ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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前話のあらすじ

自分たちの行動が起こした影響の大きさに、不安に揺れる十八部隊。
だが、シャニーの心に一番に浮かんでいたのは親友の顔だった。
自分のとった行動は、結果的にアルマを裏切ったことになる。

十八部隊の詰所へ現れたアルマはシャニーを呼んだ。
きっと、裏切りへの怒りをぶつけるに違いない。
信じた道の先にあるものを受け止めるべく、シャニーはアルマについて行った。

だが、アルマは言った。さすが自分のライバルであると。彼女は甘言で揺さぶっても自分を崩さなかったシャニーを刎頸の友と認め手を取った。


第6話 新たなる出発

 城に帰ると、アルマと外へ出て行ったときのような静寂はそこにはなかった。あわただしく廊下を駆けて行くのは……部隊長達だ。彼女らの駆けて行く先は詰所の方向。ぞくぞくしてくる。結局寝ずの決戦となった選挙も、どうやら終わりを迎えたようだ。結果を知りたい気持ちが飛んでいきそうだ。

 

「おっと、私は部隊長だからホントは皆に知らせを持って行ってやらないといけない役なんだった。あんたと一緒に居ると時間がなくなって困るよ」

 

ポンポンと背中を叩かれて、シャニーは忘れていたのは誰だと口を尖らせる。

 

「何でもあたしのせいにしてさー」

 

「じゃあ結果を見てくるわ。部屋に戻って待機しといて」

 

 レイサは膨れるシャニーの額を指先で軽く弾いてやる。尚更膨れるシャニーを軽く笑い、彼女は第一会議室へと向かって歩いていった。一体どんな結果になったのだろう。胸がバクバクして詰所に向かう足が震えてくる。

 

 他の部隊の詰所には各部隊長が駆け込んで暫くした後、どよめきとも取れるような声があちこちで上がっている。盗み聞ぎしたい気持ちと、皆と一緒に聞きたい気持ちと。逸る気を抑えて、シャニーは耳を塞ぎながら自分の部隊の部屋へ駆け戻った。

 

「結果どうでしたか! って、なんだシャニーか」

 

 さっき部屋を出る前に自分が口にしたことを今度は浴びせられる側になって、シャニーは苦笑いするしかない。部屋を見渡すと、十八部隊でも寝ているものは一人としていなかった。缶に詰めた緊張を開けたようにシャニーを重い雰囲気が襲い、代わりに外の新たな風が入ってくる。

 

「結果が出たみたいだよ。今レイサさんが確認に行っているから、もう少し辛抱してろってさ」

 

 みんなで結果を受け止めよう。シャニーは自ら閉めたドアをじっと見つめて、大きく深呼吸した。

 

 

 

 副将ソランが部屋に飛び込むなり、第一部隊の詰所の中では大きな歓声で沸いた。

 

「ティト団長、再選おめでとうございます!」

 

 ティトの再選を心から喜ぶ第一部隊の面子に満面の笑みが広がっていく。彼女は僅差でイドゥヴァを下し再任を果たしていた。もうこの時ばかりは騎士としての本分よりただ喜びが勝って、一人部屋で結果を待っていたティトの許に、皆で流れ込む。

 

「……そう。私が。皆、ありがとう。でも、私はこれからもやる事は変わらないわ。まだ結果を出せていないもの。イリアが本当の意味で平和になるように勤めるつもり。だから貴女達も私に協力して欲しい。同じイリア騎士として」

 

 この時をどれほど待ちわびたか。皆は沈黙の中はきと敬礼し、固い忠誠を団長に誓う。彼女が団長として然るべきと、多くの者が認めていたということ。一つの目標の為に、不平も愚痴も漏らさず。それに向かって黙々と、そして確実に努力を積み重ねる姿は滲み出るものがあった。

 

 だが、清々しい勝利とはいかないことも事実。得票の内訳の中でも、騎士団の上位部隊の票があまりない。それは管理者側、すなわち若い数字の部隊長クラスの人間は、皆イドゥヴァ側に回っていると言う事である。

 

 大きな仕事をしようとすれば、他の部隊の長に協力をお願いしないといけない。この選挙結果は明らかに、他部隊の長達との間に溝があることを示していた。いくら一人が優れていても、大きな仕事は大勢で知恵を出し合わなければ成就することはない。

 

 今回も最初から重いハンデを背負ってのスタートとなった。再選という、皆から認められた喜びと、騎士団の中核で四面楚歌の現状。複雑な喜と哀の狭間で、ティトは昨日までと同じように仕事を始めようとマントを羽織る。まずは……ゼロット率いるイリア連合騎士団やフェリーズ伯爵が率いる聖天騎士団など、大きな騎士団にあいさつし報告せねばなるまい。

 

 その彼女の前に、一人の女性がフラッと現われる。

 

「再選なすったか」

 

 白髪をローブに隠す腰の曲がった老婆。ニイメだった。彼女は開票の一部始終をずっと見ていた。闇の向こうの更に奥、闇を追求し、闇の奥にある普遍なものを追及するドルイド。その彼女の瞳は、真理に近づくべく新たな経験を吸収していた。随分と無理をお願いしてしまって申し訳ない気持ちで一杯のティトは深々と頭を下げる。

 

「ニイメさん。朝になってしまいましたが本当にありがとうございました」

 

「礼なんか要らないよ。半分はこっちが見物したいっていう気持ちで引き受けたんだからね」

 

 心労は大きいだろうに、それを見せずに凛として微笑む団長をニイメがじっと見つめていると、ティトは再び頭を下げはじめる。先ほどの一礼はこれまでに対して。今度は、これからに向けてだ。

 

「ありがとうございます。これからも若輩者の私たちに色々アドバイスをお願いします」

 

 深々と頭を下げる若き団長へ向けるニイメの眼差しは、目袋をこれでもかと綻ばせて優しい。

 

「おやおや、いいのかね? 騎士団外のものにそう簡単に頭を下げて」

 

「はい。イリアを創っていく者として、騎士団の内外は関係ないと思っています」

 

 ニイメは暫くティトをじっと見ていた。

 

(この娘が、シグーネの言っていた“私のあとを継ぐもの”……)

 

 ティト自身昔は、主の言われるままに動いて言われるままに戦うこと。これがイリア騎士としての最善だと考えていた。だが、先のベルン動乱はその考え方に一石を投じた。もうあんな思いは、妹に槍を突き向けるなんて二度としたくない。同族を殺しあってまで金を手に入れることが、果たしてイリアの将来にとって良い事なのか。その問いに対する彼女なりの答えは否。嫌に決まっている。だけど、その否を是としなければ、今のイリアはやっていけない。

 

 なぜかと問うていくと見えてきた、騎士に定着してしまった戦うことを是とする風潮、分散している力。そして、リキアへ赴いたときに直面した最大の理由。イリアもリキアを模して、国づくりの根幹を変えていかなければならない、彼女はそう結論付けていた。

 

 本来のイリア騎士としてあるべき姿を体現しようとする姿が、ティトからは溢れているようにニイメには映っていた。バリガンの再来かと思わせるほどに、礼儀正しく、凛然で、そして強い意志を持った若い騎士。久しぶりに骨のある騎士が出てきたものだ。これから面白くなるかもしれないとニイメは静かに頷いた。

 

「そうかい。やっぱりあんた再任するほどの人間だね。汚い手を使ってまで権力を追求する人間が逆上せ上がってる世の中じゃ、あんたみたいなのは貴重だよ」

 

 ティトはその賛辞にいつもどおりの感謝の台詞を言えず、その目は悲しげに逸れた。本当に望んだのはこんな結果ではなかったのに。就任直後からずっと排除を目指していたものが、今でも根強く蔓延っている。しかもそれは、天馬騎士団の中ですら解決できていない。

 

 国づくりの根幹を変えるには、まず騎士達の心のあり方を正す必要がある。間違っているわけではない。民のために戦う事は。

                                                                                                                                                               だが、国のために戦うことが是であって、戦うことが騎士の仕事ではない。それどころか、こともあろうに傭兵としてのランクを競い、そのランクによって派閥を形成するなどもってのほか。今の騎士は、自分のために戦っている。

 

―――――本当に民のために”戦って”いるか?

 

「いいえ、私も、派閥作りの一端を担ってしまっているのが現実です。騎士は、いえイリアの皆は横一線になって将来を考えていくべきなのに……。でも、皆をまとめる長はどうしても必要になりますし、どうすればよいのでしょうか……」

 

 再任を果たした。認めてもらえたはずなのに、湧きあがる不安で一杯。望んだ結果を出すためにもがいて、まるで違う結果になる。団長だからしっかりしなければ……その気持ちが不安を攻め立てる。

 

「一人ひとりが、イリアを創っているという自覚と自信を持つこと。それしかないね。必ずしも横一線になる必要はないんだよ?」

 

 ティトは、老人の語る一言一言へ熱心に耳を傾ける。自分が何をすべきなのか、何が足りないのか、それを老人から学び取ろうと必死だった。再び団長を任された。それは皆に認められたと同時に、重い責任を再び背負うこと。その期待と責任に応えられるように、これからも精進しなければならない。その気持ちで一杯の心が迷い、手を伸ばす。

 

「教えてください。横一線である必要が無いとはどういうことでしょうか?」

 

 ティトの若き目がニイメをじっと見つめる。今の自分にないものを手に入れるんだ。求める空色の瞳は真っ直ぐ澄んでいる。

 

「守る存在、守ってくれる存在、それは互いに必要だという事だよ。時には守られる側になったっていい。互いの存在が当たり前になったらお終いだけど。まぁ今のイリアがそうだわね」

 

 完全な平等。それは一般に求められやすいもの。何でも平等に、皆と同じことを、同じように出来ることこそ良いことである、と。全てにおいて皆一直線でなければならないという事は、力のないものにとっては最悪のルール。平等ゆえの不平等。これほどの皮肉な副作用もない。守ってもらえることへの感謝と、守る側の感謝。互恵の精神であってはじめて、円滑な関係を築くことができる。誰もが知っているはずなのに何故かできない。いつの間にか忘れてしまう“一”。

 

 それでいて、中途半端な追求では皆の向く方向を一方へ変える事はなかなか難しい。バランスの舵取りが不可能なのかと思えるくらいに、今のイリアは不安定。ヘタに動かせば、今まで溜まっていた矛盾が一気に山肌を滑り落ちイリアを押し潰してしまうかもしれない。その危機感が常にある。シグーネやユーノをはじめとする歴代の団長たちも、その危機感になかなか思い切ったことができずにいた。

 

 ティトも当然に、その事は意識している。危機感に萎縮する自分がいた。

 

「どうすれば良いのでしょう……。何をすべきなのか、見えなくなる事が時々あるのです。もし、自分の一つの命令が原因で、イリアの崩壊に繋がるようなことがあったら……正直怖いのです。こんなことを考えても、どうしようもない事は分かっていますし、そう自分に言い聞かせています。でも……」

 

 就任当時から抱いてきた不安。慣れれば消えてくるだろうと思ったが、消えるどころかどんどん膨らんできた。怖い、怖いけれど、団長が弱音を吐くわけにはいかない。そうやって今までやってきた。どれだけ周りからしっかり者と評価されても、怖いものは怖い。助けて欲しいと言えない苦しみが顔に、言葉に滲む。

 

「あんたは独りじゃないんだ。困った時は仲間に相談すればいい。さっきも言ったろ? 支える側は、いつでも支える側である必要はないと」

 

「はい……」

 

 どこまで生真面目な娘なのだろうか。こう気を張っていて疲れないのかと思うほど。これ以上根詰めさせるのも毒か。もう長話も切り上げようと思った。そろそろ、孫娘に話が長いと言われそうだ。

 

「あんたは私の若い頃に似てホントに淑女じゃな。他の女子も見習うべきだわい」

 

「え? いえ、そんな」

 

 ティトはいきなり振られた話に酷く狼狽する。ニイメにはその顔と反応が楽しくて仕方なかった。もっと感情を前面に出せばよいのにと思うほどに恥ずかしがっている。

 

「あんたのその常識人過ぎるところが、今は裏目に出てるね。もう少し自分を抑えずにやりたいようにやってみたらどうだい? 皆が不満そうなら、あんたが信頼を置いている人間に聞いてみればいいことだ。私の若い頃はね、相手が大男だろうとなんだろうと言いたい事はガツーンと! なんじゃ!」

 

長話を断ち切るようにその二人の間に突然割って入ってきたのはレイサだった。彼女はニイメの手を握ると、ティトから引き離していく。

 

「ほら、ばーさん。団長は忙しいんだから、年寄りの長話につき合わせたらダメだって何回言ったら分かるのさ」

 

「何を言うか!」

 

 孫に説教されて目を吊り上げ、レイサへ返したのは先程までと全然違う威勢のいい声。ティトに向けるような優しい声をかけてもらった事など一度も無くて、レイサは少しだけティトが羨ましかった。

 

「お前みたいな左巻きのあんぽんたんと違って、この娘はエライぞ! わしの若い頃そっくりじゃ!」

 

(左巻き、あんたが言うかよ……)

 

 レイサは顔を引きつらせる事を何とか堪え、そのまま引き離していく。ティトには二人の様子が微笑ましく見えて仕方がなかった。血が繋がっているわけでもないのに、あの二人はどうしてあんなに互いに心を許しあえるのだろうか。

 

 ティトにはそれが不思議で、そしてそれ以上に羨ましかった。どうしても相手と自分の間にガードを設けてしまう自分は、友人はいてもあそこまで心を許す相手は少ない。

 

 だが……その数少ない、自分の心を許せる大切な人たちを失いたくはない。その大切な人の命を自らの手で奪うようなマネなど、何が何でも避けたい。いや、避けなければならない。

 

(大切な人々を守るために、私は、私の理想を貫くわ……。もう二度と、あんな思いはしたくない。他の人にも味わって欲しくはない。負けはしないわ。この手で奪った、大切な仲間の命にかけて)

 

 決意を新たにして、ティトは髪縛りをきつく結びなおすとそのまま天馬に乗り、紺碧の空に一筋残してエデッサのある東の空へと消えていった。

 

「何故。私が負けるなどありえない……」

 

 一方、第二部隊の詰所に流れていたのは何とも言いがたい険悪な空気。結果報告の隊員が駆け込み、かなりの長い沈黙が部屋を包む。その後漏らした部隊長の言葉にその場にいた誰もが声をかけられず、居心地の悪くなった皆は一人、また一人と部屋から去っていく。

 

 最後に残ったのはアルマただ一人だった。

 

「部隊長。お疲れ様でした」

 

 慰めるでも悔しがるでもなく淡々とした労いだけ。アルマにとっては選挙の結果などもはやどうでも良かった。刎頸(ふんけい)の友を見つけた心は清々しく、そして広々と晴れ渡る。

 

「あれだけやって、何故。あの小娘の何処に、アレを覆せるほどの票を得る場所が」

 

「分かりません。ですが、やはり僅差と言う事ですので、十八部隊の影響が大きかったと言わざるを得ません」

 

 イドゥヴァは下を向いて頭を抱えることをやめると、何かを閃いたかのように目を見開いてアルマのほうを見つめた。

 

「……そうか、やはり。レイサめ、何を吹き込んだのだ……!」

 

 この一番大切なときに、一番蔑視していた相手に邪魔をされた。その怒りは机に向けられ、机上に飾ってあった宝玉が転がり落ちていく。それを蹴飛ばしても悔しさを抑えきれない。

 

 無理もない。入団してから十五年余り、このためだけに頭を下げて、このためだけに危険な任務をこなし、この為だけに邪魔なものを踏み台にしてきた。ここまで努力している自分が、ひょっと出の小娘に負ける。しかも下賎な盗賊に邪魔までされて。

 

 あんな……成人して数か月の何も知らない副将に頭を下げてまでここまで来たのに。許せない、あの盗賊が、あの青髪が、十八部隊全てが許せない。「部隊長、落ち着いてください」アルマはイドゥヴァを落ち着かせようと声をかけた。何も、全てが終ったわけではない。

 

「いくらこの選挙で敗北を喫したからといって、部隊長の騎士団内でのお力に何ら影響するものではありません。聞くところによると、幹部クラスの者達の多くは部隊長へ投票したとのこと。騎士団の中枢を牛耳っておられる部隊長の鶴の一声に、いくら団長といえど耳を貸さずにはおれないはずではないでしょうか?」

 

 アルマの説得にいったんは席に座ったイドゥヴァだったが、すぐにまた席を立って窓のほうへ歩き出してしまった。未だに現実を受け入れられずにいる。

 

「そうは言いますが、アルマ。団外的に見れば、やはり団長こそが騎士団の代表、象徴なのです。団長とそれ以外では、相手の態度も雲泥の差で違ってきます。意見の通り方は言うまでもありませんよ」

 

 イドゥヴァは、ティトとは正反対の考え方をしていた。皆横一線に並ぶより、唯一絶対の権力の下に統率の取れた集団の方が、はるかに機能的であると。

 

 上が考え、下は実行する。騎士団の管理側と実行側のラインを明確にしようとしていた。

 

―――――実行側に頭は必要ない。体が動けば十分だ

 

 彼女の口癖であった。当然、その頂点に立つべくは自分であり、そのために今までやってきた。

 

 アルマもそれに似た考えを持っていた。権力こそが、敵を含む多数を従える絶対的な力であると。彼女は窓際へ歩み寄り、再度イドゥヴァへ話しかけた。

 

「お気持ちは心得ているつもりです。しかし、既に結果が出てしまった以上、もう今回の結果に固執するより先を見据えるべきではないでしょうか?」

 

 あくまで正論で話を先へ進めようとするアルマは血が通っていないのかと思うほど冷然に映る。しかし、引きずっても何も始まらない。もう団長たちは新たな出発を切っているのだ。後れを取るわけにはいかない。

 

「分かっています。これからどのような施策を講じるか。今それに悩んでいるのです。あんな小娘に騎士団を任せておいたら、いずれ崩壊してしまいます」

 

 イドゥヴァは窓のガラスが割れるのではないかと思うほどに強く拳を叩きつけた。無能な人間まで、有能な人間と同じラインに立たせたら足手まといになる事は自明の理。“無能な”人間は、有能な人間の指示通りに動く能力さえあればそれで十分。それも分からず平等平等と麗句を並べるだけの団長に、誰が信頼を置けるものだろうか。

 

 アルマはイドゥヴァの咆哮へ素直に頷いた。戦いには負けた。だが、あくまでこの時点で負けただけだ。この古狐はともかく、自分の場合は次は勝てばいいだけ。勝つまでは、負けるつもりはない。その為にも早く次の舞台へ移りたかった。

 

「その通りです。私も予てからそう感じておりました。そこで私に一つ愚策があるのですが、お耳に通していただけないでしょうか?」

 

 窓の外を見ていたイドゥヴァは、副将の声に静かに振り向いてアルマの口へ耳を寄せた。彼女の口が再び動き出して暫くすると、曇っていたイドゥヴァの顔に、再びあの不敵な笑みが戻る。

 

「貴女はなかなかの策士ですね。しかし、もし失敗すれば、貴女は勿論のこと、私にも飛び火する可能性があるわけですがそこは大丈夫なのですか?」

 

 毎度毎度、よくもまあそんな事を思いつくものだとアルマには感心してしまう。今もポーカーフェイスに計略を溶かし込みじっと見据える赤の瞳は、責任をちらつかされてもまるでびくともしない。

 

「ご安心ください。部隊長とは師弟の関係を絶ったということにしておきます。部隊長も私を破門したと言う事にしていただければ、部隊長へ影響する事はないでしょう」

 

 新たな一歩を踏み出したのは、団長だけではないようである。

 

「では貴女にこの案件は任せます。私は幸せですよ。あなたのような有能で働き者の部下を持ててね」

 

 二人はがっちり握手を交わす。天馬騎士団を、そしてイリアの騎士団を統べるべく。

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