生まれ変わったらダー様だったので優雅に紅茶を嗜んでいたら、何故か黒幕扱いされている件。 作:オレンジペコ枠……誰?
ダー様もどき。DNA絶対信者。本家ダー様のことをイギリス貴族だと思い込んでいる。全体的に坂柳有栖と相性が良い。
PS.
感想ありがてえてえ。返信は数話感覚で一度にやります。ありがてえ。
●月□日
正直に言おう。何度でも言おう。
今世の私は天才だ。非才であった身だからこそ、このダージリン・グロリアーナという才覚の塊の凄さが分かる。
だからと言って慢心するつもりは無いし、自己研鑽に費やす時間を減らしたりするつもりも無い。
そもそも、如何に私が天才と言っても上には上がいるものだ。今世ではまだそんな人物に出会ったことは無いが、だとしても人の世は隙を見せた者から消えていくのが常。こんなところで満足などできるものか。
何より私には私を倒す好敵手、西住みほの存在がある。
きっとガールズ・アンド・パンツァーにおけるダー様は今世の私並に多才の傑物だったに違いない。そんな彼女の好敵手である西住みほもまた鬼才でないはずがないのだ。
西住みほに恥じることの無いダー様となり好敵手として彼女の前に立ち塞がるのが、今世の私の人生目標の半分となりつつある。
来るべきその日に向け、私は私を極め続けよう。
●月△日
本日、六歳の誕生日を迎えた。
プレゼントには少々値段の張るティーセットを父に強請ることにする。
やはりダー様と言えば紅茶ではないか。ダー様について詳しく知っているわけではないが、紅茶は彼女とは切っても切り離せないものだろう。
これで私もダー様への一歩を踏み出せるわけだ。
真ダー様となる為には、まずは完璧なダー様とならなくてはいけない。これはその大いなる一歩である。
●月×日
オーダーメイドのティーセットが届いた。
早速お手伝いさんに紅茶を入れてもらえば、不思議とティーカップは恐ろしいほど私に馴染んだ。私の半身であると言われても納得できる。
やはり私はダー様なのだと深く実感した。
PS.
日本語と中国語の家庭教師を付けてもらった。これで日本語を使っても怪しまれないだろう。
●月▽日
勉学と武術の修練の合間に紅茶を嗜んでいるのだが、最近は自身で紅茶を入れるようになった。
これがまた奥が深い。お手伝いさんの入れてくれる味には今暫く届きそうにない。研鑽あるのみ。
それはそうと、茶葉というものもなかなか面白いものだ。
将来的には茶葉の品種改良なんて分野にも手を出してみても良いかもしれない。
●月〇日
昔取った杵柄ならぬ前世で取った杵柄というやつは、やはり馬鹿にはできない。お陰で勉学も運動も芸術も、才能あふれるこの身にスポンジの如く吸収される。既に下地が出来ているのだから当然と言えば当然か。
最近は家庭教師すら手に負えないと一月に一人は替わる始末。護身術の先生だけが未だに手が届かない。この人は本物だ。何れは超えてみせるが。
ただ、こうしてひたすらに己の才覚を磨いていると、時折我が才能が末恐ろしくも感じる時がある。
けれども、何一つ出し惜しみするつもりは無い。才能は腐らせるものではなく、輝かせるものだから。
私は、真ダー様となるのだ。
●月■日
不味い事態が発生した。
事の真相を探る為、しばらく日記を書くことが出来そうもない。
●月▲日
前回の日付から半年も空いてしまった。
真実を知るため、私は世界を飛び回っている母に付いてアメリカに滞在していたのだ。
ことの始まりは大したことではない。ただほんの少しの違和感であった。
私はダージリン・グロリアーナである。ガールズ・アンド・パンツァーにおける登場人物の一人、ダー様のはずだ。
そう、ガールズとパンツァー、女の子と戦車である。
女の子はともかくとして、戦車が題材なのは間違いないはずなのだ。戦車道という競技が存在するのだから、知名度も相応以上のはずである。
しかし、この世界での戦車に対する認識と知名度は私の前世における世間一般のそれと大差は無いように思える。それが何よりの問題だった。
疑問に思った私は、喉が干上がるように渇くのを実感しながら、父に戦車道について聞いてみた。
答えは「知らない、そんなおかしな空想を抱いている暇があるのなら、もっとガロア理論についての造詣を深めろ」などと大変有難いお言葉を頂いてしまった。確かに、前回のテストで一問間違えてしまったが、そもそも未就学児にやらせるようなものではないと思う……。
というか、そんな話ではなく。
色々と調べて見た結果、どうやら、この世界には戦車道が存在しないらしいことが分かった。
そうだ。戦車道なんて存在しないのである。
私は確かにダー様であるが、戦車道の存在しない────ガールズ・アンド・パンツァーではない別の世界に、ダー様として転生したようなのだ。
つまり、この世界には私の好敵手となる存在、主人公西住みほは存在せず、私を確実に打ち倒せる存在は居ないということ。
ダー様になると息巻いていたのに、これでは真の意味ではダー様になれないではないか。
思いのほか、私はダー様となってガールズ・アンド・パンツァーの世界で生きることに固執していたらしい。
胸に穴が空いた気分だった。
■月▼日
明日から、日本に行くらしい。
なにやらホワイトルームとかいう施設の見学に行くと言っていた。人工的に天才を量産することを目的とした施設なのだとか。
なんともまた、無知蒙昧で浅はか。私が嫌悪するものを煮詰めたような理念を掲げた施設である。
努力して到れるのであれば、それは才能があるということだ。努力しても到れないのが無才、非才なのである。決定的に履き違えている。
人は、生まれ持って定められた以上のことはできない。
とまれ、我が父は私が落ち込んでいるのを、日々に張り合いが無くて活力を失っているのだと考えたようだ。
あながち間違ってはいない。間違っていないのだが、今の私には西住みほという好敵手の偶像を超えるほどの出会いがあるとは到底思えなかった。
■月●日
やはり日本は良い。前世の生国、第一の故郷への帰郷は格別である。たまにはこうして気分転換するのも悪くはない。
これだけで日本に来た甲斐はあった。
後は、ホワイトルームとやらに私のお眼鏡に適う人物がいれば完璧なのだが。期待はしないでおこう。
■月××日
いた。
いたいたいたいた!
いたのだ、必ず私に並び立つ鬼才が! それも二人!
サカヤナギ・アリスと、アヤノコウジ・キヨタカ。
前者は私と同じように父同伴でホワイトルームの見学に来ていた少女であり、後者はこのホワイトルームで教育を施されている少年だ。
どちらも一目見て分かった。アリスの深く智を秘めた眼差し、キヨタカの溢れ出る才覚。どちらも本物だ。
素晴らしい! 完璧だ! こんな出会い、二度と無い!
この名前を私は忘れない。
私はこの二人の好敵手となり、何れはそれをも超える理不尽なまでの才能で叩き潰す。
嗚呼、その日が今から楽しみである。
◇
大好きなお父様に連れてこられた真っ白な施設で、あの日、私はあの二人に出会いました。
「有栖、この人はグロリアーナ卿。そして、こちらがご息女のダージリン嬢だ」
「おお、坂柳。水臭いではないか、私のことは今まで通りウィリアムで良いといつも言っているだろうに」
「いやいや、卿、昔のようにはいきませんよ」
お父様とグロリアーナ卿は長年の付き合いらしく、とても仲が良いご様子でした。
彼は一頻りお父様を揶揄うと、今度は紳士的な立ち振る舞いを見せ、私と視線を合わせてきました。
「やあ、アリスさんだったかな? 私はウィリアム・グロリアーナ。それと、この子はレディと同い年の娘なんだ。君さえ良ければ、仲良くしてあげてくれると嬉しい」
「ご丁寧にありがとうございます、サー。アリス・サカヤナギです、お見知り置きを」
「サーは止してくれ。娘と同い年の子にそんな風に呼ばれるのは忍びない。それに、今日の私はお忍びなんだ。ウィリアムで良いよ」
「それでは、グロリアーナさんと」
その回答に彼はいささか不満げでしたが、私とて譲るつもりはありません。貴族ともなれば、たとえ此方が子供であっても相応の態度が必須でしょう。
それよりも、私はガラスの先を見つめる彼女のことが気になっていました。
私の視線に気がついた彼女は薄く微笑むと、洗練された仕草でカーテシーを披露。そして、意外にも饒舌な日本語で自己紹介をしたのです。
「ご紹介に預かりました、ダージリン・グロリアーナと申します。アリス・サカヤナギさん、よろしくお願いしますわ」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
握った手からは、何かスポーツや武術を嗜んでいる人と同じような筋肉の付き方が分かりました。
それだけではありません。
私も大人びているとはよく言われますが、彼女の佇まいもまた私と同じように、そう、同じように深い理性と知恵を感じさせるものでした。
文武両道、万能人、そう呼ばれる類の片鱗を私は垣間見たのです。
「……あの、ダージリンさんとお呼びしても?」
「ええ、構いません。こちらも、アリスさんと呼んで良いかしら?」
「勿論です」
きっと、卿と混同しないようにという理由だけではなかった。
一目見たときから、心のどこかで、私は彼女のことを認めていたのです。
────
「……Defeat? I do not recognize the meaning of the word.」
「っ!」
「ふふ、アリスさん、貴女は如何かしら?」
彼女は、私の耳元でそう囁きました。
それは明確な宣戦布告にほかならない発言でした。
彼女もまた、私を同類だと理解していたのです。私が一目で認めた人間なのですから、当然と言えば当然かもしれませんが。
「でしたら、私がそれを教えてあげましょうか?」
「ええ、できるものなら。楽しみにしているわ、アリスさん」
私はこの日、この時出会った彼女のことを、そしてこの後に知るもう一人の彼のことを一日たりとて忘れることはないでしょう。
いつか再会し、必ず相見えるのだと確信すらしていた。
大好きな両親の優れたDNAを受け継ぐ者として、同じく優れた才覚を持つ彼女達と対決するその日を待ち望んでいました。
そして、それは思いがけずあの場所で叶うことになるのを、この時の私は未だ知る由もありませんでした。