ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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前話のあらすじ

 様々な噂話の宝箱、ウッディがバタバタ走り込んできた。
 彼は今日もたくさんの話を持ってきた。その話の一つ、自分たちの配属の話になってシャニーは来週と迫っている事を知る。
 それ以上に彼女を驚かせたのは、ティトがリグレ侯爵家に嫁ぐかもしれないおめでたと、イドゥヴァが団長になったらアルマが副団長になるかもしれないトンデモ話。
 大事な人が傍からいなくなってしまう不安、ライバルにどんどん置いて行かれる焦りで、彼女の顔からは色が抜け落ちていた。


第8話 業火の魔人(1)

 レイサからもたらされた騎士団の決定は二つあった。一つはウッディが持ってきた情報通り、イリア開拓地区内の警備。そしてもう一つは賊討伐だった。

 

 開拓地区の警備はどうやらもう少し先の話で、十一月らしい。

 よりにもよって寒い時期にイリアでも特に寒い北部の警備なんて……そんな事を考えている暇はない。賊討伐は今すぐにでも出撃せよという指令だ。

 

 最近強盗を繰り返す賊のアジトが見つかった為、強襲し制圧までがミッション。いずれも国内任務だからという理由で第十八部隊────シャニーたちに指令が下りてきたものだった。

 賊討伐任務ならこれまで何回も経験して来たから慣れたもの。アジトを変えられる前にさっさと抑えようと、シャニー達はその日のうちに作戦を開始する事にした。

 

 カルラエ城から出撃し、トップスピードで飛ばすとあっという間に見えてくる敵の根城。このスピードこそが天馬騎士団最大の武器だ。

 

「我らの剣は全て人々の為に! 目標、敵本拠地!」

 

 本来、部隊長のレイサが指示を出すはずだが、戦闘指示を出して部隊を引っ張るのは副将のシャニーだった。

 最初からずっとこう。天馬の乗り方を教えたのも部隊長ではなく副将だ。他の部隊では異常でも、十八部隊にとっては普通。隊員たちもデルタ編隊を崩さず副将を先頭に飛んでいく。

 目標は廃墟となっていた砦。てっぺんに見張らしき人が見える。

 

 背後からついてくる仲間たちを後ろ目に確認する。ルシャナが親指を立てて合図したのが見えると、シャニーはさらに加速して号令をかけた。

 

「第十八部隊、作戦を開始する! 行くぞ!」

 

「イエス、リーダー!」

 

 副将からのオーダーに戦乙女達の咆哮が響く。

 狭い間隔で飛んでいた天馬隊は、まるで翼を広げるように少しずつ互いの距離を空けていき、敵の拠点を包囲するように編隊を変えていく。

 

 ベルン動乱ではついて行く側だったが、騎士団に入ってからはずっとこう。何せ部隊長が天馬乗りではないから、必然的に副将が指揮するしかない。

 

 かれこれ半年近く、戦場では部隊長同然の動きを要求されてきた。

 最初は何をすれば良いか分からなかったが、今では慣れたもの。掛ける号令も様になってきた。でも、あまり慣れたくないこともある。

 

 天馬隊の十八番は電撃戦だ。空中からの奇襲と速攻で相手が態勢を整える前に一気にケリをつける短期決戦。

 

「んじゃ、私はちょっと偵察に行ってくるから任せたよ」

 

 ポイントまで到達し、地上隊を指揮すべく天馬からシャニーが下りた途端だ。

 一緒に飛び降りてきたレイサが背中を守ってくれるかと思いきや、さっさと戦線を離脱して行ってしまった。

 

 天馬隊は機動力が高く一撃離脱を得意とする反面、攻撃と離脱を繰り返すため戦闘効率は非常に悪い。それを補い、弓兵を優先的に殲滅する為にシャニーとレイサは地上で戦う……そう決めていたはずなのに。

 

「えぇ?! いきなり行っちゃうのお?!」

 

 仰天してレイサに声をかけるが、シャニーだってもう余裕はない。目の前には敵の本拠地。彼らは突然の襲撃に蜂の巣を突いたかのように色めきだって襲ってくる。

 突き向けられたダガーを見切り、後の先に一閃を浴びせて崩れた所へ鋭い剣技を見舞う。

 この前、苦心して調整した剣はなかなかに良い具合に馴染んでいて、電光石火に切り崩していく。

 

「方位三十。エルファイアー、掃射します」

 

 地上で剣を振るうシャニーをフォローするように、レンの火炎魔法がシャニーの背後で炎の壁のように聳え立って賊の攻撃を阻む。

 

 毎日ニイメの下で修業してきた成果で、魔法の威力がみるみる上がってきた。火炎の螺旋柱が雪の大地を引裂いて賊を吹き飛ばし、元から得意だった精密機械のようなコントロールで的確に相手の動きを潰していく。

 

 隣で活躍する友にミリアも黙っていない。疾駆する天馬の上から距離を測り、ゴーグル越しに照準を絞って引き金へ手を添える。

 

「シャニー! 援護するッスよ!」

 

 馬上からクロスボウの連続射撃で遠くから狙う射手を射抜いていく。その精度と射撃速度は敵の弓兵を遥かに凌駕して矢を番える事すら許さない。

 天空を光速に翔けながら降り注ぐボルトを地上にいる者が避ける術はなく、気づいたら銀翼は駆け抜けていった。

 

 旋風の様に部下たちが戦場を駆ける様子に、レイサは手を振った。

 

「ここらの賊討伐ぐらいあんたらだけで十分だろ? 別働隊がいないか見てくるからその間部隊を任せたよ」

 

 もう半年前の天馬の乗り方すら分からなかった部隊ではない。それぞれが自分の成すべき事、できる事を考えて自ら動く集団が出来上がりつつある。

 

 半年間、よその部隊からの雑音を遮り続けてきた甲斐があったと部隊長からしたら成長に感動するかもしれないが、場を任せられたほうは堪ったものではない。

 独りでは捌ける量など知れているし、囲まれたら一巻の終わり。慌ててホイッスルを吹いて天馬を呼ぶ。

 

「はぁ、いっつもこうなっちゃうんだよなぁ」

 

 結局、シャニーも再び天馬に乗り、投槍に持ち替えた。もう少し長く居てくれると思っていたのに、まさか降り立ってそのまま相方を置き去りにして行くなんて。毎度無茶振りが過ぎる。

 それを本人に言ったって、“もう慣れっこだろ”とか言うに決まっている。

 

(まったく人使いが荒いよ! 慣れるワケないし!)

 

 思わず漏れ出す愚痴とは裏腹に、投槍を放ったかと思えば騎士剣を引き抜いて急降下。隼が獲物を狙うかの如く、倍以上の体格差の連中を蹂躙し、離脱と共に追撃の槍を放って数人まとめて吹き飛ばす。

 再びの急降下で今度はルシャナと螺旋を描いて幻惑しながら賊共をなぎ倒していく。

 

「ま、昼寝しないで仕事してくれてる分マシじゃない。私たちはやることやろう」

 

 離脱して上空に戻るとルシャナが励ましてくれた。入団から苦楽を共にしてきた分、結束には自信がある。戦友の声に親指を立てて応え、また二人で敵を幻惑しながら突っ込んでいく。

 

 だが、いつもと違う、他の部隊と同じような戦法に早くも後衛からじれったいと声が飛んできた。

 

「そーそー。シャニー、早く降りて囮になるッス。全部射抜いてやるッスから!」

 

 地上から離脱してくると背後からミリアの威勢のいい声が聞こえてきた。若草色の髪をかき分けてゴーグルを被りなおし、クロスボウを振って白い歯を見せてくる。

 

(ミリアめ~。あたしの事、絶対に副将だと思ってないでしょ!)

 

 最初は天馬にも乗れなかったのに、笑いながら随分と恐ろしい事を言うようになったものだ。彼女に付き合っていたら命がいくらあっても足りる気がしない。

 

「囮とか、もうちょっとカッコイイの無いの??」

 

 地上にシャニーがいてくれると、ぞろぞろと彼女を狙って賊が寄って行くので狙撃手としては狙いやすく、実際彼女の空中からの弾幕は少数精鋭を可能にする貴重な戦術。

 地上側にとってはうまく誘導しないといけないし出来ればパスしたいところだが、残念ながら十八部隊では通常戦術だ。いくら身のこなしに自信があったって、最初から囮呼ばわりは虚しい。

 

「生贄でもいいッスよ!」

 

 分かってて言っているだろうミリアの追撃にシャニーの口元が歪む。

 

「副将、リブローセット完了。敵短剣の命中確率……0~3%。準備としては十分と思われます」

 

 ミリアの悪ふざけだけで済まず、平坦な口調で分析を報告するレンが非情に背中を押してくる。

 いつも的確に相手を分析して被害を抑えてくれる守りの要。それゆえ本人にその気は無いのだろうが、最適解と分かれば容赦ない無茶振りをする。

 

「レンまで……」

 

 今回もどうやら囮がリーダーの仕事のようだ。

 彼女の分析力の高さは今までの作戦でも証明済みなので採用してきたが、こう毎回、さぁ行けと囮を任せられると生きた心地がしない。そのまま天馬にしがみつく。

 

「よしっ、このくらいの数なら一気に制圧できそうだ」

 

 盗賊たちを殲滅しながらどんどんと本拠地との距離を詰めていく。

 予想していたより戦力としては未熟な者たちが相手で、シャニーは一気に勝負へ出る事にした。ルシャナに指示を出しながら少しずつ高度を下げていく。

 

「ルシャナ、天馬隊を頼むよ。あたしは地上から一気に攻める」

 

 本拠地の入口まで来ると、上空からの攻撃を仲間に任せて再び天馬から飛び降りた。腰に差していた剣を引き抜き、挟み撃ちにするべく一気に突撃しようと踏み出す。

 

 ところが、つま先に力を込めて疾風迅雷に駆け出そうとした足が急に踏ん張ってその場に止まり、あたりをきょろきょろ見渡し始めた。

 

(何……この気配?)

 

 突然に背後に現れる強烈な殺気。

 

「ほお、随分とキレのいい動きがいると思えば……、レイサのとこの嬢ちゃんか」

 

 振り向いた先にいたのはサングラスをした長身の男。赤の怒髪に、筋骨隆々の躰は焼け焦げて炭のような濃い肌を晒している。

 戦闘服を着こんではいるが、武器は持っておらず丸腰だ。魔法使いなのだろうか? 

 

 それでも、その身のこなしはまるで隙が無く近寄る術が見当たらない。そんな威圧感とは裏腹に、その口調は何とも気だるそうで警戒心ばかりを煽る。

 

「あなたはたしか銀狼の旅団の……」

 

 この存在感を忘れるわけがない。以前、レイサと話し込んでいた男だ。あの時レイサは言った。この男と関わってはいけないと。

 でもこの視線、どうやら男とは無関係ではいられそうにはない。

 

「覚えてたか。そりゃ、ありがとな」

 

 ようやくレイサがイカれてるから関わるなと言った理由が分かった気がする。刃を交えなくても肌にジンジン突き刺さってくるとんでもない威圧感だ。こんなのを相手にしていたら間違いなく体がもたない。

 

「なら、話は早いな」

 

 だが、彼はすでにこちらに野獣の如き殺気を向けてきている。

 

「あいつらは俺の獲物だ。手、出さないでくれるか?」

 

 独りなら逃げ出したくなるようなオーラ。

 

(何……この妙な感覚。どこかで感じたことがあるような……)

 

 そこまで考えてシャニーははっとした。そうだ、あの閃電の魔術師を相手にした時にも感じた妙なオーラだ。何か人ではないような、強烈な力が体から迸っているように感じる。

 

 あの時は魔法か何かだと思ったが、この男が湛えているものは殺気以上の何かだ。 それが何か分からないが、確かに直感がそう叫んでくる。

 それでも、騎士団の代表としてこの場にいる以上は毅然とした態度をとらなければ士気に係わる。

 

「あたし達が受けた仕事なんですけど」

 

 そう一度は言い返す。でも、全ては人々の為。考えてみれば彼の申し出は悪い話ではない事に気づいた。これだけ強そうな人が仲間になってくれれば、もっと賊討伐が早く終わるはずだ。

 

「でも、少しでも早く賊を追い払いたい。手を貸してもらえませんか?」

 

 苦しむ人達を一刻も早く救う事が出来るのなら別にどこの手柄になっても良い。

 だが、男にとってはそうではないらしく、みるみる眉間にしわが寄って行くのがサングラス越しにでも分かる。

 

「面倒くせえこと言うなよ。楽しみを半分寄越せって事か? 嬢ちゃん」

 

 絡みつくような低い声は、まるで獅子が唸っているかのように威圧してくる。

 報酬で食っている傭兵ならこの答えは自然なのかもしれないと思ったが、この口ぶりだと、むしろ報酬が目的ではない気がする。

 

「とは言うものの……こんな雑魚じゃあ知れてるか……」

 

 周りに倒れている盗賊たちを見渡して、ソルバーンはつまらなさそうにボヤいた。

 どいつもこいつも、武装はしているもののただそれだけだ。こんなひよっこ部隊に制圧されるレベルなら当然か。

 

 赫の怒髪をぼさぼさと掻きながら更に辺りを見渡す……レイサはこの場にはいない。いるのは空中を飛び回る連中と……そしてこの()()()の青髪だけ。

 ここならちょっとばかり摘まむ程度であればレイサも何も言わないだろう。ニッと口元が吊り上がった。

 

「いいぜ、あいつらは嬢ちゃん達に譲ってやる」

 

 困惑がシャニーの顔を染める。どうやら協力はしてくれないらしい。このままだと村への被害が出てしまう。

 さっさと本拠地に乗り込もうと根城の方に身を振り向けようとした時だった。背後からの焼けつくようなオーラに串刺しにされ、再び正面へ向いて相対する。

 さらに彼女を困惑させたのは、続けて男が口にした言葉であった。

 

「その代わり、()()()()嬢ちゃん」

 

「ど、どう言う事?」

 

 立て続けに意味の分からない事を浴びせられて聞き返すが答えは無い。

 彼は既にこちらに睨みを利かせ、何やら重い赤……と言うより黒いオーラをまとい髪が揺らめく。

 

(やっぱりそうだ、このオーラ、この周りがざわつくこの波動……。間違いない! この人はあの魔術師と同じ……)

 

 シャニーが嫌な予感を確信へと変える前に、ソルバーンの咆哮が静寂を引き裂いていた。

 

「どうもこうも……こう言う事だ!」

 

 直感が危険を叫んでシャニーが剣を握り直した刹那、男の握り締められた拳に真っ赤な炎が走る。鋭く振り抜かれてギュンと飛び出した業火が、獲物を喰らうかのように唸りをあげてシャニー目がけて突っ込んできた。

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