ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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前話のあらすじ

突然に仮面の男の襲撃を受けたシャニー達。
彼はアルマを狙っているようだが、シャニーにも会いたかったと要領を得ない事を口にして、電撃魔法で辺りを真っ白にし始める。

それだけに留まらず非戦闘員のウッディまでをも襲う。
その理由を問うと、彼は嬉しそうに口角を上げてこう言った。

────アナタに()()()()もらうには枯草に火を点けるのが一番

慣れない防御の剣技でウッディを破壊魔法から守り、戦場から脱出させたシャニーは、ルシャナと共に閃電の魔術師と対峙する。
彼が応援を呼んでくれるまでの辛抱だと、刃に誓いを凛と掲げて。



第4話 追憶の誓い

 ────立てなくなってもいい! どうかもっと早く走れ! 

 

 体を斬るような寒さの中をウッディは必死で走った。

 騎士として体を鍛えているシャニーたちと違って、毎日研究室か事務室での仕事をしている彼に体力なんて無い。

 すぐに息が切れ脈が上がってくる。足元がもたつき、木の根に躓いて宙を滑った。

 足に走る鋭痛。それでも泥を蹴り上げすぐに立ち上がる。

 こんな痛みと別次元の世界に親友を置いてきてしまった。少しでも早く援軍を呼ぶことが一番の助けになる。

 

 足に鞭を打ってひたすらに走って、走って、ようやく見えてくる見慣れた城。

 時計を見れば昼勤の騎士達が登城する時刻までもう少しだ。

 熱でもうろうとする頭を何とか抑えながら、カルラエ城の外城門を突破する。庭に見える人影。

 

(助かった!)

 

 彼はすがりつく思いで、その人の許へ転がり込んだ。

 

「……なんだい、シャニーの幼馴染じゃないか。こんな時間にジョギングかい?」

 

 その声を聞き、彼は救われたような気持ちになった。

 なんとか彼女にすがりついたものの、闇夜で女性相手にする行動ではなかった。

 ただでさえ上がっていた息は首にダガーを突きつけられて声を出す事も出来ない。

 しばらく背中をレイサにさすってもらい、ようやく口がきけるようになると今まで喉に詰まっていた声が一気に飛び出した。

 

「レイサさん!!」

 

「んな大声出さなくても聞こえてるよ。それに名前言わなくたって周りに誰もいないんだし……」

 

「シャニー達を助けてください!」

 

 目付きが変わった。ある程度悟っていたが上層部に確認を取っているような余裕はない。

 ダガーを鞘にしまい、バンダナをきつく締めなおす。

 

「ウッディ、団長はまだ登城してないから、夜勤の副団長に事を知らせておいで」

 

 彼女はウッディから場所を聞くと、あっという間に風に溶けて闇夜へと飛び去っていった。

 ウッディにとってはレイサが頼り。親友達を託し城へ走りこむ。

 騎士たちの詰所のある東棟はあまり馴染みがないが、明かりのついている部屋を探して中に飛び込んだ。

 

 居眠りしかけていた騎士がびっくりして飛び起きて、何事かと集中する視線。その中でもウッディの目に付いたのは目立つ赤髪……アルマだった。

 動じる様子もなく、横目で慌てる様子を嘲笑する仕草すら見せる。

 元から彼女はウッディの事をあまり良く思っていないらしく、普段からツンとした態度だったから彼は気にはならなかった。

 だが、肝心の副団長がいない。止む無く面識のあるアルマに話しかける。

 

「アルマさん、すいません」

 

「何の用ですか?」

 

 あからさまな態度に少し腹が立つが、今は感情に身を任せて良い時ではない。幼馴染たちの笑顔を思い浮かべてぐっと堪え、副団長の行方を問う。

 

「イドゥヴァ副団長はどちらに?」

 

「部隊長ならエデッサ城へ向かわれました。部隊長はお忙しい方ですから。あなた達のようないくらでも時間のある人達が、来てすぐ対応してもらおうなんて難しいと思いますよ」

 

 どうやら、医者やら研究職といったものを毛嫌いしている様子だ。それが何故かは分からないし、武人が官吏を嫌うと言う話も良く聞く事。

 普段ならそれで流すが今回ばかりは話が別だ。とうとう爆発する。

 

「お前……ッ。誰のせいでシャニーたちが危険な目に遭っていると思っているんだ!」

 

「何ですか? いきなり声を荒げて、落ち着いてくださいよ」

 

 相変わらずのポーカーフェイスで冷たい口調のまま返してくるアルマに、食い気味に感情のままをぶつける。

 

「黙れ! お前を助けさえしなければ、シャニー達は夜賊に襲われるなんて事も無かった。それなのにお前は……!」

 

 そこまでウッディが怒鳴ったところで、アルマは突然立ち上がった。

 殴りかかってくるのかと思ったらそのまま風を切って素通りし、立てかけてあった槍を掴むと踵を返し、ウッディに顔を押し付け咆哮を止めさせる。

 

「私が悪かった。シャニーは何処にいる?」

 

 押され気味にシャニーの居場所をアルマに伝えると、彼女は退けと言わんばかりにウッディの横を抜けて、いつもの仏頂面を保ったままツカツカと早足で廊下の角を曲がっていた。

 その場に残されたウッディはぐっと悔しさを胸に押し込め、周りで様子をうかがっていた騎士達を呼ぶ。

 幸い、彼女たちは事情を話すとすぐに出撃の準備を始め、蜂の巣を突いたような騒ぎは一瞬のことだった。

 

 皆が出撃してがらんとした事務室。

 彼はようやく大きく一息吐くと思い切り拳を壁に叩きつけ、その先を睨む目が震える。

 アルマの態度に腹が立っただけではない。彼は自分自身に腹が立っていた。悔しくて堪らない。祈ることしかできない、己の無力さ。

 彼は悔しさを引き摺りながら医務室へ急ぐ。医療道具を持って急いで親友のところへ戻らなければ。

 親友の危機を、これ以上ただ見ているだけでいることなど出来はしなかった。

 

 

 

◆◆◆

 肩が大きく揺れ、荒い息遣いにもうもう白く湧きあがる。顎から伝う汗を拭う余裕すら、あの男は与えてくれない。

 

(一体……どうすれば良いって言うの? こんなに斬っているのに……なんでこの男はピンピンしてるワケ?!)

 

 最初に比べたら大分、剣が相手に通るようになっている。直撃までは行かずとも、それなりの感触があった事だって何回かあったはずだ。

 

「……ふふふ、さすがですネ。楽しい時間をどうも。しかし、そろそろ飽きてきましたネェ」

 

 狂気の根源は相変わらず。互いに致命傷を与えられないまま、時間だけが過ぎていく。

 掛けられる見下した言葉は、肩で息をするシャニーに焦りばかりを募らせた。

 一撃でも食らったら終わりのプレッシャーと、汗すら凍りつきそうな極寒の風。

 体力だけを奪われていくが、何度もディークの言葉を頭の中で繰り返す。

 

 ────自分の命は自分で守れ

 

 そう彼女は見習いの頃師匠に教え込まれた。

 己の士気さえ絶やさなければどうにだってなる、一定以上の戦場は己との闘いだと。

 

(絶対にッ、絶対に退かないぞ! もう少し、もう少しで援軍が来る。頑張れ、あたし!)

 

 彼女は果敢に鉄の剣一本で身を守り、仲間を助け、攻めの太刀を振るっていた。

 あの仮面の男も余裕を見せてはいるが、何かに焦っているのだろうか。精彩を欠き始めている。

 仮面で表情は見えないが、被弾する回数が最初に比べると明らかに増えていた。

 親友だけに戦わせるわけにはいかない。このチャンスにルシャナが男の隙をじっと見つめ時を絞る。

 

「これでも食らえ!」

 

 シャニーへ魔法を放つ男へルシャナがとっさに短剣を投げつけ、「なっ?!」刺さりはしなかったが短剣の重さがそのまま衝撃となって襲う。

 

(今しかない!!)

 

 その一瞬の隙をシャニーは見逃さなかった。脇に剣を構え、つま先に力を籠めた刹那、灰白の大地に白煙を巻き上げて飛び出し、風に乗って滑るように駆ける。

 電光石火に懐に入り込むと、守りを許さない颯が男を包んだ。

 

二の颯(ツヴァイ)! 万華の流星(ジリオン・ミーティア)!!」

 

 颯の中から現れては消える、瞬きすら許さない四方八方からの無数の斬撃が降り注ぐ。

 為す術なく斬撃の舞を浴びて斬り上げにのけぞった瞬間、夜空に飛んだ視界に映ったのは、両手を剣にかけ、飛び上がって渾身を叩きつけてくる騎士の姿。

 

「受けろ! 終の太刀、黎明の月光(クレッセントムーン)!!」

 

 確かな感触。確実に相手の肩を切裂いた。間髪入れず絶叫する男の背後へ回り、背中へ鋭く描くバルサミックムーン。

 短剣が光ってわずか30秒の出来事。

 持てる剣技の中でもこれ以上ない大技が最後まで決まると、今まで猛威を振るっていた男が目の前でうずくまって膝をつく。

 シャニーの許へルシャナが駆け寄り、二人で男に近寄る。何故アルマを襲ったのか、その理由を聞くために。

 

「あたし達を見くびりすぎていたようだね」

 

 剣についた血を振り払うと、うずくまる男の目の前に立った。

 彼女が男の目線を合わせようとした、その時だ。

 

(!! コ、コイツ……?!)

 

 先に男が目線を合わせてきた。貫かんとばかりの恐ろしい視線が鋼鉄の仮面を貫いて伝わってくる。

 その狂気に取り付かれた殺意の死線に気付いたシャニーは、焦って左手に持った剣を力強く握り締めるが、この距離ではどうする事が出来るというのか。

 

(し、しまっ!)

 

 男の放った螺旋描く電撃魔法の波動の前に為す術なくあっけなく吹き飛ばされる二人。

 一瞬の出来事で受け身も取れないまま太い幹に叩きつけられて飛ぶ視界。

 ようやく落ち着いても視界は動かせず、広がるのは赤が点々と浮き上がる白の世界。

 

(た……立たないと……。このままじゃ……マズい)

 

 士気だけで何とか体を起こそうとするが、頭を打った為か全身が痺れて思うようにいかない。

 頭から温かいものが伝ってきている事だけが分かる。

 

「くっ……」

 

 相手が鮮血を腕から垂らしながら、こちらへゆっくり歩んでくる。

 何とか剣を突き立て寄りかかりながら膝を突くシャニーだったが、どう頑張ってもここまでが精一杯で足が動かない。

 

(ルシャナは?! ルシャナはどこ??)

 

 ルシャナの姿を目線だけで探す。姿を確認は出来たが、うつ伏せに倒れていてピクリともしない。

 頭から流れてきたものが顎を伝って雫となり、下腹部をすぐに真っ赤に染めていく。

 仮面の男も一撃を喰らった場所を中心に、月光が鮮血をどす黒く照らし、明らかに斬れ込んでいるのが分かる。

 

(今ここで立ち上がる事が出来れば……まだ勝負は分からない)

 

 奥義を叩き込んでまだ立っている相手に絶望感が湧くが、師の言葉を胸に悲鳴をあげる体に鞭を打って何とか立ち上がろうとする。

 男がある程度シャニーに近づき、ようやく彼女の膝が少しだけ浮いた時だった。

 

「あ……っ!?」

 

 シャニーは声にならない声をあげ、表情が凍り付くように固まっていく。

 

(そ、そんな……そんなコトって……)

 

「この私をここまで追い詰めたのは、アナタが初めてです。でも、私を倒すなんて、人間のアナタにはできっこない話ですよ。()()()ことができないアナタではね……」

 

 大きく引き裂かれ、今もどくとくと血が流れ出す肩へ男が手をかざすや、見る見るうちに塞がっていく傷。

 これが魔法の力なのか? いや、こんなものは見たことも無い。

 

(杖もなく回復魔法を使う何て……ありえるの?!)

 

「私、不死身なんですヨ。聞いてないって? だって言ったら……その顔、見れないじゃないですか?」

 

 シャニーが目を見開いて驚いているほんの間に、与えた傷はすっかりなくなって元通りになってしまった。

 その顔を見下ろす男の口元は、これでもかと言うほどに快楽に吊り、白い歯が見えている。

 まるであの二度と無いようなチャンスも、最初からわざと見せてきたのかと思うくらいに憎い顔を見せつけてくる。

 

(捉えたはずだ。あれだけ全部で打ち込んだのに! 不死身……?? 何なのよッ、コイツ!)

 

「あはは、そんな驚いた顔をしないでください。でも……いいですネェ。焦りと絶望に塗れたその顔ッ!」

 

「う、うるさいッ……」

 

 垂れてくる血で半開きしかしない目を必死にこじ開けて闘志だけは渡さない。

 だが絶望はもう、体を蝕んでいた。何とか突いた膝は力なく崩れ、再び座り込んでしまっている。

 垂れてきた血の赤が混じり、どんどん前のめりに崩れていく視界を止められない。

 

(どうすればいい……あの技で仕留められないんじゃ……)

 

 焦りや絶望を、何とかして相手に見せないように努めているつもりだった。その甲斐なく、男にそれが伝わってしまっていると思うと悔しい。

 今、この両手を支える剣を蹴飛ばされたら、もう身を起こす自信はなかった。

 崩れた虚ろな視界に映らない男の姿。食いしばって顔だけもたげると、心を直接逆撫でるような絡みつく声を浴びる。

 

「ですが……惜しい、本当に惜しい。ホンキでアナタを殺したくなってきましたよ。大丈夫、今度は痛みも伴わずに、血すら灰にして差し上げますから。では……行きますよ!」

 

 男が血に濡れた右手に、耳を劈く不快な音を立てながら青い電撃を宿す。

 たちまち血は燃え上がって黒くなり、そして白くなって宙へ散って行った。

 

(こいつは……本当に不死身なのかッ。あたしじゃ……ムリなの!?)

 

 迸る稲妻がゆっくり歩み寄ってくる。

 今までなかった恐怖を、ここに来てとうとう覚え始めてしまった。

 騎士として、最も覚えてはいけない感情。

 

(あたし……死んじゃうの……)

 

 頭では分かっている。だが、もうどうしても抑え切れなかった。

 死を前にした絶望を、初めて覚える。

 彼女は断罪の雷から目を背けて、下を向いてしまった。

 

(お姉ちゃん……ごめん…………)

 

 もう立ち上がれない。もうこの突き刺さった剣を引き抜いてあの男に立ち向かえない。

 激痛が呼んでいる、早くおいでと。目の奥にスッと意識を預ければ楽になれると。

 もはやこれまで……、俯いた視界で稲妻に照らされて輝く何かが呼ぶ。

 

(これ……。……ロイ様。そうだ、ロイ様との約束も……破っちゃうね……)

 

 それは自分の首からかかっているロケットだった。ベルン動乱の時、仲の良かったロイからプレゼントしてもらったもの。

 嬉しくて、嬉しくて、それからずっと肌身離さず身に着けてきた。

 あの時、つい流れで交わしてしまった約束などすっかり忘れていたのに、何も考えられないはずの頭に浮かんだ彼の優しい顔。

 

…………────────

 

「えー! あたしなんかに、そんなことしてくれなくていいよ! それに、ロイ様から物をもらったなんてディークさんに知られたら、あたしゲンコツされちゃうよ!」

 

 何でそう言う流れになったのかはあまり覚えていないが、ベルンへ攻め込む直前にエデッサでの休息日を使って、一緒に買い物へと出かけた。

 そう言えば地元だから町を案内すると言ったか……。

 その道中で立ち寄った店で、ロイがシャニーにロケットを差し出していた。

 

「いいって、ディークには僕から伝えておく。君は僕の部下というだけじゃなくて、大切な同世代の親友なんだから。このぐらいしかしてあげられないけど、受け取って欲しい」

 

 そのときは、大切な親友と言われて嬉しくなって言葉に甘えた。

 ロイがディークに説明をしても結局ゲンコツを浴びたが、貰って良かったと思った。

 

「中に何を入れるの?」

 

「うーん、やっぱこれかな」

 

 そのとき、シャニーから渡された写真を見て、ロイはしばし言葉を失った。

 男性と女性の写真。女性はかなりシャニーと似ている。

 

「それね、あたしのお父さんとお母さんの写真なんだ。もう死んじゃったけどね」

 

 説明を受けなくても、ロイには分かっていた。

 そして改めて思い知る現実。動乱に終止符が打たれたとき、彼女は帰る。命を危険に晒す日常へ。彼女の母と同じように。

 動乱と言う異常が収まれば平穏へと戻る、自分たちとは違う世界へ行ってしまう。

 

「シャニー」

 

「うん?」

 

「死んじゃだめだよ。死んだら、皆が悲しむ。もちろん、僕だって」

 

 両肩に手を置かれて、真剣な眼差しで迫られるものだからシャニーは視線が泳ぐ。

 いつもの気さくな青年の顔ではない。ただただ、まっすぐ見つめられて、どこに視線を逸らしたって彼の顔が世界に映りこんでくる。

 

(え……どうしたんだろ、ロイ様)

 

「生きて……、生きて、生きて。生きて絶対に、フェレへ遊びに来てくれ」

 

 突然のことで深く考えずに返事をした記憶は今でも鮮明だ。

 何故かすごく焦ってしまっていたことを今でも覚えている。

 

「へ、へーきだよ、へーき! そう簡単に死ぬわけないじゃん。ロ、ロイ様だって無茶しちゃダメだよ」

 

────────…………

 

「これで終わりです! お死になさい!」

 

 仮面の男が思い切り振りかぶり、彼には珍しい怒声と共に掲げた手に轟く稲妻をぐったりとうな垂れるシャニーへと投げつける。

 そんな絶体絶命を前にしてもシャニーにはもうどこか他人事のようで、あの時のやり取りを思い出していた。

 ぼんやり映る世界の真ん中を、青白い光が突き破ってくる……。

 ロイとした、死んではいけないと言う約束。

 そして、ペンダントの中で笑う在りし日の母親から、常に言い聞かされていた言葉。

 

 ────死ぬな! イリアの礎たれ! 

 

 彼女の頭の中で、親と友どちらも掛け替えのない二人の言葉が融合して頭に響き渡った。

 

 ────絶対に諦めるな。絶対に死ぬな。約束したじゃないか!

 

(でも、もう無理だよ……こんな体じゃ……)

 

諦めるな!

 

生きて、生きて、生きてここへ帰ってこい!

 

(あの声が、あの人が呼んでる……。帰りたい、あたしだって、帰りたいよ!!)

 

 ずっと燻っていた青い焔が千切れた鎖の間から噴き出して、生を渇望して爆発するように燃え上がる。帰りたいとひたすら慟哭して荒れ狂う。

 その命の焔を掻き消そうと迸る蒼白の閃電が極寒を貫き引き裂いていく。

 渾身の魔力を用いて放たれた蒼電の螺旋が、シャニーの打ち付けられた大木もろとも消し炭すら残さず飲み込んだ。

 

「はぁ……はぁ……ふふふ……」

 

 流石の彼も少々息が上がったようだ。

 煙が収まり、目の前に荒野が広がるのを見届けると、彼はふっと一息ついた。

 

「ふふ……ははは……あはははは!」

 

 破壊と言う最高の悦に浸り、欲望を満たした彼は快哉を叫ぶ。

 だが、勝利に終わった次の瞬間にはもう、彼の顔から笑顔は消えていた。

 とっさに身を翻したが、首筋を再び染め上げる赤に不愉快そうに口元が歪む。

 

「甲高い声で笑うな。耳障りだ」

 

「ぐっ、アナタ……流石にしぶといですね」

 

 すぐに止血をした彼は、自分の背後から騎士剣を喉に突きつけるシャニーを睥睨する。

 背後で見開かれる翠の眼を見て、男は喜んだ。

 

「いやぁ、流石ですネ。あれだけの怪我を負っていて、まだこのような行動が取れるなんてね」

 

 首にかけた剣を更に食い込ませる。彼女の目は血走っていて、いつこのまま剣を振り回しだすか分からない。

 そんな一触即発の重い静寂の中でルシャナがようやく意識を取り戻す。

 大事な時に気を失い、事態がどうなっているのか慌てて周りを見渡そうとするが、その必要もなかった。

 目の前で親友が敵の背後から剣を突きつけているのだから。

 飛び出そうとするルシャナは友の眼を見て息を呑んだ。親友の姿をした悪魔でもいるのか? 

 いつも知っている瞳と似て非なる碧き目に満ちているのは殺気。

 

「これ以上好き勝手はさせない。……この場で斬る!」

 

「おぉ……これは恐ろしい……」

 

 冬空さえ凍てつかせる殺気を前にしても、仮面の男の口元はただ笑うだけだった。

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