ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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歪んだ時は終わりを迎えた。

さあ、前を向いて歩き出す時だ────


第8話 『三誓』──フルール・オブリージュ

 翌朝はすっかり吹雪も晴れて、清々しい青と消えゆく星々が混ざった空が広がっている。その曙をまだ迎えていない空へ、一騎の白い天馬が一直線に駆けてカルラエ城へと降りていく。

 

「あー……頭痛い……」

 

 室内稽古場に入ったシャニーは頭を押さえながらも剣を抜き、一人で稽古を始めた。

 結局昨日の宴は日付が過ぎてもしばらく続き、大分アルコールも入っていたのでまだ完全に抜けていないかもしれない。

 皆と別れてからも興奮と嬉しさで眠る事が出来ず、シャワーだけ浴びて登城した形になっている。ただでさえ痛い頭が、剣を振り始めたら一段とジンジンしてこめかみから血が噴き出してきそうだ。

 

「オゴリとは言ったけどあいつらー、容赦なさすぎだし」

 

 注文書は長く、長くなって、会計でマスターが弾くレジスターの数字を祈るように見ていたあの時間が本当に長く感じた。特にウワバミのルシャナとミリアの食欲にはまたしてもやられた感があり、結局財布はすっからかんになってしまった。

 それでも、ぼやく口元は自然と柔らかい。

 

(ま、いっか。こんな幸せな気持ち、初めてだよ)

 

 底知れぬ迷いの沼から引き揚げてくれた仲間たちには感謝してもしきれない。だからこそ、自分のできる精いっぱいは何か。剣を静かに振り、もう一度頭を整理する。

 守るとは、背負うとは、戦うとは……。

 

(何度膝を突いても、立ち上がって、前向いて、叫んでやるさ!)

 

 大分長い間、鋭く清らかな音が稽古場へ響き、差し込んで来た朝日にようやく剣を下した。

 笑みを浮かべた清々しい横顔は、悩みを払った真澄の瞳が陽に映えてしっかり前を見据えている。今こそ、新たな一歩を踏み出す時。彼女は大きく息を吐き出すと鞘に収めて外に出た。

 

「おはよう、リーダー。もう大丈夫なの?」

 

 気を遣ってくれたのか、ルシャナが外で槍の稽古をしていた。顔を見つけるなり、彼女は槍を下ろして腰に手を当てると、けろっとした様子で手を挙げてきた。

 

(大丈夫かなんて、あたしが聞きたいよ)

 

 昨日浴びるほど樽酒を飲んでいたのに、ピンピンしているルシャナは人間ではないのかもしれない。あれだけべろべろになるまで飲んで、その状態で天馬に乗って家に帰ったと言うのだから。

 

「おはよっ! まだあばらが痛いけど、そう休んでもいられないしね」

 

 ウッディにもそれだけ酒が飲めるなら大丈夫と、医務室を追い出された何て言えない。

 ただでさえ一週間近く部隊を空けていたのだ。溜まった仕事を片付けて先に進みたい。前を向いたらやりたい事がたくさん湧き上がってくるから、もうじっとしている暇などない。

 

(部隊長になったんだし、ある程度指示は出さないとな)

 

 自主性を尊重する雰囲気とは言え、前任者を見てきているだけにどうしようかと考えを巡らせる。

 自身を見下ろすと、昨日はただ気分を重くさせるだけだった士官服が映って気が引き締まる。ようやくに、上級天馬騎士になったのだと実感が湧いて来て、彼女はさっそく動き出した。

 

「ミリアとレンは?」

 

 いつもの凸凹コンビの姿が無いので問うてみる。ルシャナからは呆れ交じりの返事が返ってきた。

 

「あいつらなら南方の見回りに行ったよ。遊んでなきゃ良いんだけど」

 

 いつもつるんで行動し、たまにロクでもないことをしでかすのでルシャナも気をもんでいる。つい最近だって経費でケーキを買ったりして油断も隙も無い。

 今日も七時半には戻って来いと言ってあったのにとっくに過ぎている。帰ってきたらどうやってとっちめてやろうかと、頭にギンと角が生えた。

 

「よーし、戻ったら一度集まろうよ」

 

 ぽきぽきと手を鳴らすルシャナに苦笑いしながら、シャニーはその場を任せて詰所へと向かう。部隊長としての引継ぎをレイサから受ける為だ。

 

(レイサさん、いっつも寝てたし、へーきでしょ、きっと)

 

 何もせずにいつも木の上で寝ているだけだったので、部隊長の仕事と言われてもピンと来ない。

 きっと大したことは無い。むしろ、部隊長になったらあの大嫌いな予算表もルシャナに渡すことが出来ると思うと羽でも生えたような気分。

 朝日に鼻歌をうたい、スキップ交じりの軽やかな足音が廊下を進んでいく。

 

「へ?! こ、こんなに……?」

 

 数分後、用意された部隊長席に座ってご満悦だった所へ、どさっと帳票の束を目の前に置かれてシャニーは素っ頓狂な声をあげていた。

 十冊はあるだろうか。いや、向こうから追加でレイサが運んできている。もう結構と手で拒否しようとするも、バランスを崩した束が頭の上に降ってきた。

 

「そうだよ。部隊長たるもの、こういう報告も仕事のうちさ」

 

 宙を舞っていた資料が頭の上に乗っかった。押し寄せる資料の群れを見渡すシャニーの目は点になっている。

 

(うへえ……事務仕事なんて嫌いだあああ!)

 

 同じ圧し潰されるなら、屋根から落ちてきた雪のほうがマシに思えるほど。レイサはいつこんな大量の資料を作成していたというのか。

 一体何が記されているのか、一冊取って中をぱらぱらめくってみた彼女は口をへの字に曲げた。

 

「いや、でも、ほとんど真っ白なんですけど……」

 

「そりゃそうさ。だって私ら出撃経験ほとんど無いんだし? ま、これからも無いだろうけどね」

 

 よく見ると出撃報告書と書いてあり、行き先だけでも細分化されていて何冊もある。

 ところが、十八部隊は国外への出撃実績が無いからどれもこれも中身は真っ白だ。

 案外何もしなくても済むかもしれないと安心すると、つい気になっていた事が口から飛び出した。

 

「レイサさん、昨日の辞令、本当に知らなかったの?」

 

 あの時は知らなかったと言っていたが、やっぱりおかしい。何せ配属案は部隊長会議で承認されているはずなのだから。

 机の上を支配する資料の整理に苦戦しながらレイサへ視線を向けるが、彼女はせっせとファイルを手に取りこちらを見てくれない。

 

「知らないと言えば嘘になるかな」

 

 今回もなんとも言えない答えを返してきた。

 

(何で言ってくれないんだろう……)

 

 その気持ちだけは今も拭えないままだが、あの状態の自分にはとても言えなかったのかもしれない。そう自身に言い聞かせていると、レイサがふいに笑いかけてきた。

 

「でも良いじゃないか、私たちの部隊になったんだよ、十八部隊は」

 

 今迄は十八部隊があり、そこに新人として所属していた。

 十八部隊はいわば借り物だった。だが、今の自分たちには任務があり、自分たちが十八部隊に名前を授け、命を吹き込む番。

 これからはどこへ羽ばたいて行くのか、自分たちで決めなければならない。

 

「そうだね。あたし達の誓いを形に出来るようになったんだよね。ワクワクするよ!」

 

 国力の向上活動────今まで無かった任務の新設は何をしても自由の反面、前例に倣うことも出来ない。

 敷かれたレールに沿って走るのではなく、レールを敷く仕事。職制表でも団長から直接指揮系統が伸びる特殊部隊枠に設置されているから責任は大きい。

 それでも、プレッシャー以上に大きく湧きあがるのは、天馬で翔け上がるような眩しい希望。

 

「外へ資金を稼ぎに行かない部隊なんて、他の部隊からどう思われてるんだろう」

 

 周りの部隊がそうは見てくれていない事は優に想像できる。

 イリアの傭兵は稼いだ報酬や雇い主への貢献度で自身のランクが決まる。十八部隊にとっては評価される仕組みすらなく、傭兵ランク最下位という事実だけが掲示される。

 

「それをどう受け止めるかは、あんたたち次第じゃないの? 言ったろ? 十八部隊は私たちの部隊なんだ」

 

 こんな部隊の新設をよくティトは通したものだと思う反面、反対を押し切って戦ってくれた姉に恩返ししたかった。

 

 ────たとえ周りから非難されようとも、信じてくれる者の為に戦う

 

 己の誓いを心の中で復唱し、シャニーはしっかりと頷いて見せた。

 

(あたしの剣が示せる道は、戦い続ける姿を見せる事だもん。諦めないさ)

 

 信じてくれる人がたくさんいる。彼らの信を背負う重さと強さを知った今、刃に想いを掲げて振るい、勝つまで戦い続けるだけだ。

 その先頭を部隊長として任せられた今、もう迷う事なんて無かった。

 

「リーダー、ミリアとレン帰ったよ」

 

 そこへルシャナが入って来た。後から続いて入って来たミリアはシャニーの顔を見るなり手を挙げて白い歯を見せてくる。

 

「ただいま帰還したッス! 部隊長おはようございますッス! またメシ喰いに行きましょうね!」

 

「部隊長、昨日はごちそうさまでした。レンただいま帰還しました。」

 

 何と返せば良いだろう。とりあえず挨拶だけは返すものの、シャニーの口元は明らかに引きつっている。

 

(もう、絶ッッ対にオゴらないぞ……)

 

 彼女たちがいる時は絶対にオゴリなんて言葉を使ってはいけないと思い知らされたのに、二人はもう次を期待している。

 そんな二人の首根っこをルシャナが引っ捕まえた。

 

「あんたら、ゴチになりました! だけじゃなくて、ちゃんと報告しなさいよ」

 

 相変わらずルシャナは厳しく、どっちが部隊長か分からない。ミリアが頭の後ろをかく様子を見ていたシャニーの口元がふっと緩む。

 

(戻ってきたんだ。いつも通りの十八部隊が帰ってきたんだね)

 

 だが、この部隊は昨日までの部隊とは違う。

 仲間を全員詰所に集め、事務用机を皆で移動させて会議用のスペースを作った。そこへ全員が着席した事を確かめると、シャニーは部隊長として最初の仕事へ踏み出した。

 

「じゃあ早速だけど、十八部隊の『三誓』を決めたいと思う」

 

 『三誓』────フルール・オブリージュとは部隊の方針のことだ。どの部隊も騎士団としての誓いとは別に三つの誓いを立て、それに基づいて行動する。

 たいていの部隊は部隊長が設定して部下に展開するのだが、シャニーは皆を集めて意見を聞く事にした。この十八部隊を皆で創り、守っていきたかったから。

 皆が頷く事を確認すると、彼女は慣れないながら議事を進行していく。

 

「この部隊は他の部隊と違って、外国での資金獲得が任務じゃない」

 

「いわゆる特殊部隊ってヤツッスね! カッコイイ響き……」

 

 聞こえの良い言葉を口にしてミリアがうっとりしていると、横から物言いたげな視線が飛んでくる。

 

「ミリア、話は最後まで聞く」

 

 またしてもレンに突っ込まれて口を尖らせだした。毎度の流れだが今回はシャニーも内心レンに手を合わせる。

 今は話が脱線する訳には行かない。この『三誓』が、十八部隊へ吹き込む命の礎になるのだ。

 

「だから、あたし達には他の部隊とは違う『誓い』が必要だと思うんだ。イリアの為に、それは同じだけど、あたし達の部隊にはあたし達だけの使命があるはずなんだ」

 

 国内任務を専門に扱う部隊は唯一無二。行動の指針さえ無く、他部隊も参考と出来ないので完全に一から生み出す必要があった。

 ティトがわざわざ部隊を設けてくれた理由は分かっている。この部隊の存在価値を決める大事な『三誓』はしっかりと固めたい。

 けれど不安だった。誰も経験した事が無い道。意見が出るかどうか。

 

(やっぱり、いきなり振っても出ないよね)

 

 ぎゅっと胸元のロケットを握りしめながら、自身の士官服を見下ろす。先頭に立つ事を任された身なのだと自身を奮い立てた。

 

「あたしは、治安維持だけじゃなくて常に人々の為に動きたいと思ってる。他の部隊は国外に出る分、傍にいるあたし達が任務外でも寄り添わないと、小さな声は拾えないし」

 

 とりあえずシャニーは自ら先陣を切ってみた。

 今までも姉と何度か話を交わして来て、いつも考えて来たから特に考える事も無く思ったままが口から出る。

 ただそれは、今までやってきた事が口から出ただけ。『三誓』に対する手段に過ぎないもの。

 

「常に民の傍にあれ……か。そういう声が国を作る礎になると思うしね」

 

 ────ナイス! 

 

 思わずシャニーはルシャナに親指を立てた。自分の気持ちを目的へと変換してくれるあたりは伊達に付き合いも長くはない。

 これで皆緊張が解けたのか、少しずつ意見が出始めるようになる。

 

「イリアの礎。うん、発展には土台づくりが大事だと思う」

 

 あの口数の少ないレンが、うんうんと頷きながら口にした言葉にシャニーははっとする。

 

(みんな同じ事考えてたんだ。良かったぁ!)

 

 イリアの礎たれ。それは自分だけの誓いとして握りしめてきたもの。いつか話したことがあっただろうか。

 同じ答えに辿り着いたのか、自分の誓いが部隊に浸透したのかは分からないが、同じ志を持つ者が仲間にいて心強い。心の底から喜びが湧き上がる。

 

「ウチはイリアの為! だけじゃなくて、ここに居る皆も大事にしたいッス。ウチにとっては家族も同然だから」

 

 ミリアにとって家族はレンとその両親だけだった。それも半年前まで。天馬騎士になった事でレンの家を出て、今は一人暮らしをしている。家に帰っても、おかえりと誰も言ってくれない寂しさは心を刺した。

 この部隊にいるとまるで家族の中にいるようで、今一番心が落ち着く場所となっていた。

 

「それはあたしにとっても同じ」

 

 似た境遇のシャニーも頷く。孤児同士、家での孤独感はよく分かっているから互いの家へ遊びに行く仲。

 独りでいると、昨日までの様にどうしてもロクでも無い事を考えてしまう。この大事な場所を、自分の帰る場所を、大事な家族を愛して守りたい。

 

「良かったよ、みんなもしっかり意見してくれて」

 

 時計を見てみるとまだ十分も経っていない。その短い時間であっという間に『三誓』の原石は出来上がっていた。

 もっと難航するかと思っていたからシャニーはほっとした。

 

「今更何水くさい事言ってるのさ。家族だろ? 私たち。あんただけで背負いこむ必要はないよ」

 

 家族────そう言ってもらえて自然と表情が柔らかくなる。

 ルシャナが仲間たちを見渡すと誰もが頷いた。部隊長だからと言って全てを任せるつもりはない。肩書は違えど家族の一員。そう皆の瞳が伝えてくる。

 

「みんな……」

 

 思わず零れる。仲間の、家族の存在を改めてありがたく感じる。

 独りではない。愛してくれる、信じてくれる人がいることは何物にも代えがたい幸福と知る。

 

「そうそう。家族を愛せ、愛されろってね。良いんじゃないかな」

 

 その声に皆がびっくりして振り向いた。視線を集めた側は、何か変な事でも言ったかと眉をひそめている。

 

「レイサ、起きてた」

 

 あまりにも意外そうにレンが言うものだから、そんな事かとぽっきり首が折れる。

 

「仕方ないだろ? 部隊長から寝るなって言われてんだし」

 

 言われなかったら寝ていたのかと、思わず苦笑いが広がった。寝ないでちゃんと話し合いには参加して欲しい。シャニーからお願いされたのはこれだけ。

 

「私もこの部隊への所属を許されるならしっかりやるだけさ」

 

 シャニーには役職を外れただけだと説明したが、実際はそのまま部隊から消えるつもりだった。

 民の信頼を得ていかないといけない部隊の中に、アサシンのような存在が見えたらそれだけで良くない噂が立つ。

 もう独り立ちした彼女達を見てティトから託された使命は果たしたと、ようやく荷が下りたつもりだったが、部隊長は団長に似てやはり逃がしてはくれなかった。

 

「許すも何も、レイサさんは十八部隊の家族、そして師匠だよ。今までずっと矢面に立ってきてくれて、感謝してる」

 

 思わずバンダナで目元を隠す。家族────その言葉は自分には無縁だと思ってきた。孤児として長く過ごし、シグーネに拾われた後も闇の世界で知られてはいけない仕事ばかりをこなす為、誰とも接点を持たなかった。

 そっと背中から姉の形見を引き抜いて、銀の刀身に自身の顔を映してみる。

 

(姉貴……。姉貴は本当に良い種を蒔いた。こいつなら、手伝ってやろうと思うよ。でも、何かと危なっかしい性格みたいだね。そっちの方がワクワクするけどさ)

 

 闇に生きてきた自分の手を引き上げてくれた部隊長と目が合う。朗らかな笑顔がそこにはあった。

 これから何が起きるかワクワクする。こんな気持ちは初めてだ。

 

「じゃあ、あたし達の『三誓』は、民の傍にあれ、イリアの礎たれ、家族を愛せ……これでいい?」

 

 まとめに入り、家族全員の顔を見渡す。全ての瞳はシャニーを見つめており、誰もが無言で頷いた。

 皆の意志を聞き、そっとシャニーがテーブルの真ん中に手を差し出すと、皆その手に手を重ねて『三誓』を声にしてはっきりと宣言して見せる。

 ここが帰る場所であり、そして始まりの場所。

 

「ありがとう、みんな。良い仲間に出会えて本当に嬉しいよ」

 

 自然と口から出た感謝の言葉。半年前の自分に見せてやりたかった。第一部隊に入る事だけを考えて、何も考えようとしていなかった自分に。

 今の自分はあの頃には無い素晴らしい家族と、譲れない誓いと、そして大きな使命を手に入れた。

 イリアの未来に向けて戦う為の自分だけのやり方、自分だけの武器を見つけたのだ。

 

(お姉ちゃん、あたし達なりのやり方で、未来を切り拓いて見せるよ、この手で!)

 

 じっと左手を見下ろす。魔剣を握り締めようとしていた手。その手は新たな剣を掴み取り、仲間と共にその刃に誓いを掲げた。

 紙に書き起こした『三誓』を改めて見れば、今まで自分たちがやって来たことの延長で、進もうとしている道はブレていないと確信させてくれる。

 後はこの『三誓』を団長に提出して内容を説明すれば、いよいよ部隊としての活動に入ることが出来る。半年遠回りしたけど、これで良かった。

 

「あ、レンが提案があるって言ってたッス」

 

 ミーティングを終えて早速ティトの許へ行こうと立ち上がった時だ。ミリアがレンを指さし、指さされた方は狼狽しながら怒ったような顔をミリアに向けた。

 だが、シャニーの眼差しがじっと見つめてくるものだから、観念したかのように小さい口が動き出す。

 

「今まで通り名前で呼んでいい?」

 

「そうそう。なんかもう、肩凝っちゃって」

 

 自分で言えとレンから脇腹に肘うちを喰らうが、ミリアは頭の後ろを掻きながら笑っている。

 他の部隊ではリーダーを部隊長と呼んでいるから倣ってみたが、やっぱり何かしっくり来ないのだ。

 それを聞いたシャニーは一瞬きょとんとしたが、すぐに笑った。

 

「あたしもずっと言おうと思ってたんだ。今まで通りにしよーよ、何かむず痒くってさ」

 

「了解ッス! 行ってらっしゃい、シャニー!」

 

 平隊員の時は、部隊長と呼ばれる事に一種の憧れを抱いたが、いざ呼ばれてみると家族なのに何かよそよそしくて。

 変わるのは自分が着ている服だけでいい。その気持ちを汲む様にミリアからかけられた声に手を振ると詰所を出た。団長へ自分たちの想いを宣言する為に。




次回がⅠ部の最終話となります。
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