ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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前話のあらすじ

出撃前の僅かな時間を使って、ティトはシャニーが眠る医務室を訪れる。
普段元気いっぱいの健やかな顔が無言に沈む様子に、何度も頭を撫でてやる。
無茶だけはするな……何度も眠る妹に声を掛け、彼女は出ていった。

その次に医務室を訪れたルシャナは、ウッディにシャニーの変貌ぶりを伝える。
青焔に包まれて、見開かれた眼を光らせながら殺意を叫ぶ姿を。


部隊に戻ったティトは、アルマ相手に私闘をしていた隊員たちをたしなめる。
エトルリアへの道中、アルマはイリア騎士の誓いに対しての不満を躊躇わず口にしていた。


第3話 銀の貴公子

 一回の外回りで一つでも多くの顧客に顔を出しておきたい。

 まずはエトルリアに行って、その足でオスティアへ行って……所要時間は3時間くらい。

 ああ、でもオスティアでのアポはエトルリアでの謁見から5時間後だわ……。

 2時間どうしようか……。

 でもその前に……あの人に何と報告すれば良いのだろう。

 とても言い繕うことが出来るような状態ではない。けど、皆の頑張りもアピールしないと……。

 

────8月12日 AM9:15 エトルリア王国 王都アクレイア

 

 丸一日かけてイリアから目的の地エトルリアの王都、アクレイアへと降り立つ。

 大陸の繁栄の象徴である王都は、見るもの聞くものすべてがイリアとは比較にもならない。

 洗練された人、建築様式、整備された道や公園には多くの人が行きかい、商売が起きる。

 まるでどこか異次元にでも来てしまったのかと錯覚すら覚え、誰もが最初に訪れたときにはその栄華に圧倒されて、そして惚れ込んでしまう。

 人を魅了する不思議な力が、この国からは溢れている。

 

「おい、新入り。列を乱すな」

 

 例に漏れず、白と黒の世界から来たアルマも立ち止まり、丘のふもとに広がる絢爛なるさまざまな色のコラボレートを無言で見つめていた。

 それに気付いた副将のソランが早速目をつけ、やむなく足を再び動かすアルマの後ろにぴたりとつくように歩く。

 

「噂に聞いていたとおり、エトルリアは立派な国ですね」

 

 気配に気付いたのか、アルマがに声をかけてた。

 まだ完全に仲間と認めた相手ではない。むしろ警戒している人間からあっさり声をかけられ一瞬言葉が喉を痞えた。

 彼女はティトの最も頼れる部下であり、ティトが団長としての業務をこなすときの第一部隊最後の護り手。

 それを彼女自身も自覚しているから、どうしてもアルマに気を許せなかった。

 

「ああ、大陸一と言われる国の王都だ。悔しいことだが、どれをとっても我々では勝ち目が無い」

 

「でも、イリアもここを目指さないとダメですよね? 団長?」

 

 今度は話をティトに振ったアルマだが、その声に答える声がない。

 ティトも町並みを眺めながら歩いていた。

 

「団長?」

 

「え、ええ……。いつかはイリアもこうなって欲しいわ」

 

 再度話しかけてようやく気付いたティトから返ってきたが、どこか生返事。

 笑顔でその答えを受け取ったアルマ。彼女にはティトが何を考えているか大方見当がついた。

 

「うっはーっ、副将、あれ見てくださいよ! あっちも! うまそーな果物が並んでますよ!」

 

「エダ! お前という奴は! 後輩も入ってきたのだから少しは成長しろ!」

 

 直属の部下にソランが手を焼いている間に、アルマは街並みのさらに向こう、裕福な者達が住む貴族街を睨み付けた。

 そこは、生返事をしたティトが見ていた場所でもある。

 

(なって欲しいじゃないんですよ。そうするんですよ、我々の手で。そして、その舞台にあなたはいない)

 

 

 

 ◆

 エダの懇願は副将に通じることは無く、騎士達は繁華街を素通りし貴族街へと入る。

 イリア騎士でもなかったら、田舎者はこんなところには決して足を踏み入れることはできない。

 イリア天馬騎士団の紋章を見れば、貴族街門を護る衛兵も文句は言わない。

 長年培ってきた信頼が、彼らの槍を下げさせる。

 先ほどまで騒がしかったエダも、さすがにここでは大人しい。

 ここで下手な行動をとることは、仕事を溝に捨てるようなものだと分かっているからだ。

 しばらく貴族街を歩き、街の中でも一番王宮に近い屋敷に到着する。

 ここは、エトルリア軍事を司る軍将の一人、魔道軍将セシリアが当主を務める屋敷である。

 ティトの代になってからエトルリアで営業をするときは、まずセシリアとコンタクトを取り、契約を取り付けることが通例となっていた。

 

 

「久しぶりね、ティト団長」

 

 セシリアは快くティトたちを屋敷に迎え入れた。

 彼女はティトが天馬騎士団の団長になったことを、エトルリア中の誰より喜んだと言われている。

 彼女の堅実で実直な性格に加え、今ではエトルリアの上級文官を務めるクレインを窮地の中でも助けた腕と騎士道精神を認めたからだ。

 いつもどおり、セシリアから仕事を紹介してもらい、契約書にサインを済ます。

 天馬騎士団の団長と言うネームバリューは、この大陸のどこでも通用する強力なもの。

 それも手伝って、エトルリアに限らず第一部隊の営業はスムーズである。

 

「ようやくエトルリアも、表面的には動乱前の水準にまで戻ってきたというところね」

 

 仕事の話をひと段落させ、互いに国の近況を報告しあう。

 セシリアはこれが楽しみであり、実はティトにとっては逆であった。

 

「エトルリアは伺う度に感動するばかりです。国の中枢幹部があれだけ捕らわれたのに、もうここまで復興が進んでいるなんて」

 

 ティトには驚くほか無かった。周りの国はどんどん復興していく。

 そして、その驚き以上に募る不安と焦り。

 決してティト一人でイリアを動かしているわけではないが、イリアでも3本の指に入る大手の騎士団の長である以上、国の復興への責任を感じずにはいられない。

 

「皆がひとつの目標に向けて頑張っているから、予想以上の早さで進んでいるわ。大陸一の国として、リキアのフェレ候にも負けていられないもの」

 

 エトルリアだけではなく、ベルンもリキアも順調に復興は進んでいると偵察班は伝えてきていたが、それは事実であるようだ。

 特にリキアは英雄ロイという絶対的な主導者の下、その基盤は以前より固くなったとさえ言われる。

 

「ところで、イリアのほうは順調かしら?」

 

 ティトが最も恐れていた質問がとうとう飛んできた。

 近隣の状況を聞けば聞くほど、どうやって説明すればいいのか詰まっていく。

 他国とイリアでは事情が違いすぎる。とは言え、それを理由に遅れをとっているなどと言える筈も無い。

 だが、部隊の皆にも、そして自分にも自分達の置かれている状況を再確認させるため、彼女は敢えて選べない方へ舵を切った。

 

「イリアは……残念ながら他の国に比べるまでも無く復興が遅れています」

 

「……そう」

 

「皆の向いている方向が……バラバラなんです」

 

 他の国には、絶対的な指導者がおり、彼らが強力なリーダーシップを発揮している。

 その為、皆は敷かれたレールに沿って、一直線に目標へと駆け抜ける。

 エトルリアはミルディン王、ベルンはギネヴィア女王、そしてリキアは英雄ロイ候とリキア同盟盟主リリーナ女候。

 彼らは確実に光へ向かって道を作り、その光に剣をかざして民の道しるべを作っている。

 

 だが、イリアはそもそもが諸騎士団の集まりであり、厳密に言えば国とも言えない。

 各騎士団の独自性が尊重される一方で、ベクトルは常にばらばら。

 長達が引くレールも交わりこそすれ、一本には決してなりえない。

 

 伝統やしがらみがイリアをまとめる妨げになっている。だが、ティトはそれを言い訳にはしたくなかった。

 各騎士団はやり方こそ違えど、復興に向けて精一杯努力しているのだ。

 イリアには、イリアのやり方がある。必要以上に他国を模す事はイリアの独自性を損なう。

 

 そうは言うものの、目に見えて遅れをとるイリアの復興状況を目の当たりにしては、そうも言ってはいられない。

 この現実をどうやってセシリアに話をすれば良いか、道中ずっとそればかり考えていた。

 

「勢力がいくつもあると、まとめることはなかなか難しいでしょうね」

 

「はい。しかし、他の国ではそれを克服して今があるのです。イリアだけできないなんて言いたくありません。我々騎士団長の力不足の致す所で、無様な姿を晒して恥じています」

 

 ティトは力なく言い切った。人をうまく動かせていないことは、彼女自身が一番身にしみて理解している。

 いかに、人の信頼を得ることが貴重なことか。対立する人間に理解を求めることがどれだけ難しいことか。

 理想と現実の狭間で、彼女はもがいていた。

 

「そう気を落とさないで。まだまだこれからよ」

 

「そうですよ、団長はイリアを生まれ変わらせると私達に誓ってくださいました。私はそのお力になりたくて、直訴したんですから」

 

 慰めたセシリアに続く声。聞きなれない声に、セシリアは声のほうを見る。

 焦ったのはティトとソランだ。残りの面子はただただ驚くのみ。

 何せ何度もセシリア邸には仕事で来ているが、平隊員が直接セシリアと会話をすることなど今まで無かった。

 いつもティトやソランが話をし、その間じっとしているだけ。

 他の子ならいい。二人が驚いたのは声の主がアルマだからだ。

 世間知らずな新人が得意先、それも大国の軍事ナンバー3に易々と声をかけて良い訳は無い。

 二人はセシリアが気を損ねない事だけを祈った。

 

「あら、見慣れない子ね」

 

 どうやら表情からするに最悪の事態は避けられそうだ。

 ソランは先手を打つべくアルマの前に立った。

 

「申し訳ございません。当部隊へ入隊してまだ1週間も経たない新人でして。教育不足による大変な失礼をお許しください」

 

「まあ、そんな若いのに団長直下部隊に配属だなんて、よほど優秀なのでしょうね」

 

 せっかくうまい方向へ進んだと思ったのだが、セシリアが彼女に興味を持ってしまった。

 嫌な予感がよぎり、そしてそれは現実へ。

 アルマはソランの横をすり抜けてセシリアの前まで歩いていったのだ。

 

「私はアルマと申します。団長とともにイリアを生まれ変わらせたいと願い、今こうして働いています。どうか以後お見知りおきください」

 

 先輩達に目の前で、会話だけに留まらず名刺まで手渡してしまった。

 戦慄が走る。例え相手が興味を持ったとしても無礼では到底済まない。

 

「も、申し訳ありません! この者には後で言って聞かせますので、なにとぞご無礼をお許しください」

 

 セシリアとの接点がなくなるということは、エトルリアとの接点が切れるということ。

 大得意のエトルリアで営業ができなくなれば、それは天馬騎士団の、イリアの存亡に関わる。

 二人は深く深く頭を下げたが、セシリアは笑ってやめさせた。

 

「無礼だなんて。アグレッシブな若者が現状を変えるキーとも言えるのよ。守れば現状維持、攻めれば現状打破。共に国の繁栄のためにがんばっていきましょう」

 

 

 

 ◆

 セシリア邸を出てきたティトとソランはいつも以上にぐったりした表情。

 こんなに肝をつぶす思いをして営業をしたのは久しぶりだ。

 

「アルマ。お前はやって良い事と悪いことの区別もつかないのか?」

 

 貴族街を抜けたあたりで、ソランはアルマに話しかけた。

 怒鳴るわけでもなく、ただ追求する冷たい怒りがひしひしと他の隊員にも伝わる。

 鬼将軍の異名を持つ程の人物だ。

 第一部隊の隊員なら、誰でも一回はこの人の怒りに触れた事があるからその怖さは知っている。

 それを知らないのかアルマは即言い返した。

 

「私は間違ったことを言ったとは思っていません。団長の言葉を信じて私はこの部隊にいます。それに、これから仕事をするに当たって、得意先に名前と顔を覚えてもらうことの何がいけないのか分かりません」

 

「やり方が問題なんだ。団長との会話に割り込んで話を折った。失礼だとは思わないのか?」

 

「思いません。セシリア様は団長とだけ話をしていたわけではないと私は思います。それに、セシリア様も仰っていたではないですか。攻める事は現状打破に重要なことだと。私は現状維持をするために騎士団に入ったわけじゃないんです」

 

 新人のあまりに強気な態度に驚く彼女だが、理由は何であれ無礼であることに違い無い。

 セシリアに対してだけではなく、ティトに対しても。

 それを教えようとしたそのとき、そのティトから呼ばれた。

 

「……。困った奴だ」

 

 大方内容は次の営業へのタイムスケジュールなので、これ以上アルマを追求せず、そちらを優先してティトの許へと向かう。

 ソランがその場を離れると、待っていたかのように先輩が一人アルマに寄ってきた。

 

「あんた新人なのにすげーな!」

 

 それはセシリア邸に来る前、市場できょろきょろしていてソランに叱られていた先輩だ。

 人懐っこい性格なのですぐにアルマにも興味を抱く。

 

「別に、私は特別なことをしたとは思っていませんが」

 

「クールな奴だね。カッコイイじゃん」

 

 その後もいろいろ話しかけるが、アルマはそれに相槌を返すだけ。

 どうも話に巻き込まれたら抜け出せない。

 これだけお喋りが好きな人間がシャニー以外にもいたのかとはあっけにとられた。

 アルマにとっては、ソランよりもこのエダのようなタイプのほうが苦手だ。

 

「ほら、私が面白いこと教えてあげるから少し協力しなさいって!」

 

「ちょ、待ってください先輩!」

 

 エダはアルマの手を引っ張って、ソランと話をするティトの許へ駆けていく。

 そんな弾丸が飛んでくるとは思ってもいないティトは、ソランの予想通り今日これからのタイムスケジュールを相談していた。

 

「次はオスティアだけど、ずいぶん時間が空くわね」

 

「早めに到着することは悪いことではないし、すぐに発ってもいいと思いますが」

 

 エトルリアからの帰国の途にオスティアへも寄ることは茶飯事だ。

 今回はオスティア重騎士団のスケジュールが合わない為、普段より後ろにずらすことになっている。

 その為、オスティアでの営業までの時間がかなり空いてしまった。

 

「団長、少しお疲れではないですか?」

 

 意見をしてもなかなかティトから返事が返ってこず、目がうつろなようにソランには見えた。

 やはり、先進国の復興具合を見てショックと責任感を覚えたのだろうか。

 子供のころからティトを知る彼女は、すぐにぴんと来た。

 そして、その質問に返ってくる言葉さえも予想ができてしまう。

 

「そんなことないわよ。そうね先に行ってそちらで情報収集でも……」

 

「あんまり自分ばかり責めないでくださいよ。これはイリア全体の問題なんですから、自分ばかり責めてストレスを溜め込まないでください」

 

「ソラン……。ごめんね」

 

 嘘はつけない。観念したようにソランに謝る。

 ソランもいつもの事と言わんばかりに、瞳を閉じて無言でうなずいた。

 こうすることで相手の気持ちを知ることができるし、自分の気持ちもすっきりする。

 この二人がいてこその第一部隊だった。

 

「副将! ふくしょー!」

 

 そこに聞こえてくる元気のいい声。

 顔を見なくても誰だか分かる為、ソランはため息をして身構えた。

 案の定、振り向けば自分の直属の部下であるエダが、新入りを引っ張りながらこちらへ走ってくるのが見える。

 かける声も見当たらず、思わず手のひらを額に当ててうつむいた。

 

「ふーくしょ!」

 

 ダッシュしてきたエダは、うつむくソランを下から覗き込むようにもう一度彼女を呼んだ。

 

「……どうしてお前みたいなのが第一部隊にいるのか今でも不思議だ」

 

「あーっ、ひどいですよ。いつも散々こき使っては怒鳴るくせに」

 

 言うや否や、ソランは額に当てていた手をすっと固めてエダの頭を小突いた。

 

「人が聞いたら誤解するようなことを言うな。お前は言われて当然のことをしているんだ」

 

 膨れっ面を作るエダの顔を見て、再びため息をつく。

 後ろではその様子を鬱陶しそうに眺めるアルマがいた。

 どうやら彼女はエダに引っ張りまわされていたらしことが容易に想像できる。

 

「で、今度は何なんだ」

 

「次の出発までまだ時間ありますよ?!」

 

 エダの言いたいことをソランは大方理解して「だめだ」次の言葉が飛び出すまでのわずかな隙を突いてエダの口を手で塞いだ。

 

「えー、なんでですか。たまには羽伸ばさせてくださいよ」

 

「ふざけたことを言うな。我々は遊びに来たのではないんだぞ。それに、いつもその羽がダラっとしているお前が羽を伸ばさせろとなど、片腹痛い」

 

「どうしたの?」

 

 二人のやり取りにティトも入ってきた。

 待っていましたと言わんばかりにエダがティトにすがり付こうとするのを、ソランは腕で彼女の首をがっちりつかんで押さえ込んだ。

 

「このバカがエトルリアの街に来たから遊びたいと言っているんです」

 

「まぁ……」

 

 イリアの天馬騎士団精鋭部隊とはいえ、年頃の少女ばかりだ。

 貧しい田舎暮らしの彼女達にとって、エトルリアのような繁栄の地は憧れであった。

 その地に今足を踏み入れているのだから、少しは観光もしてみたい。

 実に素直な意見。ティトもその気持ちが分からないわけではない。

 だが、今はあくまでイリア傭兵として、仕事でエトルリアに来ている。

 国では今でも民が苦しい思いをしていることを考えれば、否定せざるを得なかった。

 

「エダ、気持ちは分かるけど……」

 

 ティトが部下をなだめようと声をかけた、その時だった。

 

「ティト……? 君はティトじゃないか!」

 

 懐かしく、ドキッとするような声が後ろから近づいてくる。無意識のうちにティトは声のほうを向いてた。

 決して聞こえるはずの無い、今最も聞きたい声に名前を呼ばれて。

 間違いなかった。目の前に立っているのは、一番会いたい相手。

 

「やっぱりティトか! 久しぶりだな!」

「クレ……イン様?」

 

 きっと疲れているのだろうと思い、目を何度もこすってみる。

 目を開けた次の瞬間には、貴族らしいすっと整った白を基調とした服が目の前にあり、上を見上げればそこには懐かしい顔があった。

 金髪に透き通った紫の目。久々に胸が熱くなるのを感じる。

 

「クレイン様?!」

 

「ティト、まさかこんなところで会えるなんて。久しぶりだな、元気だったかい?」

 

「ええ、本当に……お久しぶりです。クレイン様こそお変わりありませんか?」

 

 久々の再開がうれしくて仕方ない。文通は欠かしていなかったが、やはり目の前にその人がいてくれる事とは別次元。

 周りの部下達を忘れそうなほど、彼女の心は喜びに包まれていく。

 

「君たちは先に上がってくれ」

 

配下の者たちを先に引き揚げさせると、クレインはティトの手を取った。

 

「久々に話もしたいし、時間があるならお茶でもどうかな?」

 

 願っても無い誘い。だが、彼女の責任感は嬉しさの波に飲まれ行く心を戒めた。

 

「申し訳ありません……。今は任務中で……」

 

(あれは……前ティトが話していたボーイフレンドかな)

 

 ソランはこの様子にぴんときて、腕の中に押さえ込んでいた部下を解放する。

 すぐに逃げ出そうとする彼女を睨みつけ、鬼に睨まれた彼女は小さく小さくなった。

 

「な、なんですか?」

 

「たまには情報収集をするのも悪くないわね」

 

「へ? もしかして?」

 

「いいこと? あくまで仕事だ。他の皆も行くわよ!」

 

 皆は歓喜の声を上げて街に散っていく。

 その様子を見て驚いたティトは急いでこれを止めようとしたが、そこへソランが立ちはだかる。

 

「ソラン! どうしたのよ」

 

「たまには羽伸ばしておいでよ。あいつらは私が面倒見ておくから」

 

「ソラン……でも、私は……」

 

 ためらうティトをクレインのほうへ突き飛ばし、ソランは部下の後を追って喧騒へと消えていく。

 親友の気遣いに感謝しながら、クレインの腕の中に包まれてティトもまた街の中へ消えていった。

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