ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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前話のあらすじ

多くの犠牲、守れなかった誓い。
失敗を引きずるシャニーの足は無意識のうちに団長室へと向かっていた。
心の中を吐き出すにつれ、彼女は姉に問われる。
貴女はどうしたいのか、どうしたらそれは叶うのか。
難題を前に心が折れたシャニーは答えを出せなかった。無力な自分に何ができるのかなど。


第5話 果てしなき野望(1)

 ティトと城に帰ると、もう夜になっていた。

 帰宅したらまず何をしようか。夕飯の支度か、先にゆっくり風呂に入って考えを整理するか……。自分の性格を考えたら、掃除を先に済ませておきたい気もする……。

 一気に生活感が戻ってきてとにかく時間が欲しい。そんな考えを巡らせながら帰る支度をしているシャニーの許へゆっくり歩み寄ってくる影。

 

「どーだった? 団長との久々のお喋りは」

 

 レイサだった。彼女は手に持っていた資料をシャニーへ手渡す。中の内容は案の定、あの村と山賊団の調査に関するものだった。作製部隊は……。

 

「2600……」

 

 シャニーは紙面右上にあった部隊コードを無意識のうちに読み上げていた。

 

「そう、第二部隊だね」

 

「イドゥヴァさんがここに仕事を回してくるなんて、珍しいね」

 

 イドゥヴァは普段、自分の仕事を他部隊に依頼する事は滅多になかった。どんなに多忙でも他部隊には依頼せず休出などで切り抜ける。

 各地方から依頼された仕事を自分の部隊で独占してしまう為、他の部隊の手が空くといったことすらあった。

 

 だが、彼女を取り巻くいわゆる“イドゥヴァ派”の層は厚い。なぜなら、派閥内の者が属する部隊には仕事を回してくれるからだ。

 ティトも再三、彼女にそういったことを止める様に警告したが、彼女を上層部から下ろす事は流石に出来なかった。

 

 人のいない今、各地に顔の広い彼女は騎士団にとって貴重だ。

 団長になったとは言え、それまでは無名だった天馬騎士。今でこそ、余裕があれば名前を覚えてもらおうと各地に顔を出しているが、流石にベテラン騎士の年季には敵わない。

 イドゥヴァも団長の内心が分かって来てから、好き放題と言って過言でない振る舞いを見せていた。

 

「まぁ、大体理由は見当がつくけどね」

 

 そんな彼女の魂胆が読めているのか、レイサは鼻を軽く笑った。

 

 

 その予想は、驚くほどに的中する事となった。

 次の日、顔を洗ったシャニーは朝日に向かって背伸びしていた。

 きりっと肌に突き刺さるような寒気の中、伝わってくる陽の温もり。背伸びをして精一杯広げた体にそれを浴びせると、何処からとも無く元気が湧いてくる。

 

「あー! っと、今日も一日頑張るかな! 今日の朝ごはんのおかずはなんだろな~」

 

 その肩にふいに乗せられるタオル。振り向くとそこには珍しい顔。いつも時間の無駄と言ってろくに顔を見せないアルマがいた。

 

「よ、おはよう」

 

「アルマじゃん、おはよ!」

 

 暫く他愛も無い世間話で盛り上がる。

 どうやらアルマは十八部隊から離脱して以来、イドゥヴァ達とよく遠征するようになったようだ。

 世界の色々な情報をシャニーへもたらす。この頃イリア内の事しかやっていなかったシャニーにとっては新鮮な話だった。

 

「へぇ、すごいね、色々世界を回ってるんだ」

 

「そうだ。お前も国内のことばっかりやってると、井の中の蛙になってしまうぞ」

 

 この頃気にしていたことをグサリと。

 イリア内の事をもっと重視して、民と助け合って行きたいと考えているけれど、外へ遠征しないと何も情報が入ってこないし知る事も出来ない。

 もっといい方法が世の中にはあるかもしれない。それを思えばイリア内だけで仕事をしている事は、あまりいいことではない。

 

「うー……それを言わないでよ」

 

 井の中の蛙……これ以上無いほどに今の自分にぴったり合う言葉を喰らって思わず口を尖らせる。

 その心を確かめたかのように、アルマが思いがけないようなことを口にした。

 

「お前は、外へ仕事をしに行きたいとは思わないか?」

 

「え?」

 

 あまりにも唐突な仕事の誘い。一体何があったのかすら考える事も出来なかった。

 

「第二部隊のイドゥヴァ部隊長は、お前の実力を認めてくださっていて早く自分の部隊に欲しいと仰っているんだ」

 

「えへへ、それはどうも」

 

「一人負傷者が出て、今度の遠征に参加できなくてな。是非お前の実力を見てみたいと言っているんだ。どうだ、来ないか?」

 

 夢かと思うような話だった。自分は全く知らないイドゥヴァ第二部隊長が、自分の事を認めてくれていたとは。

 昨日の仕事依頼とも関係があるかもしれないと詮索してしまう。

 

「そっか……。行きたいけど、レイサさんの許可をとってからじゃないと返事は出来ないよ」

 

「別に返事を急ぐつもりはない。一週間程度先の話だからな。ゆっくり考えて、そっちの部隊長と相談すれば良い。それより……」

 

 アルマはシャニーとの距離を一歩詰める。シャニーも急に相手が顔を自分の顔に近づけてきたので何かあるのだと思い、更に近づける。

 

「今度の団長選出選挙、どう考えている?」

 

「え?」

 

 遊びの誘いか。アルマに限ってそれは無くとも稽古にでも誘ってくるのかと思ったが、予想は簡単に外れた。

 

「どうって、何が?」

 

 どんな答えを期待されているのかよく分からなくて眉をひそめると、アルマの目じりが少しだけ吊ったように見えた。

 

「どちらに投票するか決めているのかと言う事だよ」

 

「あぁ。うーん、どうしようか決めてないよ。だってどっちが団長に向いてるかなんて、新人のあたしに分かるわけないじゃん」

 

 彼女の意思は固まっていない。間髪入れずに働きかけようとするが、それより先にシャニーが独り言のように続けだした。

 

「でもなぁ、やっぱあたしはお姉ちゃんが好きだし、お姉ちゃんに入れようかな」

 

 十八部隊のリーダー格である彼女の動向が、他の者へ与える影響は明白だ。

 何としてもこちらに引き寄せなければならない。人手不足の今年は、この何も染まっていない新人たちが結果を大きく左右する。

 

「そんな理由で入れるのか? 今後の天馬騎士団を左右する大切な一票を」

 

「そ、そんな大げさな……でも、そうだね。うーん……」

 

「イドゥヴァ部隊長は、お前の事を認めてくださっている。仕事の依頼が来ただろう? あれもお前の将来を考えて、早く仕事をさせたいと言うあの方の意向だ。人を見る目は、現団長よりあると思うがな」

 

 ここぞとばかりに畳み掛ける。相手は現団長の妹。普通に考えれば、親しい姉に投票するのが道理だ。

 だが、その道理を無理にでも引っ込ませる必要があった。

 

(今、こいつに考える隙を与えるわけには行かないな)

 

 悩むシャニーへとどめを刺すべく更に続ける。

 

「お前ほどの実力者が、イリア内だけでくすぶっていていいのか? イドゥヴァ部隊長は、それを絶対にさせない。悔しいが、私以上に期待されているようだからな」

「そうなの?」

 

 シャニーもどう考えて良いか分からなくなってきていた。

 イリア内のことを重視したいが、今イリアの復興や自分の今後を考えれば国内だけで仕事をするのは良くない。

 それに、親友のアルマはイドゥヴァ部隊長を非常に良い人だという。

 

「現団長はイリアを変えると公約しているが、この半年、何か変わったと思うか? イドゥヴァ部隊長は具体的な案を持っている。それは……」

 

 そこまでアルマが言ったところで、彼女の肩に後ろから乗った手が止めた。

 

「部隊長!」

 

 イドゥヴァだった。シャニーは初めて見るはずの彼女を見て驚いた。見覚えがあったからだ。この人は、そうだ。いつもシグーネの後ろにいた人。

 

「はじめまして、イドゥヴァ部隊長」

 

「はじめまして。予てから貴女の事は良く知っていましたよ」

 

「え、どこかでお会いしましたっけ?」

 

 会うことすら初めてなのに、相手は自分の事をずっと前から知っていたと言う。改めて、狭い世界で仕事をしていたのだと実感する。

 

「会うのは初めてですが、ベルン動乱では史実に残る活躍を見せたそうですね。同じ天馬騎士として光栄ですよ」

 

 会うのは初めてだが、以前から知っていた。知らないはずがないだろう……“あの女”の娘なのだから。

 会ってみると、嫌でもあの顔を思い出す。そっくりだとは聞いていたが、まさかここまでとは。

 何か、あの女に頭を下げている気がして癪に障るが、今はそうも言っていられない。

 それに、あの女と違って無垢な新人はぺこりと頭を下げてにこやかだ。

 

「何かあたしの事を色々気に留めてもらっているみたいでありがとうございます」

 

 目の前にいるのは騎士団の幹部の中でも副団長だ。

 新人部隊でずっと内的な仕事や稽古ばかりをしている自分が、上層部に名前を知られていることにシャニーは驚いた。

 姉は身内だからと言って、妹を周りに紹介するような人でもない。アルマが喋ったのだろうか……。

 色々詮索しようとするが、そんな時間を前に居る二人はくれそうにない。

 

「ところで、私が今回部隊長選挙に立候補した事はご存知ですよね?」

 

 イドゥヴァが目を細めて笑みを浮かべる。質問へ即首を縦に振るシャニーへ、更に声を高くした眼差しは優しげ。

 

「私はイリアの騎士団を統一させたいと思っています」

 

 シャニーの反応はイドゥヴァたちにとって見れば予想通りであった。思っていた通り、操りやすそうな人間。

 

「聞いたところによると、貴女もイリアを変えたいと願っているそうですね。私も、この子も同じです。私はティト団長とは違う観点から、計画を進めたいと思っているのです」

 

 シャニーの心は揺れていた。親友のアルマも絶対の信頼を置いている人物のようだ。

 この人がどういった人物なのかは、第二部隊部隊長と言う事と以前セラから聞いた、面倒見のいい部隊長であると言う事だけ。

 

「貴女は十八部隊のリーダー格と聞きました。それほどに信頼されている貴女がもし私に票を投じる方向に十八部隊を持っていってもらえれば、きっと私はイリアを良い方向へ持っていくためのスタートラインに立てるのです。どうかここは一つ、お力添えをいただけませんかね?」

 

 驚きの連続で沸騰したのか思うほどくらくらする頭を、シャニーは何とか見つめてくる視線へと戻す。

 副団長という騎士団ナンバー2の人物が、新人に向かって頭を下げているのだ。

 

「今はまだ詳しくは言えないが、イドゥヴァ部隊長は騎士団統一の具体案を持っていらっしゃる。イリア連合のゼロット団長などと話を進めるようだ。イリアの騎士団中へ顔の広い部隊長なら、きっとやってもらえる。私はそう信じている。お前もそうは思わないか?」

 

 ────この人なら、変えてくれるかもしれない

 

 何か違和感がある。本当に自分が求めているのはこんなものなのか? 

 だが、親友達からは信頼されているようだし、自分の事をかなり気に入ってくれている。

 何か妙な、姉への罪悪感が腹の中に湧き上がりながらも、彼女の首は縦に振られていた。

 

「分かりました。考えてみます」

 

 その返事にイドゥヴァは下げていた頭を上げて笑みを作った。

 

「良い返事を期待していますよ。もし、私が団長になったら、勿論貴女にもイリアを変える最先端でアルマと共に私の右腕となって働いてもらいます。その時はよろしくお願いしますね」

 

 再び一礼すると、彼女は二人の許を後にした。アルマも彼女の手伝いがあるのか、手でシャニーへ合図すると足早に去っていく。

 

「アルマ、忙しそうだなぁ」

 

 自分もイドゥヴァが団長になれば、アルマと同じように仕事は世界レベルになる。そう考えると、先程の違和感も期待に掻き消されていった。

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