ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅠ・Ⅱ   作:宵星アキ

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今日中に何とかしろ! このままじゃお前、西方に出向だぞ!
アルマから突然もたらされた情報にシャニーは仰天する。
あたしに死ねって言うの?!────西方三島……それは片道切符の流刑地。

アルマはシャニーの顔を見つけた途端、開口一番問い詰めた。なぜ、止めろと言ったのに忠告を聞かなかったのかと。
シャニーからは予想通りの答えが返ってきてしまい、彼女は天を仰いだ。
おそらく明後日には処分が下される。それまでに何とかしなければ……。



第5話 堅き信念、揺れる瞳

「へへっ、きっとシャニー喜ぶッスね」

 

 医務室へ向かいながら、ミリアは手に下げた白い箱へ目を下ろしてニコッとした。甘いもの好きなリーダーの破顔が目に浮かぶ。

 今日はカルラエ城下町にある菓子店の新作スイーツの発売日。ちょうど聖天騎士団への出撃直前くらいに広告されたから、部隊の皆であれこれ話題にしてきた。

 宣伝に違わぬおいしさで疲れたリーダーを少しでも癒してあげたい。医務室へ続く廊下の最後の曲がり角を抜けた時だった。

 

「あ……」

 

 思わず乾いた声が飛び出し、足がすくんで動けなくなった。

 向かってくる魔人は廊下の真ん中で立ち尽くすミリアにお構いなしにズンズン歩いてきて、そのまま気づいていないかのように跳ね飛ばして去って行った。

 

「し、心臓に悪いッス……。──大丈夫ッスか、シャニー?!」

 

 あいつは九月にリーダーを襲った男だ。この一本道で彼がどこから来たかなんて考えるまでもない。手足をじたばた空回りさせながら医務室へ向かおうとした時だった。

 

「ひっ、ひいい?! お、お助けええ!!」

「バカ! 静かにしろ!」

 

 ふいに背後から肩へ手が乗り、脳天から中が飛び出すほど跳ね上がった。直後に聞こえてきた声は魔人では無く、恐る恐る軋んだ蝶番のように後ろを一瞥してみる。

 

「なっ、何なんスか、お前!」

 

 振り向いた先にいたのはアルマだった。バツが悪くなって、ミリアは咳払いして間を取ると火の玉を投げつけた。

 

「フン、年下のキミにお前呼ばわりされるとは心外だね」

「どうでもいいッス。何の用ッスか?!」

「ちょっと一緒に来てくれないかな? とある人がキミを呼んでてね」

 

 四の五の言わずに来い────アルマの目は語らずともそう言っている。

 だが、あのアルマだ。十八部隊を分断し、自分達を散々足手まといとバカにしてきた奴だ。

 誰がお前なんかに……そう喉元まで出かかったが、遮るように彼女はすっと指を差してきた。

 

()()()()()()()()()、黙ってついて来い」

 

 指先の軌道は白い箱にぶつかってハッとする。業腹だが、今はついて行くしかなさそうだ。

 アルマについて元来た道を逆戻りし、重そうな扉の前まで連れて来られた。普段なら素通りする扉……当然だろう。そこはいつも固く閉ざされている場所だからだ。

 

「え……。何で……開いてるんスか?」

「いいから黙ってついて来い」

 

 重い扉が閉まり、風に揺れる看板。地下書庫入口────そこは第一、第二部隊長以上の最上級天馬騎士が同伴しなければ決して踏み入る事が許されず、トップシークレットが封印されている場所。

 秘密をこの暗い極寒に閉じ込めているかのような張り詰めた空気の中、松明を頼りに降りて行くと、ぼうっと奥に明かりが見えてきた。

 

「えっ……っ。ど、どうしてこんなところに?!」

 

 灯に照らされて現れた女性にミリアは堪らず指を差し、その女性は静かに口を開いた。

 

「待っていたわよ。十八部隊所属のミリアさん」

 

 

 

◆◆◆

 一方、医務室では極度の緊張から解放された二人が大きく息を吐き出していた。業火の魔人が部屋から出ていくと、二人とも肩から力が抜けてその場で溶けるように崩れる。

 今でも心臓がバクバクする。この場所で暴れられたらどうしようかと、気を張り続けていたシャニーは思わず目を瞑って天井を仰いだ。

 

(何がお見舞いよ! サプライズどころじゃないじゃん……死ぬかと思ったよ)

 

 剣を持っていたとしても相手をできる男ではないが、丸腰の自分の無力さをまざまざ見せつけられた気がする。相手は拳闘。どこでも戦おうと思えば戦える。まさに銀狼の旅団そのものを示すような男だ。

 

「何だったんだあの男」

 

 震える声に目を開けて視線を戻すと、未だに腰が立たないらしいウッディの目からは完全に力が抜けている。非戦闘員の彼には刺激が強すぎたか。机に手を伸ばして何とか立ち上がるとそのまま椅子の上に転げ込んでいる。

 

「男のクセに情けないなぁ」

「お前だって騎士のクセにブルってたじゃないかよ」

「あ、あれは……違うもん! あれは────」

「ま、そんな事はどうでもいいさ。アイツ、お前の知り合いか?」

 

 ウッディにそう問われても、どう返して良いか迷う。友達でも無ければ仕事仲間でも無い。勝手に獲物認定して襲って来ただけだ。

 

「知り合いってわけでもないんだけどなあ……ははは」

 

 鼻先を弄りながら苦笑いする顔に、はっきり迷惑だと浮かべておく。レイサには係るなと言われていたのに、もう完全に目をつけられてしまった。

 あの男に係って以来、ロクなことが起きていない気がする。あの様子だとまた来るに違いない。

 

(今度来たら……もっと聞き出さなきゃ)

 

 未だにあの男の真意は掴めずにいた。この城で挨拶を交わしただけのはず。それがいきなり賊討伐中に襲い掛かられ、そして今回のお見舞いだ。

 でも、あの男は確実に何かを知り、よく分からない黎の領域へ踏み込む事を望んでいる節がある。

 ────ようやく守れるようになったんだぜ

 あの男は嘘を言ってはいない気がする。だが、怖かった。道があるかも分からない、自分が自分で無くなってしまう黎の領域へ意識を委ねる事が。

 もっとあの男から聞き出したかった。────同類(魔人)から。

 

「あんな奴の言うこと真に受けるなよ」

「え? 何のこと?」

「何のって……全部だよ。お前や師匠さんをバカにしてたろ」

 

 ウッディにはそんな彼女が心配でならなかった。ただでさえ幼馴染が落ち込んでいる時にあの男がもたらした話は、更に彼女の顔から微笑みを奪ってしまった。

 風の妖精────そう伝えられてからずっとあの青い瞳は震えっぱなし。今もベッドの上で手元をじっと見下ろして何かを考えている。しばらくしてその横顔に浮かんだのは、いつもとまるで違う引きつった笑み。

 

「はは……なんかさ、おとぎ話みたいだよね。あたしが?」

 

 もう何と言って自分を納得させれば良いか、シャニーは分からなくなっていた。

 どれもこれも、彼の話したことは味わった苦痛を否定するどころか裏付けるものばかり。受け止めたら自分を否定されてしまう気がして。()()()()()()()()が皆の知る自分だと思うと怖かった。

 ────それを全部自分の実力だと思ってたのか? 

 必死に生き抜いてきた今までは、全て……そこまで考えて静かに首を振った。

 

(これも……()()()()実力なんだ)

 

 受け止めるしかない。受け入れるしかない。“力”もまた、自分ではない自分ではなく、今まで積み上げてきた自分の一部なのだと。守る剣を握る資格を掴むために今までがあった────そう考える事にした。

 

「へへっ、何かカッコイイじゃん」

「シャニー……」

「みんなを守れる力が手に入ったと思えばおっけー、おっけー!」

 

 ────鎖を切ったのはテメェの意志だろ? 

 リスクを承知で、未知の世界へと踏み入ったはずだ。そして今、望んだとおり力を手に入れた。やってしまったことは返ってこない。とにかく前を向いてポジティブに考えようと思った。

 

(おじさん……使っちゃいけない理由、分かったよ。でも、使わないと見つからない気もするし……。────少し一人で考えたいな)

 

 問題は……扱いきれないことだ。仮面の魔術師と戦った時も、ヴァルプルギスと斬り結んだ時も、()()()剣を握っていた意識は遠い。

 ここがウッディの職場だとは分かっているが、動けない今は少しだけでも退場してもらわないと一人の時間を確保できない。

 見下ろせば上着をソルバーンに引き裂かれてスポーツブラ一枚……使わない手はない。

 

「そんな事より、いつまで見てるのさエッチ!」

「な、何だよ今更?! 家でいつもそれでフラフラしてるくせに」

「うるさい、うるさい! 早く着替え持ってきて!」

 

 ウッディに眉を釣り上げると部屋の出口を指さして追い払った。

 静かになった部屋。これで頭を整理できる──その時だった。

 

 ────あ…………ば……か……に

 

 びくっと肩が跳ね上がり、目が飛び出しそうになる。間違いない、また聞こえたのだ、あの声が。焦ってあたりを見渡すが誰もいない。

 

「うそ……?」

 

 あれは夢なんかではない。そう思い知った途端に胸を掴む。ソルバーンの言っていたセチなのか? この声は。もう、それに答える声はない。ふと鏡に映る自分の顔と視線が合った。蒼い顔、黎い目……。

 

「ダメダメ。こんな顔してちゃ、あたしらしくない、ない! 笑って、笑って」

 

 自分でも明朗な性格だと自覚はある。自分の知る顔が目の前に無くて彼女は無理やりにでも笑った。受け入れると決めた今、らしくもない顔をしてますます沈んでいくのはもう嫌だ。

 

「よおし、がんばろ!」

 

 拳を突き上げて自身を鼓舞すると、彼女は再びヘアスタイルを弄り始めた。この白に青が戻った時のために。

 

 

 

◆◆◆

 ウッディが着替えを持ってきた後もしばらく静寂が珍しく続く。いつも騒がしいシャニーがベッドの上で坐してメンタルトレーニングをしているからだ。

 彼が持ってきた服は慣れ親しんだ一般隊員の服。

 この服を着ていると何か心が落ち着く。士官着は身が引き締まるものの、重い責任も背負うので今はこっちのほうが良い。ただでさえ今は重すぎる罪がのしかかっているのだから。

 その罪から滲みだし、トレーニング中でもお構いなしに湧きあがる不安。

 

「ねえウッディ」

 

 口から衝いて出てきてしまった。考えない様にしようとすればするほど、平常心でいようとすればするほどに湧き上がってくる不安。静かにしているとそれが恐怖を連れて来て囁いてくる。平常心など……無理なのかもしれない。

 

「なんだ、まだ寝てなかったのか」

「あたし達ってやっぱ、騎士団の中で問題になってるの?」

 

 その問いにウッディからはしばらくの沈黙が返ってきた。

 もうこれだけで十分、シャニーは事態を思い知っていたが、「さ、さあ」遅れて無理やりに押し出されて来た言葉に、沈黙よりずっと重い現実を突き付けられた気がした。

 

「僕のところにはそこまで情報は来てないかな」

 

 今更取り繕ってもダメなのに。シャニーは内心ウッディに手を合わせた。きっとまた彼は自分を心配してこう言っているのだ。騎士団中の噂が集まってくる彼に何も情報が来ないなんて、今までを考えたらおかしい。

 

「嘘はいけないんじゃないのか? 軍医君」

 

 それが間違いではないと伝える声がふいに出入り口の方から聞こえて来た。赤い瞳に赤い髪に。寒色系が多いイリアにあってこの攻撃的な色はとても目立つ。

 出入り口で腕を組んで壁に背を預けていたアルマの眼がウッディをまっすぐに捉える。やめろ! ────すぐに反抗の眼差しが返ってくるが、アルマは壁から背を離すと医務室の中へと入っていく。

 

「アルマ! 来てくれたの?」

 

 シャニーは嬉しそうだ。手を振って笑顔で招き入れようとしてくる。相変わらず人の心を融かしてくれる顔だが、今は付き合っている時間は無い。

 

「ああ。少々、文句を言いにな」

 

 体の方は大事には至らなかったと確認出来ると、アルマの表情は緩むどころか険しくなった。それを察したのか、シャニーも不安そうに首を傾げている。

 ポーカーフェイスのまま彼女の目の前にまで歩いて行き、ずいっと顔を押し付けてなじる。

 

「何であれだけ警告したのに首を突っ込んだんだ」

 

 聖天騎士団との契約に旅立つ前日、厳しく脅して引き留めたはずだった。今ならまだ引き返せると。

 いくらヴァルプルギスを退けて生還を果たしても、もう彼女は出撃前の生活を送る事が出来ない状態にまで追い詰められている。いや……下手をすれば、()()()()()()()()()()()()かもしれない。

 

 シャニーも文句があるとアルマが言った時点で何を言われるかは予想がついていたが、いざ言われると視線を合わせられなくなった。

 それも束の間の事。すぐに息を吹き返してまっすぐ親友の目を見つめて叫ぶ。

 

「だって! 目の前であんなにイリアの民が虐げられてるのに黙っていられるわけないよ!」

 

 ────お願い、信じて……! 

 祈るような目が訴えてくる。あまりにも予想通りの答えが返ってきてアルマも答えに窮してしまった。それが契約違反に当たる事は分かっているだろうに。

 裏表がないのは結構なことだが、それが今最悪の事態を引き起こしている。軍医は良かれとずっと隠してきたのかというのか。

 それにしても、彼女の性格を考えれば、()()()()()()。あの人間も実に喰えない。

 

「お前、西方三島の連絡所に出向だぞ。このままじゃ」

「せ、西方……?!」

 

 さすがのシャニーでもそれが何を意味するかは知っている。真っ白になった頭がベッドの柵にぶちあたった。

 

(あたしに……死ねって言ってるワケ?!)

 

 西方三島連絡所……そこは事実上の墓場。荒くれや賊がはびこる無法地帯での任務は自身を守る事に一睡もできないほど過酷だと言う。一度辞令が降りれば二度と還って来られないそこは、天馬騎士団内でも流刑の地と呼ばれ恐れられている場所だ。

 

「何とかしろ! イリアで仕事をしたければ今日しかチャンスはないぞ」

 

 逃げることを許すわけには行かない。アルマは責めるようにシャニーに再度顔を近づけ、両肩をがっしり掴んで揺さぶった。

 おそらく処分が下されるのは明後日だ。明日弁明しようと思えば今日全てを揃えておかなくては間に合わない。

 

「何とかって言ったって……証言をもらうしか」

「だったら今からすぐ行け! 遊んでいる場合か!」

「分かってるよ! ──どうやって境界線を越えよう……」

 

 シャニーは時計へ目を落とした。もう午後三時を過ぎている。早ければあと一時間もしないうちに暗くなり始める時間だ。この吹雪の中、あの開拓地に飛んで行って証拠を集めてくるなんて……そう考えていた時だ。

 

「あんたと接点を持ったものは全員消されたよ」

 

 どこからともなく現れた黒い風が運んできた事実に、シャニーの目が見る見るうちに見開かれていく。

 

「え……────えっ?! なんで?! どうして!!」

「簡単な話だ。こう言う時のためだよ」

 

 思わずベッドから飛び出してレイサの許まで駆けるとその手を取って揺さぶる。だが、レイサは無情にも静かに首を横に振った。

 

「もう証拠はどこにもない。聖天騎士団も現場の暴走として現場長を処分して終わりだよ。悔しいけどね」

 

 ヴァルプルギスに敗れ、気を失っていたシャニーが目を醒ました時には大半の執行は終わっていた。それからもその地に残り調べ廻っていたレイサの前で、次々に処刑は繰り返されていた。

 他騎士団の運営不可侵の掟がある以上、表立って開拓地で証人を探すことなどできない。最初からあの男の手のひらの上で踊らされていたとしか思えない手際の良さ。事実上の八方塞だった。

 

「また……またなの?」

 

 乾いた声が引きつった口元から零れ落ちた。シャニーの肩が震えていたのは証拠が無くなったからなんかではなかった。

 あの場で言葉を交わした者たちの顔がひとりひとり浮かんできて、罪悪感に押し潰されそうになる。

 

「あたしが余計なことをしたから、死ななくていい人が……? あたしがみんなの人生を……変えてしまったの?」

 

 同じ過ちを繰り返してしまったというのか。

 守ると言って賊にちょっかいをかけた挙句、再襲撃にあって全滅した村。あの時と、まったく同じ過ちを。震える声が咽び泣くまで時間はかからなかった。

 だが、アルマは下を向くことを友に許さなかった。シャニーの肩に手を置くと顔を覆う手を握って自分の方を向かせた。

 

「余計な事かどうかはお前が決めることじゃないさ。少なくとも、開拓区の体制は是正されたんだ」

 

 彼女の行動が運営不可侵の掟を越えて他騎士団の活動の是正に繋がった。それは紛れもない事実であり、イリアの歴史を変えた大きな、大きな功績だった。

 事実は事実と受け止め、今後の最善へどうしたら繋げることができるかを考えることが生き残った者の務め。

 

「隠したって意味無いから伝えておく。騎士団内は非難の嵐だ」

 

 ────どれだけ剣を折られても、信じてくれる人のために戦い続ける。それがあたしの誓いだから勝つまでは負けないよ

 

 自分の故郷で親友が見せたあの強い眼差し。いつも前を向いて歩いてきた親友を信じて、アルマは自身の知る全てを伝えた。

 掟を破り、契約に違反して、同族へ刃を向けた。その事実だけが騎士団の中で飛び回り、根も葉もない噂となって広がっていることを包み隠さず、全て。

 

「……そう」

 

 聞き終わったシャニーはもう泣き止んでいた。

 

「そうだよね。分かってる。受け止めないといけない事だって」

 

 知っていた。誰からも認めてもらえるわけが無いことを。覚悟はしていた。誰にも理解なんてされるはずも無いことを。

 それでも剣を握り飛び出す決断をしたのは誰でもない自分。誰かに言われて振るった剣ではなく、己の誓いが叫ぶままに自らの意志でとった剣。そのこと自体は今も後悔はしていない。

 

 その瞳が折れていないことを見届けたアルマはそっと親友の両手を取ってしっかりと握りしめた。

 

「少なくとも私はリスペクトしているよ。信じる剣だけを振るうお前の姿をね」

 

 自分の知る通りの親友のままだった。だからこそ、親友なのだ。雇い主の“犬”なんかではない、人として認めた数少ない友。

 

「アルマ……」

「お前の剣、非難ごときで折れるものじゃないだろ? 民の為の剣……お前の誓いしかと見せてもらったよ」

 

 今一度強く友の手を握り、アルマは風を切って医務室から出た。親友の為にしてやれることと言えば……イドゥヴァに進言して左遷先を変えてやることくらい。だが……おそらくそれは不要だろう。

 

(きっとアイツは自身で道を切り拓くはずだ)

 

 そう信じる背中は清々しさに満ちていた。

 

 

 部屋に残されたシャニーはアルマに強く握られた両手をじっと見降ろしたまま動けずにいた。

 親友は自分を信じて励ましてくれた。自分の剣を認め、理解してくれた。それは素直に嬉しくて頬を伝うものが止まらない。だけど、だからこそ彼女は自分が怖くなった。

 

(あたしの剣は、あの最後の剣は本当にあたしの信じた剣だったのかな……)

 

 友を裏切ってしまうかもしれない剣が心の中に潜んだ今、一体どうすればいいのか。どうしたら守る剣として己の意志で握ることが出来るのか。

 ソルバーンには啖呵を切ったが、魔剣のままでは誓いの証明なんて出来やしない。

 処分の話は気になる。けれど、その事よりも他人の人生を変えてしまう剣の存在に彼女は震えていた。

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