ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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戦い疲れて機能停止に陥るシャニーの許へ軍医ウッディが訪問するお話。
彼と緩く喋っていたら、意外な人物から褒めてもらえて有頂天のシャニーだが……。


第7話 先輩の警告

 昼休憩の時間、医務室から出て食堂へと続く廊下をのんびり歩いて行く。

 この時間はまだ騎士たちでごった返しているから、普段は少し時間を空けて一人でゆっくり昼食をとるウッディだが、今日は目当ての人物と会うために敢えて戦場を選んだ。

 右を見ても左を見ても女性で埋め尽くされたこの部屋。おまけにその一番奥に彼女は居るから辿り着くだけでも一苦労。あちこちから黄色い声を飛ばされて軽い挨拶で躱しながら、ようやくに到着して一息。

 だが、そこまで来てウッディは怪訝そうに幼馴染を見下ろした。

 

「あー、今リーダーダメだよ」

 

「ん。ダウン中」

 

 釘で打ちつけられた様に上体がテーブルに張り付いたシャニーは身じろぎもしない。顔だけがこちらを向いてきゅっと口は固まり、目は猫のように真ん丸になって完全に機能停止していた。

 ルシャナやレンに止められても、ウッディは心配するそぶりも見せない。懐から袋を取り出して中からクッキーを摘まむと、顔の前をちらちらと動かしてやる。途端に目だけがきょろきょろそれを捉え、しまいにはカプっと口が追い出した。

 

「もう! お菓子であたしを釣ろうなんて、そんな手が通用するワケないでしょ!」

 

「食ってから言うなよな」

 

 今もテーブルにへばりついたままだが、ようやくに返事が返って来てウッディも安心した。とりあえず食べてさえいれば彼女は大丈夫。もっとくれと手まで伸ばしてくるから健全そのものだ。仕方なく袋ごと渡してやる。

 

「んでさ、どうしたの? また諜報部ウッディが炸裂したの?」

 

 最近は部隊でずっとイリア中の空を飛んでいるからウッディと会う機会がガクっと減った。九月まではよく一緒に昼食をとっていたのだが、それが何だか懐かしく感じる。

 

「いや。今日はお礼を言いに来たんだよ」

 

 何かまた妙な噂話を持ってきたのかとシャニーは思ったのだが、ウッディが意外な事を言うから青の瞳が興味にくりっと動いた。

 

「お礼?」

 

「ほら、病院建設の企画、ティトさん通してくれたんだろ?」

 

 以前の部隊長会議で、十八部隊の初陣として勝負に出したカルラエ城下町への病院建設の企画。渋るイドゥヴァの隣でティトが団長直下案件として取り上げ、そのまま承認したのだった。

 その話を聞いた途端、それまで乾いていたシャニーの顔にぱっと笑顔が咲く。

 

「ね! ホント頑張った甲斐があったよね!」

 

 初めての提案で体中がビリビリと緊張したが、承認が降りた時はそれまでの疲れが一気に吹き飛んでしまう様な喜びが吹き抜けた。

 街に飛んで行って報告した時の住人らの顔は今でも忘れられなくて、シャニーの顔はニコニコ。

 

「皆が計算してくれた予測、イドゥヴァさん黙っちゃってさー」

 

 自慢げに話すが、シャニーは会議室で棒読みしただけだ。やった事と言えば、数字に煩いイドゥヴァ対策で、他の部隊長へ何を問われるか事前に聞きに行ったくらい。皆、年下だからか妹のように可愛がってくれる。

 

「銀行の人に感謝だね」

 

「ん。勉強になった」

 

 実際に計算したルシャナやレンも満足げ。初めての事で自分達だけでは手に負えず、カルラエの銀行員に頼んで計算してもらった部分もある。それもリーダーが思い付きで飛び込んでいったので最初は驚いた。

 新人部隊の頃からシャニーは街の為にあちこち駆け回っていたから、突飛な依頼でも銀行員は快く引き受けてくれた。

 

「ありがとう、ウッディ。ウッディのおかげだよ」

 

 何よりイドゥヴァの反対を崩したのは現場の声だ。どれだけ説明したってあの人は納得してくれなかったが、ウッディが一声上げただけでそれ以上を彼女は飲み込んだ。

 いつもなよなよしていても、いざと言う時はしっかりやってくれる。シャニーは感謝を笑顔に込めて手を差し出し、しっかりと握手をかわす。

 

「そうだな。肝が冷えたぜ。たっぷり奢ってもらうからな、部隊長さん」

 

 いきなり医務室に飛び込んで来て人を竜巻へさらうかのように連れ出したかと思うと、前置き無しに皆の前で現場の声を聞かせろ……。相変わらず無茶苦茶な奴だが、想いは二人でずっと温めてきたものだったから援護に躊躇いは無かった。

 

「何でお礼に来た人がオゴリを要求するワケ?!」

 

 目を三角にしたシャニーは、横で部隊の連中がニコニコしていてぎょっとする。ミリアに至っては揉み手までしているではないか。なぜ彼ら迄おごってもらう気満々なのかまるで分からないがこのままでは危険だ。以前財布をすっからかんにされて以来、連中には警戒している。

 

「んで? 何でそんなカッコウしてんだ?」

 

 まだ回復中なのか、シャニーは未だにテーブルに張り付いたまま。ウッディは不思議そうに見下ろす。立派な士官服もマントがヘナっと垂れて泣いている。

 

「お金の使いすぎだってすっごい叱られてさ」

 

 週に二回ある部隊長会議で毎回企画を提案しては、その直後は全てを使い切ってこうなっているらしい。おまけに今日の午前にあった会議では、イドゥヴァからいつになく厳しい剣幕で叱責されていた。

 

 ────…………

 

 ────部隊長としての資質を疑いますよ

 

 はっきり目を見てそう言われてしまった。

 あんな言い方をされたのは初めてだったから、心にぐさっと槍を突き付けられたようになって、腹に煮えた油でも放り込まれた気分だった。

 

「貴女は資金獲得がどれだけ大変か分かっていないようですね? 聞いていますか?」

 

 目じりを釣り上げ、激しい口調で責められてはさすがに何も言い返せない。棒立ちしてどうして良いか分からず、ただ叱責を浴びていたら横やりまで飛んできた。

 

「そうそう、自分で稼いでくるならともかく」

 

 心に突き刺さった槍を更に押し込まれるような気持ち。

 追い討ちをかけてきたのは、第五部隊の部隊長マリッサ。彼女はイドゥヴァの腰巾着とは聞いていたが、それを部隊長会議で思い知らされる形になった。

 

(稼げるんなら、あたしだって稼ぎに行くんだよ……)

 

 ぎゅっと唇を噛んで反論を押し込んでいた時だった。

 

「十八部隊は国内専門部隊です。それを考慮して発言してください」

 

 団長のティトが二人に冷静ながら厳しい言葉で忠告した。

 マリッサは慌てて頭を下げたが、イドゥヴァにとっては面白くなかった。自分で設置した部隊だからか、事ある毎にティトは十八部隊を擁護する。

 今回シャニーが提案した街道の雪崩防止策も結局団長直下と言う強権を発動して通してしまったのだ。その不快感顕の視線がギロっと飛んできて、シャニーは思わず視線を逸らした。

 

(何でイドゥヴァさんはこんなに反対ばかりするんだろう……)

 

 …………────

 

「ひっでえな。個人攻撃なんて今どき世間じゃ煩いのにな」

 

 ウッディは自分の事の様に顔へ苛立ちを浮かべて語気を強める。

 病院の建設も、雪崩の死亡事故も重大な案件のはずだ。雪崩はシャニーの両親の命を奪った事故でもあるから、減らしたいと思う彼女の気持ちは痛い程分かる。

 

「それはへーきだけど……」

 

 別にイドゥヴァから資質を疑われても、間違った事をしたつもりは無いからシャニーは気にしない事にしていた。イドゥヴァに抱くのは怒りより、疑念だった。

 

「でもさ、皆苦しんでるのに、何でお金あるのに溜め込もうとするのかなぁ。あたしにはよく分かんないよ」

 

 予備費だけでは無い。色々な口実をつけてそれぞれの予算をあまり使わせてくれないのだ。

 事ある毎に騎士団の資金状況は──と口にするが、民の為に資金獲得へ動いているはずなのに、それを使えない意味が分からなくて不満げに口を尖らせる。これでも、優先順位をつけているのに。それをハッキリ会議で言えない自分にも何だか腹が立つ。

 

「それは確かにそうね」

 

 その時、ふいに輪の外から声が聞こえてきて、シャニーは慌ててばっと上体をテーブルから起こした。

 

「あ。第四部隊長のキリネさん!」

 

 メガネの鋭い視線は相変わらず。初めての部隊長会議で最初に目が合って首がすくんだ相手だ。だけど、どうやら根は優しい人らしく、目が合ったらふっと笑いかけてくれた。

 

「貴女、なかなか見応えがあったわよ。みんな噂してるよ、面白い子が入ってきたって」

 

 いきなり褒められて面食らったシャニーだったが、すぐにいつもの人懐こい笑みを浮かべた。

 

「えへへ……ありがとうございます」

 

 内心はびっくりしていた。このキリネと言う人は確かイドゥヴァ派の人のはずだ。

 第三部隊はティト派の人だから、実質イドゥヴァ派でナンバー2の部隊のリーダーになる。イドゥヴァに睨まれている事は分かっていたから、その下からも同様の視線を浴びるものだと思っていた。……あの腰巾着のように。

 

「私達が獲得した資金が民を救ってるって実感が湧くわ。これからも頑張ってね」

 

「はい! へへっ、嬉しいなぁ」

 

 それがこんな勇気を湧き上がらせる言葉を掛けてもらえるなんて夢にも思わず、シャニーは喜色満面に手を挙げて歓喜してしまった。

 その朗らかな顔をメガネの奥から柔らかく笑ったキリネだったが、その眼差しがふっと厳しくなった。

 

「だけど、あんまりイドゥヴァさんを怒らせないようにね。そっちのスキルも磨いた方が良いわよ」

 

 それだけ言い残すと、長身の彼女は長いアイリスのストレートヘアを風になびかせて去って行った。褒められたのか警告されたのか……。よく分からなくなってシャニーは部隊の皆と顔を見合わせるばかりだった。

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