ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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前話のあらすじ

95代目団長である姉ユーノへ、自身に起きた異変を伝えたシャニー。
彼女は抑え込む術を知りたかったが、ユーノは全く逆の事を告げる。
天馬騎士団初代団長も持っていたとされる力を、活かすことを考えよと。

そして、初代団長から受け継がれて来たバリガンの加護のついて、シャニーはユーノに問うが、団長になれば分かると、何も教えてもらえなかった。
代わりに、二つの宿題を課される。

イリアをどうして行きたいのか、力を得て何をしたいのか。
もっともっと、経験を積んだ時に、その問いに答えを示せと。

業を背負う者としての覚悟を、ユーノは求めたのだった。


第4話 軋轢と轍

 シャニーの様子に安心して部屋を出てきたユーノを待っていたのは、予想通り事務方やかつての部下の顔。

 波に抗って思うように進めずにいるユーノ達をしっかり視界に捉えながら、人ごみを押し分けてイドゥヴァが最前線に立ち、絶好の位置を陣取る。

 第一部隊の隊員の誘導に従ってユーノは少しずつ進み、かつて部下だったイドゥヴァの前に差し掛かり、そしてそのまま通過した。

 彼女の目線は、最初からイドゥヴァには無く、ずっと探している相手がいた。

 

「団長、少しお話しましょうか。行きましょう」

 

 ユーノはティトと並んで歩いて人波の脱出を図る。そこへ立ちはだかる人物がいた。

 

「名誉団長、せっかくお越しになられたのに、お声がけいただけないなんてあんまりです」

 

 イドゥヴァだった。彼女は堪らずに自ら声をかけたのだが、その声にすらユーノはなかなか反応せず、彼女の横を通り過ぎてからようやくに声がかかった。

 

「イドゥヴァ。もう私は騎士団の者では無いのだから、気を遣ってくれなくて良いわよ」

 

「そうは行きません。名誉団長は今でも我らの誇りなのですから」

 

「ほら、貴女達も出迎えてくれてありがたいけれど、送迎は結構よ。騎士がこんな所に居る位なら、村々を回って近況を聞いた方が良いわよ」

 

 イドゥヴァの言葉を聞いているのかいないのか、周りの騎士達にも解散を促す。

 多くの騎士達はその言葉に大人しくその場を離れて行くが、やはり昔からいる騎士や、こう言う事が仕事の事務方は離れようとはしない。

 ティトが先頭を切ってユーノを案内し、そのまま人ごみを抜けた。

 その後を事務方達が追いかけようとするのを、ティトの部下が体を張ってうまく止める。それでも追いかけようとするイドゥヴァを、何者かが彼女の肩を掴んで実力行使に出た。

 

「貴女はソラン。離しなさい!」

 

「そうは行きません。名誉団長のお相手は団長が一人でなされる。部隊長は公務の妨害をしないでいただきたい」

 

「妨害ですって? 貴女、副団長に向かって自分が何を言っているか分かっている?」

 

 大事な場面でまたしても邪魔をされて朱が差す。しかも相手はティトより数段厄介と警戒するソラン。

 彼女は厳しい事で有名であり、相手が誰であろうと容赦しない人物だ。

 

「妨害です。名誉団長も団長を直々にお呼びされていたではないですか。団長を差し置いて部隊長が先に出るなど、何を考えていらっしゃるのですか」

 

 イドゥヴァが反論しようとする前に、再びソランが一発を浴びせた。

 浴びせられた方は、自分の肩を掴む手に力が入った事を感じ、言葉が喉から腹に引っ込んでいく。

 

「私は団長から名誉団長と二人きりで話がしたいと、野次馬の相手を任せられていますので、いくらイドゥヴァ部隊長とてお通しするわけには行きません」

 

 今回は残念ながら団長に先手を打たれていたようである。

 彼女は仕方なく追跡を止め、まっすぐな廊下を抜けて曲がっていく二人を見送った。

 

「もう騎士団の者ではない、ですって……? これだけ影響力を残しておきながらよくそんな事を」

 

 そう簡単に諦めるものか。

 ソランの手を払い退けると、彼女は肩で風を切って次の行動へ移るのであった。

 

 

 

◆◆◆

 部下達のおかげで難を逃れたティトは、ユーノを連れて中庭へ続く連絡通路を歩いていく。

 後ろからの追撃が無い事を確認すると、歩くスピードを緩めた。

 

(ソラン達、うまくやってくれたようね)

 

 ところが、ユーノはそのままの速度でどんどん歩いて行ってしまうので、ティトも焦って背中を追う。

 この先の分岐を右に曲がれば、そこはすぐ中庭。

 ティトがそこまでさっさと歩いていこうとすると、急にユーノは止まってティトの体を柱の裏へと引き込んで隠した。

 

「どうしたの?」

 

「良いから、良いから。私についてきて、ね?」

 

 よく見れば先回りしていたのであろうか、事務方の人間がちらほらと中庭に見え、彼女らは明らかにこちらの様子をうかがっている。

 ユーノは事務方の視線がわずかにこちらから離れた事を確認すると、ドレスを着ているとは思えない軽やかな足元で柱と柱の間をすり抜けて、分岐路を右ではなく左へ曲がって行った。

 

「姉さん? そっちは行き止まりよ」

 

「良いの良いの」

 

 ユーノは先ほどより更に軽い足取りで、行き止まりに向かって歩いていく。

 不思議に思いながらも、あまりに姉が自信満々に突き進んで行くので、ティトはそのままついて行く。

 予想どおり、道の終わりを示すテラスが見えてきた。

 テラスは山々が見える景色の良い場所に作られているが、その先は絶壁と言っても良いほどの急斜面。城の正門へは辿り着く事ができないはずだ。

 ユーノは行き止まり相手に止まろうともせず、テラスに入って行くとそのままティトの視界から姿を消してしまった。

 

「あれ? 姉さん?」

 

 ティトは小走りにテラスへ入って辺りを見渡す。姿は見当たらず、声だけがどこからか聞こえてくる。

 

「ティト、足元よ、足元」

 

 その声に導かれるように下をきょろきょろ。だが、やはり何も無いように見える。

 三週周りを見渡しても、テラスの壁が壊れて小さな穴になっている事に気付いたくらい。

 

「ティト、こっちよ」

 

 その穴から現れた姉の顔に、ティトは思わず足元が後ろへ退いた。

 人一人が這ってようやく通れるような小さな穴。

 ティトは姉に言われてそこをくぐり、まだ見た事の無い景色を眺めてあっけに取られた。

 そこには当然道はなく、野草が生え放題。

 

「こっちよ」

 

 道なき道をユーノはずんずんと先へ進んでいく。

 

「こんな所があったなんて」

 

「ふふ、まだあの穴が開いていて良かったわ。ここは私だけの秘密の抜け道なの」

 

 多忙を極める事が多かった騎士団長としての仕事。それでも何か個人的にしたい時、良くここを使って抜け出していたらしい。

 その都度、今では総務部長の人を真っ青にさせていたそうだ。

 昔を語る姉が、とても楽しそうにティトには映る。

 強く、清いだけでは無く、こう言う無邪気な所もまだまだ健在のようである。

 

「姉さんがそんな事をしていたなんて……意外」

 

「あら、息抜きも大事よ。いつも気を張っていたら疲れちゃうじゃない」

 

「もう……シャニーみたいな事を言わないでよ」

 

 そうは言いながらも、彼女の顔には笑みがある。

 しばらく姉の後をついていくうちに、ティトにはある疑問が浮かんだ。

 

「そう言えば、この道は姉さんだけの秘密の道にしては……草が踏み倒されているわね」

 

 足元の草は誰かに踏み倒されて、人が通っている事が分かる。

 しかもこの感じからするに、誰かが通ってまだそんなに時は経過していない。

 

「ホントね。やっぱりここは良い抜け道なのね。ティトも困ったら使うと良いわよ。私一度もバレた事無いから」

 

 苦笑いをしながらティトは姉の背を追い、しばらくするとユーノは茂みから再び石段の通路に戻った。

 そこはめったに人が通る事のない西側の旧通路。

 ユーノは通路に設置された柵に両腕を乗せて向こうに見える山々を臨み、彼女の横にティトも並んで、同じように山々を眺めてみる。

 これから冬を迎える最後の輝きか、山々が陽に照らされて美しい。ゆったりとした時間が流れている。

 

「ここだけ見ていると、平和なのよね。何もかも、うまく行っているように見える」

 

 ぽつりと漏らす姉と同じ事をティトも考えていた。どうして、こうもうまく行かないのだろうと。

 姉も同じことを感じている。どこも、復興状況は芳しくないのだ。

 

「どうティト。最近はうまく行ってる?」

 

「いいえ。何をやっても空回りな気がして。それに、なかなか古参の騎士たちは協力してくれないわ。何かやろうとしても、必ず彼女らが待ったをかけるのよ。彼女らの鶴の一声に傾く事もしょっちゅう」

 

「イドゥヴァね?」

 

「え?! ……ええ」

 

 どうして何も言っていないのに分かるのか、ティトには不思議だった。

 敢えて名前を出さなかったのだが、一瞬の間で全てを読み取られ、姉に当てられて大人しく白状することにした。

 

「ティト、貴女は97代目なのよ。もう少し、自分の意見を貫いても良いと思うわよ。皆貴女の部下で、団長が決定者なのだから」

 

 意見を無視する事は良くない事だが、言った者勝ちになっていては統率が取れないし、慕う者へ不安と疑心を抱かせる事となる。

 彼女自身もそれは分かっている。第一部隊の部下達は、団長の言う事ならと従ってくれるし、ソランからもユーノと同じような事をよく言われる。

 でも最近は、ティトの中では心を鬼にして押し通すようにしているつもりだ。

 クレインと話をしてどこか吹っ切れてから、言い返す事も多くなっていた。

 

「ええ。私も自覚を持って話し合いを進めているわ。でも、やっぱり相手の話も聞きたいの。他人の声に耳を塞ぐ事はしたくないから。私は団長としての責任を果たさないといけないもの。それに、部下に余計な負担はかけたくないし」

 

 ティトの気持ちを聞きながら、ユーノは自分が団長を承継したばかりの頃を思い出していた。ティトと同じような悩みを抱いて、もがいていた。

 妹は不器用ながらに、着実に自分なりの方法を見出そうと歩いている。

 改めて、ユーノは騎士団を退いて良かったと思った。

 新しい時代は、新しい陣容で一から作っていかなければならない。

 全ての人間と融和していく事は難しい。ならば、どう対立する人間と穏便に保ちつつ改革を進めるか、これも団長には要求される。

 

「そうね、その心構えは大切ね。そうだ、私が昔から壁に当たって困った時に唱える魔法の呪文を教えてあげるわ」

 

 ユーノは人差し指をティトのほうへ向ける。どんな凄い言葉が飛び出すのかと、ティトは興味津々だ。

 もったいぶるようにユーノは目を閉じて間を持った後、ようやく呪文を唱えた。

 

「無理とか、不可能とかそんな言葉は自分をダメにする悪魔の呪文だってね」

 

 どこかで聞いたような覚えのある言葉。ティトは思い出そうと空を見上げ、すぐ頭に顔が浮かんできた。

 

「それって……シャニーが一つ覚えに言ってた言葉じゃない」

 

「ええ。でも、私は正しいと思うわよ。何事も無理と諦めたところで、本当に無理になってしまうと思うの。だから、貴女も諦めないで。貴女のやろうとしている事は、すぐに結果が見えてこない。けど、とても大事な事よ。諦めずにがんばって」

 

 姉のエールにティトは笑みを零す。自分のやっている事は間違ってはいない。尊敬する人間が、エールを送ってくれる。それは何にも変えがたい勇気となる。

 

「もうひとつ、貴女はもう少し部下を信じてみるといいわよ」

 

「私……部下を信じてないのかしら」

 

 部下の事を大切にしているつもりだった。

 だが、外から見た意見だ。何か自分に足りないところがあるに違いない。

 クレインにも似たようなことを最近言われたばかり。その何かを、ユーノは気付かせてくれた。

 

「貴女は優しい子だから部下に心配をかけたくないって、なんでも一人でやってしまおうとする癖があるわ。でも、部下はきっと、もっと頼って欲しいと貴女へ思っているわよ。貴女のことを慕っているなら、きっとね」

 

 前から、それっぽいことを言われているのを思い出した。

 この前の遠征の時にも、副将のソランからあまり自分を責めるなと言われたし、第一部隊の他の面子からも言われていたのだ。団長の力になりたい、と。

 その時は自身を磨く事が手助けになると突っぱねてしまった。

 あれも、自分の不安を部下に見せる事で、部隊全体へ不安を広げない為の行動だった。

 

「貴女は確かにリーダーではあるけれど、イリアを守る騎士には変わらないわ。悩みや考えは騎士同士で共有しなければ、本当の意味での協力はできないわ。一人で戦ってはいけないのよ」

 

 もし、自分の考えに反対する古参派に、自分の部下が目をつけられたら。そう思うとなかなか任せられないところがあった。だが、それは間違った思いやりだったのかもしれない。

 部下達が自分の思想に同意してついてきてくれているならば、その者達に自分の考えをぶつけ、同じように道を作っていく事も大事だ。

 自身が先頭を突き進んで皆を導くのもリーダー。

 皆と横一線で暗闇を模索し、進むべき道を考えるのも、リーダーの一つの形。

 

(必ずしも、私一人だけで引っ張っていく必要は……ないのかもしれない)

 

 もっともっと、みんなの力を借りる事が、今の自分には大切なのかもしれない。

 部下もそれを望んでいる。彼女は部下もっと信じてみようと誓った。

 

「貴女のやってきた事は、間違っていないわ。ほら貴女の撒いた種が芽吹いているじゃない」

 

 ユーノの指差す先には、村の巡回に出かける十八部隊の姿が見える。

 そろそろ叙任より半年。彼女らは個人差はあれど、イリア騎士として大切なものを掴み始めている。

 傭兵としてだけでは終わらせない。ティトの想いを受け継ぐ者達。

 その姿を見て、勇気が湧いて来た。自分のやっている事は間違ってはいない。これからも自分を信じていこう。そして、もっと部下の気持ちを汲み取って大切にして行こう、と。

 

「さ、行こうかしらね」

 

 ユーノは腕を壁から離すと再び石段を歩き出した。その道は、明らかに正門とは反対方向へ進む旧西側通路。

 二人は次の分岐路を左に曲がって行ったが、その直後、この誰も来ないはずの道を通る人間が現れる。

 慣れた足取りは分岐を右へ曲がり、彼女の前に広がってくる視界には、ちょうど帰城した第五部隊が見えてくる。

 しめたと言わんばかりに旧通路から外れて茂みから顔を出した乙女は、そこで天馬の馬具を外すセラへ声をかけた。

 

「おーい、セラ」

 

 手招きしながらニヤニヤする顔を見て、セラは目が飛び出した。

 

 

 ◆◆◆

 旧通路を抜けた新旧二人の団長は城の裏口へ出た。

 鋼鉄製のドアを抜け、ユーノの進む方向を見てティトはびっくりして走り出し、姉の前に立ちはだかった。

 

「ね、姉さん! もしかしてこれで帰るの?!」

 

「え、そのつもりだけど。だってあんなに騒がしいのはゴメンよ」

 

 そこいたのは、木に繋げられた一頭の天馬。

 誰に連絡して用意してもらったかは分からないが、ありえない選択肢だ。

 何せ、ユーノはドレス姿。防具をしていなければ履物だって天馬に乗るようなものではない。危険すぎる。

 

「大丈夫よ、高いところを飛んでいくから」

 

 まるで妹のような事を言う。承諾できるわけがなかった。それでも、姉がどうしてもと言うので鎧を着けるという条件付で許す事に。

 

「私が鎧を取りに行く間に飛んでいかないでね!」

 

 もしかすると妹よりやんちゃかもしれない。

 早くしないと本当にそのまま飛んで行ってしまうかも知れないと不安になって、もと来た道を走る。

 おまけに空は雲行きが怪しくなってきた。先ほどまで穏やかで本当に良い天気だったのに、真っ白に濁った太陽が今にも崩れて落ちてきそうだ。

 曇天特有の湿った風を切って、鳥も低いところを飛んでいる。

 間違いなく、もう直に雨が降ってくる。降り出す前に、何とか姉を帰さなければならい。

 姉が忙しい中、自分達を心配してわざわざエデッサから来てくれたのだ。

 今更ながらにティトはユーノに感謝の念を心の中で唱え、彼女の大きさに改めて団長としても、妹としても憧れる。

 

「ありがとう、姉さん。私も、きっと姉さんの様な団長になって見せるわ」

 

 ユーノに団長就任をお願いしに行ったあの時。彼女から騎士団長の証であるブローチを渡された時にも、同じ事をユーノに向かって言った覚えがある。

 その時の強い気持ちを思い出しながら、彼女はブローチを強く握り締めて確かめるように誓うのだった。

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