ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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第十八部隊が挑む国力向上活動の初陣のお話です。

今日の敵は金に煩い副団長!


第4話 いざ部隊長会議へ!

 カチカチと足が震えてくる。こんな事ならトイレに行っておけばよかった。

 周りは今まで雲の上の存在と思ってきた人たちばかり。誰もがどこか厳しくも仕事の出来そうな凛々しい顔で、それだけで部屋の空気がギンと張りつめている気がする。

 

(うわぁ……あたし、なんか浮いてない??)

 

 シャニーはこの日、部隊長に就任して初めての部隊長会議へ参加していた。

 円卓に座った十八人の部隊長。右を見ても左を見てもエラい人。年上のお姉さんしかいなくて息が詰まる。

 きょろきょろしていたら、メガネが鋭い人と視線がかち合った。ギクッと背筋が伸びる。あれは第四部隊の部隊長だったか……。一瞬眼鏡が光った気がしたが、とっさに頭を下げたらふっと笑いかけてくれた。

 

「では、部隊長会議を開始します」

 

 議長を務める副団長イドゥヴァの一言が第一会議室に響くと、厳しかった面々の横顔がさらに鋭くなる。でも、シャニーは全く別の事を考えていてまるで話が頭に入って来なかった。

 

(どうやって報告しよ……あわわ、キンチョーしてきたぁ……)

 

 下を向いてもじもじしていたら、横から突っつかれた。はっとして顔を上げると議場の顔が全て自分へ向いている。

 

(げっ……。何、何、なんかあたしの顔についてる?!)

 

 真っ白な顔でぽつんとしていると、イドゥヴァが咳払いをして目を三角に吊り上げてきた。

 

「新任の挨拶をしてください。緊張し過ぎですよ」

 

 周りからクスクス笑い声が聞こえる。彼らも興味津々だった。入団して半年。自分の部隊なら一番下っ端の十五の娘が部隊長なんて珍しい。

 頭を掻きながら立ち上がる朗らかな顔に注目が集まる。今日の会議は特に重大議事も無く、この新任挨拶が終わればスムーズに解散へと流れるものだと誰もが思っていた。

 

「第十八部隊の部隊長に任命されたシャニーです。よろしくお願いしまっす!」

 

 それだけ言ってぺこりと頭を下げる。部隊長を追い出したり、イドゥヴァにケンカを売ったりと色々噂が立っていた割に大人しい……。皆がそう思っていた時だった。

 

「あ、あの! このままお時間貰って良いですか?」

 

 怪訝そうな眼差しを送るイドゥヴァの前で、シャニーはもうさっさと動き出して資料を円卓へ滑らせ始めている。

 会議室が今まで無かった新風に興味津々。それはカルラエ城下町への病院建設に関する企画書だった。

 

「……以上です。病院建設へ向けて資金と人員の配分をお願いします!」

 

 説明が終わって頭を下げる。我ながら完璧な報告内容で内心ガッツポーズしていた。これならきっと驚いてもらえる。もしかしたら拍手喝采か────……何も聞こえてこない。恐る恐る目だけで議場へ視線を移すと、誰もがぽかんとしていた。

 

(あ、あれ……。もしかして……スベった?!)

 

 一発でツルっと行くとは思っていなかったが、もっといろいろと意見してもらえるものだと思っていたのに。頭をそろそろと上げて周りを見渡したら、唖然とした視線を一身に浴びて心細くなってきた。

 

「言っている意味が分からないのですが」

 

 おまけに、イドゥヴァから冷たい口調で議論にすら上がるつもりが無いような一声を浴びせられる。

 

「何のつもりですか? この場は部隊長会議ですよ」

 

 事前にこのような提案をするとも聞いていなかったからか、明らかに不機嫌な声。周りの部隊長達はあちゃーと顔をしかめている。イドゥヴァを怒らせると厄介な事になるのは、この場に居る者なら誰でも知っている事だ。この、新任部隊長以外は。

 

「え、でも、発言の場はここしかないし」

 

 部隊長の一人が口元をおっと吊り上げた。縮こまるかと思ったら、怖いもの知らずにイドゥヴァへ反論し始めたではないか。やはり、イドゥヴァにケンカを売ったと言う噂は本当か。なかなか面白いヤツが入って来たらしい。

 案の定、イドゥヴァは長い濃藍の髪を手で梳きながら眉間にしわを寄せている。いつも平和なので多少イベントがあっても悪くない。

 

「そのまま続けてください」

 

 ところが、鶴の一声がそれ以上を遮った。団長のティトがシャニーに発言を許したのだ。

 

「第十八部隊の国力向上活動報告、今後もこの場でお願いします」

 

 団長にこう言われてしまっては、議長としては議事進行しなければならない。イドゥヴァは口元を尖らせながら、開口一番にダメ出しを突き付ける。

 

「シャニーさん、貴女は我が騎士団の資金状況が分かっていないようですね? そんな資金を計画外に支出する余裕はありませんよ?」

 

(わっ……やっぱり、お金の話かぁ……)

 

 用意してきた鞄の中からがさがさと慌てて資料を引っ張り出す。ルシャナ達が計算してくれた資金状況と今年の予算計画。

 

 ────ココを説明しろ! 

 

 赤字で丸く囲って、でかでか書いてあるルシャナの字。

 

「しかし、予備費だってある筈です。今年の支出状況と今後六か月の収益予測からすれば、十分捻出可能かと。むしろ、建設によるカルラエへの人流増加を考えれば、増収を見込める話だと思われます」

 

 棒読みにならないように必死に喋ったら、おおっと部隊長達の顔に驚きが広がった。……正直、説明した自分だって資料に書いてある数字の事はよく分からないから、彼らと同じように驚きたいくらいだ。

 数字何かより、訴えたい事があった。ルシャナ達にこじ開けてもらったチャンスを逃さず声を張り上げる。

 

「カルラエの規模で病院が無いのはおかしいです! 他の地域はどこも在るのに。みんな苦しい思いをしてるんですよ! お願いします!」

 

 小さな町医者は居ても、入院患者を引き受けられるような規模ではない。そんな動かせないような人達を、雪の峠道を越えてエデッサまで運ぶなんて出来なかった。そうしているうちに亡くなる人たちを、街の見回りの度に見てきたから説明にも熱が入る。

 またも静まり返る会議室。なぜ分かってくれないのかジリジリし始めた彼女はとんでもない事を口にした。

 

「現場で説明しますから、来てください!」

 

「何を言ってるんですか。そんな時間はありませんよ」

 

 興味を持った部隊長達が腰を席から浮かしかけた時だ。イドゥヴァが投げつける様な口調で時計を指差してきた。

 どうにも彼女は乗り気ではない。資金に厳しいとは聞いていたが、まさかこれ程とは。

 

「天馬なら五分じゃないですか。ここで十分説明するより早いです」

 

 平然と言い返してくるシャニーにぴくっと眉をひそめる。だが、部隊長達が動き出した。ティトがすっと席を立って会議室の外へ出て行ったからだ。彼女は目線でシャニーを呼んでいる。ぱっと顔が明るくなって、青髪を揺らして颯爽と駆けて行く若い部隊長を他の面々も追う。

 

 

 

◆◆

 静かな医務室にガツガツとブーツで廊下を叩く音が聞こえてくる。どんどん大きくなる音に軍医ウッディが身構えていると、ドアを蹴破る勢いで幼馴染が突っ込んできた。

 

「ウッディ! スクランブルだよ!!」

 

「おっ、おい! 何だっ、いきなり!」

 

 予想はしていたものの、竜巻の様に押し入ったシャニーに半ば拉致されるように医務室から引っ張り出された。

 

「カルラエの病院の話! 援護して!!」

 

 まともに説明もしないまま、シャニーはウッディの腕をひっ捕まえて元来た道を戻る。空には十七騎の天馬がすでに待機しており、厩舎に飛び込んだシャニーはウッディを後ろに乗せ、相棒を撫でると弾丸の如く空へと飛び出した。

 宣言通り、数分でカルラエ城下町の外れに到着した彼女は改めて企画を説明し、天馬を横に向けると後ろにいるウッディの足をぽんぽん叩く。

 

「お前なぁ、準備時間くらいくれよ」

 

「しょーがないじゃん! 事の成り行きでこうなったんだし!」

 

 ひそひそにもなっていない作戦会議をすぐに終えて、シャニーは改めてウッディを手で指して精一杯に叫ぶ。

 

「医療現場の声を聞いてください! あたし達騎士団は、人々の為に動かないとダメだと思うんです!」

 

 ────頼んだ! 

 

 ぽんとスポットライトを渡されて、ウッディは集まる視線を前に一つ咳払いすると声を張り上げた。

 

「今イリアは圧倒的に医療設備が不足しています。復興は民あってのもの。民が望むものに目を向けて頂けると、医者としてはありがたいです。これは医療に従事する者の総意と言っても過言ではありません」

 

 渋い顔をしていたイドゥヴァもウッディが出てくると威勢が少し弱くなった。

 彼はイリア風邪の特効薬開発で、最近急速に名前を知られるようになってきた人物。彼を敵に回せば、医療関係の団体まで敵に回す可能性だってある。

 必要資金は莫大だが、回収予測まできちんと計算されていては否定材料としては貧弱だ。問題は……()()()()にキャッシュとして存在しているかどうかだが、そんな事はここでは言えるはずも無い。

 

「……団長、いかがしますか?」

 

 最終決裁者は団長だ。さっさと話を振ってしまう事にする。

 

「必要資金が大きいわね……」

 

 ティトも同じことで頭を悩ませていた。そうだろう……イドゥヴァの口元に不敵な笑みが浮かぶ。いくら予備費があったとしても、まだ半年もあるのに大半を使ってしまう度胸は無いだろう────

 

「分かりました。団長直下案件とします。シャニーさん、後でもう少し話を聞かせてください」

 

 その算段は見事に外れる事となる。

 ティトにしても腹を括るしかなかった。自らが特殊部隊として国力向上活動を任せた部隊。それが最初に持ってきた案件だ。彼らの存在をアピールする為にも、何とか通してやりたかった。願わくば……最初はもう少し軽い案件にしてもらいたい気持ちもあるが、シャニー達の本気を見た気がして帰路に就くティトの顔は爽やかだった。

 

(シャニー……。あれが、あの女の娘達か……ッ)

 

 団長の横へ並び、快活な笑みを浮かべて企画を説明する横顔を、イドゥヴァは紫紺の眼光でギッと睨みつけていた。

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