これは、東雲家で起きた話だった。
父は仕事、母は用事、
姉は学校の為、今は彰人一人だけだった。
小岩井よつばを東雲彰人が、からかった。
「はらへった。なんか作って」
今抱えている気持ちを、あくびにも出さず、
今までと変わらぬ口調でよつばに話しかける。
「しょーがないなー」
よつばはやけに嬉しそうに言いながら、キッチンへと向かう。
その姿を他の誰かが愛しい目で見るかと思うと、
今まで感じたことの無い嫉妬を覚える。
「ぷっ!」
「なんだ?!よつばのエプロン姿がそんなにおかしいか?!」
ふと顔を上げると、憮然とした表情を浮かべてこちらを見ている、
よつばがいた。
「わりぃ。そんなんじゃねーよ」
出来るだけ、いつもと変わらない口調で答える。
「全く、彰人は」
ぷんぷん、という稚拙な擬音が似合うような、
その表情をいつまでも見ていられたいいのに。そんな事を考えていた。
「で、何食う?」
「うーん…なんでもいいや」
「だと思った!」
「じゃあなんできいたんだよ?」
「さぁ?」
なんだそりゃ。俺の言葉を聞く前に、
よつばは再びキッチンへ消えた。
30分後
「おきろ!彰人!」
「ん…どの位寝てた?」
「30分位」
「そうか」
もっと長いこと寝てしまったのではないか。
一瞬だけ戸惑ったが、夢のような考えから覚めるのには十分な時間だったと、
直ぐに理解して、あくびをしながら身を起こし、
リビングのテーブルに並べられている食事を見た。
「…チーズケーキ?これおまえ作ったの?」
「よーやく人前に出せるレベルになった」
よつばは腕を組んでいるくせに少し照れながら、
「まだ、誰も食ったことないんだぞ?」
「チーズケーキって…30分で作れるもんなのか?」
「…一から説明しないと駄目か?」
素直な疑問をぶつけただけなのに、
よつばは、心底呆れたという表情をこちらに向ける。
「全く、彰人は…本当全くだ」
「…悪かったな」
そこまで言うことないだろうに。
「光栄か?」
「あぁ…光栄です、光栄ですとも!」
その答えに満足した、
よつばはテーブルの前に正座をして、はやく座れと促した。
「いただきます」
「いただきますっ!」
テーブルに向かい合って座るその光景が、
ただの「男子高校生」と「女子高生」なのか、
それ以外の何なのかは分からないけど、
きっとこういう機会もこの先少なくなり、
それに合わせて感傷も思い出へと変わるのだろう。
そして、この関係を俺の感情のせいで壊してしまうのは、
恐ろしく勿体無い。今まで以上にこの関係と環境を大事にして、
これまでと変わらず接していればいい。
それでいい。そう結論付けた、彰人だった。