ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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前話のあらすじ

最近よくロイから手紙が届いていた。
最初は社交辞令だと思っていたシャニーだが、ルシャナに言われてきちんと返事を書くようになる。
手紙の中でフェレへ遊びに誘ってくれているのだが、仕事が忙しくてなかなか機会がない。
傭兵として雇ってくれたら行けると冗談で書いたら、天馬騎士団から提示されるリストに名前が無いと真面目に返って来てしまう。
彼の許へ行く手段が無い事にがっかりすると同時に、どうやって返そうか悩むのだった。


第3話 唯一無二の名

 何とか家事を終わらせたシャニーは、着替えてコートを羽織ると鼻歌を歌いながら天馬に乗って飛び出した。

 彼女の元気に応えるように、日差しはポカポカ穏やかに蒼穹を包む。

 これから休みを使って、仲間たちと遊びに行く約束をしていたのだ。天馬で切る風が心なしか軽く感じる。

 

 あっという間に山を越え着いた先は、イリアでも最大級の城下町エデッサだ。

 カルラエもまずまずの規模の城下町だが、さすがにエデッサには敵わない。買い物ならエデッサ。イリアの若者にとっては常識だ。

 

「あー、久しぶりの買い物だー! 何買おうかなっと」

 

 最近は仕事が立て込み、おまけにしばらく立ち上がれないほどの重傷を負っていたので、街に出るなんて久しぶりの事。

 それもあってか、やたら気合が入った拳を握って今にも突撃しそうなシャニーへ、呆れるウッディが両手を広げて見せた。

 

「僕らの給金じゃそう買えないけどな」

 

「はあ、夢が無いなぁウッディ君は!」

 

 入団して一年にも満たない騎士への給金など知れている。食べていくことで精いっぱいなので、オシャレに現を抜かすなんて夢の話だ。

 それでも、たまには現実逃避したい頭にズシっと雪でも乗せられた気持ちになったシャニーは、払いのけるようにしてウッディを罵って不機嫌あらわ。

 

「私はアクセサリを見ていこうかな」

 

「お、行く行く」

 

 そんな凸凹な会話を聞いていたセラが、目当ての店を見つけて方向を変える。それに釣られて、シャニーも元気に親友の後について宝飾店へと入っていってしまった。

 ウインドウショッピングで済まそうとしていたウッディだが、二人を迎え入れた店員と目が合ってしまい仕方なくドアをくぐる。

 

(女の子ってなんでああ買い物が好きなのかな)

 

 誘われた時から嫌な予感はしていた。

 間違いなく、現地に着いたら自分は蚊帳の外になる。次に呼ばれる時は会計が済んでから。

 彼は本を読みながら適当な距離を取りつつ、向こうで物色する二人についていく。

 

「どれがいいかなぁ……」

 

 どうやらセラはピアスを探しているようだ。先ほどから売り場を行ったり来たり、建物の中に入っている店をハシゴしては色とりどりのピアスを眺めて試着している。

 その真剣さにシャニーの勘がピンとくる。

 

「もしかしてセラ、恋してる?!」

 

 思わず持っていたピアスを落とすところだ。親友の確信に満ちた顔の後ろから、ウッディまでもが興味ありそうにこちらを覗いている。

 途端に顔がかぁっと熱くなってくることが分かり、周りの視線が一気に突き刺さったような気がした。

 

「なっ、ち、違うよ!」

 

「ねえねえ、相手は誰? やっぱりラルク先輩なの? ねえ!」

 

 狼狽しながら首が飛ぶ勢いで否定するが、白い歯を見せて笑うシャニーには聞こえていないかのよう。

 セラが手にしていた赤いピアスをまじまじ覗き込むと、イタズラ好きな笑顔が見上げてくる。

 

「結構いいお値段してるじゃん、勝負かけるのかな」

 

「もうシャニー、からかわないで!」

 

 吐かせるまで言うつもりかもしれない。さすがに哀れに見えたのかウッディが一人盛り上がるシャニーの前に割って入ってきた。

 

「やっぱり上位部隊にいて外に出てると大分手当が付くんだろ?」

 

 セラは見習い修行を経験していた為、早い時期から第二部隊に配属されていた。

 八月あたりに異動辞令が出て第五部隊に移ったが、この部隊の部隊長マリッサもイドゥヴァの息がかかった人物で、仕事はたくさん振られてくるのでセラ自身も既に傭兵契約に何度も出撃していた。

 気まずくなるので今まで給金の話はしてこなかったが、ここはチャンスとばかりにウッディに合わせる。

 

「そんなところね。外回りには身だしなみも大事だし!」

 

 ようやくにシャニーからの追及が止まった。

 外回りに出られないことをシャニーも気にしているとは知っているが、今回ばかりはお互い様。

 面白いネタを取り上げられたような感じで残念がるシャニーだが、頭の後ろで手を組む彼女の笑顔は相変わらずだ。

 

「勝負アクセ買ったらランチ行こうよ、ランチ!」

 

「はは……シャニーはやっぱりそっちなんだね」

 

 この時のために、朝ご飯を減らしてお菓子をちょっと摘まむだけで我慢してきた。

 意気込む彼女に、ウッディは苦笑いするしかなかった。

 彼女から食欲を取り上げたら、本当にそのまま死ぬのではないかと思うほどによく食べる。

 とりあえずケガをしていても、食べていたら放っておいても大丈夫。これがウッディのシャニーに対する診察基準だ。

 

「そりゃそうさ。百万ゴールド当たったら世界一周食べ歩きしたいなー」

 

 今にもじゅるりとヨダレが垂れそうな顔で願望を叫ぶ。

 買いもしない宝くじが当たったらの話など、今までどれだけ聞かされて来た事か。そのたび同じことを言っているから、そのブレの無さは感心する。

 セラが赤いピアスを買って店から出てくると、元気印を先頭に三人は飲食街へと消えていった。

 

 

 

◆◆◆

 カフェ風の明るい店の窓辺の席には、柔らかい日差しが注いで会話が弾む。

 いつもの面子だが、騎士団の食堂で喋るよりも、こうした街で食べながら喋るほうが断然に楽しい。もちろん量で稼ぐ食堂と違って味は格別だ。

 

「ふぅ~。おいしかったぁ」

 

「本当に、あんたの食べっぷり見てるとこっちのお腹がいっぱいになるよ」

 

 もう食べられないと言った感じにお腹をさすり、満足そうな声を上げるシャニーがセラには羨ましかった。

 天馬乗りは体重をどうしても気にしないといけないから、食べる量にも気を遣うのだ。

 彼女に合わせて食べていたら、自分だけ太ってしまう。

 食べても食べても変わらないこの体質が羨ましい。とことん幸せなやつだと改めて感じる。

 

「だっていっつも作ってばかりだからたまには楽したいしさ」

 

 食べる側は楽なもの。今日だって次の非番までの夕食のおかずを作って出てきている。

 

「ね、ウッディ?」

 

 その不満をはっきり向けられて小さくなるしかなかった。料理は苦手なのでついつい彼女に頼ってしまう。先週は忙しくその他の家事もできなかったから猶更だ。

 

「デザートをプレゼントしてくれてもばち当たらないと思うんだけどなぁ?」

 

 どうやらまだ食べるらしく、その視線の串刺しを受けたウッディは苦笑いしながら自分の分を彼女に渡してやった。

 

「さてと、この後はどうしようかな」

 

 幸せそうにケーキを頬張る彼女の横で、セラが案内板を眺めだしている。

 すると、後ろからポンポンと肩を叩かれ、振り向くとシャニーがまだもぐもくしていた。

 

「行くアテないならちょっと付き合ってよ」

 

 噛みしめていた幸せを名残惜しそうに飲みこんだシャニーの口から出た言葉に、セラは思わずウッディと顔を見合わせた。

 彼も渋い顔をしており、考えは二人とも同じようだ。嫌な予感しかしない。

 

 

 

◆◆◆

「ああ……やっぱり」

 

 それはすぐに現実となった。シャニーの後についてきた彼らは、見えてきた看板を見上げて漏らさずにはおれなかった。

 そこは武器屋で、シャニーは正面から入らずに建物の側面へ回っていく。こちらから入れば腕の良い鍛冶師がいる工房に繋がっている。

 だが、彼女が曲がり角で急に止まるものだから後ろの二人は鼻を前の背にぶつけた。

 

「あれ、アルマじゃない。こんなところで会うなんて」

 

「何だ、お前か。どうしたんだこんなところで」

 

 シャニーが呼んだ名前に驚いて、彼女の両脇から顔を出してみると槍を持ったアルマが不思議そうにこちらを見ている。

 また抜け出してサボっているのかとでも言いたげな顔だ。

 

「剣が折れちゃったから新調しに来たんだ」

 

 一度は修理に出したものの、酷い折れ方で修理不可と返ってきてしまって今は丸腰。疑われたままでは癪なので、工房の入口を指さすが返ってきたのは鼻で笑う声。

 

「ふん、下手くそはよく武器を折るもんだ」

 

「なにおう! 折ったのは入団してから初めてだもん!」

 

 どうにも顔を合わせると言わずにはおれないのか、挑発に乗ったシャニーが地団太を踏んでいる。

 こうして言い合っていても、アルマの他の団員に対する態度とシャニーへのそれは明らかに違い、仲が悪い訳では無さそうなのだが、ウッディはいつケンカに発展するかと毎度ヒヤヒヤしてきた。

 

「そういうアルマは何しに来たのさ?」

 

 どうせお前も槍を折ったんだろう? そう言いたげな目でアルマを見つめ、手にした槍を指さすシャニーだが、「槍の修理だ」そんなわけがあるまいと鼻で笑ったアルマはすっと槍を見せてきた。

 

「仕事の度にメンテしないとな。第一部隊はあちこち出るから大変だよ」

 

 おまけにニコッとしたかと思うと強烈な嫌味を喰らってしまい、ギリギリ歯ぎしりし始めそうなほど悔しがるシャニーをなだめながら、セラたちはアルマを追うようにして工房へと入っていった。

 

 

 

◆◆◆

 それからどれくらい経ったことだろう。 槍の調整を終えて戻ってきたアルマは、ショーウィンドウのあるエントランスに、別れた時そのままの場所でトランプに興じるセラとウッディを見つけ、眉間にしわを寄せた。

 

「お前たち、そこで何をしているんだ?」

 

「私たちは用事がないからね。シャニーを待ってるのさ」

 

 こうなるからシャニーと工房に訪れるのは覚悟がいる。

 今回は今までの経験が生きたおかげで暇つぶしが出来るが、前回は何も無い所で何もすることが無く困ったものだ。

 

「待ってるって……剣一本買うだけだろ? 何をしてるんだ、あいつは」

 

 自分も槍の調整になかなか時間がかかったはずと、アルマは腕時計に視線を落としてみる。やはり別れてから一時間以上は経っている。

 おまけに十八部隊の給金で買える武器など精々鋼製が関の山だが、シャニーがそんな長所を殺すようなものを買うとは思えない。

 選択肢などないのだから三十分……いや十分程度で終わるはずだ。

 

「見に行けば分かるよ」

 

 セラも仰る通りと言わんばかりに、両手を広げてため息をついて見せた。

 以前は迎えに行った事もあるが、自分たちを待たせていると分かると真剣な親友に悪いので、帰ってくるまで待つようにしていた。

 

「あんたでもビックリするかもね」

 

 そう付け加えると、興味は無いと言って去るかと思ったアルマが踵を返して工房のほうを向く。

 

「よし、行くよウッディ!!」

 

 セラの掛け声とともにバタバタと荷物を片付ける音がしたかと思うと、ドアチャイムがガランガランと一回転するくらい勢いよく出口のドアが開け放たれる。「ん? おい!」アルマが気づいて振り返った時には、二人はすでに工房を脱出していた。

 

「シャニーをよろしく! じゃあねえ!」

 

 自分たちの親友を人に押し付けて逃げて行った。

 電光石火の逃走劇にアルマは追いかける気にもならず、仕方なくシャニーがいる部屋を目指すことにする。

 しばらくすると静かな工房に鋭く空を割く音が聞こえてくるようになり、部屋から漏れる光に誘われ、隙間から中を覗き見る。そこではシャニーが青髪を激しく揺らしながら、一心不乱に切先で案山子を捉える姿があった。

 しばらくすると動きは止まり、場に静寂が戻ってくる。

 

「どうだ、シャニー。満足したか?」

 

 剣を構えて目を瞑るシャニーの様子を、奥の作業台で暇そうに眺めながら、紙たばこをふかす鍛冶師が声をかけた。

 

「ふぅ……」

 

 しばらくして大きく息を吐いた彼女は剣を下ろして静かに鞘にしまう。これだけ見たら騎士と言うより剣士だ。

 

「おじさん、もう少しポイントにバランス持っていけない?」

 

 すたすた歩いてきて、鞘にしまった剣を鍛冶師にずいっと突き出した。

 買う剣など決まっていたが、その調整がいつまで経っても終わらない。すぐに刀身を調整しては、またシャニーが剣を振りだす。その鋭い音をアルマは目を閉じて聞いていた。

 

「シャニー、相変わらずだな」

 

 また別の注文と共に剣を返してきた彼女に、すっと水の入ったコップを手渡した鍛冶師が呆れたような感心したような口調で笑う。

 

「ごめんね、付き合わせちゃって」

 

「まったくだぜ。利幅のないお客さんだよ、お前はよ」

 

 彼女に捕まると他の仕事が半日止まってしまう。それでも、額に滲む汗を拭いながら詫びてくるニコッとした顔は憎めない。静かにボヤきながら、また剣を静かに鍛え始めた。

 小気味よく響く金槌の音を聞き、シャニーは椅子にもたれて天井を見つめながら大きく息を吐く。

 

「いざって時に調整不足で戦えないなんて事になりたくないからね」

 

 準備を怠って死にかけた事はベルン動乱でいくらもあった。

 当時傭兵団にいた戦士に口を酸っぱくして言われ続けた事が、ようやくに今分かる気がしてシャニーは両手を見つめる。

 

「あたし、失敗ばかりだからさ」

 

 ついこの前戦ったあの閃電の魔術師も、援軍が来ていなければ殺されていた。もっともっと強くならなければ……先ほどの笑顔とは違う眼差しがそこにある。

 

「いんや、自分の武器にそこまでこだわれるってのはそうそういないぜ。昔は武器を見ればそいつの人柄が分かるってくらい大事に考えたもんだが、今どきじゃ珍しい」

 

 既製品をしっくり手になじむようになるまで改造する。昔は当たり前だった。

 武器は自分を守る相棒であり、己の姿勢を映す鏡だ。

 使い手の人となりを知ることができるこの楽しい仕事も最近はめっきり減った。

 

「師匠にそこらへんは叩きこまれたからね」

 

 最初は自分もうんざりだった。師匠のディークや、彼といつも行動を共にしていた剣士ルトガーに連れられて、二人が調整する様子を見ている側。

 いつもは優しいディークも、剣の事になるととにかく厳しかった。

 二人の様子をあくびをしながら眺めていたあの頃の自分が恥ずかしい。

 

「あ、あと、ブレードをもう少し細くして、ポイントをもうちょっと広げて欲しいな」

 

 いつしかこうして武器を調整することが当たり前になっていた。最初はディークを見よう見まねで鍛冶屋に指示を出していたので、注文を受けた側が困った顔をすることも多かったが。

 今ではどうしたらもっと良い武器になるか、考える事が一つの楽しみだ。

 

「しっかし、これを更に細くか? どっちかって言うと刀だぜ? これ以上やると」

 

 だいぶ慣れた感じのシャニーではあるが、今回ばかりは鍛冶屋の主人も待ったをかけた。

 軽量化を図り、反りを入れ刀身の先から鋒での斬撃に長けた剣は、騎士剣と言うにはあまりにも脆い。

 

「ま、お前が使いやすいのが一番だがな」

 

 正確な金槌が細身の剣を更に鍛え上げ、輝く刀身をさらに磨くと彼女に手渡した。しばらく重みを確かめてから刀身を見上げ、じっくりと様々な型で振ってみる。

 

「うん! よしっ。ありがとう、おじさん。ようやくしっくりきたよ」

 

 ようやく顔から鋭さが消えて、小さくガッツポーズをしながらニコッと笑って見せた。

 

「改造代はいくら?」

 

 かなり付き合ってもらったので答えが怖いが、ここまで満足できる一振りを仕上げてもらえた喜びには代えられない。

 

「ん? ああ、そっちはいらねえよ」

 

 仕事がひと段落ついて紙たばこをふかし始めた鍛冶師が、のんびりとした口調で告げてゆらゆらと手を振った。

 

「え?! ホントッ」

 

 感激が瞳に現れるシャニーの飛び跳ねる姿に目袋が緩む。

 

「ああ、剣が喜んでるぜ。俺もこれだけあれこれできたら鍛冶師冥利に尽きるってもんだ」

 

 久しぶりに満足がいくほど刀を打った。それだけで十分だし、仕事後の至福を中断してまでわざわざレジまで歩いて行きたくない。

 ありがとうと嬉しそうに剣を腰に差して出ていくシャニーの背中を見送り、鍛冶師はうんと満足そうに大きく背伸びした。

 

 

 

◆◆◆

 ふんふんと鼻歌を歌いながら戻ってきたシャニーは、意外な人物と最初に顔が合って辺りをきょろきょろと見渡し始めた。

 だが、そこにはアルマ以外には知り合いどころか他の客の姿さえなく、窓の外はすでに紅に染まり始めている。

 

「あれ? アルマ、ほかの二人は?」

 

「待っている訳無いだろう? どれだけ時間が経っていると思っている?」

 

 時計のほうにツンと視線を向け、見てみろと友に無言で促す。

 本当に時間を忘れて剣の調整をしていたらしく、やってしまったと目と口元が言っている。

 

「ごめん、アルマも待たせちゃったね」

 

「いや、私は勝手に残っていただけだ」

 

 すぐに駆け寄ってきて謝るシャニーを軽く笑って止めさせると、彼女が腰に差した剣をすっと鞘から抜いて眺めてみる。

 

「それより、この剣はどこで学んだんだ?」

 

 騎士が扱うような剣さばきではない。普通の騎士ならば槍を主に用い、剣は補助的な立場だがシャニーは完全に真逆となっている。せいぜい、投槍を使っている所しか見た事が無い。

 

「見習いの時に入った傭兵団の隊長が師匠なんだ。あたしの師匠すっごく剣の扱いが上手かったんだ」

 

 どこに行っても自慢ができる大好きな師匠だった。言葉はきついし、稽古はもっと厳しかったが、よく目をかけてもらった。

 悲しくて悲しくて涙がぽろぽろ溢れた別れの時が、まるでつい先日のようだ。

 今頃どこの戦場で名を轟かせているのだろうか、ディークは。

 

「お前の振りをずっと見て弱点を探っていた。刺突剣というより刀を扱うような構えだな、相変わらず」

 

 傭兵の力強い振りと剣を使った防護術に、剣士の鋭い一閃が融合したそれは、そのどちらにも属さない独特な剣技となっている。

 本来天馬乗りなのであまり活用の場は無いはずなのだが、周りも天馬乗りばかりなので、騎士団の中では珍しく地上作戦を執れる貴重な人材とアルマには映っていた。

 

「いっつも師匠がライバルの剣士さんと斬り結んでたのを見てたからかな」

 

 ライバルに褒められて気分よく話すシャニーには、そんなつもりは余り無いようだ。

 自由さは歩兵時に比べたら制限されるが、天馬に乗りながらでも剣のほうが得意だった。

 傭兵団に槍を扱う者がいなかったし、何より剣の達人が二人も傍にいて実技を毎日のように見ていたのだから。

 

「すごかったよ、ホント!」

 

 自分のことより師匠を誉めて欲しいのか、あれこれ武勇伝を壊れた蓄音機のように喋りだした。

 もうお腹いっぱいだとアルマが視線を外し、ようやくマシンガントークが終わったかと思ったのだが、まだ終わらせない様子。

 

「あ、そうだ! それよりさ、弱点を教えてよ、弱点を」

 

 ポンと手を打ったシャニーはアルマの視線のほうに回り込む。弱点なんて人に見てもらわないと絶対に分からない。アルマほどの実力者に見てもらえるなら大助かりだ。

 

「企業秘密だ」

 

 でも、取り付く島もなくあっさりと返されてしまった。

 

「いつお前が敵になるか分からんからな」

 

 傭兵同士だから当たり前のことだ。

 だが、アルマにはライバルがこの先、思わぬ障害になる可能性を察していた。長いものに巻かれていれば良いと言う性格では無い事は、イドゥヴァへの態度で分かる。

 敵……その言葉を聞いたシャニーの表情を軽く鼻で笑うと、アルマはそのまま日の暮れた街の闇夜へと消えていった。

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