ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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あらすじ

まさかの新人教育部隊への配属と姉からの厳しい言葉で自信を失いかけていたシャニー。
姉を絶対に見返してやると稽古に励み、気づけば19時を回っていた。
帰路につこうとした時、彼女は室内稽古場の明かりがついていることに気づく。
そこにいたのは見習い免除の特例を使ってこの世界に入って来た1個下のミリアだった。


第2話 青空と闇夜(2)

 その夜、部隊の稽古が終わった後に自身の剣の型のチェックをし終わったシャニーが時計を見るとすでに19時を回っていた。

 どうにも一度集中すると時間を忘れてしまう。

 早く帰って食事にしようと早足で稽古場を抜けようとした時だ。まだ奥に明かりがあることに気づく。自分が消し忘れたのだろうか。

 

「あれ……あなたは確か……ミリア?」

 

 誰かいる。上がった息と雑味のある武器の振れる音。

 室内稽古場に入ったシャニーの視界に映ったのは若草色の髪の少女。初日から声をかけてきたあの子だった。

 必死に槍を振ってはいるが、バランスがバラバラで見ていられず声をかけた。

 

「あ、シャニー。ちぃーっす!」

 

 額の汗をぬぐいながら手を挙げて気持ちのいい返事が返ってくる。

 再び黙々槍を振る姿に、シャニーはその様子をじっと横から眺めていた。

 一体どれだけ稽古をしているのか、大粒の汗がヘアバンドの色を変えている。

 

「まだやるの? 体、フラフラしてるよ?」

 

「ウチは見習い修行に出てないから、ちょっとでも人より稽古して追いつかないと」

 

 陽気な顔をしているが、桃色の眼差しは真剣だ。その姿にシャニーは幼いころの自分を思い出していた。

 城の隅っこで木の棒を振り、シグーネに見つかって稽古をつけてもらったあの頃。自然と体が動く。

 

「ほら、もっと腰に力入れて。腕の力じゃなくて腰を使って振るんだ」

 

 ひたすらに振っているのと、見てもらって悪いところを直しながらではまるで違う。

 ミリア自身でも驚くくらい、さっきまでと自分の動きが違っているのが分かる。

 

「うんうん、良くなったよ!」

 

 それを自分のことのようにシャニーが喜んでくれるので俄然やる気が出る。

 

「よしっ。じゃあ、あたしに向かって振ってきて」

 

「そ、そんなことできるわけ?!」

 

 ついにはシャニーが稽古用の木の槍を取り出して相対してきたものだから思わず腰が引けてしまう。

 いきなりレベルを上げすぎたかと思ったが、シャニーは構えを解かずにミリアの槍の穂先を突いた。

 

「実戦ではやらなきゃやられる。大丈夫さ、そう簡単には当てさせないよ」

 

 しばらく木製の槍が打ち合う音だけが室内に響いていたのだが、すぐにミリアは槍を下ろしてしまった。

 

「どうしたの?」

 

 目つきが元に戻って不思議そうに見てくるシャニーに彼女は申し訳なさそうに頭をかいた。

 

「悪いよ、帰ろうとしてたんじゃ?」

 

 彼女の視線の先にはシャニーが持ってきた帰りの荷物がある。

 

「仲間が一生懸命になってるのに、見て見ぬ振りなんてできないじゃん。ほら、構えなよ。あたしにとっても防御のいい稽古になるんだからさ」

 

 何だ、そんなことかと笑った同期にミリアはあっけにとられた。

 自分は右も左も分からなくて、何もかも精いっぱいなのにとても同期とは思えなかっい。

 じれったくなって攻めてきたシャニーの槍に反応して再び打ち合いが始まり、それからどれだけ経っただろうか。月がだいぶ高い場所にいる。

 

「もうダメ。もうムリ。もう腕が上がらないよ」

 

 槍を握ったままの手が固まって動かずミリアが倒れこむ。

 

「はぁはぁ……さすがに疲れたね」

 

 シャニーも槍を置くと倒れたミリアの横にばったり寝ころんだ。

 

「はぁ、思い出すなぁ。見習いに出る前、あたしもよくシグーネさんやお姉ちゃんに稽古をつけてもらったな」

 

 独り言のように上がった息に任せて口にした言葉にミリアがえっと驚いて上体を起こす。

 

「シャニー、年いくつ?」

 

 いきなり問われた内容にきょとんとしたシャニーも起き上がるとぱっと左手を開いて見せた。

 

「15だよ。なんで?」

 

 見習い修行は通常14歳からの1年。1年修行したのち、15歳で成人となり叙任騎士の資格を得るルールだ。

 今年は戦後の人材不足でやむなく見習いが免除されている。

 

「じゃあ、先輩なんスね。失礼しましたッス、先輩」

 

 急に口調が変わってぎょっとするシャニーだが、「同い年だと思った……」と聞こえないようにボソッとミリアが口にした言葉には口元が歪んだ。

 幼く見えるということか。それでも先輩と言う言葉にはゾクっと来た。何だかむず痒い。

 

「同期なんだし先輩とかやめようよ。1つしか違わないんだし」

 

「それもそうっスね。じゃあ、名前で呼ばせてもらうッスよ」

 

 明るい感じの子で気が合う。休憩も兼ねて喋っていても気疲れしないのでどんどん話が弾む。

 叙任式で緊張したこと、部隊長に拍子抜けしたこと、今日の食堂のランチ……。

 あれこれ話したところで、入団までの経緯を話すとミリアは目を爛々とさせて聞き入ってきた。

 

「いやあ、やっぱり見習い修行って大変なんスね」

 

「なんで今年入団しようと思ったの?」

 

 ミリアは聞けば今年14だといい、例年なら見習い修行に出る年だ。

 むろん、今年とてこの形をとる者が大半でミリアのような者は珍しい。

 興味から聞いたのだが、彼女はそれまでの笑みが消えて俯きながら苦笑いしてきた。

 

「ウチ、孤児で幼馴染のとこに居候してるから早く稼ぎに出たいなって思って。でも……甘かったみたいッス」

 

 ここにもいた。戦死して親がいない者が。

 騎士団は学校ではないから一から教えてくれなくて当然だが、入団からまさかこんなに差がついているなんて思いもしなかった。

 取り残される……その不安が今ここに彼女を呼び寄せていた。

 

「シャニー、無理を承知でお願いっス。ウチにこれからも稽古をつけて。お願いッス、先輩!」

 

 入団したてで心細い中、新しい友達ができ、その彼女が困っている。

 もともとなんにでも首を突っ込みたくなる性格だ。

 急に頭を下げられてシャニーはどうすればいいか分からなくなってしまったが、とりあえず頭をあげさせるといつも通りニコッと笑って見せた。

 

「無理も何も、困ってたら助けるよ。仲間じゃない、あたしたち」

 

「これからずっとついて行くッス、先輩!」

 

 救われたような笑みを浮かべてミリアが抱き着いてきて、その顔が嬉しくてシャニーも受け止めた。

 ティトに完膚なきまで砕かれた自信を少しだけ取り戻せた気がする。

 必要だと言ってくれる人がいることがこんなにも嬉しいことだなんて。

 その時だ、何やら聞こえてくるたくさんの声。夜勤組の休憩時間らしい。

 

「いけない! もう帰ろう、さすがに遅いよ!」

 

 時計はすでに22時半を過ぎていた。

 急いで片付けて消灯し、部屋を出てそのまま天馬の待つ厩舎へ走ろうとしたが、後ろから腕を引っ張られた。

 

「待って欲しいッス! レンを連れてくるッス」

 

 踵を返して走り出したミリアをシャニーも追いかけることにする。

 レン……彼女の幼馴染のことだろうか。

 しばらく廊下を走り、袋小路に入って扉を開ける。ここは練習用の武器の倉庫……その中の光景に二人とも唖然とした。

 

「レン……見かけないと思ったらずっとそこにいたの?」

 

「うん。槍、重くて持てなかった」

 

 そこには小柄な少女がいた。白に近い水色のロングヘアの下から、ボーっとしたような銀色の眼差しが無表情にミリアを見ている。覇気の薄さはミリアとは正反対のよう。

 そんな彼女がミリアやシャニーを驚かせたのは槍を引きずっている様子ではなく、姿を見なかった理由がずっと槍を倉庫から引っ張り出そうと奮闘していたからだった。

 

「だったらウチに言えばよかったでしょ!」

 

「ミリア、どこに行くか言わなくて分からなかった」

 

「あーそうだったね、ごめんよ。へへっ、先輩に稽古つけてもらってたんだ」

 

 白い歯を見せながら自慢するようにミリアはシャニーを指さし、向けられた指の方向をじっと銀色の瞳で見つめていたレンは突然メモを取り出した。

 

「シャニー……十八部隊所属の天馬騎士、主戦武器は剣でレフティ、エデッサ城主婦人ユーノの妹……」

 

「あー、シャニー気にしないで欲しいッス。こいつ、こういうことばっかしてるんで」

 

 いきなり自分のプロフィールを話し始めた銀色の瞳にびっくりするシャニーに、またミリアが申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。

 今年の新人は変わり者が多いと早くも噂をされているらしいが、いきなりそんな代表例のような二人と出会うことになるとは。

 

「私はレン。よろしくお願いします。シャニー」

 

 ちょこちょこと歩いてきてすっと手を差し出された。シャニーも決して背が高いほうではないがそれでも小さく感じる。

 145センチもないのではないか。無機質に見えた色白でどこか儚げな顔の中で小さな口が優しそうに上向いた。

 

「うん。こちらこそよろしく。へへっ、ミリア、稽古に付き合ってよかったよ。友達が二人もできて嬉しい」

 

 三人は厩舎までの道をずっと話題が尽きることなく歩いていき、明日の朝からルシャナも入れた四人で稽古をすることに決めたのだった。

 

 

 

 ◆

 翌日、朝はカルラエ城の食堂でとることにしているルシャナは、同じく横でもぐもぐと元気に食べ続けるシャニーに苦笑いしていた。

 良く食べるは彼女の信条だが、それにしても良く食べる。

 

「シャニー先輩、チーィッス!」

 

 元気な声が聞こえてきて、口がリスのように膨らんでいるシャニーが手を振るほうを見ると、若草色の髪の背の高い子と、水色の髪の背の低い子が手を振っているのが見える。

 

「先輩だってさ」

 

 クスクスとルシャナが笑うので文句を言うが、もごもご言うだけで何を言っているか分からず、顔を食器のほうにむけられた。

 

「こいつに先輩なんてつけなくていいよ。聞いてるこっちが恥ずかしいよ」

 

「どういう意味?!」

 

 食事を終えて稽古場に向かう道中、ルシャナが笑いながら口にした言葉に肩をぶつけてやるが、「気持ち悪いじゃん」と即返ってきて口を尖らせた。

 昨日は大きく見えたシャニーをおもちゃにする紫色のボブを揺らすルシャナにミリアの興味が移る。

 

「ルシャナさんはシャニーと友達なんスか?」

 

「腐れ縁だよ。お互い親がいなかったから、何でも協力して生きてきたって感じ」

 

 ユーノやティトが村にいた時はいつも彼女たちに助けてもらってきた。

 その二人が騎士として旅立ってしまうと、同い年のシャニーしかいなかった。そこからは何をするにも一緒。

 困っていたら助ける。これは二人が生きてきた中で自然と培われてきた絆そのものだった。

 

「ウチらと同じなんスね。ウチの場合は、レンの両親に良くしてもらったけど」

 

「レンはどうして天馬騎士団に入ろうと思ったの?」

 

「どうして……? 質問の意図が理解できません」

 

 聞けばレンの家はイリアの中ではそこそこ裕福な家系らしく、ミリアのように一刻も早く仕事を探さなければならない立場ではなかった。

 おまけにこの体格だ。武器を扱うこと自体に四苦八苦することは目に見えていた。「何か理由が要りますか?」開口一番に返って来た逆質問に問いかけたシャニーはルシャナと顔を見合わせた。

 

「あなた達と同じ。ミリアが行くなら、私も行く。それだけです」

 

 顔を見合わせていた二人は返ってきた答えに思わず頷いてしまった。

 自分たちがそうであるように、彼女たちもお互いを姉妹のように大事に思っている。

 同じ働くなら、一緒の場所で助け合いながら。困っているなら助けたい。理由なんてそれで十分か。

 

 

 

 ◆

「うーん……一番軽い剣を探してきたつもりだったんだけど……」

 

 だが、現実はそう甘くはない。ここは士官学校ではない。

 昨日の様子からして槍は無理だと判断したシャニーは倉庫から剣を持ってきてレンに握らせていた。

 それでも、構えを取るところからして右腕が下がって重さに負けているのが分かる。

 最初は自分もそうだった。彼女にとっての剣の始まりも、槍が重いからなどと言う軽い理由。

 

 ふぅっと思案に暮れて大きく息を吐く。

 門戸の広い剣はその分奥が深い。一度教えを乞うたらディークは剣を放ることを許してはくれなかった。

 彼から半スパルタ的に剣の道を教えてもらい、ルトガーと言う生きた教材がいなかったらとてもこの道で行こうとは思えなかった。

 それが、こんな剣を振るだけで重さに負けて転んでしまうのでは先が思いやられる。

 

「ねえ、レイサさん、その短剣どこで手に入れたの?」

 

 ふと、今日も木の上で朝から寝転がっているレイサの腰から垂れている短剣に目が行きシャニーが声をかけるも「やめときな」こちらを向くこともなく諦めろと手を振られてしまった。

 

「そんな子に暗殺剣を使わせるのかい? アマくないよ、この世界は」

 

 ────あんたも身をもって知ったはずだろう

 

 レイサの鋭い眼差しが突き刺さってシャニーにはそれ以上食い下がる気になれなかった。

 だけど、他に聞けるような人はこの新人部隊にはいない。その中で仕方なく()()人物の許へ向かった。

 

 

 

 今日も一人で稽古に励む騎士が一人。天馬から急降下して動く的を切り裂くと、上昇と共に背を向けて手槍を見舞う。

 見事に動く的を射抜いた手槍が地面に音を立てて突き刺さった。

 その光景にミリア達だけでなくシャニーも口を開けて見入ってしまっていた。

 羨望の眼差しを送られる騎士がまた急降下から牙をむき、上昇と共にこちらを向いた……。

 

「危ない!!」

 

 あっけにとられていたミリア達を突き飛ばしてシャニーもその場から飛び出した。

 

「アルマ!! いったい何をするの!」

 

 シャニーの立っていた場所に突き刺さった手槍が左右に揺れている。

 周りの連中も腰が抜けていた。こちらに飛んできてゆっくりと降下してくるアルマの手に新しく握られている手槍は、間違いなく実戦用の本物だ。

 

「お前こそ何をしている? そんな足手まとい共と一緒に城を遠足など休憩時間にしろ。気が散る」

 

 ────足手まとい

 

 明確な蔑視の言葉を浴びせられてミリアの顔に怒りが浮かぶが何も言い返せなかった。

 相手の動きはもはや精鋭の第一部隊の動きに勝るとも劣らないことは素人でも分かる。

 見下してくる目線に耐えられなくなって顔を逸らした途端だ、横から腹が震えるような大きな声が飛んできた。

 

「取り消しなさいよっ、今の言葉!」

 

 アルマの口元に笑みが浮かぶ。踏み出してきたシャニーの目つきが変わったからだ。

 他の連中には興味はないが、こいつのことだけはもう少し知りたい。

 体を正面に向け、槍を握りなおすとその穂先をまっすぐにシャニーへと向けた。

 

「必要はない。それとも、お前は負け犬の中で大将を気取って満足なのか?」

「こっ、この!!」

 

 思わず左手が剣にかかる。だがその手を上から強く握って抜かせまいとすると手が伸びてきて、体が後ろに引っ張られた。

 

「やめなよ、シャニー」

 

 後ろを振り向くとルシャナが見つめて諭してくる。こんなことをする為にここに来たわけではないと。

 目を瞑って怒りを腹から大きく吐き出すと静かに剣にかかった手を下す。

 

「あたし達は仲間に合う武器を探してる。仲間の命に係わることなんだ。この子でも扱える武器種、アルマは知らない?」

 

 白けてしまった。もう少しであの剣をどのように捌くか見ることができたのに。シャニーの問いかけにも無言で背を向けたアルマは天馬にまたがってしまう。

 

「仲間だと? いつからお前たちの仲間になった? 部隊が同じと言うだけで随分お花畑だな。クラブ活動か何かと勘違いしていないか?」

 

 冷たくあしらわれて、再び拳が強く握られる。

 その手を今度は優しく包む手。驚いて振り向くと今度はレンが見上げてきて、初めて微笑んだ。

 

「もう、行きましょう」

 

 箱入り娘だった彼女にとって、アルマのような攻撃的な人間も、目の前にいるような立ち向かう姿も初めての経験。

 だが、これだけは分かる。これ以上、仲間を傷つけたくないと。

 

「あたしたちは仲間だ。仲間のピンチはあたしのピンチでもある。勘違いなんてしてないよ!」

 

 踵を返したシャニーはレンの手をしっかり握ってずんずん友と来た道を戻っていく。その背にふいに声が飛んできた。

 

「そんなに足手まといを戦力にしたいなら、武器以外にもいろいろ調べさせればいいだろ? 何でお前がいちいち動く?」

 

 一度は立ち止まったが、もう振り返らなかった。もう、その問いに対してはさっき答えた。

 それでも分からないのなら、今はただ怒りが湧くだけ。

 レイサのいる部隊の集合場所まで戻ってきたところでようやく立ち止まり大きく息を吐いた。

 

「あの、シャニー、本当に申し訳ないッス」

「うん、私たちのせいでケンカさせちゃった」

 

 頭に手をやりながらミリアが頭を下げてきて、レンも小さな声で震えていた。

 自分たちの無力がこんなにも友達に迷惑をかけることになるとは思っていなかった。

 入団数日目にしてもう、ついていけるか不安で仕方なくなる。

 

「何言ってるのさ。仲間でしょ?」

 

 そんな沈んだ顔にかけられた笑顔が傷心を癒してくれた。

 

「武器の選択を間違ったら命に係わるもの。あいつは仲間の命を何とも思ってないんだ。許せないよ」

 

「仲間のピンチは自分のピンチね。あんたにしてはイイこと言うじゃない」

 

 シャニーが怒ったところなど久しぶりに見た気がしてルシャナも面食らったが、あの時は良く自分も止められたと思った。

 仲間が困っていたら助ける。それは互いの幼いころからの約束。

 それを実践する友をたまには褒めてやることにした。

 

「師匠によく言われてたからさ。あの時は、あたしがピンチを作る側だったけど」

 

 ────共に戦う連中の事をもっと考えろ。戦いは一人でするもんじゃねえ

 

 ディークの声が聞こえた気がした。動乱中、耳にタコができるほどかけ続けられた言葉だ。

 手柄が欲しくて単騎突撃しては毎回そう言われていた。

 今、仲間たちに自然と言葉になったものを心の中で復唱してみる。

 自分はあの頃の自分より、師匠の気持ちを汲むことができているのだろうか。

 

「もうあたしは、誰も失いたくないんだよ」

 

 シグーネをはじめ、戦争は大事な人たちを二度と会えない場所へと連れて行ってしまった。

 せっかく出会った友とそんなことになるのはもう嫌だ。

 同時に湧き上がる自己嫌悪。一番隊で手柄を立ててやると意気込んでいたのはまだ最近で、まるで成長できていない。

 だが、今湧き上がる気持ちは嘘なんかではない。自分の中にまるで自分が二人いるかのような矛盾に彼女は唇を噛んでいた。

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