ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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前話のあらすじ

ウッディの許可が下りず、稽古をしたくてベッドの上でうずうずするシャニー。
彼女の下へ突然現れたのは、エデッサ城主ゼロットに嫁いだ姉ユーノだった。
ユーノはシャニーに起きた事件を知り、わざわざカルラエ城までお忍びで来たのだった。

彼女は95代目団長。彼女なら、きっと悩みを聞いて何かアドバイスをくれるに違いない。
シャニーはウッディには打ち明けられなかった悩みを超えた恐怖を口にする。
死が目前に迫った時に抜いてしまった、あの魔剣の事を。


第3話 97人目の業

 静かな時間にただ響く少女のすすり泣く声。シャニーはずっと姉の胸の中で泣き続けていた。

 初めて覚える己の剣への挫折感。自身の誓いに反して欲望のまま、囁かれるままに振るった剣への怒りと恐怖感。

 悔しくて悲しくて、そして恐ろしくて、ただ泣き続ける妹の背をしばらくさすっていた姉ユーノは、ついに静寂を破った。

 

「シャニー、それもあなたの一部よ。抑え込むより、うまく付き合う方法を探しなさい」

 

「え?!」

 

 思わず目を見開いた。こんな恐ろしい自分を受け入れろだなんて、そんなことできるはずがない。

 そう彼女の瞳が訴え、彼女は彼女自身を拒絶していることがありありとうかがえる。

 

「貴女なら分かるはず。どんな剣でも、使い手、使い方次第で神剣、聖剣となることを。貴女の力は確かに危険だけど、抑え込むことは貴女自身を抑え込むことと一緒。いつか無理が生じるわ」

 

「これは……あたしの力なの? 制御できなくても?」

 

 にわかには信じられない。まるで何か悪いものにでもとりつかれたのではないかと思うほどに、自分の知っている自分とは違う異物。

 

(じゃあ……そんな異物があたしの中に居るっていうの??)

 

 余計に寒気がする。信じたくない、そんなの、あるはずない。そう……思いたい。

 今までこんな事考えたことも無かったのに、これからも一緒だと思うと、肩から背骨から寒気がざわざわ脳天の髪の先まで伝って震えてくる。

 

「そうよ。貴女の力を最大限に引き出してくれる事に違いはないわ。なら、うまく付き合っていくべきよ。血を求める剣ではなく、イリアを救う剣として抜けるように試行錯誤なさい」

 

 どうやって……そう返そうとしたのが分かっていたかのように、ユーノは言葉を挟む余裕も与えず続けてくる。

 

「そればかりは、貴女にしかできないわ。言わばもう一人の貴女自身なのだから。うまく自身を説得しなさい」

 

「はい……」

 

 自分の考えていた事とは真逆の答えが先輩から帰ってきた。

 抑え込むぐらいなら活かせ。言いたいことは分かる。でも、こんな恐ろしい気性と付き合っていく自信などなかった。

 こんな自分は、自分ではない……どうすればいいか考え込んで下を向く。

 考えれば考えるほど、()()()()()()()の剥く牙が恐ろしくて。余計に俯いた。

 ユーノには妹の言っている事を聞いているうちに、ある人物が浮かぶようになっていた。

 聞けば聞くほどにその輪郭ははっきりして、シルエットには色が浮かび上がってくる。

 その人と同じように、いつも裏に隠れている一面が極限を要求される場面で表に現れたという事か。

 あの話はただの伝承だと思ってきたが、目の前で妹に起きている事は恐らく事実だ。

 きっかけを与えられ自覚している以上、これから先ずっと裏に潜んでいることはありえない。

 

「シャニー。良い事を教えてあげるわ。私も聞いただけだから確かな事は知らないけど、初代団長も、貴女みたいな一面があったそうよ」

 

 それを聞いて、俯いていたシャニーはばっと顔を上げた。

 人竜戦役の時、女ながらに槍を取って、騎士の中の騎士バリガンを助けたのが、後の初代天馬騎士団長だ。

 

「初代も、同じように苦しみ、そして長い時間をかけて自らの力としてものにしたそうよ。その力のおかげで、今のイリアがある。力を持つ者は、正しくその力を使う義務があるの。言いたい事は分かるわね?」

 

 シャニーはこくこくとユーノの顔を見つめたままうなずく。

 初代団長にできたなら必ず何か方法があるはずだし、それを見つける事ができるのは自分だけ。

 自分自身とじっくり時間をかけて付き合い、見つめて、辿り着くしかない。

 

 ────お前は、他の奴が願っても手に入れられない光るものをいくつも持っている

 

 ふと、ディークの言葉が脳裏をよぎった。

 これが、ディークの言う光るもののひとつなのだろうか。

 

「分かったよ。あたし、逃げないで頑張ってみる。でも、怖いから話は聞いてね?」

 

 シャニーの瞳を見て少し安心した。先ほどに比べたら元気が戻ってきている。

 妹は姉を信じ、姉もまた妹の頭に手を置いてその成長を確信し、ユーノは頭から手を下ろすと今度は両手をシャニーの肩に置いた。

 

「良い子ね。じゃあ、私からも宿題を出すわよ」

 

 彼女は一呼吸置いてから、自分の言葉を無言で聞き入るシャニーへアドバイスを出した。

 

「貴女は、力を得て何をしたいの?」

 

「そりゃ、イリアのために……!」

 

 即答しようとしたシャニーの口をユーノは優しく塞ぎ、驚くシャニーの目を見て首を横に振った。

 

「本当にそうなのかしら。すぐ答えを出してしまうのはもったいないわよ」

 

 何故? 妹の瞳はそう問うてくる。入団したその時からイリアの為にと剣を振るってきた。

 今だって同じだしきっとこれからも同じはずなのに。

 だけど姉の、『伝説』の天馬騎士、大先輩にして95代目団長の言葉。

 素直に今は聞いて、絶対に宿題に答えを出そうと決めた。

 

「もっともっと経験を積んで、確固とした自分を見つけてからでも、答えを出すのは遅くないわ。力を得て一体自分は何をしたいのかを考えて、その為に何をすべきで、どこへ向かおうとしているのか。いつでも考えなさい」

 

「はいっ、分かりました!」

 

 シャニーは白い歯を見せてユーノへ敬礼をし、ユーノもその敬礼に返した後、二人は声を上げて笑った。

 

 

 

 ◆◆◆

 一方外では、ユーノが外へ出てくるのをティトが不安げな眼差しでじっと待っていた。

 彼女はユーノのお付である老紳士ジョージから、ユーノが来城したと聞いて、誰にも告げずここまで駆けて来た。

 彼女は姉が心配すると思って告げなかったのだが、どうして情報が漏れたのだろうか。

 

(こうなってしまうのなら、最初から自分が説明しておけばよかったわ……)

 

 後悔しても仕方ないが、ティトから話をしておけば要らぬ心配をかけることはなかっただろう。

 良かれと思ってした事が裏目に出るほど、後悔することもない。

 おまけに、誰にも告げていないはずなのに、どこからともなく事務方が集まりだしている。

 

「ティト団長、ユーノ名誉団長がお越しになられているというのは本当なのですか?」

 

 ふくよかな総務部長が焦ってティトの許へ駆けつける。

 ティトが事実を伝えると、彼女は手際よく部下に指示をして歓迎の用意を始めだした。

 周りの事務方も、いつもののんびりした様子とは全然違う。

 

(ユーノ姉さんが来たと分かった途端にこうなるなんて……)

 

 ティトは自分への対応との違いに少々不満を覚えつつも、今もなお根強い『伝説』の天馬騎士、95代目団長ユーノへの人望に憧れた。

 

「団長、ユーノさんが来ていると聞きましたが」

 

 走りこんできたのはイドゥヴァだ。彼女はユーノの代からずっと天馬騎士団に在籍している騎士。

 95代の時も、彼女はなんとか団長に取り入ろうと色々努力をした。

 難しい任務をいくつもこなしたし、休みの日にも城に来て団長の雑務を手伝った。

 だがそれでも、ユーノは彼女の精鋭部隊入りを認めず、ずっと第三部隊の部隊長止まり。

 

 何とか認めさせようと努力したが、結局ユーノから声がかかることは、ユーノが騎士団にいる間はおろか、彼女が騎士団から身を退いてから今でも無い。

 今日こそは、その気持ちがイドゥヴァの顔を普段以上に険しくする。

 主力が欠けた天馬騎士団の中では、今でもユーノの影響力は無視できない。その力はおそらく現団長をも凌ぐだろう。今日こそは……。

 

「ええ、今は医務室で怪我人と面会しています。だから出てくるのを待っているんです」

 

 医務室のドアを開けようとするイドゥヴァの背中に、釘をさすように声をかける。

 イドィヴァはそのまま開けそうな勢いだったが今は抑え、総務部長の横まで歩いていき、そこで世間話を始めた。

 

(皆、姉さんを目当てに集まってくる。どうしたら、姉さんの様に人の気持ちを動かせるようになるのかしら)

 

 続々と集まってくる者達が、まるで自分などどうでもいいような振る舞いをしているようにティトには映る。

 これ程までに、『伝説』の天馬騎士の力は絶大なのか。

 何か心細い。ここまでに部下を惹きつける力が、果たして自分にはあるだろうか。そう自分に問いかけていると、後ろから声がした。

 

「団長、野次馬共の整理は私達がしましょう。団長はどうか名誉団長をお連れしてここを抜けてください」

 

 そこには、ソランをはじめとする第一部隊の隊員達がいた。

 ソラン達に自分の行方を知らせてはいなかったはずなのに、彼女達は来てくれた。

 恥ずかしくて自分を笑いながら自問を撤回する。何て馬鹿な事を考えていたのだろう。

 自分には素晴らしい部下がたくさんいるのに、一体何を見ていたのだろう。

 

「ありがとう」

 

 感謝の気持ちを伝えずにはいられなかった。

 

 

 

 ◆◆◆

 外の騒がしさは、次第に中にいる二人の耳もくすぐり始めた。

 ユーノが皮を剥いてくれた果物を、シャニーはうれしそうに食べる。

 ちょっと前までは、この光景は日常茶飯事だった。

 ユーノがエデッサ城へ嫁ぎ、ティトが見習い修行に出て……その日常はあっという間になくなってしまった。

 そして今ある日常も、明日にはどうなるか分からない。騎士である以上、明日が来るかどうかなんて分からない。

 

 今までは周りに覚悟を要求されてもどこか他人事だったが、今回の件でそれを思い知り、心にはっきり焼き付いた。

 今この時をとても大事にしようと思う様になると、ユーノと一緒に過ごせるこの時間は至福の時。

 それを遮るかの様に外から、ドア越しに響いてくる声。

 

「なんか、騒がしいね。どうしたんだろう。こんなとこ、めったに人は来ないのに」

 

 シャニーは果物を頬張りながらドアの方を見る。

 数人ではなく、かなりの人数がいるだろう気配がそこからは伝わってくる。

 

「ジョージが皆に伝えてしまったのね……。こうなるから、誰にも告げないでってお願いしたのに」

 

 ジョージとは、ユーノのお付の執事のことである。

 彼女自身はあまり騒ぎを起こしたくなかった為、騎士団の誰も告げずにここまで来たのだが、執事である彼にとってはそうは行かない。

 彼は団長をはじめとする騎士団幹部や、総務部長達にユーノの来城を知らせていた。

 シャニーもジョージとは城に行くとよく話すので知っていた。丸い顔につるつるの頭なのに、口ひげは立派なおじさんだ。

 

「でもさ、引退してもこんなにお姉ちゃんの事を聞きつけて人が集まってくるなんてびっくりだよ。動乱中もそうだったけど、やっぱお姉ちゃんってスゴいんだね。『伝説』の天馬騎士だもんね。スゴイなー!」

 

 シャニーの顔を見て微笑むユーノは果物の皮をすべて剥ききり、妹の食べやすい大きさに切り分けるとナイフを置いた。

 姉の手から直接果物を受け取ってそのまま口に運ぼうとした時、シャニーは姉の顔が笑っていない事に気付く。

 

「皆、団長の力を求めているだけよ。貴女も知っているでしょ? 代々の団長が承継してきた、バリガンの加護の話」

 

 バリガンの加護、それは昔からずっとイリアに伝えられてきた話だ。

 団長の座を手にした者は、初代団長が英雄バリガンから受けた加護の力を得ると言われ、その力は代々の団長から団長へ承継されて、人竜戦役後およそ千年もの間、承継は途切れる事がなかったという。

 バリガンの加護による天馬騎士団長の力は非常に強力で、この力が貧国イリアをずっと守ってきた、とすら著した書物さえある。

 

 シャニーも、話自体は母親やユーノから寝る前に何度も何度も聞かされたので知っている。

 その時いつも、具体的にどういう力なのか聞いたのだが、一回も教えてはもらえなかった。

 だから、郷土の民族話で単なる迷信だと、いつの間にか信じなくなっていた。

 

「えー、あれってただのお話じゃなかったの?」

 

「ただのお話……であって欲しいわね」

 

 ユーノの口調は、実在すると言う様な思わせぶりだ。

 そして、部屋の外に集まる人だかり。これは、もしかしてただの作り話ではないのか。

 今まで、周りもユーノは凄い、さすが『伝説』の天馬騎士と噂をしてきたが、バリガンの加護が話に上がる事などなかった。

 だからその時はユーノの人望はスゴイと思ったし、今でも同じだ。

 皆がユーノではなく、ユーノの承継した力に集まってきている。そんなワケは無いと思った。

 

「でも、みんながお姉ちゃんを慕うのは、やっぱりお姉ちゃんが、お姉ちゃんだからだよ」

 

 何だか自分でも何を言っているのか、よく分からなくなりそうだ。うまく言葉では表現できないことが悔しい。

 

「ありがとう。でもね、実在するのよ」

 

「ふーん。じゃあ、お姉ちゃんはどう言う力を前の団長さんから承継したの?」

 

 実在するとユーノが明言した。シャニーは興味津々だ。

 目を爛々とさせるシャニーの頭に手を置くと、ユーノはその場を立って窓際へ身を移す。

 

「あれから、変わってないわね……」

 

 窓から見えるイリアの山々を眺めながらぽつりと漏らしたのは独り言か。

 後ろから妹の声がする。その声に、ユーノは振り向いて質問に答えてやった。

 

「シャニー。それは貴女でも教えられないわよ。もし、貴女が団長になれば分かるわよ」

 

 やはり、ここでもユーノは教えてはくれなかった。

 前は騎士団関係者では無い者に情報を流す事はないのだと、自分の中で解釈していたが、同じ天馬騎士団の叙任騎士となった今でも教える事は出来ないという。

 よほど、強力な力なのだろう。見た事も無い強大な力に惹きこまれる人たち。

 そんな凄まじい力であるにも係わらず、その強大さを見た者がいないと言うのも何だかヘンな話だ。

 

「ねえ、じゃあティトお姉ちゃんも承継しているの?」

 

 シャニーはふと、姉のことを思い出した。

 ユーノは2代前の団長であり、シグーネを経て今はティトが97代目の天馬騎士団の団長だ。

 なのに、騎士団内で日常を送っていても、ティトがユーノのように扱われている様には見えなかった。

 それは96代目シグーネの代で、一度天馬騎士団は途絶えているからだ。

 シグーネは次期団長を選任する前に、ベルン動乱でエトルリア軍に討伐され、96代目から97代目へは全く何も引継ぎがなされていない。

 だから周囲は、96代目でバリガンの加護も途絶えてしまったと思っているのだ。

 この考えが、皮肉にもユーノの周りへ、更に人を集める結果となった。

 彼女自身は騎士団から身を退き、97代目としてではなく、初代としてティトを団長に推したにもかかわらず。

 

「ええ、もちろん彼女も団長だもの。しっかりと受け継いでいるわよ」

 

「誰から? だってシグーネさんはティトお姉ちゃんに……。もしかしてユーノお姉ちゃんが?」

 

 96代目を討ったのは、他でもない97代目のティトだ。

 この事自体は、イリア騎士の誓いを忠実に守った結果であり誰も非難してこなかった。

 騎士団の事を考えて、考えて……。その後の彼女の行動からも、想いは背中から滲んでいたから、団長の座を奪い取ったなんて言う話も聞かない。

 だが確実に周りへ広まった。天馬騎士団は生まれ変わったと同時に、バリガンの加護からも外れてしまったと。

 初代団長の力を承継してきた団長は、96代目で終わったのだと。

 だが、ユーノはそうは感じてはいなかった。

 

「いいえ、96代目はしっかり自分の仕事を果たした。97代目は96代目からバリガンの加護を承継しているわ。シグーネは、ティトを97代目にする為に自らを討たせたのよ。不器用だけど、彼女らしいわ……」

 

 ライバルは最期の最期まで、自分の思っていた人であった。

 彼女の遺志を行動から汲み取り、それもあってユーノは騎士団に戻る事を拒んだ。

 だが、周りにはそれは通じない。この状況を打破するには、現団長が自力でどうにかするしかない。

 

「へー、スゴイなぁ。ユーノお姉ちゃんも、ティトお姉ちゃんも、そんなスゴイ力を持っているなんて。スゴイなあ。いいなあ。よーし、あたしも団長を目指して頑張るぞ」

 

 先程までの悲観に暮れた顔はどこへやら。

 初代団長の話で気持ちが少し楽になったらしく、体中包帯を巻いている痛々しい姿の割に元気なものである。

 姉二人が、団長を経験してイリアを守っている。ならば自分も。そう考える事は自然な流れであり、そうして天馬騎士団は受け継がれてきた。

 ユーノはその力強い宣言に頼もしさを感じる一方で、今なお残る悪しき轍の連鎖を何とか断ち切りたかった。

 

「シャニー」

 

「なあに?」

 

 ユーノは窓際を後にすると、再びシャニーの座るベッドの淵まで来たが、彼女は今度は淵に座る事はなく、真直ぐシャニーの瞳を見つめた。

 

(今までの顔と違う……)

 

 姉の表情に、シャニーは思わず背筋を伸ばした。

 ユーノが姉から妹としてではなく、第十八部隊副将シャニーへ、95代目団長として話しかけているのだとすぐに分かった。

 

「団長を承継する事、それは過去を背負うという事でもあるのよ」

 

「過去を背負う?」

 

「そう。ティトは97代目。彼女は、96人分の罪と業を背負って、天馬騎士団の舵取りをしているの。団長は、過去の罪と業を引き摺らずに背負って、あるべき方向へ皆を、イリアを導いていく義務があるのよ」

 

 長い歴史と、それを代々の団長が承継していくことで得られる加護。

 代々の団長が執ってきた行いは、後世に業として長く影響し続ける。傭兵としての人の罪も、同じように長い歴史の中で忘れ去られる事なく残っていく。

 騎士団を継ぐと言う事は、それらの全てを背負い次へ繋げて行く事を意味する。

 それが、団長足る者の宿命であり、掟。

 

 シャニーはきょとんとしてしまった。言われている事はなんとなく分かるような気もするが、それが実際にいかに大変な事で、どれだけ苦しい事なのか。彼女にはとても想像ができなかった。

 それは仕方ない事。この苦しみは、承継した者でなければ決して理解できない。

 信じてくれた者たちの想いの重さは、背負ってみなければ分からない。

 

「シャニー。今は分からなくてもいいのよ。でも、これだけは今のうちにしっかりと考えておいてちょうだい。一つ目は、自分はイリアをどうして行きたいのか。二つ目は、貴女がもし力を得たら、その力で何をしたいのか。これは、団長になる、ならないに関係なく重要な事よ」

 

 ────己の確固とした覚悟を、今のうちに自分の心に刻み込め。

 

 若き副将へ95代目はしっかりとした口調で指示した。

 瞳を閉じて何度も復唱し、しっかりと心へ焼付け、再び開いた青い瞳は力強く答える。

 

「はい!」

 

 腕を突き上げてがってんを見せ付けるが、彼女は自分が怪我人だと忘れていたようだ。突き上げてから、わき腹の激痛で悶絶にうずくまる。

 朗らかで凛と咲く少女達が築いていく生まれ変わった天馬騎士団に、95代目はイリアの未来を託した。

 

「ふふ、でもまずはゆっくり体を癒しなさい」

 

「はぁい」

 

 再び姉の顔に戻ったユーノに、シャニーも妹らしい笑みを見せて笑いあった。

 シャニーは何かは分からないが、ユーノが凄いと言われる理由がなんとなく分かった気がした。

 

「ユーノお姉ちゃん、ありがとう。あたし、お姉ちゃんのこと大好きだよ!」

 

 今まで身近だったから気付かなかっただけなのか。

 戦闘能力だけではない。話をするだけで分かるその人の気。

 その気が、ユーノからは溢れているように彼女には思えた。

 今まで以上に、シャニーはユーノの事が大好きとなり、そして憧れの的となった。

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