ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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前話のあらすじ

謎の組織に与する二人組が再び合流し、情報を共有する。
ウェスカーはシャニーとの一戦で傷を残し、彼女への復讐を示唆する。
だが、それを彼の上官である髭の紳士が許さない。
彼は言う、自分たちは()()()()の史実に残ってはいけないのだと。
同時に彼は更に興味を示していた。いずれこの魔剣(ミュート)を握らせてみたいと。
今はただ、その時の為に背中を押すのみ……。


第6話 聖天騎士団

「ティト、本当にありがとうね。あなたも忙しいはずなのに」

 

 エデッサ城に到着してティトの操る天馬から降りたユーノは、後から降りてきた妹を労う。

 ティトはユーノに皮鎧を渡したものの、出発する直前になって再び姉を止めた。

 それで結局、自分が姉を連れて行く事にしたのだった。

 

「だって姉さんは騎士を辞めてだいぶ経つし、そんな格好ではキケンよ」

 

「あら、今でもたまに天馬は乗っているわよ。だって、お城から抜け出すのにはちょうどいいじゃない?」

 

 冗談で言っているのだと信じたいところだが、先ほどのカルラエ城での抜け出し方を見ると、そうだと言い切れない所が怖い。

 当のユーノはティトが困惑する表情を見て笑っている。いたずら好きなところは、やはり姉妹で似ているとティトは思った。

 ある時は真面目に、ある時はくだけて。そう言う切り替えがこんなにうまいと、これを苦手とするティトにとっては羨ましい以外に的確な言葉が見当たらない。

 手を振り城へと消えていく姉への憧れがまた一つ強くなった気する。

 

 曇天の中、なんとか雨が降り出す前に姉を城まで送り届ける事が出来た。

 後ろに人を乗せてこんなに天馬を飛ばしたのは久しぶりで、彼に悪い事をしたと思いながら撫でてやる。

 今度は早く雨が降る前に帰って、ジョージに主の居場所を伝えてやらねばならない。

 きっと今頃、カルラエ城の中を必死になって探し回っている事だろう。

 

 天馬に乗って帰ろうとしたティトだったが、(あぶみ)にかけた足を再び地に下ろす。

 彼女は急いで天馬を見えないように茂みへ隠すと、自らも身を潜めてエデッサ城の正門辺りをじっと見つめる。

 視界の先から現れる二人の人影。その一人を見てティトは思わず声が出そうになった。

 間違えるはずもない。イドゥヴァだ。なぜ、彼女がこんな所にいるのか疑問に思ったが、とりあえずもう一人の人物も眼を凝らして良く見てみる。

 

「あれは……フェリーズ卿だわ」

 

 美しい金髪と立派な口ひげの優雅な聖職者がそこには見える。

 彼女はすぐにぴんと来た。聖天騎士団のフェリーズ枢機卿だ。

 エトルリアに本拠地を置くエリミーヌ教の聖職者として、世界にその教えを説く司祭の位にあった人物。

 その彼がイリアへ信仰布教の旅に出た際に、現地の貧しさを放っておけずそのまま住み着いた経緯を持つ。

 彼は毎日のように人々に教えを説き、苦しんでいる者を看病し、聖職者の身であるにも係わらず斧を取り開拓に参加した。

 更にエトルリアの神官伝いで、薬やら文化やらをどんどんイリアへ取り込んだことで、民の心を掴むまで時間を要する事はなく、イリア西方の民はエトルリアから聖者が来たとフェリーズを歓迎した。

 

 その彼によって創立された騎士団こそが聖天騎士団であり、エトルリアとの国境であるイリア西方のレーミーから、東のエデッサ寄りの場所までを管轄としている。

 聖天騎士団は光魔法使いの司祭に、弓兵や理魔道士とエトルリア的な陣容に加えて、イリア伝統の暗黒魔法使いであるシャーマンを備えた「光と闇の騎士団」の異名を持つ、高い戦闘能力を誇る遠距離軍団だ。

 今ではゼロット率いるイリア連合騎士団や天馬騎士団と共に三本指に入る大所帯となっており、その発言力はイリア内でもかなりのもの。

 

 だがその反面、騎士団の異名どおり色々と黒い噂が絶えない人物でもある。

 エトルリアからの回し者でイリアを征服しようとしているだとか、今でもエリミーヌ教と通じていて、イリア内の情報をそちらに流しているだとか。

 つい最近も大掛かりな開拓事業を決行し、駆り出された多くのイリア民が犠牲になった事件は記憶に新しく、危険を最初から承知していたのではないかと騎士団間会議で物議を醸すこととなった。

 

 その議案提議をしたティトであったが、うまい具合にかわされてそれ以上が語られる事はなく、良い印象は残っていない。

 頼みのゼロットは遠征に出て不在であり、他の騎士団長もなぜかこの事に言及しなかった。

 腹の虫が収まらず、会議後に彼女はフェリーズへ直接問いただしていた。今でも苦い場面が思い出される。

 

 

 

◆◆◆

「これは、ティト団長。今日もお元気な事で何よりです」

 

「事業内容を拝見させていただきましたが、犠牲が出る事が明らかです。どうしてこんな事業にゴーサインを出したのか、ご説明願います。あんな説明では到底納得ができません」

 

 フェリーズは表情を変えないでティトの話へじっと耳を傾け、最後まで聞き終わると、いつもどおりの穏やかな笑顔から信じられないような言葉を放った。

 

「詳細にお答え出来れば一番良いのですが、私もそこまで細かくまでは把握出来ていないのですよ」

 

 一体何を言っているのか。ティトは理解するまで少し時間がかかった。

 

「あの作戦は、うちの執行隊長が行った事です」

 

 フェリーズが続けて放ったさらに信じられない言い草は、ティトの目に火を点けて口から怒りのこもった台詞が飛び出した。

 

「それはどう言う事ですか? 騎士団長ともあろうお方が内容を把握されていないなんて言い訳になりませんよ」

 

 部下が勝手にやった事で、自分の感知する所では無いと言う趣旨に取れる。

 そんな言い方で生真面目なティトが納得する訳がない。

 それどころか、そうした責任転嫁が大嫌いなティトを怒らせる事になる。

 

「騎士団長足る者、全ての作戦に目を通し、執行隊長と話をして吟味する事が勤めではないのですか?」

 

 フェリーズはティトの怒り様に両掌を向けながら「落ち着いてください」とジェスチャーしてみるものの、事実は事実である以上、どんな説明をしても彼女は納得などしないだろう。

 彼はしばらくティトの怒りをなだめ、ようやく反撃に出た。

 

「私は部下を信頼していますからね。そんな、一から十まで部下の言う事為す事を監視する事などできませんよ」

 

「そう言う事では」

 

 ティトが反論しようとするのを、フェリーズはその言葉に割って入って止めさせた。

 途中で強く言えば、黙ってしまう事が分かっているようだ。

 さすがに、人に説法をする事が仕事だったフェリーズならではの話術か。

 

「そう言う事でしょう。部下のやる事が信じられないから、結局全部自分で見なければ気が済まなくなる。それは監視している事と同じです。我々騎士団の長は、騎士達の歩むレールを引いてやる事が仕事のはず。貴女はレールを敷くだけでなく、敷いた場所に戻り、騎士達の後ろに立って監視しているのです」

 

 ティトは額にしわを寄せる思いでフェリーズの説法を聞く。

 彼は言葉だけでなく、ボディランゲージも巧みに使いこなす為、つい話を聞いてしまう。

 

「それが証拠に、天馬騎士団殿の管轄地域は余り復興が進んでいないように見えます。そちらの計画に関してはどうされたのですか? 先ほどの会議でも進捗内容が不明確だったのでお伺いしたいのですが」

 

 いつの間にか、立場が逆転していた。

 確かに天馬騎士団が管轄するカルラエ付近は、聖天騎士団の管轄するレーミー北東部に比べると復興具合が芳しくない事は明らかだ。

 とは言うものの、聖天騎士団は布施という名目の臨時収入があるうえに、エトルリアとも縁深いフェリーズが筆頭である為に仕事の量も質も豊かなのだ。

 ゆえに聖天騎士団の稼ぎ高は常にトップであり、騎士団間会議では彼はいつも自慢の口ひげを見せ付けている。

 

 だが、それは言い訳にはならない。稼ぎ高は天馬騎士団だって退けを取らない。

 問題は管轄地域の復興状況だ。危険が伴う事も多くてなかなかゴーサインを出せない事もあるし、何より先の戦争で天馬騎士団が敵国に着いて事実上母国を裏切った事が禍根として残り、住人達との繋がりが希薄になってしまっているのだ。

 それに加えてティトの面倒見のよさが裏目に出て、レールが敷かれずに前に進めないでいる。

 

 分かっていて、フェリーズは聞いたのだ。案の定、ティトは言葉を慎重に選んでいる事が間と表情から伝わってくる。

 

「私は部下を信じていますから。どんどん先を考えていかないと、他国に遅れを取ってはいけませんからね。イリア騎士団の長として、足を引っ張るような事は出来ません」

 

 ようやく言葉を見つけたティトに覆い被せるように言葉を投げつける。

 もう何も言えなくなってしまった。悔しいが、フェリーズの言葉に反論ができない。

 

「今回の件は、部下に詳細を調査させています。ですから、ティト団長がご心配される必要はありませんよ」

 

 フェリーズの報告に、ティトは俯きかけた視線を再び彼の眼に集中させた。

 調査すると言っても、その結果を報告するつもりなど無いに決まっている。

 そんな疑心を感じ取ったか、フェリーズは追い討ちをかけるように今度はティトの手腕自体に攻め込んできた。

 

「ご心配ありがとうございます。しかし、私も天馬騎士団が心配なのですよ。前代は強引過ぎて手に負えませんでしたが、貴女は大人しすぎる。そうだ、ちょっと計画を見直されると良いのではないですか? そうですね、まず、部下の管理スパンの見直しから始めてみてはいかがですか?」

 

 

 

◆◆◆

 今思い出しても悔しい。立ち去るフェリーズに声をかける事すらも出来なかった自分が。

 失敗はしているが、明らかに相手のほうが功績を残している。

 それに、事前説明をした時には不思議と住民から何の批判的意見も出なかったというのだ。

 住民も承諾して決行している以上、あまり追求ができない。

 うまくかわされた。あの時の印象が強烈に残っていて、どことなく黒い噂が絶えないという話も真っ向からは否定できない。

 それに、今そのフェリーズの横には、これまた反団長勢力のトップ、色々と画策しているイドゥヴァがいる。

 

 どうしても良くない予感が先行する。

 居ても立ってもいられず、ティトは茂みから飛び出して彼らの許へ歩いていく。

 

「ふふ、さすがフェリーズ様。お話の分かるお方ですね」

 

「いえいえ、知り合って長いのです。貴女のお考えになる事は大体分かりますよ。ふふふ」

 

 二人は何か相談事でもしているのだろうか。

 なにやら不穏な雰囲気が流れているような気がして、ティトの歩みを更に速める。

 その存在に真っ先に気付いたのはフェリーズだった。

 

「おや、これはこれはティト団長。団長お一人で巡回任務ですか? 遠方までご苦労な事です」

 

「いいえ、名誉団長がカルラエ城へお越しになられていたので、その帰路のお供をしていたのです」

 

 その答えにイドゥヴァがわずかながらに額へしわを寄せる。

 ユーノに限らず、定例では来賓を送迎するのは事務方の仕事となっているからだ。

 そう言う事をするところが事務方であり、雑用一般をこなす騎士として働けない人間達という認識。

 それが、今回は団長直々にエデッサまで送迎したという。しかも、こんな短時間に。

 

「それはご苦労な事です。彼女はイリアにとって宝ですからね。彼女ほどの人が団長を退いてしまった事が、今でも残念でならないのですよ。とてもお話の分かるお方だった」

 

「ええ、姉はとても立派な団長でした」

 

 フェリーズはユーノの団長時代を思い出したかのように、笑顔で彼女を称える。

 

(話の通じない人間で悪かったわね……)

 

 ティトにとってはそれは全く違う意味合いとなっていたが、表情には出さずに軽く流す。

 

「ところで、お二人はここで何を? 特にイドゥヴァさん、貴女は先程までカルラエに居ましたよね。どうしてこんなところに?」

 

 イドゥヴァが答えるより先に、フェリーズがその質問に対して返してきた。

 

「私はユーノ様に用事があったのです。まぁ貴女もご存知のとおり、ユーノ様は外出中でお会い出来なかったのですけどね。イドゥヴァさんとは予てよりお会いするお約束をしていたのです」

 

 ティトにとっては、なんとも合点行かぬ答えであった。

 騎士団の長であるフェリーズ卿ともあろう人物が、何の約束も無しにエデッサ城に登城するとは考えづらい。

 何よりも疑問に感じたのは、フェリーズが直接イドゥヴァを呼びつけた事だ。

 両騎士団の部隊長レベルが互いに連絡を取り合うことはしばしばある話だが、団長が他の騎士団の部隊長を直接呼びつけるなど、何かよっぽどの事でもない限りありえない。

 

 連絡書のひとつでも寄越すのが礼儀。司祭であるフェリーズはマナーにも厳しい人間なので、そんな事をする筈が無い。

 そうなれば、それは密会であり天馬騎士団にあまり知られたく無い様な事。

 先入観も手伝って、ティトには密会が良くないものであるとしか思えなかった。

 

「騎士団としての話なら、私にも一声かけてください。他騎士団との話し合いを部隊長とだけで進められてしまうのは、騎士団長として見過ごせません」

 

 トップを抜きにして騎士団間の話し合いをする事自体がおかしい話ではあるのだが、ティトはその事よりも、その当事者がこの二人である事へ非常な警戒心を抱いていた。

 その気持ちの篭った言葉をフェリーズは紳士的な笑い方であっさりと流し、それでいてしっかりと反撃してきた。

 

「ティト団長、何を勘違いされているかは分かりませんが、仕事の話をする為に私はイドゥヴァさんをお呼びした訳では無いのですよ」

 

「では……?」

「はい、私は彼女をお茶に誘ったのです。昔からのお付き合いですからね。色々お喋りしたいと思っていたのです」

 

 こういう言い方をされてしまうと、これ以上に追求が出来なくなってしまう。

 例え嘘だとしても、それを証明出来るものが何もなくただ詮索するだけでは、相手に不信感を募らせるだけ。

 とは言うものの、彼女の心は警告し続けている。もう少し探りを入れてみることにした。

 

「今は任務時間中です。彼女にはこなすべき仕事が多い。その様な事で騎士団の者を連れ出すのはご遠慮願います」

 

 ようやくにフェリーズはティトに頭を下げた。彼も観念したのか……そう考えたのは甘かった。

 それで終るような相手では決してなかった。

 

「そうですね、私も少し気が緩んでいたのかもしれません。謝ります。しかし、騎士団間の話をトップ同士でしなければならないと言うのも不便な話ですね。部下同士でやってもらえるなら、それで良いと私は思うのですが」

 

「聖天騎士団では良くても、天馬騎士団ではそれがルールですので」

 

 フェリーズの提案を、ティトは簡単に切って捨ててみせる。

 この二人の密会を許すような事をしていては何をするか分からない。

 第一、騎士団の全てを知っていなければならない団長が話に参加しないなど考えられない話のはずだ。

 

「そうですか。ではそのルールを尊重しましょう。イドゥヴァさん、お茶はまた今度と言う事にしましょう。ですが、私からも少しお聞きしたい事があります。ティト団長、お答え願えますかな?」

 

 分かってくれたかと思ったその矢先の質問。

 ティトは彼の質問が自分を責めるものであることをなんとなく予想する。

 

「任務時間中に他所事をさせるなと仰いますが、貴騎士団には仕事をしていない騎士が居ますよね?」

 

「何のことでしょう。そんな騎士は居ない筈ですが」

 

「居るでしょう。今年の新人達ですよ。まだ一度も国外へ出していないそうじゃないですか。お茶の時間も許さない程にお忙しい貴騎士団において、そんな仕事をさせない騎士が居るのはおかしい話ではないですか」

 

 十八部隊の処遇については、他の騎士団からも言及を受けている。何故、部隊を遊ばせておいて稼げる金を稼ごうとしないのか、と。

 だが、その都度ティトは同じ回答をしてきた。今回も同様の答えを繰り返す。

 

「新人達には、戦場に出るよりも今はもっと基本を学んで欲しいからです。確かに、大きな戦力を求められる雇用先でなければ彼女達だって十分に報酬を稼ぐ事が出来ます。でも、今はもっとイリア騎士としての基本を学んで欲しいのです。それ無くしては、真にイリアを守れる騎士にはなれないと思うのです。これは、団長としての私の方針です。批判を受ける謂れはありません」

 

「ティト団長、そう言う事は管轄地域の復興状況を見てから言っていただきたい。……まぁ、これ以上他騎士団の運営に首を突っ込むのは失礼ですね。十八部隊がイリアを守れるようになるのを楽しみにしていますよ」

 

 フェリーズはティトに一礼をすると、エデッサ城に向かってゆっくりと歩き出した。

 なんとも一筋縄では行かない彼への警戒心を強めた彼女は、その彼の言葉を噛み締めて、イドゥヴァと共にカルラエ城に向かって天馬を駆るのであった。

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