ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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あらすじ

新人教育部隊の稽古は実戦経験を積んだシャニーにとっては暇で暇で仕方ない。
稽古中に暇を持て余していたシャニーはいきなり杖で頭を小突かれ説教を受けるハメになる。

十の為に一を大事にせよ、と。

それがどんな意味かイマイチ分からないが、彼女は今自分にできる十を信じてレンの手を取った。


第3話 自分たらしめるもの

 その日も、基礎的な練習が繰り返されていた。

 他の部隊から借り物の「講師」を招いて、天馬の乗り方と槍の扱い方を学ぶ。

 歴戦を生き抜いてきた二人にとっては温いことこの上ない稽古とも言えない稽古。

 アルマはもう当然のように皆のところを後にする。

 

「まぁ、あなた。アブミをしないと危険よ? アブミの必要性は……」

 

 シャニーもまた、講師の話をうんざりして聞いていた。

 この講師、きっと姉の回し者に違いない。彼女と同じことを言うから半分以上を聞き流す。

 自分がしたい稽古は、もっと実戦的な物だった。

 

「これこれ。十を志す者が一をおろそかにするとは何事じゃ」

 

 ふいにシャニーは後ろから頭を何かで叩かれた。

 焦って後ろを見てみると、そこには腰の曲がった婆が杖を自分の頭に乗せている。

 

「げっ?! ニ、ニイメの婆さん!」

 

 いつものように昼寝をしていたレイサが落ちそうになった体をなんとか翻し、慌てて木の上から降りてくる。

 降りてきて早々、シャニーと同じように杖で頭を殴られて説教が始まった。

 何か周りの隊員には、そんな二人が姉妹に見えて仕方がない。

 

「全くお前というヤツは! 昼間から寝腐りおって! わしが若い頃はね!」

 

「あー、分かったよ婆さん。で、どうして邪魔しに来たのさ」

 

「研究の合間の散歩じゃよ。今年の若いのにイキの良いヤツはいるのかと思ってな」

 

 レイサは何とかニイメを追い返そうと必死。

 だが、ニイメはそんな彼女を無視するかのように、他の隊員の顔をまじまじと見つめて回る。

 

「……ねぇ、レイサさんとニイメのおばあちゃんって、どんな関係なの?」

 

 シャニーが耳打ちするとレイサはため息をついた。

 身の上話なんて柄でもないのだが、こうもウロウロ徘徊されてはやりづらい。

 

「私がまだ、ただのカッパライだった頃ね……」

 

「今も単なるカッパライだろうが。おまけに部下を放り出して昼寝とは。何処まで堕落してるんじゃ! わしの若い頃はね!」

 

 

 聞こえないように言ったはずなのにすっかりお見通しのようだった。

 レイサはもう返す言葉も無いとヘラヘラと笑ってみせる。

 孫がちゃんと仕事をしているかと思って来てみれば、案の定の体たらくでニイメはご立腹だ。

 

「……でさ、婆さんは古代魔法の大家だろ? なら、きっと色々古代魔法の書を持っていると思ってさ、貰いに言ったのよ。あれかなり高価だからさ。考えただけでもヨダレが……おっと」

 

 レイサはニイメに睨みつけられた事に勘付き、この先を言うのを止めた。

 

「で、書庫漁ってたら婆さんに見つかって。婆さん、気配消して忍び寄るの滅茶苦茶うまいんだもの。そんで、後ろから突然闇の球に包まれたかと思うと、急に体が動かなくなっちまってさ」

 

「バカモノ。お前が盗賊のクセに鈍いだけじゃ。イクリプスにも気付かん盗賊など聞いたことが無いわい」

 

 その後、気を失ったレイサをニイメは柱に縛りつけ素性をすべて吐かせた。

 彼女は、傭兵で早くに親をなくした遺児だった。

 生きるために、人の物を奪い、容赦なく殺す。あの頃のレイサにとっては当然のような生活だったようだが、

 今となってはもう苦笑いしてニイメの無駄話を聞いているしかなかった。

 自分でも、あの頃の自分は壊れていたとすら思えるほどに、人を殺して奪って、貪った。生きるために。

 

 ────生きるために、奪うしかないじゃないか。他に構っている余裕なんてあるものか

 

 今でもあのときをお互いは覚えていた。生きるために狂う人々。ニイメは多くを見てきた。

 当時も少女盗賊がカルラエ付近を荒らしまわっていると噂になっていたから、警戒していた中にまんまと忍び込んできたレイサ。

 それが今、こういう運命を辿るとは。

 

「あの時に婆さんに会っていなかったら、今の私は無いかもね」

 

「わしはあんたみたいに死ぬ気で生きてる人間は嫌いじゃないよ。ただ、手段が気に食わなかっただけだね」

 

 捕まえたレイサに飯を食わせてやって身の上話を聞いていると、話を聞きつけた騎士団がニイメの庵に駆け込んできた。

 その時だった。レイサがシグーネに初めて会ったのは。あの時のシグーネの姿、顔、何もかもをはっきりと今でも覚えている。

 

 ────────…………

「ニイメのばばあよぅ、こそ泥が忍び込んだんだって?」

 

「おやおや、団長自らお出ましとは、よっぽど暇なんだね」

 

 柱に縛り付けられたまま、向こうで何かを話し込む二人を視線だけで見る。

 ニイメはシグーネにレイサの事を話しているようだった。

 シグーネの食われるかと思うほどの目線が時折こちらを鋭く見つめる。レイサにとって、睨まれこんなに戦慄を覚えるのは初めてだった。

 暫くすると、彼女は縛り付けられている自分のほうへ向かってきた。

 

「あんたの親も……イリア騎士だったのかい」

 

「知らないね。親が何していようが関係ない」

 

「あんたはどうなったら、盗賊から足を洗う?」

 

 つっけんどんな反応ばかりをするレイサに、シグーネは唐突に質問を投げかけた。

 いきなりそんな事を聞かれてレイサも面を食らう。

 相手は騎士だ。今まで散々殺して生きてきた自分を、きっと処罰するに違いない。そう思った。

 

「もちろん! 盗みなんかしなくても生きていけるように、イリアがなったらさ!」

 

 そう怒鳴ったレイサの頬を、シグーネは力強くひっぱたいた。

 

「誰かが何とかしてくれるなんて思うんじゃないよ。変えたきゃ自分で変えな」

 

「それが出来たら苦労しない!」

 

「しようとして無いだけだね」

 

 シグーネに簡単に否定されて悔しさに口元が歪む。

 一体この騎士が自分の何を知っているというのか。どんな惨めな生活を送っているか知っているのか。

 縛られていなければ掴みかかっていたに違いない。たとえ敵わない相手だったとしても。

 

「あんたは多くの罪も無いものを殺した。でも、それはあたし達騎士も同じなんだよ。よそに戦争に行って、全然知らない人を殺しまくる。そうしなければ金が手に入らないから。陰気な商売だよ。でもさ、あんたは自分のために人を殺してる。あたし達は民を養う為に殺してる。フン、カッコイイだろ? どーせ人殺しするんなら、自分のためじゃなくて人の為に力を使わないか?」

 …………────────

 

「最初は笑ったよ。人殺しが自分のやってることを棚に上げて何を人殺しに説教するんだってね。姉貴は頭おかしいかと思った。でも、私は思ったんだ。コイツについていけば、最低限の生活は保障されるんじゃないかってね」

 

 彼女はシグーネの妹分として天馬騎士団に籍を置くことになった。

 持ち前の身軽さを生かして情報を探ったり、時には独学した暗殺術を用いて暗殺依頼も受けた。

 情報を騎士団に運ぶ者として、様々な情報が流れ込んでくる。貧しい者、自分と同じように盗みを働く者……。

 

 騎士団に入ってイリアの情勢を知る度、彼女は自分の為に生きていた自分を恥じ、きっといつか自分みたいな人間が出ないよう出来たらと願った。

 しかし、時は無情だった。戦いの中に置かれることによって、戦いこそが日常になってしまった。

 

 ────戦死さえしなければ、少なくとも明日はあるしねぇ

 

 シグーネもそう言っていた。夢や希望……そんなものを考えている余裕はなかった。

 民を養う為に戦いに赴き、心も体もずたぼろになって帰ってくる。

 繰り返すうち、それが普通になった。それを変えてやろうとは思わなくなっていった。それこそが普通……帰る場所なのだから。

 

 夢や希望に現を抜かせば、故郷で待つ民が苦しむ。

 それでもなんとか、レイサは彼女なりに自分の力を人の為に使おうと努めてきた。

 強欲な商人を狙って盗みを働いては、貧しい生活を送る人間にばら撒いた。

 盗みには変わらない。人殺しには変わらない。でも、これは民を養う為にやってるんだ。正しいんだ。そう言い聞かせて。

 

「生きるためなら何でもやる。それがイリアさ。だから、姉貴がベルン側についたのも、私は止めなかったよ。民の為には仕方なかったからね」

 

 ベルン動乱時にイリアを占領したベルン三竜将の筆頭マードックは、イリア民に危害を加える事はなかった。

 彼が徹底的に潰したのは力を持った騎士団のみ。だから、ヘタに反乱を起こすより従っていた方が安全で、歪な平和がそこにはあった。

 

 シャニーは真実を知って息をのむ。シグーネは独立国の尊厳より、民の安全を考えてやむを得ずベルンについていた。

 見習いの時はどうしてベルンについたのか分からなかったが、憧れの人の一人だっただけに裏切られたような気分になった事は今でも忘れられない。

 だが……違ったのだ。彼女はイリア騎士として最期まで誓いを守っていたのだった。

 

(……あたしは、何も知らないんだ。民を守るということも、その為にどうすればいいのかも)

 

 今のイリアで民を養うということが、何を意味指すか。シャニーもずっと話を聞き入っていた。

 やっと剣を振る目的を、自分だけの騎士の誓いを明確にしようとしたところだったのに無知を思い知らされた。

 その目的を達成する為に陰で何が起こっているのか、そして何を見つめなければならないのかを。

 誰も失いたくない……そう言いながら、今の自分はそれしか手段がない。答えは本当にあるのだろうか。

 

「おい、そこの坊主」

 

 しわがれたような声に、シャニーは我に返る。よく見ると、またニイメが自分の頭を杖でこつこつ叩いていた。

 

「坊主って! あたしは女の子なの!」

 

「あんたみたいなガキに、男も女もあるものかい」

 

 きついことをさらっと言ってくるあたりはレイサとそっくりだ。

 自分はもう成人した一人前の女性だと思っていた。

 だが、目の前の女性は自分の4,5倍は生きている。その人から見れば、きっと自分は子供なのだ。体も、心も。そして……イリアの守り手としても。

 

「十を志すものほど、一を大切にしなきゃいけないんだよ。一を粗末にして忘れてしまったら、あんたは九で終わるよ。九と十じゃ決定的に違うものがあるんだよ。わかるかい?」

 

 当然分からなかった。十は一の積み重ね。それは分かっている。

 それでも、目先の目標に囚われて先走りしてばかり。それではダメだった。

 少なくともイリアでは。一を忘れ十をとりにいく。

 目的を考えずに民の為と言って戦い、功績を挙げることを考える。

 本人は十と考えていても、それは九でしかなかった。一を明確にしていれば、簡単に気付くはずなのに。

 黙り込むシャニーに、いや、新人全員にニイメは語りかける。

 

「十に辿り着いた人間は、九で止まっている人間とは下手をしたら真逆のことをするだろうね。十一を探して悩むかもしれない。満足するってことがないのさ」

 

 長々とした話にレイサは飽き飽きして両手を広げている。この人に掴まると5分で済むことが1時間くらいかかってしまう。

 

「ま、そのお陰で婆さんはボケないのかもね」

 

「ほう、お前にしてはいい事言うね」

 

 半分嫌味で言ってみたのだがさらっと流されてしまった。

 少女盗賊を捕まえたあの日から、毎日のようにレイサからは汚い言葉をぶつけられてきたから、その時に比べれば大分大人になったものだと笑ってすらいる。

 彼女はニイメにとって可愛い女の孫同然だった

 

「満足したらそこで終わりさ。考えることを止めるって事だからね。ま、簡単な話だったじゃろ? お前さん達もよぉーく考えることじゃな」

 

 ニイメは杖を突いてまた散歩に出かけていった。

 新人達は分かったよう分からないような……。全然簡単な話ではないと皆は感じていた。

 シャニーにも、はっきりとした事は頭に浮かび上がってこなかった。

 難しい話は頭痛がする。しかし、一つだけ分かったことだけはあった。

 

 今までの自分の十は、まさに民を養う為に、戦場で活躍することだった。

 だがきっと、これは八か九なのだ。自分はまだ一を明確にしていない。そもそも一ってなんだろうか……。それすらもよく分からない。ならこれは一ではなく二なのか……? 

 彼女は、いかに自分が何も知らないかを思い知っていた。

 ベルン動乱を生き抜き、功績を残した。それですべてを知ったつもりになっていた。

 

 ────今他国に行って売れるものは恥だけ

 

 姉は自分の事をよく見ていた。

 でも、十が分からない以上、今は十だと思うことを精一杯努力しようとも思った。

 考える事を止めてはいけない。だが、考えるばかりに黙してしまうことも、決して良い事とは思えない。

 まずは、自分の信じる十をしよう。その気持ちがレンの手を引いてミリアと共に駆け出していた。

 

「ニイメのおばあちゃん!」

 

 ゆっくり、ゆっくりと歩く老婆に若者たちはあっという間に追いついて、何事かとニイメが見上げることを待てない勢いで喋りだす。

 

「ねえ、このくらいの体格の子でも扱える武器を見たことは無い?」

 

「なんじゃい、いきなり。あたしの専門が魔法なのは知ってるだろ?」

 

 60年以上生きている人だ。イリアをずっと見てきた賢者なら何か知っているかもしれない。

 いきなり連れてこられて何事かと思っていたレンの無表情も意図が分かって雪が解けたように口元が緩んだ。

 

「大事な仲間なの。無理な武器を持ってたら命に係わる。ちょっとの情報でもいいんだ」

 

 ────そうは言っても

 

 ニイメの顔が口を開く前にすでにそう言っている。それでもかじりついてくるものだからため息交じりにあしらった。

 

「騎士なんか殺し合いが仕事だろ? そんなこと心配しなくったって死ぬときゃ死ぬよ」

 

 一瞬言葉が詰まる。綺麗ごとをどれだけ並べても、やっている事はニイメの言ったとおりだ。

 それでもシャニーは首を横に振った。結果はそうかもしれないが結果が同じだからとプロセスをすべて否定されたくなかった。

 

「見て見ぬ振りをして何もしないのは嫌だから」

 

「無駄なことをしていてもか?」

 

 面白いことを言う娘だ。イリアはこんな国だから、昔からこうしてきたから……生きてさえいれば明日は来るから……そんな雪に押しつぶされて身動きが取れなくなったかのように思考の止まった連中が多い。

 この冷めた考えが、他の国が生まれ変わろうとしている中でも動けない理由だと誰もが気づいているはずなのに。

 それをこうして口にする人間は珍しく、面白く映る。

 

「騎士だってイリアの民のひとりだよ。イリアの民を守ることがあたし達の誓いだから、無駄だとは思わない」

 

 毎日暇を持て余している身。たまには刺激に触れてみると面白いことが思い浮かぶかもしれない。

 改めてシャニーを見上げ、そしてその後ろで見つめてくる銀色の瞳を見つめるや否や、ニイメはただでさえシワの深い眉間を一層細めた。

 

「なんだって武器にこだわる? なんで魔導書を使わないんだい?」

 

「へ??」

 

 頭はニイメの言葉の意味を理解しているはずなのに思わず変な声が出た。

 

「そう言えばレンのお父さんって魔法の先生だったっけ」

 

 ミリアが横でポンと手を打っている。思わず彼女たちへぼやきが漏れる。

 

「なんでそれ早く言わないの……」

 

「え……聞かれなかったから……」

 

 二人とも同じことを言うものだから本当の姉妹かと思った。ぽっきりと首が折れる。

 魔法は才能がなければ願っても扱えるものではない。その才があるならそれを活かせば良かっただけなのに。

 ここ数日駆け回っていたのは一体……そんな気持ちが湧いたが、それ以上に希望が湧いてきた。

 

「良かったね、レン! 自分の相棒が見つかって!」

 

 だいぶ遠回りしたが、彼女に合う戦闘スタイルを見つけることができてシャニーは思わずレンの手を取って飛び跳ねた。

 だが、レンの顔は相変わらず表情は乏しく、どこか浮かない顔をしている。

 

「せっかく天馬に乗れるようになったのに」

 

 未経験者の中ではかなり早いタイミングで天馬に乗れるようになった。

 これから天馬騎士として生きていく最初の難関を突破したと思った矢先に魔導士にコンバートすれば、部隊が変わりミリアとも一緒ではなくなってしまう。

 

「よく分からないッスけど、天馬騎士って剣か槍じゃないとダメなんスか?」

 

「あたしはそれ以外は見たことないかな……」

 

 何でレンが迷っているのか分からずにミリアが髪をかき上げながら問うてきたが、シャニーはよく考えずに返事をしてしまった。

 その時ふと自分の腰に下がっているものが目に入った。自分も変わり者と言われてきたこのスタイルで、槍を使えないのかとバカにされることもある。

 

「だけど……」

 

 なぜ、武器にこだわっていたのだろうか。確かにニイメの言う通りだ。いつの間にか考えることを止めていたことに気づく。

 

「レンが使いやすいなら何使っても大丈夫じゃないかなぁ。レンだけにしかできない力にすればいいんじゃないかなって思うよ」

 

 剣を天馬騎士として唯一無二の、自分を自分たらしめるものだと思って磨いてきた。

 レンだってそうすればいい。魔法を扱う天馬騎士なんて前代未聞だろうが、その最初の一人になったっていいじゃないか。

 それを聞くとレンの顔が明るくなるのがはっきり分かった。

 

「ありがとう。ようやく私……みんなに認めてもらえるかな」

 

 今までずっと苦しかったのか、吐き出すように零した言葉は不安げだ。

 シャニーも心配だった。人が通ったことのない未知を歩むことは苦しさのほうが多い。周りを見ても自分が正しいか分からないのだから。

 自分だってディークがいなければ同じだった。背中を押した手前、レンに一人で歩かせるわけにはいかない。

 

「ニイメさん、お願いがあります。城に立ち寄った時だけでも、レンの魔法を見てあげてもらえませんか?」

 

 相手は世界的に有名な闇魔法の大家だ。無礼だとは分かっているがこれ以上の先生はいない。

 

「ほえ? あたしがかい?」

 

 まともに取り合う様子も無いことが口調から分かるが、何度も頭を下げるシャニーにレンも一緒になって頭を下げ続けた。

 

「私、みんなの役に立ちたい。その為なら、なんだってします。お願いします」

 

「それは私からもお願いするよ、ばーさん」

 

 いつも平坦な口調のレンが必死になる姿にミリアも頭を下げだした時だった。ふいにこの場にはいないはずの声が聞こえてきて、その声が届いた途端にニイメの目つきが変わった。

 

「なんだ……おまえ、自分の部下の面倒を人に押し付けようってのかい? 部外者のあたしにさ」

 

「うちの大事な部下だからお願いしてるんだよ。ばーさんに任せて芽が出ないならこの子はその程度だって諦めもつく」

 

 三人は目を疑った。いつもニイメに叱られてへらへらしているレイサが、バンダナを外して深々頭を下げ緑の髪を垂らしているのだ。

 それでも、ニイメはそっと背を向けると歩き出してしまい、シャニーが追いかけようとした時だ。すっと前をレイサの腕が遮ってきた。

 

「ばーさん、引き受けてもらえたと思えばいいんだよね?」

 

「ああ……孫が頭下げてんだ。だだし、泣いても知らないからね」

 

 思わずレンやミリアとハイタッチして喜ぶシャニーたちを横目に見て、レイサは改めてニイメに頭を下げた。

 

「早速今日の18時、ちゃんと庵に来るんだよ」

 

 振り向くこともなく去っていく賢者に、三人も静かに頭を下げるのであった。

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