そんな人々が紡ぐ、些細にして特異な日々。その中でも、特に賑やかな日常の一幕。──日常を取り戻す為べく紡がれる日々も、また一つの日常なのだ。
タグにある「ほんのりオリジナル要素」というのは、ファンタジア・リビルドには登場しなかった作品のキャラも示唆しているという事です。勿論、富士見ファンタジア文庫の作品なので、シモツキの心の中のファンタジア・リビルドではまだ旅が続き、多くの混成世界、多くの人物達と出会っているのだと思って下さると助かります。
崇宮真那。オリキュレールの艦長補佐である五河琴里と同じ世界出身の少女で、今は自分達と同じ、混成世界における調査・戦闘要員。
彼女の世界における魔法の様な科学技術、
けれどじゃあ、ゴツくて見るからに怖い女傑かと言えば…答えはNO。むしろ見た目で言うなら、多分理乃よりも年下の女の子で……そんな彼女と自分は今、とある混成世界の探索を行っている。
「漸く群れの中核がお出ましでいやがりますね。エンデさん、サポートをお任せしても良いですか?」
「任せて下さい。真那は前衛をお願いします…!」
混成世界において、戦闘は付きもの。今も自分達を外敵と認識したのか、執拗に攻撃してくるモンスターの群れと交戦中で…戦術権限装置搭載ユニット、通称
さっき、彼女と自分は…と表現したものの、何も自分達は二人だけじゃない。自分と真那の他にももう一人いて…真那と言葉を交わし、突進によって崩れた陣形を立て直そうとするモンスター達を後ろから叩いている少女こそが、そのもう一人の人物であるエンデ。一番初めから、自分と理乃が世界の崩壊に巻き込まれたあの日からずっと共に戦っている、正真正銘自分の相棒で…二人に自分を加えた三人が、今回の探索メンバー。
「はっ、確かに数は中々のものでいやがりますが……」
「ふっ、私と真那の連携を断ち切るには程遠いというものです」
素早く鋭い斬撃で斬り裂き、濃密な魔力の光芒で薙ぎ払い、真那はモンスターを蹴散らしながら群れの長へと迫っていく。ただ真っ直ぐ仕掛けるのではなく、軽快且つ迅速に動き回る事で群れ側の防御を撹乱し、それでも回り込もうとするモンスターは全てエンデが各個撃破で沈めていく。真那が激しく動く事で注意を引き付け、それによって生まれた隙を突く事により、エンデが飽和攻撃を的確に防ぐ。
違いが互いを信頼し、相手ならこう動く、だから自分はこうするという、無言の連携。それは群れ側の物量も、本能的な連携をも悠々と上回り…真那の瞳は、遂に群れの長を捉える。
「このまま一気に仕留めます…!」
「はい!連理、真那にギフトを!」
勿論。エンデの言葉にそう答え、自分は右手を真那に向ける。自分の中にある力、強化の力を真那へと送り…その瞬間、ちらりと真那はこっちを見る。あなたの力、受け取りましたと言うかのような笑みを浮かべて。
やらせるかとばかりに突っ込んできたモンスターをバレルロールで鮮やかに回避し、真那は群れの長へも肉薄。そして叩き込むのは、防御を無に帰す刃の連撃。
「穿てッ!フェンリルバイトッ!」
魔力を帯びた高速の斬撃を重ねられれば、それだけで大半のモンスターは一溜まりもない。けれど真那の猛攻はそれで止まらず、真正面に回り込むと同時に、左手の武装を展開する。顎門を模した武器を開き、肉薄し、正に餓狼の如く喰らい付かせる。
そして、接射。その武装の内側に備えられた魔力砲、ヴォルフファングを最大出力で叩き込み、零距離から魔力の奔流で以って貫く。真那の全力全開、ヴァナルガンドと呼ばれるCR-ユニットの性能を限界まで引き出した攻撃は、誰が見ても明らかな程の致命傷を与え…群れの長は、倒れ伏す。
「敵中枢の撃破に成功。残存戦力がまだ戦うようなら、全て叩きのめすまで…と、言いてーところですが……」
「その必要は、ないみたいですね」
軽やかな動きで後退し、エンデの隣に降り立った真那は、臨戦態勢を崩さない。モンスター達もまた、暫くは唸っており…けれど一体が逃げ出すと、そこから崩れたジェンガの様に四分五裂。あっという間に散っていき……戦闘は、終了した。
「戦闘終了、お疲れ様です」
「今回も、記憶喪失コンビの勝利ですね。…はっ、記憶喪失になる前も、真那とコンビを……」
「エンデさん、そのネタはもう何度も聞いてやがるのですが……ふぅ」
目をキラキラとさせ(ているから、多分半ば冗談として)、十八番の記憶喪失ネタを言うエンデと、それに半眼で返す真那。それから念の為周囲を見渡した後、自分はギフトを、真那とエンデは変身を解く。
どことなく妖精感のあった戦闘フォームから、エンデは学生服を思わせる姿に。真那は黒を基調としたパワードスーツ風のユニットから、パーカーとミニスカートの動き易そうな私服姿に。そして、自分は……変身なんかしていないので、そのまんま。とにかく戦闘終了で緊張の糸も解け、無事勝利出来た事で頬が緩む。
「おや、どうかしましたか連理。顔がにやけていますよ?」
「完封の余韻に浸っているんじゃねーですか?後、接射も零距離も厳密に言うと造語なので、不用意には使わねー方が良いです」
なんと、自分としては軽く緩めていた程度だったが、傍から見たらにやけてるレベルになっていたらしい。…表情からして多分これも冗談半分だろうし、二人共優しいから無用な心配かもしれないが…エンデと真那に気持ち悪いとか思われたら、辛いなんて次元じゃない。気を付けないと。
…というか、さらっと真那に言ってもいない事を指摘された。
「まあそれはともかく、今回の探索も後少し。このままの勢いで頑張りましょう!」
にっ、と白い歯を見せ、快活に笑う真那の言葉に自分達は首肯。あくまで周囲への警戒…とまでは言わずとも、気を抜き過ぎないようにしつつ、オリキュレールからの地形データを見て進んでいく。
ここは、先日発見した混成世界。艦からのスキャンと初めの調査で、自分達の捜索目標である
「…連理?今何か、妙な事を考えていませんでした…?」
…半眼で、エンデが自分を見てくる。はっはっは、何の事かなー?……ごほん。
ともかく、未確認地域の探索は完了。気になる事もなかったんだから、ここに留まる理由もない訳で、自分達はオリキュレールへと帰還する。そして、帰還の後にする事は…多分、反省会という名のおやつタイムだろう。そして、今日はいつも以上にエンデがやる気に満ちていた事からして…ドーナツがあるんだろうなぁ。
*
今回のように、探索は普段から行われている。そして普段から行う事のメンバーを、毎回一から選出するのは無駄な訳で、オリキュレールでは探索班というのが作られている。
そんな探索班の一員が、真那。
そして、同じく経験豊富で魔法による援護や支援に長けていて、快活ながらも視野が広く思慮深い、所謂状況把握が得意な二階堂マリと、そのマリがお互いに「自分と似てるタイプ」と称し、生徒会長という来歴故にカリスマ性もあって、元々は自分と同じような一般人だったからこそ二人のストッパー役にもなれる星ノ守心春も、調査班メンバー。それに真那を加えた三人が、調査の基本メンバーで…でもマリは同じ世界出身の草薙タケルに用があり、心春は最近出会った自分より数代前の生徒会長に、「偉大なる生徒会長の先人として、貴女に伝える事があるわ!後、要注意人物の事も!杉崎っていう危険人物の事も!」…と連れて行かれてしまったとかで、代わりに自分達が行く事となった。……以上、これまでの経緯です。
「サクサクの表面とふわふわの中身、優しい甘さが持ち味のプレーンから始まり、チョコレートやストロベリー等のコーティングタイプや、サクサク重視のオールドファッションにもちもち重視のポン・デ・リング、更にフレンチクルーラーや一見ドーナツっぽくない種類までと、本当にドーナツは奥が深いです。そしてこうも興味を惹かれる辺り、記憶喪失になる前の私は、求道者ならぬ求ドーナツ者をしていたのかもしれません」
「かなり意味が分からねーです、エンデさん…」
やっぱりあったドーナツを手に、むふー、と機嫌良く語るエンデ。その内容に真那が突っ込んだ後、自分と真那は肩を竦める。
けど実際、改めて考えるとドーナツはかなり種類が多い。基本甘い系とはいえその甘さも種類によって違うし、エンデが探求したくなる気持ちも分からなくはない。
「分かりませんか?ではまず、私が独自に調べたドーナツの歴史から……っと、すみません。これから用事があるのでした」
「用事、ですか?」
「はい。記憶喪失の会会長として、私は意外と忙しいのです」
「あぁ…いつの間にか私も会員にされていたその会、ちゃんと活動していやがったんですね…」
それは本当に活動しているのだろうか。活動しているとしても、行動しているのは会長一人なんじゃないだろうか。…とは思うものの口には出さず、手を拭いて部屋を去るエンデを見送る。…やる気になっているエンデに、水を差したくはないのだから。
因みに、そんな記憶喪失の二人だけど、内容は少し違う。エンデは本当に何も覚えていないのに対し、真那はここ数年の事は覚えている(つまり、記憶喪失になってからの期間が長い)上、多少ながら覚えている事もあるんだとか。…幸いなのは、そんな二人がどちらも明るい事。毎日元気な姿を見せてくれるから、自分も安心出来る。
「…さて、二人になってしまった訳ですが…どうしますか?私は、このまま話しているのも悪くねーと思いますが…」
そう、今は真那と二人きり。明るくて、可愛くて、でも戦いとなれば格好良い目付きもする真那と二人きりなんだから、勿論自分は欲望を解放し……何をしよう?というか、自己研鑽に余念がない真那こそ、このまま話してるだけでも良いんだろうか?
「私だって、四六時中鍛錬の事を考えてる訳じゃねーです。それに…結構好きですよ?貴方と、こうして他愛のない話をするのは」
……どうしよう。さらりと心を射抜かれてしまった。どうも話を聞く限り、真那の実兄は多くの人に好かれているみたいだけど…流石は兄妹なだけある。というかいきなりこんな事を言うなんて…真那、ズルい…。
まあとにかく、そう言ってくれるのならこのままのんびり話すとしよう。話題は……あ。
「…へ?好きな動物、ですか?」
突然何を?…と、目をぱちくりさせる真那。確かに脈絡なく訊かれたら「?」…となるだろうけど、何も話題がなさ過ぎて、苦し紛れに質問をした訳じゃない。
「好きな動物…って、その妙に期待した目はなんでいやがりますか…?」
じっと見つめ、答えを待つ。期待した目をしてるらしいが、自分の視線がどうかなんてどうでも良い事。
何が好きか、自分は訊いた。けど、分からないから訊いた訳じゃない。むしろ、間違いなくこれだ、っていう確信があって、つまり質問ではなくこれは確認。
そう、自分は知っているのだ。分かっているのだ。真那が好きなのは、間違いなく……
「…まあ、猫とか犬とか小鳥とか、そういう小さい動物は可愛いんじゃねーでしょうか。…あ、小鳥は小鳥であって、琴里さんの事じゃねーですよ?」
…………。
………………。
……………………。
……狼じゃないの!?真那は、狼が、好きなんじゃないのっ!?狼大好きっ娘じゃねーんですかッ!?
「うわっ!?きゅ、急になんでいやがりますか!?後、少々地の文がおかしかった気もしやがりますよ!?」
愕然として、思わず丁寧なのか雑なのか分からない表現を自分がしてしまうと、真那も真那で驚き持っていたドーナツを落としかける。…今の表現を、真那がおかしいと言うのはいいのだろうか…というのはさておき、まさか…まさか狼が真っ先に上がらないどころか、言及さえもされないなんて……。
「え、いや…期待を裏切っちまったようですが、そもそも何故私が狼好きだと…?」
え?何故って…真那、普段からここぞって時は言ってるじゃん。狼の牙からは逃れられねーですとか、餓狼の牙を受けてみやがりますか?とか。
「はい?…あ、あー…それは私のCR-ユニットの名前がヴァナルガンド…フェンリルとも呼ばれる、狼の見た目を持つ神話の存在から取ったもので、外見や武装もそれを意識してるみてーなので、何となく言っているだけというか……」
頬を掻きながら、印象深い発言の理由を語る真那。けれど、そこは重要じゃない。狼は別に好きという訳じゃないという事実が、最も重く致命的。…真那、強いし格好良いし、ちょっと独断専行しがちなところもあるから、自分と似てる狼(実際の狼は群れで生活するけど)が好きなんだと思ってたのに…内心狼ごっこしてるのかなと思って、萌えていたのに…。……狼が好きな真那にあげようと思ってた、このケモミミ&尻尾(狼仕様)はどうしよう…。
「いや、仮に狼が好きだったとしても、それは付けな…って今、何もないところから取り出してやがりませんでしたか!?こ、虚空!?虚空から出しやがったんですか!?」
何だか真那は全然重要じゃない事を気にしているようだけど、今の自分は傷心状態。期待に胸を膨らませていた分落差は大きく、この沈んだ心を癒す方法なんてどこにも……
…………あ、でも別に、好きじゃなくてもケモミミと尻尾は付けても良くない?好き嫌い関係なしに、絶対真那似合うし。可愛い真那が、更に可愛くなる事間違いなしだし。
「……あ、あの連理さん…?数秒前から、変に目が据わってるというか、妙な怖さを感じやがるのですが…?」
何かを感じ取った様子の真那は、律儀にウェットティッシュで手を拭いてから後退る。自分が左手にケモミミ、右手に尻尾を装備し立ち上がると、更に真那は冷や汗を垂らす。…ふっ、気取られてしまっては仕方ない……混成世界調査班連理!これより、崇宮真那狼っ娘計画を遂行するッ!
「とんでもねぇ計画ですねッ!丁重に且つ全力でお断りさせてもらいますが!?」
ばっとその場から飛び退く真那と、両手を広げて逃がさんアピールをする自分。ふっふっふ、良いではないか、良いではないか〜。
「良くねーです、そしてどこの悪代官でいやがりますか!?くっ、こうなれば部屋を出るまで……ってあぁ、何故鍵が!?いつの間に施錠を!?」
いやだって、戸締まりきっちりするのは基本だし。ちょっと位良いよね、って油断が命取りなのは、もう色んな世界で学んできてるし。
「律儀!そしてそれなりの場数を感じさせる発言!けど、その経験を活かすのはぜってーここじゃねーです!後結局、施錠をしたタイミングは本当にいつでいやがりますか!?」
……そこはまぁ、何らかの特別な力というか…そうだ、
とまぁ、真那も真那で律儀に突っ込んでいる内に距離は詰まり、自分は「まずはケモミミぃ!」…と左手を伸ばす。残念ながらそれは軽快な真那の動きで避けられてしまったものの…ここは部屋内。特別広い訳でもなければ、それなりに家具が置いてあって、走り回るには手狭な空間。つまり、如何に素の身体能力も高い真那だとしても…逃げるのは、絶望的…!
「くぅっ、こんなしょうもねー事で追い詰められるとは…さっさと解錠すれば良いものを突っ込みで時間を浪費してしまった、さっきの自分を殴ってやりてーです…!」
わーきゃーどたばたと、部屋の中を動き回る事数十秒。部屋の角に追い詰められた真那は歯噛みし、悔しそうな目でこっちを見つめる。…あ、どうしようドキドキする。なんか変な気分になりそうになる。
「ひっ、れ、連理さん…!?いよいよ本当にヤバい目をしていやがるんですが…!?」
余程真那は察しが良いのか、自分が顔に出易過ぎるのか、悔しそうだった視線に混じる怯えの感情。おっといけない、何も自分は真那を怯えさせたい訳じゃないんだ。少女の本能的な恐怖を引き出したい訳じゃないんだ。…実際に戦えば間違いなく、自分がコテンパンにされて終わるだけだろうけども。
という訳で自分は心を落ち着かせ、ケモミミ&尻尾を装着した真那を想像する事で思いをより強固なものに変え、真那へと頼み込む。これを、付けて下さいと。
「そ、そこまでして付けてーものですか…?百歩譲って付けたいとしても、そういう物ならそれこそ私よりエンデさんの方が似合うんじゃねーですか…?」
うん、そこまでして付けてほしいものだよ。そして、勿論エンデも似合うと思うけど…間違いなく、真那だって似合う。絶対似合う。真那自身はどう思ってるのか分からないけど、真那は可愛い女の子なんだから。
「……っ…!…そ、そういう言い方は…反則でいやがります…そんな、急に…迷いなく、真剣に言うのはズルいです…」
かぁっと顔が赤くなり、真那は自分から目を逸らす。…気持ちは分かる。だって言った自分自身、今凄く恥ずいから。むしろ自分の方が、「止めて!見ないでっ!」…と、両手で顔を覆いたい気分なんだから。
…それに、付けてほしいって気持ちは本心だけど、真那を嫌な気持ちにはさせてくない。だから本当に嫌だって事なら、この件はきっぱりと諦め……
「…も、もし似合わなくても、笑ったりしねーで下さい…それを約束してくれるなら、付けても…良い、です…」
恥ずかしそうに、いじらしく…けれど逸らしていた視線を戻して、ほんの少しだけ見上げる形でそう言う真那。その表情に、言葉に、もじもじとした仕草に、自分の心が撃ち抜かれたのは…言うまでもない。
当然、自分は頷いた。笑う訳、ないんだから。自分の無茶苦茶なお願いを聞いてくれる、真那を笑える筈がないんだから。そうして自分は、カチューシャ状になっているケモミミを渡し……受け取った真那は、それを頭に付ける。
「い、位置はおかしくねーですか…?」
艶のある、深い蒼色を持つ真那の髪。同じ色合いを持つ狼のケモミミは真那の頭と髪へとフィットし、まるで元からあったかのような外見を見せる。
ぴんと立った、一対の耳。若干尖ったその耳は、真那の凛々しさと前向きさを表しているようで、同時に柔らかそうでもある質感は、普段の真那の明るさと人懐っこさを示してるよう。絶対似合う、なんて言いはしたけど、正直その似合い具合は自分の予想を遥かに超えていて……超可愛い。もうどうしようもなく、これ以上ない位に可愛過ぎる。
「う、ぅ…あんまり、見つめねーで下さい…恥ずかしいん、ですから……」
しかもそれを、真那の恥じらいが加速させる。普段は可愛さより格好良さが先行する真那だからこそ、可愛いが前面に出た瞬間の破壊力は凄まじい。
暗色寄りな、落ち着いた髪の蒼と、ほんのり朱色に染まった頬のコントラストも魅力的。確かに見つめ過ぎるのは真那に悪い気もするけど…目を離せない。目を、心を奪われてしまい、見つめたくて仕方ない。そしてやはり自分の感情は顔に出ているのか、更に真那の顔は赤く染まり、ケモミミもしゅんと垂れ下がって……
「……あ、あれ…?自分からは見えねーですけど…今、ケモミミ動きやがりませんでしたか!?そんな感覚がありやがったのですが!?」
…あ、そうだ説明してなかった。それ、ただのケモミミじゃないんだよ。魔術師に魔法使いに念威使い、悪魔に精霊に魔装少女と、色んな世界の色んな力を持った人達によって作られた、超技術実験の結果なんだ。より正確に言えば、色々作ってみよう!…という流れの中で生まれた、自由研究みたいなものだけど。
「すげー過程と人材の中から、こんなしょーもねーものが!?…私もあんまり人の事は言えねーかもですが、ここに集まってる人達は、皆悪ノリが過ぎるんじゃねーでしょうか……」
それについては自分も本当に同意だから、半眼になった真那と共に苦笑い。…自分自身悪ノリしたりするから、皆には困ったものだよ…みたいな事は言えないけど。
ともかく、ケモミミは無事装着された。もうぶっちゃけ、このケモミミだけでご飯三杯いけそうだけど…まだ、尻尾が残っている。まだこの感動は、終わっていない。
「はは…まあもう、ここまで来たら最後まで付き合います…。…っと、おや?これはどうやって付けるんです?フックも挟むパーツもねーようですが」
渡した尻尾の付け根側を見ると、確かに装着する為のパーツらしきものはない。……うーん…
「こんな事に
危うく見損なわれるところだったのか…と自分が心の中で安堵していると、暫く尻尾を触っていた真那は何かに気付いた様子。そして、出来る限り背中側を確認しながら尻尾の付け根を尾骨に(勿論服の上から)押し付けると…何もなかった筈の尻尾が、真那にくっ付く。ケモミミと同じように、ぴこぴこと動く。…どうやら、吸着する魔法か何かが付与されていたらしい。
「アイデアはほんとに呆れたものですが、技術としては間違いなくすげーですね…それに、手触りも中々……」
再び呆れの表情を浮かべつつも、真那はケモミミや尻尾を触って、ちょっぴり表情を緩ませる。それを見ていると、何だか自分も触りたくなる。さっきまで両方持っていて、感触は既に知っている筈なのに。……あっ、そうだ。それより記念写真記念写真……
「それは許可してねーですよ!?こ、こんな姿を残されたら、一生の不覚になるじゃねーですか…!」
むぅ、自分としては一生の不覚ではなく宝物になりそうだけど…マジトーンでの拒否をされたら仕方ない。…でも、ほんとに残念だ…折角こんなに可愛いのに…。
「うっ…そんな露骨に残念そうな顔しねーで下さい…代わりに何か、もう少し軽めの事でしたらやりますから…」
肩を落としていると、真那はバツが悪そうな顔でそんな事を言ってくれる。うぅ、ほんとに良い子だよ真那…。……けど、そう言ってくれるなら…よし、決めた!あれを言ってもらおう!
「うぇ?…あ、あれをでいやがりますか…?……ま、まぁ…撮られるよりはマシな気がしやがるので、良いですけど…」
自分からのリクエストを聞いた真那は、目を瞬かせた後にまた少し恥ずかしそうな表情を浮かべる。…が、こっちは許容範囲内だったらしく、自分は心の中でガッツポーズ。ケモミミと尻尾で狼っ娘となった今の真那に、あの台詞を言ってもらえるのなら…得られる感動は、きっとプライスレス。
期待しじっと見つめれば、真那は照れ…けれど撤回はする事なく、自分の前で深呼吸。そして顔を赤くしながらも、自分が頼んだ言葉を言っ──
「おや、鍵がかかっているとは。であれば、普通ならば中へと呼びかけ開けてもらうところですが…記憶喪失になる前は、天才ピッキング師だったかもしれない私にとっては、この程度の鍵ちょちょいのちょいです。ここは敢えて、自力で開ける選択肢を取るエンデなのです。…という訳で、連理、真那、戻りまし……」
「お…狼の牙からは、逃れられねーですよっ!」
びしっ、と右手で自分を指差し、ケモミミも尻尾もピンと立てて、真っ赤な顔で言い切る真那。それはまるで、真那が…狼っ娘真那が、自分を何かのターゲットにするかのような雰囲気で……そんな時だった。真那が言う、正に直前だった。鍵がかかっている筈の扉が開き、何食わぬ顔でエンデが部屋に戻ってきたのは。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……ゴユックリドウゾー」
「うわぁぁぁぁっ!?ちょ、え、エンデさんっ!?」
空気が凍り付いたような、数秒の沈黙。エンデはこっちを見たまま微動だにせず、赤面したまま固まった真那はだらだらとその顔に冷や汗を垂らし……スライド移動でもしてるのだろうかと思わせる動きで、エンデは廊下に出た。感情の喪失した声を発すると同時に、扉は閉まっていき……真那は飛び付く。慌てた様子で。それはもう、テンパった状態で。
「スクープです、これは大スクープです。まさか連理と真那がそのような関係になっていたとは。であれば空気の読めるエンデはこの場を去るのみ。しかし何故か心の中がもやもやしている為、今知った事を誰かに話してしまうかもしれません」
「な、何やら長々と独り言を言いつつ凄い速度で逃走を!?あーもうどうしてくれやがるんですか連理さん!こ、こんなの赤っ恥どころの騒ぎじゃねーんですがッ!?」
確かにエンデは凄い速度。ぱっと見競歩程度の動きしかしてないのに、全力疾走並みの速度をしているものだから、正直訳が分からない。
とかなんとか思っていたら、追い詰められた表情の真那に胸元を掴まれ、ぐわんぐわんと揺すられる。うっ…お、落ち着いてほしい真那。取り敢えず今は、エンデを追おう。そして、これを使うんだ真那!
「こ、これはエンデさんに似合いそうな、銀の毛並みの狐耳&尻尾…!はっ…つまりこれをエンデさんにも付ける事でこちら側に引き入れ、話すに話せない立場にするという事でいやがりますね!……って、そんな嘘には騙されねーですからねッ!?」
ぺしーん!…と渡したケモミミ&尻尾その二を床へ叩き付け、エンデを追うべく真那は一人で走っていく。本当にテンパっているのか、狼耳も尻尾も付けっ放しで…大丈夫なんだろうか。明日のオリキュレール新聞で、「号外!颯爽と走る狼の獣人現る!」…みたいな特集が掲載されたりしないだろうか。…オリキュレール新聞なんて見た事も聞いた事もないけど。こうやってテンパる真那も、やっぱり可愛いけど。
とはいえ実際、こうなったのは自分の責任だし、真那に恥をかかせるのも悪いし(既にかかせてしまっているけど…)、エンデが妙な勘違いをしているのならそれも解きたい。後もうこの際、ほんとにエンデにもこのケモミミと尻尾を付けてほしい。……そんな事を考えながら、自分も真那の後を追って走る。この調子だと、ここからもまた一悶着ありそうだなぁなんて思いながら走る。
真那、エンデ、それに自分。様々な世界から、色々な経緯でここに集まってきた多くの人達。そんな人達によって…今日もまた、賑やかな日々が紡がれるのである。
──因みにその後、ブリッジからこれまで計測した事のない、特殊なエネルギー反応が艦内に現れたという通信が来て、その直後に十字キーみたいな髪留めを二つ付けた黒い服の女の子と、ヘッドフォンを付けて本に載っている妖精みたいな女の子と、なんとなーく自分と同類な気がするもう一人の三人組と遭遇したりしたんだけど……それはまた、別のお話。その話が語られる日が、来るかどうかは…分からない。
……ごめんなさい。最後の最後で嘘を吐きました。富士見ファンタジア文庫以外からもキャラを出してしまいました。…ただのお遊び要素というか、今年終了した同じクロスオーバー作品という事で、つい出してしまっただけです…。
ごほん。ともかく終わってしまった作品ですが、私の心の中には残っている、今もまだ心の中の世界で続いている…というのが私の思いです。私は書きたかったものを書いただけですが、もし同じユーザーが、或いはファンタジア・リビルド関係なしに読んで下さった方だとしても、ほんの少しでも楽しんでもらえたのなら、幸いです。