超常存在に「愛してやる」と言われて素直に「嫌だ」と言ったら更に愛された、解せぬ。   作:ていん

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十一

 天騎は嫌いだ。

 そりゃそうだ、故郷の仇なうえに、目の前で散々クソムーブを見せつけてくる超常存在。上から目線で他人事、俺たち人間を玩具か何かとしか思っていない。

 

 人類の輝きがみたいっていうのも、結局の所輝きそのものを愛しているだけで、人類を愛しているわけではないとも言える。同時にあいつらの庇護下でなければ人類が生存できないという事実にも嫌気がさす。

 だからこそ俺は人類の力だけで悪鬼を討伐したかったのだし、そのための武器として太陽結晶を求めた。

 

 そしてそれは太陽結晶は単なる道具であるという前提の話であり、その正体がニュウであったことで破綻した。

 ニュウが天騎であったこと、ニュウが生きている存在であったこと。俺はニュウの存在を無視できなかった。少なくとも、ニュウを道具として扱うことは絶対に不可能だ。

 

 それでは、俺が俺の知る天騎と同じになってしまう。

 

 そして、だからこそ太陽結晶の正体が天騎であったということが大きな事実として伸し掛かる。たとえそれが、天騎と思えないようなほどに善良な、ニュウという少女であったとしてもだ。

 ハッキリいって、天騎は仇だ。

 結果的に俺の故郷を滅ぼした天騎イオタがそうであったように、天騎は多くの人々を殺してきた。自分の手を汚していないというのが最悪だ。生きたいと思う人も、生きるのを諦めてしまった人も、等しく天騎によって殺される。

 

 故郷で、俺はこの世界で生きるということを学んだ。理不尽極まりない世界を、それでも生きていたいと思うようになった。それを奪われて、本当にその存在の力を借りたいと俺は思うのか?

 普通に考えたら、どこかで心にしこりが残る。ニュウがどれだけ俺を信頼してくれたとしても、俺はどこかでそれを疑ってしまう。当たり前だ、人間とはそういう生き物なのだから。

 

 そんな状態で天騎の力を、ニュウの力を使うのか?

 それで本当に、悪鬼を討伐することができるのか?

 ただの思い上がりで終わってしまうのではないか?

 

 とはいえ、俺の答えはすでに決まっていた。天騎のことも、悪鬼のことも、太陽結晶のことも、ニュウのことも。すべてがすべて、俺の中で結論は出ていたんだ。

 結局俺は悪鬼を討伐したいのか。天騎の力を借りてでも、天騎に屈してでも滅ぼしたいのか。

 

 ニュウを利用してでも、そうしたいのか。

 

 答えは最初から、当たり前のように決まりきっていた。

 

 

 +++

 

 

 聖獣クロンの腕から、漆黒の弾丸が放たれる。それらは猛スピードで俺に迫り、ギリギリのところで躱しても次が即座に降ってくる。

 その漆黒の正体はクロ“自身”だ。

 

 クロには变化能力がある。自身を好きな状態に変化させるのだ。その質量に際限はなく、やろうと思えばクロは前世における“怪獣”もかくやという巨体にまで変化することができた。

 それを利用して、自身の一部を弾丸のように変化させて射出するのだ。

 

 威力は何より申し分ないが、これの怖ろしいところは連射性だ。とにかく凄い数の弾丸が降ってくるものだから、回避以外にやりようがない。

 

「どうしタ! その手に握った剣は使わないのカ!? 宝の持ち腐れだゾ!」

「別にいいだろ、そんなこと!」

「それとモ、加減しようとしているのカ!? だったらやめておケ、クロはお前が本気を出さなければ容易にお前を殺すゾ!」

 

 別に、加減をしているわけではない。

 ただそもそもクロに接近できていない状況で、光の剣を抜いたところで意味はない。

 俺の弱点は兎にも角にも射程がないことだ。接近しなければ始まらないのに、接近できないのでは何の解決にもならない。

 

「だいたい、お前ニュウになんて言ったんだ。その様子じゃ、どうせろくでもないこと吹き込んだんだろ!」

「荒療治ダ。こいつは世界を知らなすぎル。何よりお前を知らなすぎル!」

「いいかげんにしろよ!? それでニュウを悲しませて、お前が嫌われるだけじゃないか!」

「だからどうしタ!!」

 

 弾丸の勢いが増した。俺は慌てて木々の間を駆け抜けて、なんとかクロの射線を遮ろうとする。

 ――クロの一撃は、ある程度の加減が見られた。具体的に言えば、こちらが本気で回避し続ければ、回避できる程度の加減。逆に少しでも気を抜けば死ぬというくらいの加減だ。

 ガチの試練を押し付けてくるタイプの天騎かよ。天騎ベータも天騎アルファもここまで直接的にそういうことはしねぇぞ!

 

「何度目だって言ってるんだよ! 前にもそうやってお前が嫌われることで集落の諍いを丸く収めたじゃないか! そういうことばかりしてるから、そういう方法でしか誰かを救えなくなる!」

「あいにク、クロは最初からこれしか知らなイ!」

 

 クロの視界からなんとか外れつつ、少しでも接近するべく前に進む。当然弾幕の密度は濃くなるが、知ったことか。

 

「読めてるんだヨ、レイト!」

 

 しかし、クロはそれを簡単に対応した。

 鋭く直線的に伸びる弾幕の中から、ぐにゃりと畝るように飛び出す黒い塊が一つ。見れば片腕を変化させたクロが俺をその腕で捉えようと伸ばしてくるのだ。

 弾丸として射出されたわけではない分、自由に動かせるそれは、的確に俺を狙ってくる。

 

「クソ、やっぱりそうくるかよ!」

 

 俺は慌てて手近な木を蹴って上に上がる。とにかく上だ、やせ細った木にはろくな葉っぱもついてやしないが、身を隠すには十分な程度にはある。

 クロは自由に自分を変化させる分、とにかく対応力が高い。近距離も遠距離も軽くこなせるオールラウンダー。俺みたいなブレードオンリーのピーキースタイルでは対処することすら難しい攻撃を湯水の如くぶっ放してくる。

 幸いなのは、変化以外に特殊な能力は存在しないということか。

 

「クロのことばかり気にしている場合カ!? お前の目的だった太陽結晶は見ての通り天騎だっタ!」

「そうだな、俺の思ってる以上に、太陽結晶ってのは太陽みたいなやつだったよ!」

 

 俺たちの戦いをクロのすぐ後ろで見届けているニュウ。その表情は不安に満ちていた。よっぽど直接的に今の現状をクロから指摘されたのだろう。

 クロンは孤独だ。一人であるということをあまりにも長く体験し続けてきた。だから、自分が嫌われれば解決する問題は、とことんそれで解決しようとしがちである。

 今回も、俺のいいところを見せるという目的さえ達成すれば、ニュウからどれだけ自分が嫌われたって構わないのだ。

 

「けどな、そんな太陽みたいなヤツに曇り顔をさせてる現状を、見過ごせるわけないだろ!」

「だったら答えを出セ。こんな風に手をこまねいてないデ、クロを倒してみせろヨ!」

「言われなくとも……!」

 

 俺は木の上を駆けながら、クロに接近するべく考えを巡らせる。

 遠距離も近距離も、自身の変化だけで対応できるクロにとって、俺のようなどちらかに偏ったやつはいいカモだろう。対処のための手段は限られている。

 

 しかし、完全に存在しないというわけではなかった。

 

 

 +++

 

 

 ――クロンは当然のことながら、すでに太陽結晶を手に入れたレイトの戦い方もスペックも把握している。レーアが無双していたあの戦場を、クロも観察していたのだ。

 無論、万が一のことがあれば介入する可能性もあったが、レーアが空からやってきた時点で其の可能性はなくなった。

 

 索敵も完璧、レーアに滅ぼせない魔障の大群は存在しない。とくれば、クロが出張る理由もない。

 

 その上で、レイトの特性は主に二つ。

 レーアや自分ともある程度は渡り合える身体スペックと、魔障相手にあまりにもあっさりと切り伏せることのできる火力の光剣。当然、厄介なのは後者といえた。

 とはいえレイトはそれを使いたがらない。光の剣を生み出すと手が焼かれてやけどのようになるらしい。とんでもない欠陥品だ。最悪、本人の命すら危ういのではないかというほどに。

 

 少なくとも、目の前で赤く腫れたレイトの手を見たクロは、あまりあの剣が好きになれそうになかった。

 

(だったラ、そもそも使わせないように立ち回るだけのこト)

 

 遠距離攻撃を主体とするのは、レイトの攻撃手段がそれしかないということもそうだが、遠ければ遠いほど、レイトは抜刀をためらうだろうということでもある。

 特にナイフから手を離せば光剣が消えるという性質上、ナイフを投げて剣をこちらに届かせる手段は使えない。何よりあのナイフはレイトにとってとても大事なものだから、投げて使うということはこれまでもしたことはなかったはずだ。

 

 そのうえで、レイトは上を取るという選択肢を取った。しかしそれは失敗だ。なにせ、上にはクロ“トラップ”が待ち構えている。

 クロが動かずにレイトを攻撃しているのにも、当然ながら意味がある。

 レイトが来るよりも先に、クロはトラップを仕掛けた地面と、上空に。

 地面は言うまでもなく単純な落とし穴である。そして上空は――これまたドンピシャに、レイトへ突き刺さるトラップだった。

 

 すなわち――木への擬態。

 

 今、レイトは自身の死地へ向けて特攻している。このまま進めば、レイトは致命的なタイミングでさらなる変化を果たした木々によって詰む。

 もしもそれで死んでしまうなら――いくらなんでもレイトには失望であるのだが。

 

(さテ、どうすル!?)

 

 やがてレイトは、クロの弾丸と伸びる魔の手をやり過ごしつつ、クロが待ち構えるトラップの中へと――足を踏み入れた。

 そして、

 

「かかったナ!」

 

 クロが、レイトが足を踏み入れた木に手を当てて、その木を一瞬で圧縮する。

 このまま行けば、レイトはあっという間に潰されるだろう。頼みの綱は光の剣。だが、ただの剣では木に穴を開けるのが精一杯だ。

 

 故に――

 

 

 クロは、思いもしなかった。レイトを覆ったクロの一部が、一瞬にして消し飛ぶことなど。

 

 

「ハ――」

 

 困惑。レイトの手には太陽の剣、光を放つそれが、おそらくクロの一部を消し飛ばしたのだろう。だが、どうやって? ――決まっている。触れただけで消し飛んだのだ。

 

「お――」

 

 勢いそのままに、レイトがクロへと墜ちてくる。一瞬の遅れが、致命的な隙を生んだ――! 慌てて放った弾丸は、まるで最初から存在しなかったかのごとく、レイトの剣に消し飛ばされていく。

 この距離では、対応が間に合わない。

 そもそもあれほど簡単にこちらの攻撃を消し飛ばしてくる剣に、簡単に対処できるはずはない。ある程度余裕があれば対応するための手を打ったが――

 

(レイトのヤツ、クロに剣の威力を意識させないためニ、わざと剣を使わなかったナ――!?)

 

「ぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 クロは、慌てて両腕をクロスさせる。無意味とわかっていても、それでも何もしないまま倒れるわけには行かない。

 

「応えてやるよ、クロ!」

「……ッ!」

「天騎の力で悪鬼を討つ。それが俺のこれまでの言動と一致しない。本当にそれでいいのか? そんなの、最初から決まってる」

 

 レイトは、そのまま剣を握らない方の手で拳を握りしめ、

 

 

「知ったことかあ!」

 

 

 それを、クロに叩きつけだ。

 防御されているため、それだけではクロは倒れない。剣を使わなかったのはレイトの甘さだろうか、――いや、違う。レイトはこの状態でもクロを倒したと言えるように行動しているのだ!

 

 落下の勢いと、大幅に向上したレイトの身体能力。それらが合わさって、クロの身体は大きく倒れ込む。

 そう、クロ自身が用意した、レイトをはめるための落とし穴へ――足りない威力は、その落下で稼ぐのだ。

 

 結果、ごろごろとレイトとクロは転がって――勝敗は決着した。

 

 

 +++

 

 

 ニュウの眼の前で起きた戦闘。

 それらはニュウにいくつかの変化を与えたが、何より大きかったのはレイトの言葉だった。

 

「確かに天騎の力は使う。それは俺の言動と矛盾してるが。――それで力を使うことを躊躇うのはバカのスルことだ。使えるものは使え、この世界なら当然だろ」

 

 “知ったことか”。

 それがレイトの答えだった。

 ふざけてるのかと思わなくもない。それじゃあ何の意味もないだろうと思わなくもない。でも、レイトは本気だ。たとえ自分を曲げたとしても、曲げたという事実から逃げないことで、結果として芯を通す。

 ああ、それは確かに。

 これまで見てきた、歩みを止めないレイトの姿そのものだった。

 

「んで、満足したか」

「あァ……満足しタ」

 

 そんなニュウの前で、レイトは自身が叩き落としたクロを引き上げている。その顔は、言葉とは裏腹に気まずそうにこちらへ視線を向けている。

 

「あ、えっと……」

 

 ニュウはなんとも言えない気分だった。――怖かった、先程のクロの言葉で感じたのは、その一言に付きる。クロはニュウを恐怖させて、追い詰めた。そのことで、今もニュウの中ではなんとなくクロに対する苦手意識がある。

 だが、先程の戦闘の中でニュウはクロの真意をレイトの口から聞かされた。

 

 単純な心境の変化だと自分でも思うが、それを聞かされるとニュウはクロを悪く思えなくなる。何より、別に自分に危害を加えたり大切なものを奪ったわけではないのだ。

 

「……すまなかっタ」

「いや、いいよ」

 

 だから、そうしてなんとも言えない申し訳無さ気な表情で言われたクロの言葉を、すんなりとニュウは受け止めるのだった。

 

「レイトも、ありがとな? ……アタシに、あんな」

「いいんだよ。ニュウのためだけじゃない。自分の中で、悪鬼を倒すってことをもう一度見直すのは必要なことだった……原因は、少しどうかと思うけどな」

 

 そうやって、鋭い視線をクロへ向けるレイト。流石にクロも申し訳無さ気な態度でいる。それを見ていると、ニュウはなんだかおかしくなってしまった。

 

「ウ……何だヨ」

「いや、おかげさまで、アタシ初めて怖いって感情を理解できたよ」

 

 思い返せば、ニュウは恐怖なんてもの、体験したことも考えたこともなかった。この世界にやってきて、憧れだけでレイトに近づいた時も。天騎と聖女の関係、人間のあり方に悩んだときも。

 怖いことは何もなかったんだ。

 だからこそ――

 

「うん、おかげで少しだけ勇気が出た。レイトみたいに頑張るって凄い難しいけどさ」

「あんなのが複数いてたまるカ」

「ああ?」

 

 また、笑う。

 

 ああ、この世界は凄い。レイトは凄い。知らないことがいっぱいあって、楽しいことも山程ある。これから自分はどんなことを知るのだろう。レイトとどんな場所に行くのだろう。

 レイトとなら、どんなことだってできる気がした。

 

 だから、これからもずっと、自分はレイトと一緒にいたい。そうだ、だから――

 

 

「アタシ、レイトに会えてよかった」

 

 

 そう、呟いて。

 

 

 ――――――――天騎ニュウは、その場から消失した。

 

 

 +++

 

 

「は――?」

 

 思わず思考が停止する。

 まるで今生の別れのような言葉の後に、ニュウは消えてしまった。なんの前兆も予兆もなく。ましてや、消える素振りすらなかった。確かにあいつの言葉はなにかの冗談みたいに別れの挨拶だったが。

 それでも、本人にそんなつもりは一切なかったはずだ。

 

「おい、どうなって――」

 

 俺がクロに視線を向けたときだった。

 クロの表情が、大きな驚愕に染まっているのを俺は見た。

 それは、

 

 

『天騎ニュウというのは幸せな天騎ですね』

 

 

 低い、底冷えする男の声に繋がっていた。

 

「なん、だ?」

『ははは、驚かないでいただきたい。別に天騎ニュウは死んだわけではないですよ。私が奪っただけです』

「うば……った」

『そうです。今、天騎ニュウは私の手元にある』

 

 男が何者なのか。

 なぜ、急に現れたのか。

 一体どういう絡繰でニュウを消してしまったのか。

 

 すべてが分かるわけではない。

 しかしそれでも、理解は出来た。想像はできた。推定はできた。

 

『では、名乗りましょうか』

 

 声の主。

 最上級の魔障であるクロが、恐怖にもにた驚愕を示す相手。そんなの、一つしかいないに決まってる。

 

 

『私は“ズィーベン”。悪鬼ズィーベン。お前達の――敵です』

 

 

 ――ついに、俺達が倒すべき敵。

 世界の厄災、悪鬼が、姿を表した。




いよいよ本格的に悪鬼が登場です。
話も最初の山場、お楽しみに。
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