

 本当に冗談が通じない。姉の声が一段低くなった気がした。

「クレインとは別の場所で待ち合わせているから、行っちゃダメよ?」

 ずいっと顔を近づけて、警告しながら本気で心配し始めている。

 右腕なんだからもう少し信用して欲しいんだけど……。そんなことされちゃ、ますますイタズラ心が疼いちゃうじゃん。

「まぁまぁ、現役騎士に任せておきなさいって」

 こうやって姉にイタズラを仕掛けられるのも最後かもしれない。敢えて行先を言わずに加速する。もっと姉は焦るかと思った。でも、風を切る音ばかりで何も返ってこない。なんだかツマらない……そう思って振り返ろうとしていた時だ。やっと掛けられた言葉は、まるで違った。

「あなたを第一部隊に呼んで、一緒にイリアの空を飛ぶことはできなかったけど、最後にこうやって飛べてよかったわ」

 こんな言葉、まるで予想していなかった。きゅんと胸が締め付けられて、思わず口をきゅっとつぐむ。姉のドッキリの方が、自分の仕掛けたドッキリよりずっとズルい。

「お姉ちゃん……?」

「ゼロット義兄さんの意向とは逆に、騎士団は外征至上主義に戻りつつある。そんな中で、国内へ目を向けて、創っていけるのはあなた達しかいない。そう思うと心配よ」

 姉が零した、初めての不安。どう返していいか、とっさに良い言葉が浮かんでこない。なんとか、安心させてあげたい。半開きの口から無理やり声を押し出した時だった。ふっと優しく笑う声が耳をなぞった。

「でも、あなたに託してよかった。ずっと背中を合わせて戦ってきたんですもの」

 どきんと胸が跳ねた。サプライズをかけたはずなのに、こんなサプライズ、ホントにズルい。震える心をそっと包むように、肩に添えられた姉の手。鎧の上にあるはずなのに、柔らかくて、温かい。

「志を継いでくれる人がいることが、こんなにも心に安らぎを与えてくれるなんてね」

「お姉ちゃん……」

 紺碧の空に走る一筋の白い光の上で、シャニーも静かに笑い、そしてしっかり前を向いた。姉は、誰よりも信頼してくれていた。そして、これからをすべて託してくれた。きっと、その期待に応えたい。その気持ちがもっと大きく膨らんでくる。

 それより前に、自分だってとっておきを姉に伝えたい。そのために、こうして姉を連れてきたんだから。

 しばらく空を飛び、シャニーは目当てを見つけて天馬を止めた。

「ここ……」

 それだけ言って、ティトは眼下に広がる光景をじっと見下ろしている。

 きっと、ここへ連れてきた意味をもう分かってくれているみたい。

 ここは、シャニーたち十八部隊が国力向上の任で企画した第一弾の場所。

「へへっ、ここ、一年前は何も無かったんだよね。大きい病院ができて、みんなここに来るようになったんだよ」

 シャニーが部隊長に就任して、まだ一週間も経たない内に開催された部隊長会議。そこで企画提案したのが、このカルラエ城下町への病院建設だった。

 部隊長に就任する前から、ずっとイリアの人々の許を飛び回って集めた困りごとメモ。それを必死に読み上げたのに理解してもらえず、皆でこの場所まで飛んできて空中会議したのが、まだつい最近のようだ。

 でも、あの時なにもなかった雪原には、立派な病院が聳えて人の往来が見える。

「よっし、次いくよー、名誉団長!」

 ティトがほっこりと笑ってくれたことを確かめると、シャニーは再び天馬を駆り西の空を目指す。

「もう、天馬に乗るのもこれが最後なのかしら……」

 寂しそうに零すティトに、シャニーは首を振った。

「えー? エトルリアに行っても乗ればいいのに。お城脱走するのに便利じゃん!」

「なんで脱走する前提なの? でも、ふふ。たしかに、イリアに遊びに行く時のために練習はしておかないと」

「へ? 脱走の?」

「違うわよ! 乗馬に決まってるでしょ?」

 ふだんの姉妹の会話を楽しみながら、イリアの蒼天を翔ける。

 今度は短かった。風に踊っていたシャニーの青髪がとまり、眼下を見下ろして揺れる。

「この村は井戸を作ったんだ。みんな、すっごい喜んでくれたんだよ」

 シャニーはまだ新しいレンガ造りの建屋を指さした。嬉しくてついつい声が弾む。

 とにかく大変な企画だった。一度は却下されたもののリベンジだったが、イドゥヴァだけでなくマリッサまで横やりを入れてきて大分戦った。

「そうね。あの企画の時も大変だったわね。なかなかイドゥヴァさんが折れなくて」

 ティトも覚えてくれていたようだ。敗色が漂っていたが、それでもシャニーが食い下がって、ティトが背中を押してくれたから通った案件。

「あの頃くらいからかしら。あなたの会議室での顔つきが変わったのは」

「え? やっぱ、分かるんだ」

 シャニーにも自覚はあった。あの頃からだ。第一会議室が戦いの場所となったのは。

 村人たちの喜ぶ顔を見て覚悟を決め、あの部屋でだけは心を鬼にすると決めた。戦い疲れて動けなくなることもあるけれど、やはり村人たちの笑顔は何物にも代えがたい。

 今も村を眺める横顔は朗らかそのもので、それをしばらく見つめていたティトは安堵を漏らす。

「もう、イリアの恥なんかじゃない。どこへ出しても、イリア騎士と胸を張って紹介できるわ。イリアを、志を託せる信じられる人になってくれた」

 とびきり嬉しい言葉をかけられて、シャニーは内心小躍りしていた。それでも、今は姉を喜ばせる番だ。嬉しい気持ちそのままに、手を突きあげて天馬を飛ばす。

「よし、次だよ、次~、名誉団長!」

「そろそろ、その名誉団長っていうの、やめない?」

「えー! ヤダよ! 今日はこれでいく!」

 まだまだ紹介したい場所がある。風光る蒼天の爽やかさに任せて天馬を駆り、結構な場所まで飛んできた。もうすぐエトルリアの国境がある、連峰付近まで来たはずだ。

「ここには道ができて、雪崩に巻き込まれる心配がなくなったって、いろんな人が喜んでくれたよ」

「素敵……。母さんみたいな人が出なくなって欲しいわね」

 雪崩による事故は毎年後を絶たない。その事故で母親を失った二人にとっては、住民たちの声は他人事に映るはずもなかった。

 今まではその声に何もしてあげられなかった。それを前に進められ、シャニーは何度もうなずく。

「うんうん! あたしも本当にそう思うよ」

 姉の喜ぶ声を背中に受けて、シャニーも声を弾ませながら新しくできた道に沿って天馬を駆る。

 二人で見下ろす、イリアの大地にできた新しい道。それはまさに、二人のこの一年の軌跡に映る。その道は遠くまで続き、そして白銀の鉄路とぶつかった。

「後は……これがいつ完成するのかなって、今は思ってる」

 鉄路に沿って進んでいくと、工事器具が並べられてたくさんの人が見え、そして路は途切れた。春になり、ピッチを上げて進められるエンジェルヘイローは道半ば。

「これさえできれば、食べ物も、薬も、病気の人も、みんな運べる。イリア中が繋がるんだ」

 天馬を旋回させ、鉄路に沿って東の空を目指す。あちこち途切れているが、まだ無い鉄路を天馬で繋ぎながら、シャニーは未来を語る。

 その背中を、ティトはじっと見つめていた。

「この一年、本当にあなた達は頑張ってくれたわ。言葉では言い表せないくらい、本当に感謝してる」

 こんなに姉が褒めてくれたことなど、去年までなかった。それこそ、入団時にはイリアの恥とまで言われたくらいだったのに。

 嬉しい。ずっと追いかけてきた姉が認めてくれて、今までの全てが無駄ではなかったと心が風に浮かぶ。

 それでも、シャニーは首を振った。

「ううん。違うよ」

 顔だけ姉へ向け、シャニーは天馬を止めた。

 朗らかな笑みを浮かべ、両手を広げて全身に春陽を浴びながらティトを見つめた彼女は、山々に聞かせるように、高く澄んだ空に爽やかな声を響かせた。

「これ、みんな、みーんな、お姉ちゃんのおかげだよ!」

「私……?」

 ティトは思わず眼下を見下ろす。

 遥か先まで続く軌跡。あの向こうには、シャニーが企画してきた様々なものが、戦争に砕けたイリアの沈んだ白へ、新たな色を与えてあちこち咲いているのを彼女は見てきた。

 地平線まで視線を移しても、ティトの顔に浮かぶ困惑は変わらなかったが、シャニーは姉の瞳をまっすぐ見つめ、心からの感謝を口にした。

「そうだよ、お姉ちゃんのおかげ。お姉ちゃんがイリアを変えようと戦ってくれたから、イリアに少しだけ春が来たんだ」

 何故だろう、今はちっとも恥ずかしくない。つい最近まで、なかなか姉には素直になれなかった気がするのに。

 実行部隊として動いていたのは確かだし、この仕事は自分達にしかできないとシャニーにも自負はあった。

 だけど、ベルン動乱でも同じだった。俯瞰して考え、傘となって見えない敵と戦ってくれる人がいるから、自分たちが目の前の問題と戦えるのだと。強かった姉の背中を見続けてきて、シャニーは確信していた。

「そのおかげで、あたしも今ここにいる。お姉ちゃんがいてくれなかったら、今頃あたし、騎士として死んでたかもしれない」

 姉が団長ではなかったら、十八部隊に配属してくれなかったら、事あるごとに相談に乗って叱責してくれなったら、外からの非難や攻撃から守ってくれなかったら……。

 戦場での誉ばかりを追いかけるままの自分であったなら、今この場に“天馬騎士シャニー”はいなかったと断言できた。どんな時でも、自分の前には姉の大きな背中があって、その後ろからイリア騎士たるを学び続けたこの一年。ついに姉を背中に乗せた今、他の誰よりも深い想いを、姉に一番伝えられるこの紺碧の空で伝えたのだった。

「ありがとう、お姉ちゃん。ありがとう、97代目団長。あたしを、イリアを導いてくれて」

 天馬に突いたティトの手にそっと自身の手を添え、青の瞳にぐっと力を込めながら、まっすぐ空色の瞳を見つめてハッキリ最後まで言い切った。

 あの強かった姉が、瞳を震わせてる。初めてかもしれない、こんな顔を見るのは。

「やめなさいよ、こんなところで……。今日のあなたは、本当に……」

 こんな高いところを飛ぶ天馬の上では、ただでさえ涙を隠せないのに、手まで抑えられてティトには為す術がなかった。剥がれ落ちた団長の仮面を拾うこともできずに、ティトはほろほろと涙を流して俯く。それを見てもシャニーには言い足りなくて、触れる姉の手をぎゅっと握った。

「あたしにとって、お姉ちゃんは最ッ高の団長だったよ。誰よりも、誰よりも……ずっとずっと最高の……」

 みんなきっと、お姉ちゃんを最高だって言ったはず。だけど、あたしが一番、みんなよりずっと、ずっと最高だって思ってたんだよ。だって……世界で一番、大好きなお姉ちゃんなんだもん!

 何度も、何度も、繰り返し贈る。どれだけ力を込めていても目元が揺れ、腹が震えて、思わず目も口も、顔中をぎゅっと結んでも、やっぱり喉から想いが溢れ出てきた。

 しばらく、紺碧の空には乙女二人のすすり泣く声だけが響く。

 だが、今や別れの時。最後は笑っていよう。シャニーは顔を袖で拭い、明るく照らす陽を見上げた。

「へへっ、騎士にあるまじき姿、失礼しました!」

「シャニー……あなたという子は本当に……大好きよ」

 見上げてくるティトの顔は未だ崩れたまま。お疲れ様──その気持ちを込めてニカっと笑って未来を誓う。

「あたしはこれからも戦うから、お姉ちゃんの意志を継いで戦い続けるからさ。安心してよ」

 一緒に戦って欲しいと姉から言われたのは、まだつい最近な気がする。その姉の背中は、もう無い。

 でも、独りで戦うわけではないと知る瞳はまっすぐ前を向いていた。

 一緒に剣を握る仲間がいる。疲れた時に支え、癒してくれる人々がいる。この三月に起きた絶体絶命の危機も、全ての人と一緒になって戦っているのだと強く胸に焼き付けられて、想いは更に強くなった。

「お願いだから、無茶だけはしないでね。あなたの道は、ひとりだけのものじゃない。あなたは、イリアの希望になったのよ」

 握っていた手をしっかりと握り返された。そしてかけられた言葉に、はっとシャニーは言葉を失う。

「……。えへへ~、何かカッコイイなぁ」

 思わず照れ笑いを見せながら髪をいじる。その顔から一瞬笑顔が消え、東に広がるイリアの大地をじっと見つめ始めた。

────あなたはイリアの希望

 村人達からもかけられた言葉。それを今、イリアの陣頭に立ってきた姉から言われた意味をしっかりと胸に焼き付ける。

 これからは、お姉ちゃんの代わりに先頭に立って、希望の光を掲げてみんなの想いを繋いで行かきゃいけない。あたしみたいなちっぽけな騎士に、そんなのできるのかな……。

 今は不安も大きい。けれど、この手で未来を切り拓き、創りあげる旗手になった高揚感はそれを大きく上回る。不安なら、いつでも振り向けばいいのだから。

「……お姉ちゃんはエトルリアから応援してよ、あたし達のこと。必ず、イリアに春を呼び寄せるから」

 疲れたら、困ったら、絶望したら……信として背負った者たちが助けてくれる。その一人に姉がいることが、どれほどに心強いか。イリアからは去るかもしれない。けれど、シャニーにとってはこれからも、姉は一緒に歩む頼もしい先輩に違いなかった。

 決意の瞳を見つめるティトは、もう一度包むように妹の手に握る。

「一番手を焼いてきたあなたが、一番信じられる希望になってくれるなんてね。……ええ、もちろんよ。困ったことがあったら、何でも言って。あなたの為なら、私は何でもするから」

 喜びと想いを伝える手が、優しく包んで温もりを教えてくれる。

 それを確かに受け取ったシャニーは前を向き、天馬が風を切り始めた。

 別れへと近づく帰路。姉への餞として、そして、これから始まる、自身の新たな出発への誓いとして、シャニーはさっと剣を引き抜き、力強く天へと掲げた。

「イリア天馬騎士シャニー、みんなに誓います! イリアに春を呼ぶ剣に、あたしはなるよ! なってみせるんだ!!」

 山々へ遥かに響く爽やかな声で、イリアに生きるすべての人々に聞かせるように力の限り叫ぶ。全ての想いを繋ぎ、全ての信のために戦って、未来を切り拓く剣となると。

 その刃に映える太陽の輝きは、黎明の先で人々を導く希望の光のごとく、眩く煌めいて紺碧の空に白き軌跡を描くのだった。

 

 

 

 

 

<ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅡ 完>




これにてⅡ部は完結です。
ご愛読いただきましてありがとうございました。

引き続きⅢ部へ進んでいく予定です。
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