ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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こんな事なら……あの時────

聖天騎士団の要求に徹底抗戦で答えたシャニーは筆頭騎士ヴァルプルギスと激突する事になった。
実力伯仲に剣をぶつけ合う二人。予想以上の抵抗にヴァルプルギスは二つ名『魔女』の所以を開放する。
途端だった。疾風迅雷の動きを見せていたシャニーに異変が起きる。
それにヴァルプルギスも違和感を覚え、そして確信する。だから主は……ならば────好機。

絶体絶命に追いやられたシャニーの口から零れたのは、一つの後悔だった。

※流血表現があります。ご留意ください。


第10話 紅血の思慕 (後編)

「聖天騎士団 筆頭騎士ヴァルプルギス。推して参る!」

 

 主フェリーズの命を受けて遂に立つ絶対の騎士が、一歩踏み出し上段から斬りかかった。

 

「ルシャナ! ミリア! 援護お願い! レンは増援に警戒して!」

「イエス、リーダー!」 

 

 仲間に指示を出し、シャニーもぐっと足に力を籠めて突っ込んでいく。

 眼にバネでもついているかの様な動きで重そうな一撃を躱し、翼で翔けるが如き軽やかな身ごなしで相手の懐に入り込む。

 先手必勝と神速に飛び出した下段からの一閃。斬り上げた剣がヴァルプルギスの剣とぶつかり合って火花が散る。一閃で終わらない連撃を叩き込んでも、そのどれもが通らない。

 一瞬の隙を突いて連撃の雨から抜け出したヴァルプルギスが後の先が狙うが、シャニーも研ぎ澄まされた直感と抜群の瞬発力で躱し、更なるカウンターを電光石火に浴びせにかかる。

 

「八英雄と斬り結べるとは、礼を言うぞ」

 

 激しく剣をぶつけ合い、硬い金属音が瞬きを挟む間も無くひっきりなしに弾ける。まるで演武の様に火花があちこちで散る中でも、ヴァルプルギスは不敵に笑っている。見下したような、全てを見透かしていそうな目から溢れる余裕と威圧。

 真正面から上段同士の激突。剣が悲鳴を上げながら互いの根元まで押し込み鍔迫り合いになっても、それを崩さず喋る余裕さえ見せてくる。

 

「その名はあたしを示すものじゃない。お願いです、剣を退いて!」

「先に手を出した分際で言う事か!」

 

 力は圧倒的にこちらが上。ヴァルプルギスはシャニーを押し込み払い退けた。刹那、その紫紺は吃驚して一歩退いていた。青の騎士の何と軽い足さばきか。まるで妖精が舞い飛んでいるかの様に、雪原を滑る颯がもう距離を縮めて斬り上げてくる。

 次の手を常に先手の一閃で潰しにかかる剣技に、彼女は防戦に追い込まれている。

 

 だが、あの剣技に手を焼いているのはヴァルプルギスだけでは無かった。あまりの連撃に、仲間たちは入り込む余地を探していた。シャニーの動線を邪魔する事が怖くて踏み込めない。

 

「目標捕捉……エルファイア発射します」

 

 魔法であれば瞬時に距離が空いたタイミングを狙うことが出来る。

 ニイメの下で修業を積んではや七か月。才能を開花させたレンの高い魔力で錬成された炎。緻密に予測し計算された軌道に乗って、空を焼き焦がす緋色の弾丸はごうっと音を立てて地面に突き刺さった。

 

「随分軽く見られたものだな」

 

 確かに捉え、今も噴きあがる爆炎の中に騎士の影が見えているのに、聞こえてくる冷淡な声。

 

「そのような低級魔法が私に通用するか!」

 

 マジックシールドで跳ね返されていた。自身の最高の技をいとも簡単に押しのけられ、レンは悔しそうに小さな唇を噛む。

 相手は神殿騎士。魔法に対する心得も十分ということか。今の自分にはこれ以上の魔法が無い。一体どうすれば……やむなく杖に持ち替える。

 視界には再び焔を吐いて斬り結ぶ二人が見え、視界端から猛烈なスピードで彼らへ突撃する天馬が風を裂いて行った。

 

「喰らえ! 必殺のシュワルベ・クラーレ!!」

 

 シャニーが相手の行動を封じているところを逃すものかと、渾身の槍撃でルシャナが狙う。天馬のスピードと槍の重さで増した破壊力はこのチームでも随一。

 だが、歴戦の筆頭騎士と初陣の部隊。天に光る槍を横目に捉えたヴァルプルギスに焦りは無く、寄せ集め集団を鼻で笑った。

 

「ふん、どれだけ素早く動こうが────無駄だッ」

 

 シャニーを再び払いのけたヴァルプルギスは突撃してくる天馬をきっと見据えておもむろに剣を脇へ。

 

「危ないルシャナ!」

 

 その構えにシャニーは叫びながら踏み込んだ。いくらなんでもこの距離では相手に剣が届かない。低く構えられた剣が描くだろう軌道へ、咄嗟に自身の剣を無理やり突っ込んだ。

 キイィン────耳を劈く高い音が弾けた刹那、正確に斬り上げた燕返しが差し込まれた剣とぶち当たって軌道が変わり、ルシャナの顔の目の前を掠めていった。

 

「技を読むとは。なるほどさすが。これは……面白い」

「あいにく、あたしも使う剣技だからね」

 

 何とか仲間を守ったが、後先考えない行動はダメージが残った。手が痺れる……。剣先で渾身を受けてしまい、剣を跳ね飛ばされ無い様にするので精一杯だった。

 再び上段同士の打ち合いからの鍔迫り合い。ただでさえ左手に力が入らないのに、十五の自分と二十歳を優に超す相手では力勝負に持ち込まれたらどうにもならない。

 さっと身を退き、相手が渾身を振るえない距離、位置を第六感で見抜いてカウンターの一閃を浴びせる。

 

「すげえ……、あの騎士を押してる」

 

 抜群の身体能力が流れるように剣を浴びせる様はまさに疾風迅雷。それを上空からミリアはあっけにとられて見下ろしていた。シャニーが本気の剣を振るっているところを初めて見た気がする。

 

「早く、攻撃」

「そんな事言ったってあんな密着してたら撃てないよ!」

 

 静かでもはっきり怒っていると分かるレンの声に背中を押されるが、別に遊んでいる訳では無いとクロスボウを突き上げた。何度狙いを定めても、照準の中へ一緒にシャニーが入ってしまいどうしても引き金を引けないのだ。

 相手は聖天騎士団の筆頭騎士。手の内などすっかり見切られているようだ。剣を打ち合いながらも、どれだけミリアが移動してもシャニーの背を盾にするように彼女も動いている。

 

「さすがだな。この私の剣を抑え込むとは」

 

 一撃喰らって後ろに退いたヴァルプルギスの口元が不敵に吊り上がる。

 噂には聞いていたが、()()()()()()これ程なら主が興味を持つのも頷ける。今も青の瞳は闘志を全く失っていない。

 

「その舞飛ぶような動き、称賛に値する。貴女に我が騎士団から『妖精』の称号を贈呈して進ぜよう」

 

 肩で息をしながらシャニーも右手で頬を拭う。一筋の赤い線が滲んだ。

 久しぶりだ。ここまで自分の剣が通らない相手は。ようやく一撃与えても効果的な一発には至っていない事をありあり伝える紫紺の瞳。聖天騎士団最強の名は伊達ではないと言う事か。

 

「どうして! なんでこんな奴隷を扱うような事を」

「イリアの発展……その他に何があるッ────」

「くっ?!」

 

 体力の差が出始めているのか、先手をヴァルプルギスに許す。再び激しい打ち合いを挑まれてギリギリと二人の剣が根元で食いあい始めた。

 

 照準を絞り続けるミリアだが、やはりこの状況ではとても勇気が出ない。

 

「聖女は犠牲を否定はしていない。フェリーズ様の邪魔をするなら同胞とて容赦せん!」

 

 耳を劈く刃同士の(かじ)り合う音と共に力押しの一閃でシャニーが押し飛ばされ、彼女は仕切り直す為か距離を空けた。今だッ! ────一瞬を逃さずミリアは引き金を引く。

 

「いけええ、マグナムショット!」

 

 空を裂く灰色の弾丸がヴァルプルギス目掛けて牙をむく。

 

「なっ」

 

 避けきれず顔を掠めたか、ヴァルプルギスの顔に苦痛が走り視線が逸れる。こんな千載一遇を逃すものか────電光石火に飛び出したシャニーは飛び上がると上段に構えてヴァルプルギスの脳天を狙った。

 

終の太刀ッ(イクシードアーツ)黎明の月光(クレッセントムーン)!!」

 

 避ける事はおろか、剣で弾くにも近すぎる。

 ────決まった! 

 皆がそう思う間合い。だが、迫る剣を前にヴァルプルギスは狼狽も絶叫も見せてこない。

 

「アブソルト・シルト────」

 

 おもむろに彼女は指輪を()め、一つ唱えて剣を地面に突き刺した。

 唱えるやヴァルプルギスが填めた指輪から剣へ白きエーギルの波動が走り、彼女とシャニーの間に突如そそり立ったのは巨大な氷の銀盤。渾身で繰り出された斬撃が氷塊を砕くが、シャニーも反動で跳ね飛ばされた。思わぬ出現に態勢を整えないまま宙へ弾き出され、着地に失敗して体を打ち付けている。

 誰もが目の前の光景に瞠目し、口から声にもならない乾いた驚嘆が漏れる。

 

「レン、今の何?!」

「不明。精霊の加護を受けた魔道具と推測」

「精霊??」

 

 上空からでもはっきり見えた。突然に雪原から氷の盾が飛び出したのだ。

 やったと思ったのに。天国から地獄に叩き落されたかのような驚きをレンにぶつけるミリアは、返ってきた答えへ眉間にしわを寄せた。精霊……まただ。ソルバーン以外にもいるというのか。

 

「ここまで私に使わせるか。ならば……」

 

 右肩を押さえながら立ち上がるシャニーを正面に見据え、ヴァルプルギスはどこか嬉しそうに目を細くしている。

 彼女は指輪を外すと別の指輪を取り出して静かに、確かに填めた。

 

「確認しました。あれはセチの祈り。精霊の加護を受けた宝輪です」

 

 レンの分析を吹き飛ばすような怒声があたりに響く。

 

「いいだろう。ならば敬意をもって我が戦技をお見せしよう!」

 

 ヴァルプルギスが吼えた途端だ。

 

 ドクン────────ッ

 

「うぐっ?!」

 

 シャニーが思わず悶絶を吐いた。頭を鈍器で殴打されたかのように突然に揺れる視界。

 

(一体何が、──何が起きた?!)

 

 パニックに表情が固まる彼女に追い打ちをかけるように襲ってくる。ズキン、ズキンッ────!!背中から胸へと突き破られる感覚。 

 

「かはっ……」

 

 何かが脈打つようで思わず胸を抑えたが、内から響く疼痛は膨らむばかり。今にも体が真っ二つに千切れてしまいそうな痛みが奥からジンジン響いてくる。眼が、こめかみが、胸が────破裂しそうな程疼き、胸骨を両手で引き裂いて何かが飛び出そうとする。

 

「これが……『魔女』の意味か……」

 

 それにまだ気づいていないルシャナ達空に居る者の視線は、ヴァルプルギスに釘付けされていた。

 エーギルを指輪に注ぐや否や辺りには烈風が吹き荒れ、迸る風の渦にそれだけで空にいる者たちは吹き飛ばされそうになる。必死に耐えて目を開けると、そこには風のエーギルを満々と湛えて威風堂々と構える騎士。

 様々な精霊の加護を用いて魔法剣を操る神殿騎士の姿に、ルシャナは二つ名の意味を知ってごくりと息をのんだ。まだ、何も始まっていなかったのかと。

 

「さぁ行くぞ『妖精』! 貴女に我が剣、破れるか!」

 

(消えた?!)

 

 シャニーが殺気に気づいた時にはもう目の前へ風の騎士が迫り、上段から剣を振り下ろされていた。剣で反応する余裕もなく、頼みは直感と瞬発力だけ。青髪がぱっと宙に舞った。

 

(な、何なのこの胸の──痛み……)

 

 胸が突き破られそうだ。直接剣で中を抉り出されている様に背中が引きつる。迫る剣が……ヴァルプルギスが近寄るだけで激痛が走る。悶える程の痛みに耐えて斬撃を避けてはいるが、刀身が目の前を走る頻度が増えてきた。このままでは────

 

「怖気づいたか! 先ほどの動きはどうした?!」

「ぐあっ」

 

 突きあがる痛みを堪えて受け止めたはず────気づいたら体が宙を舞い、木の幹に打ち付けられていた。頭を打った衝撃と、腕に走る痺れと、胸を貫く激痛と。

 立ち上がりを襲う疾風の一撃を再び剣で受けた紺碧が瞠目する。ヴァルプルギスは指輪を介して集めた風のエーギルを刃に乗せていた。その剣圧で吹き飛ばされていたのだ。

 だが、二度も同じようにはいかない。受け身を取り反撃に出ようと剣を構えた時だ。

 

「なっ?!」

 

 またしてもシャニーの眼が驚愕に見開く。完全にヴァルプルギスに読まれていた。

 

「逃がさん!」

 

 刃に乗るエーギルが一段と波打ち、空を斬ると剣圧がかまいたちとなって次々シャニーを襲う。

 直撃を許し絶叫する姿に、ヴァルプルギスは眉間にしわを寄せていた。悲鳴を上げたのは明らかに()()()()()

 

(この娘……まさか……?)

 

 悶絶しながら避ける素振りもなかった。

 風の剣をまともに食らい、地に突き刺さる剣。寄り掛かるようにして膝をつく彼女に、ヴァルプルギスは何かを察してセチの祈(指輪)りを指から外してみた。金縛りが解けたかの様に、真っ赤に染まった顔をもたげてくるシャニーも明らかに困惑している。

 再びセチの指輪をはめ、エーギルを連結させた途端だ。また絹を裂くような声を上げて胸を押さえ始めた。

 

(間違いない、この娘は……)

 

 ある程度は主から聞いていたが、今ので確信した。()()()()()だったのだ。

 だから、()()()()()()()()()のか、主は。

 

「シャニー! どうした!」

 

 空の上に居る者たちも何が起きているのか分からず、ルシャナが必死に叫んで呼びかけるが、シャニーはうずくまって腹から絞り出すような声で呻くだけ。

 

「大丈夫?! レン、ライブできる?」

「不要です。もう最大限治療しました」

 

 レンから返ってきた言葉にますます膨れ上がる困惑。あれだけ苦しんでうずくまっているのに、もう風の剣のダメージは無いなんて。

 

(このままじゃ……、────ヤバい…………)

 

 剣を地面に突き立て、膝を突いたまま動けない。尋常で無い量の脂汗が、顎から血と混ざってポタポタと滴り落ちていくのが見える。

 一体何がどうなっているのかシャニー自身も分からないまま、胸に腕をねじ込まれて引きずり出されているかの様な激痛に、ただただ堪えるだけで精神を削がれていく。

 

(あの指輪を何とかしなきゃ……)

 

 一つ分かるのは、ヴァルプルギスが装備する指輪が絡んでいる事だけ。だが、立ち上がる事もままならない今、目の前にいる騎士があまりに遠く感じた。

 飛びそうな意識の中に敗色がどんどん濃くなってくる。

 

「そうか、ならば尚更ここから帰すわけにはいかん」

 

 戦況を先に掴んだのはヴァルプルギスだった。これは主への手土産とせねばなるまい。うずくまる敵から敢えて距離を空け、セチの指輪と共鳴して風のエーギルを集める。

 

 剣に掴まっている事も出来ずに、シャニーは右手も地に着いた。脈打つものがどんどん大きくなって胸が飛び散ってしまいそうだ。敵の剣先に風のマナが轟々と渦を巻いていると言うのに、止めるどころか動けない。

 

(早く逃げなきゃ……)

 

 ────はっとして空を見上げた。自分を守ろうと仲間がかなり低い高さにいる。

 

「みんなっ……、──上空に逃げて!!」

 

 気力で立ち上がったシャニーは渾身で叫び、要領を得ないまま仲間たちが急上昇を始めた。

 

「遅い!!」

 

 遂に限界まで風を集めたヴァルプルギスが渾身に剣を振り切る。

 

「我が奥義とくと見よ。ヒュッケバイン!!」

 

 空を裂く風の咆哮。全てを巻き込まんと引き起こされた乱気流が、稲光を伴い天高くまで渦巻く。破砕音を轟かせながら触れるもの全てを跳ね飛ばし、上空に逃げたものをあざ笑うかのように飲み込んで地面へ叩きつけた。

 

 断罪の烈風が過ぎ去り、するりと抜け落ちそうになる剣を掴む左手。

 

(まだ、負けるわけには……)

 

 咄嗟にディークから習った防護技を構えたものの、風の奥義の前ではまるで歯が立たず、シャニーはかまいたちの餌食となっていた。

 もう足は立たず、意識が薄れ膝から崩れていく。何とか剣を突き刺し、奈落を前に意識が引っかかった。今この世界に精神を繋いでいるのは、剣にかかった左手のみ。

 だが、その手にももはや感覚は無い。分かるのは、絵の具を溶かした様に世界がみるみる赤くなっていく事だけ。

 もう、何も考えられない。何も感じない、何も聞こえない……

 

  ────せめて……声、聞きたかったよ…………

 

 気づけば、真っ赤な視界へふいに浮かんだ顔にポツリと呼びかけていた。

 

(ロイ様……ごめん。……あたし、約束……もう…………)

 

 こんな事なら、姉の許可が出ずとも会いに行けば良かった。二度と会えなくなるなら、あの時会いに行ったら良かった。会いたい、今すぐに……会いに行きたい。

 がっくり糸が切れ、焦点を失う(あおぐろ)く濁った瞳。紅血に染まる雪原を呆然と見下ろす視界に浮かんでくるのは、会いたかったあの人の顔ばかり。悟った瞳からぽろぽろ後悔が零れ落ちた。

 

「どうする? まだやるか?」

 

 何か声が聞こえた気がする。ヴァルプルギスが近寄ってくる……。士気折れた半開きの目で見上げた額に剣の鋒が当たる。

 

「今なら寛大な処置をフェリーズ様にお願いしてやっても良い」

 

 今何と……言った? 朦朧とする意識の中で、必死に彼女の言葉を繰り返してやっと理解した目が見開く。後ろに目をやると、仲間たちも半壊状態だがミリアがすでにクロスボウをヴァルプルギスへ向けていた。

 これ以上は家族の命に係わる────部隊長として決を下す時。

 

「あたしたちの……負けです」

 

 約束したのだ、あの人と。死ぬな、生きろと。

 例えどんな仕打ちを受けようとも生きて、生きて帰ろう。生きて、生きて、いつかきっとあの人に会いに行こう。生きて────…………。

 

 ついに繋いでいた左手も剣から滑り落ちて雪に沈んだ。それを見届けたヴァルプルギスは剣を逆さに持ち、神速の剣への敬意を示す。

 

「『妖精』を捕らえろ。残りの者は牢へ放り込んでおけ」

 

 駆け付けた騎士たちに一言命じて彼女は去っていった。次なる場面へと舞台を進めるために。

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