超常存在に「愛してやる」と言われて素直に「嫌だ」と言ったら更に愛された、解せぬ。 作:ていん
大聖堂を後にして、自室へ向かう。
一日の猶予と言っても、やることと言ったら資料を漁るとかそのくらい。今日はニュウを部屋に隠しているし、変に外で何かをしていると、ニュウが我慢しきれずに外へ出るかもしれない。
現状やっていることはベータと同じなのだ、ある程度の要望は聞くのが筋というもの。
俺たちの関係は協力者だ。
お互いに、ニュウは世界を見て回ること、俺は悪鬼を討伐することで、目的がぶつからないために対等な立場で協力することになった。
だから、別にどちらが上ということもなく、向こうが勝手に押しかけてくるようなよくあるラノベみたいな感じではないのだ。
とはいえ、それでも好きに教団を歩き回るようになるには根回しが足りないので、今日と明日は部屋でゆっくりしてもらうことになる。
明後日の任務に同行して、少しずつ顔を周囲に覚えていってもらうのだ。
天騎ベータの動向が気になるが、今の所あれ以上向こうが踏み込んでこないのなら、こちらから言うことはない。向こうがニュウのことを把握していないというのは希望的観測がすぎるため、逆にバレている前提で好きに動き回ることができるだろう、という程度。
どちらかというと俺がバレたくないのは、別にいる。
というのは――
「お兄様、無事帰られたのですねぇ」
考え事をしながら部屋に向かっていると、声をかけられた。
よくよく見知った声だ。ベータのように一度だけ聞いた声、というわけでもない。本当に何度も聞き慣れた声。俺にとって最も身近で――そしてだからこそ遠い存在。
聖女の制服とでも言うべき、シスター服をまとった俺より少し背丈の小さい小柄な少女がそこにいた。この世界の人間は栄養の殆どを日結晶で補っているためか、細身な人間が多いが、彼女もまた細身。
しかし、一部は非常に育っており、兄としては眼のやり場に困る……というほどではないけれど、とにかく圧巻の一言。
そう、兄。彼女こそが俺が何度か話題に出してきた妹――
「……ただいま、レーア」
「おかえりなさいませ、レイトお兄様」
レーア、俺の現在唯一の肉親であった。
ほんわかな笑みを浮かべて、少女は優雅に礼をする。その衣装も合わさって非常に美しいふるまいだ。そう、彼女は見ての通り――
「もうしわけありません。聖女としての任がなければ、お兄様に同行したのですが……」
聖女だ。
天騎への愛によって覚醒し、人々を守る存在。俺たちの故郷が滅ぼされた後、二人で隣の集落を目指していた俺たちは魔障に見つかり、襲われた。そこでレーアが覚醒。
以来、レーアは教団の聖女として力を振るっている。
それなら、目覚めた事も合わせて本人の生き方だ。俺も悪いとは思わないのだが――
「いや、いいよ。あれくらいなら俺一人でも何とかなる」
「――いけませんわ。お兄様に何かあったら私、耐えられません」
そう言って、カツン、と音の響く教団の通路に足音を響かせて、こちらに近づいてくる。その瞳はどこか潤んでおり、心配そうに俺を見上げながら――俺に抱きついてきた。
「よせ、ここには人の目がある」
「今は誰もおりません。……報告を聞きました。お兄様、魔障と戦ったのですね」
ぎゅう、と力を込める。
ああ、またこうなってしまった。
「いけません、お兄様は人の身、魔障と戦えるようにはできていないのです。私にすべてを任せてください、必ずや、お兄様の願いを私が叶えて見せます」
――レーアは過保護だ。
故郷が滅んで、二人きりになってしまった俺たちは、教団に入ってからも基本的に二人で生きてきた。別々に任務をこなすことも多いが、教団にとって俺はレーアの兄であり、レーアは俺の存在を絶対に忘れない。
レーアがここまで俺に執着する理由もよく分かる。しかし、だからといって俺もレーアに迷惑はかけたくないのだ。
悪鬼の討伐なんて、無茶もいいところ。俺のようにそれが人生の目標になるような人間でないのなら、ニュウのようにそもそも悪鬼と戦える強さを有していないなら、関わるべきじゃないんだ。
「ところで――」
ふと、その時。
声のトーンが変わった、気がした。
「お兄様、また女の人と二人きりになりましたかぁ?」
ぞくり、となにかが警戒の鐘を鳴らし、俺は震える。
なんだろう、こうしてレーアが他人のことを気にする時、毎度寒気がするのだ。
「クロ様の件もそうですが、お兄様は時折無茶をすると、女の人が隣にいるときがありますよねぇ」
「……だ、だったら何だよ?」
ぎゅうう、と手に込められる力が強くなる。
まずい、逃げられない……というか、レーアが怖い。
「いえ、いえ、いいのですよ? 私はお兄様の妹ですもの。お兄様の女性関係に文句などありません」
時折、レーアがいわゆるヤンデレというやつに思えてならなくなる。
でもそれはありえないはずだ。故郷にいた頃――とはあまりにも環境が違いすぎて、一概には言えないが――レーアは普通の妹だった。
それに何より、最も大きいのは――
「ですがもし、何か困ったことが在りましたら。私に教えて下さいねぇ?」
レーアは、俺から手を離して数歩下がる。
深く、深く笑みを浮かべて、三日月のように浮かんだ笑みは、あまりにも妖艶で。
「私はお兄様の妹で、聖女なんですから」
レーアは聖女だ。
聖女とは、天騎に対する愛に狂った狂信者。レーアもそれは例外ではない。先程の聖女との会話を顧みれば分かる。聖女というのは普通ではないのだ。
普通ではなくなってしまうことで力に目覚めたのだ。
とすれば、今のレーアはヤンデレというよりも、
聖女となってしまったがゆえに狂った、という方が、正しいはずなのだから。
レーアがその場から離れていく。
俺はそのことに、どこか胸をなでおろしてしまっていた。
どうしても、申し訳なくなってしまう。
レーアは俺のような転生者ではなく、普通にこの世界で生まれてきた人間だ。この世界の普通が何か、と言われたら俺も困ってしまうが、だとしても。
ああやって聖女として生きなくては行けなくなったのは、俺がレーアを守れなかったからだとしたら。
俺は、なんて言葉を、レーアにかけてればいいのだろう。
+++
ガタゴトと、揺れによって目を覚ます。
随分と荒い運転だと思うが、これはこの世界の正常だ。今、俺たちは馬車に乗って食料などを集落へ届けるために移動している。
聖女がその神力――聖女は体内の日結晶を活性化させ特殊な術を使う。その術のエネルギー源として活性している日結晶をこう呼ぶ――で運転する自動運転の日結晶をあしらった木造の馬車。その後ろには大量の食料がつめこまれている。天騎が生み出したものということもあって、これらの食料はどんな商品でも保存が効く。というよりも腐らないのだ。
この辺りは一人で任務に挑む時、小腹が空くと便利だ。
ともあれ、現在俺たちは馬車の中にいる。ファンタジー作品の馬車そのものというべき馬車の内部で、向かいには一人の聖女が座っていた。
金髪の、細身な少女だ。彼女と顔を合わせるのはこれが二度目だが、聖女としてはなりたての新米であることを俺は知っている。表情は能面のようにキリっとしており、聖女特有の生真面目さが伺える。
今も俺が居眠りをしてしまっている状態で、微動だにせずこちらを眺めていた。
魔障の襲撃は警戒しなくても問題ない、もし近くに魔障が寄ってくれば警報が教えてくれる。この辺りも、天騎の恵みによって与えられたものらしい。
「おはようございます、信徒レイト」
「おはよう、聖女さん」
聖女さんの名前はソラさん。かつて、とある魔障討伐で一緒に戦ったことのある、顔見知りの聖女さんだ。とはいえ、一度顔を合わせた程度なので、向こうはこちらのことを覚えてはいないだろうけれど。
その上で、残念ながらソラさんは名乗ってくれなかった。基本的に天騎の一部であるという認識の聖女は、あまり名前を名乗らない。レーア辺りは普通に名乗っているそうだが、そういうのはだいたい少数派だ。
レーアは単純に、初対面の人には必ず名前を名乗りなさいと躾けられてきたから、その習慣ではないかと俺は思う。
「到着はまもなくです、現在魔障の襲撃もなく、輸送に問題はないかと」
「ありがとう。自動運転なのだから、聖女さんも休んでくれればよかったのに」
「必要ありません」
バッサリと切り捨てられてしまった。
いや、実際睡眠はあまり必要ないのはこの世界の常識なんだから、わざわざ睡眠を取る俺のほうがレアケースなのだけど。
といっても、俺の横では更にレアなケースが寝付いているわけだが……
「ところで、信徒レイト、そちらの方は?」
「ああ――こいつか」
ぐうすかぴい。
そんな寝言が似合う少女が、そこにいた。
ニュウである。ただし、背中に純白の翼は無く、ミニスカートに短パンという、色気があるのだかないのだかわからない衣服を身にまとっている。
翼に関しては別に生えているわけではなく、力を使う時に展開するエネルギータンクのようなものらしい。服装は自分で生み出していた。この辺りは天騎サマサマである。
そして、力を抑えるということは、こうして目の前に天騎の使徒たる聖女がいても、ニュウが天騎であるとさとられないということでもあった。今のニュウは普通の少女にしか見えないだろう。
「ニュウ。少し前に任務先で見つけて、俺が保護してるんだ。今回は輸送任務で危険も少ないし、連れてきている」
「なるほど……流石です、信徒レイト」
「褒められるほどかな……?」
そりゃあ、困っている人間を助けることは素晴らしいことだ。
教団は狂信的ではあるものの、その分潔白で善行が好まれる。だから、こういった行為は自然なことであるし、だからこそ俺はニュウをこうして外に連れ出したわけなのだけど。
「勇気ある行動です、いずれ天騎様に殉ずる際の誉れとなるかと」
「まぁ、だよな」
俺が苦笑すると、ソラは首を傾げた。
まぁどれだけ善行が奨励されようと、最終的には皆仲良く死ねって組織であることに変わりはない。俺の反応が理解できないのは、決してこの聖女さんが悪いわけではないのだ。
「さすがは聖女レーア様のお兄様です」
「ははは……あいつの知名度はすごいな」
時たま、こうやってレーアの兄であることを褒められたりもするが。
というかあいつは、現行聖女の中でも最強と言われるくらい強いのだ。おそらく、俺が先日太陽結晶で討伐した魔障くらいなら倒すことはできるだろう。
実際にその様子をみたことはないので、無傷で倒せるかは不明だが。
と、そうこうしているうちに、俺たちが目的地としている集落が見えてきた。
山の一角につくられたそれは、洞窟の中にある日結晶鉱脈を掘り起こすための集落だ。基本的に、教団に属さない集落はこうして日結晶鉱脈の周辺に作られる。
鉱脈から日結晶を掘り出して運用するのと、日結晶鉱脈によって魔障から身を守るのは実に合理的で、天騎が人類を守護して以来、これが普通の集落形態となっていた。
俺たちの故郷は日結晶で周囲を守ってはいるものの、鉱脈は存在しなかった。
何もない場所の開墾を目的としていたのだから、当然といえば当然なのだけど。ともあれそれはかなりの希少なケース。こちらが普通である。
「おい、ニュウ。そろそろ目的地だぞ、起きろ」
俺がそう言ってニュウに触れると、
「んにゃああああああああ!! な、なんだ!?」
すごい声を上げて、ニュウが飛び起きるのだった。
いや、そんなに驚かなくてもいいだろ……?
+++
それから、村の人間とのやりとりを聖女様に任せ、俺たちは荷物の運搬を行っていた。
持ってきた台車に詰めれるだけ食料等を詰め込んで、倉庫にそれを運んでいる。普段だったら二回往復しなければいけないのを、今日はニュウと二人で一往復なため、非常にスムーズだ。
まぁ、別に時間はいくらでもあるから、多少手間でも問題はないのだが。
「ここが人間の集落か、日結晶がキラキラしてるな!」
「ニュウが近くにいても、そんなに光らないな」
「今は力を抑えてるからなー、これくらいなら問題ないだろう!」
えへん、と胸を張るニュウに、そうだなと同意しつつ周囲を見る。
村の家屋は木々を組み合わせて作った簡易な木材ハウスのあちこちに、日結晶を散りばめた作りになっている。これは世界中、どこを見てもそう変わるものではない。
面白みのない、といえばそのとおりだろうが、初見であるニュウにとってはこれでも十分興味深い代物だろう。
「うーん、しかしなぁ」
「どうした?」
「人間に覇気が足りないぞ、弛んでるんじゃないか?」
周囲を行き交う人々を眺める。俺が教団の信徒であることを理解しているのか、人々は頭を下げて俺を見送る。むずかゆいが、普通の光景だ。
確かに覇気はないが、別にこの村が特別そうだというわけではなく。この世界はこれが普通というだけで。
「楽しみと言えるものが少ないからな。こうして食料をわたして、食事を楽しんでもらってはいるが、他に一日の楽しみってものはあまりない」
「おかしいぞ、人ってのはもっとこう、なにもないところにも楽しみを見出して前向きに生きる存在じゃないのか!?」
「どこのおとぎ話だよ……」
ニュウの物言いに一番近いのは、俺の故郷だろうか。
あそこは毎日開墾やら何やらで試行錯誤の連続、成功よりも失敗の方が多かった場所だ。逆にこの集落は、日結晶の鉱脈として安定しており、教団から近いこともあって魔障の襲撃もない。
日々に刺激が足りないといえば、そのとおりなのだろうけれども。
と、その時。
「レイトにいちゃーん!」
大人たちの姿が見えなくなったところで、声をかけられた。
倉庫の入り口、そこで四人の少年少女が手を振っているのだ。誰もが若く、年齢は一桁中頃。
この集落において、俺が唯一顔見知りといえる存在である。
「にいちゃん?」
「この村の子供達だ。前にここへ来た時に会ってな、話をしてたら懐かれたっぽい」
いいながらも手を振って近寄る。
子どもたちが駆け寄ってくるので、台車を止めてそれを受け止めた。おおう、また大きくなったから結構重量感が。
「兄ちゃんまた来てくれた! この前教えてくれたの、楽しかったよ!」
「また新しい遊び教えて!」
「わかったわかった。恵みを倉庫に入れるのを手伝ってくれたらな」
恵み、すなわち天騎から与えられた食料。
それを倉庫にしまおうって事になったのだが、隣からむすっとした空気が伝わってくる。
「……アタシは手伝いなんていらないぞ」
「いや、これは……」
手伝いってのは建前で、子供が何かを求めてきたときはお手伝いの報酬として渡すのが効果的という個人的な経験則に基づいて、一種の課題として設定しているだけなのだが……
まぁ、ニュウにそういった情緒を理解してもらうのは、流石に無茶というものだった。
――そして、倉庫への運び込みが終わって。
俺は子どもたちの前でジャグリングを披露していた。身体能力が上がったからか、バランス感覚がよくなったのか、前世ではできなかった三個以上のお手玉がうまくできるようになった。
ちなみに使っているのは、前に分かれる際に宿題として作ってもらった綿を詰めた布だ。少年少女総勢四名、全員に一個ずつ作られて4つでジャグリングする計画は完璧である。
それはそれとして。
「――すっげえええええ! レイトすごいな!」
一番興奮しているのはニュウだった。うん、まぁそうでしょうね。
なおやらせてみたら、身体スペックからか一発で成功した。
「大人たちには内緒だぞ」
そういって布を子どもたちに手渡すことで今回のレクリエーションはおしまい、といったところで子どもたちは礼を言って去っていった。
ちなみに、別に内緒にする必要はないが、そうした方が子どもたちが喜ぶのでそう言っている。
この辺りも経験則である。
「大人は覇気がなかったけど、子供はそうじゃなかったな」
「まぁ、あいつらはまだまだこの世界の状況とか知らないしな」
俺が遊びを教えているからだ、というのも無くはないだろうが、自惚れであるとも思うので口にはしない。
そもそも自己満足でやっていることなのだから、わざわざ気にする必要もないだろう。
「何か手慣れてたな、レイト」
「そりゃまぁ、小さい頃からああいうことばっかりやってきたからね」
俺が子供とのふれあいに慣れているのは経験則だ。
故郷において、子どもたちの中で俺はリーダー格だった。楽しい遊びをいっぱい知っているということで、自然とそうなった。その頃の経験が生きている。
なんて、そう回想していると。
「――レーアがいたから、か?」
ふと、ニュウがそんなことを聞いてきた。
「レーアのことを知ってるのか」
「……まぁな、寝てるときも聞こえてきたし」
どうやら馬車の中での会話を聞かれていたらしい。着く直前にも名前が出ていたし、それ以外の会話でもレーアの名前はよく出てきていたはずだ。
眠っていても聞いた話が耳に入ってくる、天騎とは厄介な種族だな。
「なぁ、レーアってのはどんなやつなんだ?」
「どんなやつ……ね」
俺とニュウは、食料を運んできた台車に背を預けている。その状態でさらに背中を預けて、俺は宙を見上げた。
何も浮かばない曇天の空に、太陽の光が薄く俺たちを照らす。ああ、今日もいつもと変わらない、普通の空だ。
「そうだな、レーアは――」
俺はぽつりと、レーアとのことをニュウに対して語りだすのだった。
ヤンデレタグはこの妹のためにある。(他のヒロインが該当しないとはいっていない)
レーアもニュウもロリ巨乳ですが、方向性は結構違います。
ニュウは百五十台で、主人公もそのくらいの身長で、若干ニュウの方が大きく、胸のサイズはEくらい。ロリではありますが中学生くらいのイメージです。
逆にレーアは百四十台でサイズはG以上です。