(アーミーナイフの)小林さんちのメイドラゴン 作:Woudy
原作:小林さんちのメイドラゴン
タグ:R-15 残酷な描写 アンチ・ヘイト クロスオーバー ヒューマンバグ大学 小林さんちのメイドラゴン アーミーナイフの小林 トール
俺の名前は小峠華太。
「小林さーん、お疲れ様です! お弁当持ってきましたよー!」
「お、待ってました! 毎日の楽しみ!」
今日も小林の兄貴の家でメイドをやってる少女が、事務所にいる兄貴へ昼食を届けに来る様子を遠巻きに眺める、アラサーの極道だ。
「今日は皆美さんと一緒にシューマイ?を作ってみたんです! ちょっと水っぽくなっちゃんですが……」
「マジ美味ぇ! ジューシーじゃん! 今日も生きてて良かったー!」
「本当ですか? 良かったー!」
少女が毎日届けに来た弁当を、小林の兄貴が美味しそうに食べる。昼間の天羽組事務所に加わった、新しい光景。
「い、良いんすかね? いくら小林の兄貴の知り合いとはいえ、堅気を事務所に入れて……」
「あくまで弁当配達人って扱いだ。親っさんも特例として認めてるらしい」
舎弟の北岡は少女を堅気と呼ぶが、コイツはまだ知らない。奴が堅気どころか人間ですらないことを。
――――
事の発端は2週間前。出勤の為に自宅から出ようとした小林の兄貴は、
「………あ?」
扉を開けた先で待ち構えていた巨大なドラゴンと遭遇した。そう。神話や漫画とかに登場する、あのドラゴンだ。ドラゴンは現れた兄貴に視線を向け、周囲を震わせるほどの咆哮を上げた。
『こんちには、小林さん』
その後、なんとドラゴンが普通に話し掛けてきたのだ。近所の人と擦れ違った時に挨拶する、そんなノリで。
これ程の異常事態。常人ならパニックになっても可笑しくない。
「すっげぇ、ドラゴンじゃん!! 俺、初めて見た! ちょっとグリンして良い!?」
『ちょ、待って、止めて、グリンしないで……!!』
しかし小林の兄貴は組一番の狂人だ。嬉しそうにアーミーナイフを取り出してドラゴンの目玉へ突き刺そうとする兄貴に、命の危機を感じた奴は必死に兄貴を止める。
「そういやさ、お前何で俺の事知ってんの?」
『そうですね……詳しく説明したいので中に入っても良いですか?』
最もな疑問を投げ掛けられたドラゴンは、そう言って自身の体を光で包んだ。光る身体は徐々に小さくなっていき、やがてツインテールにメイド服を纏った少女に姿を変えた。
「じゃーん!!」
「おお、マジかよ! 人間になった!」
まさか人に化けられるとは思ってなかったのだろう。流石の小林の兄貴もこれには驚いた。
「私の名前はトール! 今日から小林さんのメイドとして働く事になりました! 宜しくお願いします!」
「あ?」
「ん?」
トールと名乗るドラゴンの予想外の発言に、暫しの間時間が止まった。
兄貴はトールを家に入れると、彼女から説明を受けた。
「俺、お前にそんな事言ったっけぇ?」
「い、言いましたよ! 本当です……! 小林さんに『行く当てが無いなら俺んちで暮らして良い』って! お願いですからナイフしまって下さい!」
どうやら兄貴は、トールに『自分の家で暮らして良い』と言ったらしい。取り敢えずナイフを突き付けてみたが、あまりの必死さから嘘を吐いている様子は無さそうだった。まぁ、兄貴の殺気に当てられただけかもしれないが。
「あ、思い出した。お前、あの時の女か」
その時、兄貴の脳裏に昨日の出来事が浮かぶ。
何時ものようにシマで好き勝手やってた半グレどもを始末した兄貴は、コンビニで酒や飯を購入したから帰路に就いた。その途中で。
『うぅ……助けて』
闇の中から女の声を聞いた兄貴は、道から外れて茂みの中を進んだ。するとその先では、
『何だぁ、このでっけえ尻尾はよぉ!』
『あぐっ……! う……あ……』
『すげぇ、こんだけナイフ刺しても死なねーぞコイツ!?』
『ぎゃはは!! アンジャナフみてーじゃん!』
酒に酔った半グレどもが3人、人間形態のトールを傷付けて楽しんでいたのだ。彼女は地面に倒れ、身長の半分近くはある尻尾に何本もナイフを突き立てられていた。
奴らの肩を見ると、共通のワッペンが付いているのが分かる。最近、ウチのシマでヤクを捌いている半グレ集団『
『――おい。お前等、俺らのシマで勝手にヤクさばいてるガキどもじゃねえか。ってか女を虐めて楽しい? このカスども』
『え、なんじゃお前グアッ!!?』
『テメエ等はナイフの使い方を間違えてまーす! グリングリーン!! これが正しい使い方でーす♪』
『ぎゃああああああ!!!』
泥酔状態の下衆3人程度じゃ勝負にもならない。全員兄貴によって等しく地獄送りだ。
『丁度お前等を全員ブチ殺そうと思ってたんだわ。お前らのヤサ、吐いて貰うぞ?』
『うぅ……』
兄貴は呼び出した味方の人員に生き残った半グレを連行させると同時に、トールへ手当てを施す。元傭兵の兄貴は戦場で大怪我した自分や味方の治療もしたことがある為、その腕前は本職の医師に匹敵する。
『ありがとう……ございます。助かりました』
ある程度痛みから解放されたトールは、兄貴に頭を下げた。
『お前、背中にデッケェ傷があったけどよ、あのカスどもが付けた訳じゃねぇよな? 何があったんだ?』
『………』
『まぁ良いけどよ。――食うか?』
兄貴は持っていた食糧と飲み物を差し出した。
『美味しい!! 美味しいです!』
『すげえなお前! 怪我が酷いのに酒ガブガブ飲んでやがる』
そこから何故か兄貴とトールの飲み会が始まった。月明かりの下で行われた2人だけの宴会は、先程までの血生臭いトラブルなど初めから無かったかのように盛り上がった。
『ところでお前、家は何処? 夜道は危険だしさ、送ってくよ』
ある程度時間が経ち、そろそろお開きにしようかと思った兄貴が尋ねると、トールは悲しそうに俯き、
『……私、行く当てがありません』
『え、マジで? 親とかは?』
『……いません。何をすれば良いかも分からなくて……』
それを見た小林の兄貴は何を思ったのか、それとも酒が回っていたせいなのか、
『じゃあ、俺んち来る?』
そう、トールに提案したのだ。
『い、良いんですか?』
『何かお前、ほっとけねぇ気がしたから』
『でも小林さん……彼女さんがいらっしゃるんですよね? 迷惑なんじゃ?』
『皆実はこんな事で怒ったりしねぇよ。……寧ろお前みたいな奴を見捨てた方がアイツは怒る』
小林の兄貴が珍しく冷や汗を流す。あの兄貴が恐れるとは、どれ程怖い人なんだ、兄貴の彼女は?
『あ、ありがとうございます、小林さん!! あ、でもタダでお世話になるのは悪いですし、何かした方が良いですよね?』
『ん? だったら家事とかやって貰おうか。メイドって奴だな』
『めいど……成程、分かりました! これからお世話になります、小林さん!』
そう言って、トールはこの日一番の笑顔を兄貴に向けるのだった。
とはいえ所詮は酔った勢いで交わした口約束。通常ならやんわりとお断りするところだ。
「言っちまったもんは仕方ねぇな。じゃあ宜しく頼むわ、トール」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします、小林さん!」
だがそこは常人とは異なる小林の兄貴。あっさりと受け入れてしまった。
「ン、もうこんな時間じゃん」
ふと時計を見ると、かなりの時間が過ぎていたようだ。一般の会社で言えば十二部に遅刻扱いになる時刻を指していた。
(あ、そういやドラゴンなんだよなコイツ? もしかして――)
そろそろ事務所へ向かおうとしていた兄貴はふとある事を思い付いた。
「トール、お前、飛べる?」
「はいっ、勿論です!」
早速兄貴の役に立てる事をトールは喜んだ。
「じゃあ○○時までに此処へ頼むわ。――1秒でも遅れたら削るカンナぁ?」
「はいっっっ!!! 絶対に間に合わせますっっ!!」
カンナを頬に当てられて、すぐ顔が真っ青になったが。
そして、俺が何時もより遅い小林の兄貴が気になり、事務所の外で電話を掛け終えた時だった。
「ダメだな、繋がらない。一体どうしたんだよ、兄……貴……」
暴風と共に事務所前に降り立った巨大なドラゴン。己の矮小さを実感させられる程の圧倒的な存在感に、俺は何も出来ず立ち尽くすことしか出来なかった。
「着きましたよ、小林さん!」
「おぉ、時間ピッタシじゃん! やるじゃねぇかトール!」
「はいっ、削られたくないので!!」
非現実的な光景だが、その中に兄貴が居る事に気付いた俺は困惑した。
「こ、小林の兄貴!?」
「おう華太ぉ! コイツ、今日からウチで世話になるドラゴンだから、家事のやり方を教えてやれ。――断ったら殺すから」
「トールです! 特技は最終戦争を起こす事です! 宜しくお願いしまーす!」
「えええええええええっ!!?」
その後はちょっとした騒ぎになったが、トールは小林の兄貴限定の弁当配達人として、ウチの事務所に迎え入れられた。