ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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前章(第7章)のあらすじ

 エデッサの城下町には、アルマを襲撃した組織の男二人が滞在していた。
 実行犯のウェスカーはマスターである黒ずくめの紳士に襲撃が失敗したことを告げる。
 失敗の原因はアルマと共にいた者であると知り、紳士は興味を持つ。

 彼は酒場に現れたシャニーと接触し、愛刀を握らせた。
 それは高い魔力を宿した魔剣。それに感付いたシャニーはすぐに手放してしまう。
 この反応を見て紳士は確信する。彼女が (セチ)の契約者であると。

 この情報を基に、ウェスカーは彼女に()()()()()ため、彼女たちを襲撃。
 一度はウェスカーに膝を突かせたシャニーだったが、彼は目の前で傷を回復の杖もなく癒して見せ、逆に豪魔道で吹き飛ばれてしまう。

 絶体絶命の中、首からかかったロケットが視界に入る。
 それはベルン動乱の時にロイがくれたもの。

────生きて……、生きて、生きて。生きて絶対に、フェレへ遊びに来てくれ

 ロイと交わした約束を思い出した彼女は、体の奥底から燃え上がる青焔に支配されて剣を振り回し始めた。
 ようやく契約者の片鱗を見せ始めたところで、もう十分と、ウェスカーは彼女を完膚なきまでに叩きのめす。

 もう今度こそ立てなくなって下を向いたシャニーの許へ、レイサやアルマに加え、天馬の大軍が駆けつけて事なきを得る。

────『滅蝕』(ウロボロス)様、またお会いできる日を楽しみにしております

アルマへそう言い残して、ウェスカーは撤退していった。


第8章 ヴァルキューレの休息
第1話 反目の槍


 あんな怪我人を出すほどの大事件だったのに、ちょっと扱いが雑過ぎないか? 

 いくら賊の出没が茶飯事だからって危機感はないのか? 

 本当にこの騎士団は有事ボケしている。ああ……戦わなかった連中には分からないか。

 

 戦後のイリアでは賊が活発に行動しており、その討伐が毎日のように行われている。

 昨夜の話もその一環として片付けられてしまった。街道から外れた人目のつかない場所で良かったと言うところか。

 団長は騎士団間会議に出すつもりだったらしいが、今回ばかりはイドゥヴァ副団長が正解だ。

 あんな連中の事を会議で出したとしても何の意味もない。ただ犠牲者が増えるだけ。

 奴らがどう動こうとも、私のやるべき事は変わらない。

 まずは……団長のところに頭を下げに行くとするか。

 

 

 事件から二日後の早朝、騒然となる第一部隊。

 そこには見慣れた第一部隊の面子と兼任部隊長のティト、そしてアルマ。

 彼女は笑顔でティトに頭を下げていた。

 ティトは、いや、その場にいた者は皆、それと同時に放たれたアルマの言葉に絶句していた。

 朝から問題児が部隊を訪れ、何をしに来たかと思えば……。

 

「団長、是非、私をあなたの弟子にしてください。お願いします」

 

(コイツ……寝ぼけているのか)

 

 副将ソランのただでさえ厳しい目つきがまるで槍のように尖る。

 何の前置きもなく、突然朝のミーティング中に現れてこんなことを言うのだ。

 他の人間が言った言葉なら、朝から飛び出たハードな冗談……の程度で済むかもしれない。

 だが、それを言った人物がアルマだけに、冗談はまずない。

 一同は緊張と言うより、何か得体の知れない感情で不安になった。

 

「……朝から一体どうしたの? あなたにはイドゥヴァさんがいるでしょう」

 

 ことのほか、話をひっかけられたティトは慎重にならざるを得ない。

 彼女はいつも以上に言葉を選び、事態の収拾を図ろうとする。

 昨日、妹が大怪我を負って意識が戻らないと知らせを聞いてから、今は大分落ち着いたものの、食事も喉を通らないほど気持ちが不安定なのに。

 

 やっとまとまりかけてきた各部隊に混乱を招きたくはないし、これ以上、悩みの種を増やしたくはなかった。

 隊員達もそれが分かっていたから、何とかアルマを第二部隊へ戻そうと、あれこれ理由を考えては撤退を促す。

 

「イドゥヴァ部隊長から、私は破門を受けました。賊一人倒せず逃がしてしまうような者を副将にした覚えは無いと」

 

 誰もが顔を見合わせて首をすくめた。

 確かに数日前、第二部隊の詰所から、アルマを名指しして怒鳴るイドゥヴァの声が聞こえていたが、だからと言って第一部隊に寝返るとはとても信用ならない。

 ソランがさっそく引っ張り出そうと動き出したが、アルマは構わず頭を下げている。

 

「私は団長と同じく、イリアを素晴らしい国に変えたいと切に願っております。団長の右腕となって働けるように努めますので、どうか私を配下としてお加えください。よろしくお願いします」

 

 随分ムシのよい話。今まで直接言ったことは無いにしろ、散々団長のやり方を非難してきた人間が、今となって考えに共感していると言って握手を求めてくるなんて。

 ここまで露骨なやり方であれば、誰でも何か裏があるのでは無いかと思うのは当然かもしれない。

 ソランはティトの横へ寄り耳打ちを始めた。

 

「団長、これは明らかに罠です。きっとイドゥヴァ部隊長と意を通じて、何か良からぬことを企んでいるに決まっています」

 

 ティトはアルマを一瞥する。彼女は笑顔で、大人しくこちらの反応を待っている。

 今まで彼女は、イドゥヴァ部隊長の右腕として、新人ながらその働きは目を見張るものがあった。

 ところが今回、そのイドゥヴァに破門されたと言うのである。

 ありえない。絶対に何かある。有能な部下を、そう簡単にこちらへ引き渡すはずがない。

 

「めったなことを言うものでは無いわ。証拠は無いし」

 

「ですが……」

 

 しばらく耳打ちが続く。しかし第一部隊は業務が立て込んでいて、あまり時間を割く事が出来ないのもまた事実。

 今日も例に漏れず、ミーティングが終ったら即、エトルリアに飛んで行かなければならない。

 エトルリア貴族との間で傭兵受け入れの打ち合わせがあるのだ。

 ティトは隊員たちの意見も最大限尊重したかかったが、今回は自らの判断を通した。

 

「……いいわ。貴女の実力を認めて、第一部隊所属の騎士として今日から任務についてください」

 

「ありがとうございます」

 

「だ、団長!」

 

 その場にいた誰もが、ティトはこの生意気な新人を突っぱねると思っていた。

 それなのに、現実は全く逆で、アルマを受け入れると団長は回答したのだ。

 しかもあろうことか、彼女の実力を認めた上で、だ。

 もちろん周りからは、思い留まって欲しいという気持ちが言葉になってティトを囲んでくる。

 

「ただし」

 

 その仲間の言葉を遮って放たれた団長の警告。部下達はすぐに言葉を喉元に留めた。

 団長のことだ。きっと何か考えているに違いない。部下達はその後に続く言葉を信じた。

 

「入団して半年になるとは言っても、私から見れば、貴女はまだまだ経験不足の新人よ。イドゥヴァさんの部隊ではどういう扱いだったか知らないけれど、単独で行動する事は基本的に無いと考えて。正当な理由が無い限り、今までのような勝手な行動は謹んでちょうだい」

 

 妹の奔放さにも手を焼いたが、このアルマもなかなかに手強い事を今まで見せられてきた。

 部隊の中をかき乱そうとする事だけには、ハッキリと釘を刺しておかなければなるまい。

 恐らく、イドゥヴァが何か手を回しているとすれば、それだ。

 

「何かするときは周りに相談するか、私の許可をとって。これを守らなかったら、即十八部隊へ配属を命じるわよ。理解できるなら、これからエトルリアに行くから用意をして」

 

 アルマは無言で笑みをこぼすと、再びティトや先輩に頭を下げる。

 

「これからは心を入れ替え、先輩方に従って行きたいと思います。どうか正しい判断で私を導いてください。よろしくお願いします。では準備してきます」

 

 厩舎のほうへ走っていく赤髪。何かすごい嬉しそうだったが、本当に破門されたのだろうか? 

 今までに見たことのないような彼女の振る舞いだったので、ある者は改心したのかと思い、ある者は更に警戒心を強めた。

 むろんどちらの感情を抱く者が多かったかは明白であるが。

 その一人が、ティトの傍に寄って心配そうに声をかけた。

 

「団長、いくら団長と言ってもあんなのを傍に置くなんて信じられません」

 

「ソラン、そう言わないで。彼女のひたむきに任務へ当っている姿は知っているわ。しばらく様子を見ましょう。そろそろ異動辞令も近いし、その頃でも遅くないわ」

 

 団長がそう言うなら、今回はそれで止めた。団長には団長の考えがあるのだろう、と。

 だが、それでもどうしても拭いきれない危機感。あの野心家であるイドゥヴァの腹心だったのだ。

 アルマ自身もかなりの野心家であることを皆は知っていたから、そうそう簡単に改心するとは思えるはずもない。

 むしろ、権力取りに失敗したイドゥヴァを見捨てて、団長を利用しようと今更言い寄ってきたのではないかと思えてしまう。

 邪推とはとても言い切れない材料ばかりで、納得できない思いが自然と顔に表れていた。

 

「どうしたの?」

 

 ティトも副将の曇った顔の理由が分かっている。

 全部を理解してもらえることは無いだろう。尚更、今のうちに不満を聞いておきたくなる。

 ところが、ソランからは逆に質問が飛んできた。

 

「本心をお聞かせください」

 

「え?」

 

「団長も、彼女の企ての疑いが少なからず頭にあると思います。それでも、彼女を第一部隊で面倒を見ることにした本当の理由をお聞かせください。いくら団長の意向とは言え、今回の決定は今後の天馬騎士団にも係わるかもしれません。納得できるお答えをいただきたいのです」

 

 今までは信頼する団長の考えなら、疑問を投げかけても従ってきたし、今回だって一度は飲み込んだ。

 だが、やはり今回ばかりは団長の真意が読み取れない。

 ティトはお人よしだから、イドゥヴァに見捨てられたアルマを哀れに思って拾ってやったとしたら、まんまと罠にはまっているのではないか。

 少しばかり捻くれているかも知れないと思うくらい、副将は心配だった。

 

 珍しい部下の態度にティトは一瞬目を丸くしたが、ふうっと深く息を吸う。

 彼女も独断で決定したので反感があることが分かっていたし、考えを分かって欲しいと言う気持ちが強かったので、包み隠さず話すことにした。

 

「そうね、なんて言えばいいのかしら。……暴れ馬を手綱で繋いでおくには絶好の機会とでも言っておこうかしら」

 

 ティトもアルマの型破りな行動には警戒していた。

 だが、特に規律を犯しているわけでもなく、所属部隊があろうことかイドゥヴァの部隊という事から、今までは手を出すことが出来なかった。

 それが今回、こうして自分から鳥かごに入りに来た。

 彼女の実力を測ると同時に、その行動を監視できると思えば、むしろチャンスだ。

 

「団長はすぐ厄介事を引き受けてしまうのですね」

 

 団長が覚悟を決めていると分かると、ソランはふうっとため息をつきながらも口元は笑っていた。

 そのつもりなら、自分たちも肚を括って彼女を迎え入れなければならない。

 

「厄介事だなんて。やり方は違うけど、私もあの子もイリアを変えたいと切に願っている。きっと話し合えば分かり合えると思っているわ」

 

 そう上手く行けばいいが……そう言いたげなソランの視線は向こうから歩いてくるアルマへと向けられている。

 

(ティトは相変わらず優しい人だ。その分、我々が支えてやらねば)

 

 ソランがアルマに歩み寄り、エトルリアへの航路を説明し始めたのを見て、皆出発の準備を整えだした。

 出発の三十分前、ティトは何かを思い出したかの様にぽんと手を打つ。

 

「準備をしてちょっと待っててもらえる?」

 

 ティトが走って城へ戻って行った。部下達は大方予想のつくその行き先を見守る。

 朝からずっとそわそわしては、城の同じ場所をちらちらしていたから分りやすかった。

 

「よっぽど心配なんだね」

 

「そりゃそうでしょう。口に出した事はないけど、団長は彼女を相当大切にしているみたいだし」

 

 口々に出る世間話をアルマはずっと聞いていた。どうやらシャニーのことらしい。

 ティトが心配しても無理はない。全身血まみれの状態で意識を失い、あれから2日間寝たままなのだから。

 

「でも、たかが夜賊ごときにボロボロにされるなんてね」

 

 ぴくっと眉が動く。しかし、団長に釘を刺されて了解を伝えたばかり。

 

「あの子ってベルン動乱で活躍して勲章貰ってたよね? 剣の腕は騎士団でも随一って聞いてたのに」

 

「どーせ、たまたまうまく行った話が大きくなっただけでしょ」

 

 ここまで黙って聞いていたアルマだったが、親友が貶されているのを聞いて黙っていられなくなった。

 先輩達の輪に入っていく。警戒する相手が寄ってきたので先輩達は笑いが止まった。

 

「もし、シャニーを襲ったのが夜賊ではなかったとしたら?」

 

 突然輪を突き破るように入ってきたと思ったら、不躾な態度で妙なことを聞いてくる。

 先輩たちは顔を見合わせた後、アルマに怪訝な目を向ける。

 

「どういうこと?」

 

「単刀直入に言えば、貴女達なら怪我では済まなかったと言う事です。あいつは夜賊なんかじゃない。誤情報にまかれて親友を貶すのは止めていただけませんか?」

 

 先輩達がむっとしたのは言うまでもない。お前らは雑魚だと言われたようなもの。

 

「賊じゃなかったら、一体なんなのさ」

 

「それは、先輩方は知る必要のない情報ですよ」

 

 言ったところでこの人たちが理解できるはずなど無い。

 エレブと繋がる()()()()から来た連中だなどと言ったところで。

 

「……へぇ、他人に興味無さそうに見えるけど、案外仲間思いなんだね。相手があんたを仲間だと思ってくれてると良いね」

 

 皮肉の混じった言葉がアルマに返ってくる。

 こいつに仲間など居るはずがない。先輩たちの顔がそう言っている。アルマはそれへ笑みを浮かべて楽しげに話した。

 

「私は自分の認めた人には誠意を尽くしますよ」

 

 ますます先輩達の剣幕が厳しくなった。団長やソランは部隊に溶け込めるようにしてやれと言ったが、相手がその気では気が削がれる。

 

「団長だって、もちろん同じ夢を持った人として敬愛すらしています。少なくとも実力の伴わない人は階級が何であろうと認められなくて当然だと思いますが」

 

 皮肉には倍の皮肉で返す。ここまであからさまだと返す言葉もなかった。

 これはとんでもなく厄介な存在を、第一部隊で面倒を見ることになってしまったと、誰もが眉間にしわを寄せている。

 暴れ馬は早く手綱で繋がなければならないだろう。

 今はまだ厩舎に放り込んだだけ。このままでは厩舎が滅茶苦茶にされるだけだ。

 

「そこまで言うならあんたの実力、とくと見せてもらおうじゃないのさ」

 

 槍を構える先輩。その目線で、アルマにも槍を取れと指図する。

 

「どうなっても知りませんよ?」

 

 アルマは仕方なく、売られた喧嘩を買う事にした。

 

(第一部隊のお手並み、拝見させてもらおうか)

 

 他の隊員の制止も振り切って、二人は空中に舞った。

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