個性はパーフェクトコピー   作:ヨミセンアポ

1 / 1
黄瀬と峰田の友情

 季節は新年度が始まったばかりの春だった。

 

 帝光中学三年、黄瀬涼太は夕日が差す放課後。

の教室で、憂いを帯びた表情をして黄昏ていた。

 

 校内にファンクラブがあるほどの人気者の黄瀬涼太。ファッションモデルをするほどイケメンな彼の姿はとても絵になっていた。

 

 廊下を歩いていたとある一人の女子生徒は、いつもは女子生徒に囲まれている黄瀬が、彼以外の人がいない教室で、机に頬杖をついている姿を見て思わず、足を止めてしまった。

 

 彼女が密かに想いを寄せていた黄瀬が、夕日を眺めながら何かを考えている。

 

 何か悩みでもあるのだろうか?

 

 ――声をかけてみようかな?

 

 普段は引っ込み思案な地味な私と、人気者な彼。

 そんな二人が誰もいない教室でこっそりと交流するようになる。

 

 そんな少女漫画を彼女は昨夜読んだばかりだった。

 

 周りに邪魔な他の女子はいない。

 なんだか運命を感じるシチュエーション。

 女子生徒のピンク色の脳内がうねりをあげ、彼女に勇気を与える。

 

 彼女は意を決して、教室のドアを開けようとした。

これから始まるラブロマンスに彼女が、胸をドキドキさせていた。

 

 しかしその瞬間。

 

「うひょぉぉぉぉーーーーーーーーっ!」

 

 階段を駆け上がる音と男子生徒の野太い叫び声が廊下に響いた。

 

 女子生徒は思わずドアを開ける手を止める。

 

 階段を駆け上がっていた男子生徒が廊下に飛び出る。

 

 それはぶどう頭の背の低い生徒だった。

 

 彼は女子生徒に気がつくこともなく、彼女とは反対の教室のドアを音を立てて開けた。

 

 そして彼は叫ぶ。

「おい黄瀬! 原宿へ行こうぜ! お前がいれば女は入れ食い状態よ! 一緒にナンパしよぜ! な?」

 

 女子生徒にとって最悪のタイミングだった。

 そして彼女の個性はキック強化だった。

 

 校内変態ランキング一位の峰田実に女子生徒はライダーキックをする。

 

「ぶべら」

 ベチャッ。

 

 廊下に倒れ伏す峰田に女子生徒は叫ぶ。

 

「黄瀬君がナンパなんてするわけないでしょ! この変態!」

 

「あっ、ありがとう……ございます」

 

 変態と罵られた峰田は、気持ちのいい罵倒になんとか感謝を返した。

 彼は中学生にしてSMもいける男だった。

 

 そして黄瀬涼太はその光景を驚きで目を見開き見ていた。

 

 

 その後、黄瀬の前で仮面ライダー顔負けの飛び蹴りをかました女子生徒は、顔を赤くして逃げ出し、この場に残ったのは黄瀬と峰田だけとなった。

 

「とりあえず、保健室へ行くっすか? 峰田っち」

 保健委員の黄瀬は心配そうに言った。

 

 廊下に倒れ伏す峰田は弱々しく手を上げて返す。

「たのむぜ黄瀬、美人な養護教諭、かおり先生が帰る前に急いで保健室へ……ガクッ」

 

 黄瀬は軽い峰田をおんぶして言う。

「かおり先生は今年結婚したばかりっすよ」

 

 黄瀬に背負われた峰田は弱々しく言う。

「オイラは……人妻も好き……だぜ」

 

「授かり婚らしいっすからね、さすがに一児の母親はマズイっすよ」

 

「それでも……オイラ……は……」

 死に際のセリフのように弱々しく話す峰田。

 

 黄瀬は彼に、今日あった保健委員の集会で聞いた話を伝える。

「かおり先生は今日から育休で保健室にいないそうっすよ」

 

「黄瀬っ! それを先に言えよな!」

 

 峰田は弱々しい演技をやめて黄瀬の背中から降りる。

 

「クソー! 重症患者のフリすればかおり先生に優しくされるとおもったのになぁ、……しょうがない湿布だけ勝手に使わせてもらおうぜ」

 

 そう言ってスタスタと歩く峰田に黄瀬は話す。

 

「だから今日からかおり先生の代わりに違う先生が保健室にいるそうっすよ」

 

「マジかよ! まさか新任の擁護教諭か? 保健室の先生は優しい大人の女じゃないとオイラは認めねーからな!」

 

「残念っすけど、保健室の先生が女性でないといけないって考えは古いっすよ……たしか、五里谷先生っていう男性が養護教諭をするそうっす」

 

「それって体育教師の五里谷じゃねーか!」

 

「そうっすね、しばらく体育教師と養護教諭を兼任するそうっす」

 

 五里谷ゴリオ、四五歳、ゴリラの個性持ちで柔道部の鬼顧問。

 峰田は清々しいほどに女好きだ。だから男に治療されてもなんも嬉しくない。

 

「ハア、枯れちまったな……オイラの心のオアシスが……」

 峰田がヤレヤレだぜと呟いた。

 

 保健室に着く。

 

黄瀬は扉を開ける。

「失礼するっす、五里谷先生はいるっすか?」

 

 保健室中は無人だった。

 

「しょうがないから勝手に使わしてもらうっすよ」

 そう言って黄瀬は、勝手知ったる我が家のように棚をあさり湿布を取り出した。

 

 峰田は保健室のソファーに腰かけて疑問を口にする。

「黄瀬って、ずいぶん保健室に慣れてるんだな?」

 

「なんか俺が保健委員になってから、女子生徒が体調不良になることが増えたみたいなんすよ……その付き添いに何度も保健室に来ていたからさすがに慣れちゃうっすよね」

 

 黄瀬のモテモテエピソードに峰田は青筋を浮かべた。

「ケッ、これだからイケメンはよぉ…………まあ、黄瀬は俺が認めた唯一のイケメンだからな、許してやるか……それより、今日のナンパの作戦会議をしようぜ!」

 

 黄瀬は峰田に湿布を渡しながら言う。

「もう夕方っすよ、さすがに、中学生がこの後、街を歩いてナンパなんてしてたら補導されるに決まってるっす」

 

「なら明日の休みにナンパへ行こうぜ! 今度こそ成功させてみせるからよう」

 

 

「嫌っすよ、前回も似たようなこと言って失敗したじゃないっすか。どうせまたナンパしようとしても峰田っちが性欲を隠しきれなくって自爆するに決まってる……オチは見えてるんすよね」

 

「おいおいおい黄瀬ぇ! オイラを見捨てるのかよ〜、お前がいないと女が寄ってこないだろ……まさか再来週の合コンのセッティングも中止するとは言わねーだろうな?」

 

「あっ、その合コンなら忙しくて俺は参加できないって伝えたら、モデル仲間の女の子たちも不参加になったすよ」

 

「嘘だろ! なんでわざわざ不参加だって正直に話すんだよ、当日まで黙っててくれりゃ、勘違いして来てくれた女の子をオイラが慰めるのによ」

 

 ゲスい顔をする峰田に黄瀬は言う。

 

「それと峰田っちのナンパや合コンに付き合うのは高校受験が終わるまで自粛するっす」

 

 峰田は小さな体を生かし、素早く黄瀬に縋りついた。

 

「そんなこと言うなよ黄瀬。イケメンとマスコットの相乗効果抜群の最強コンビで、青春の狩人をした仲じゃねーかよ〜……これからも女相手にぶいぶいやろーぜ!」

 

「青春の狩人って何すか?」

 

「そんなことはどうでもいんだよ! なあ、お前の協力がなきゃ一生童◯のままになっちまう!」

 

「俺、最近考えたんすけど、峰田っちが女の子にモテないのは性欲が強すぎるからだと思うんすよ。だから性欲が弱くなる年齢になってから恋人探しをすればいいんじゃないんすか?」

 

「性欲が弱くなるって……それって思春期が過ぎてからってことか?」

 

「違うっす、もっと先の性欲というか生殖機能自体が衰え始める頃がオススメっす」

 

「それって何十年後も先じゃねーか! 待てねーよ!」

 

「でもやっぱり、明日明後日ナンパしてもうまくいかないと思うっすよ」

 

「……黄瀬、オイラも最近考えたんだけどよう……オイラって本当にモテたいのかって」

 

「……やっと諦めてくれるっすか?」

 

「まあ、最後まで聞けよ……モテたいかモテたくないかで言えばモテたい。彼女が欲しいか欲しくないかで言えば欲しい。でもオイラの本当の欲望はそんな副次的な産物ではないんじゃないかって気が付いちまってよう。……なぜモテたいのか? 女が好きだからだ、なぜ彼女が欲しいのか女に興味があるからだ。つまり……」

 

 ゴクリと黄瀬は唾を飲み込んだ、それほどまでに峰田は真剣に話していた。

 

「オイラが女に求めていたものは恋愛ではなかったってことだ、オイラが本当に求めていたものは体だけだった。……フラれることはもう気にしない、慣れ過ぎて今更傷つかねーしな……正直、愛とか恋とかくだらねー! オイラが真に欲するのはエロだけだ! 黄瀬の容姿に釣られた女をじっくり舐め回すように観察する! それだけでいい、それだけがいい! そのためだけにナンパや合コンをしようぜ!」

 

 峰田の下心にまみれた話に黄瀬はため息を吐く。

 

「いや、しないっす」

 

「なんでだよ!? 今のは一緒にやる流れだったろ!」

 

「全然、そんな流れではなかったす。言ったじゃないっすか、高校受験が終わるまでは女の子と遊ぶのはやめるって。…………俺、雄英のヒーロー科を受けるから」

 

――俺、雄英のヒーロー科を受けるから――

 

 今までの黄瀬からは考えられないようなセリフに峰田は驚く。

「いま雄英のヒーロー科を受けるって言ったか?」

 

「そうっす」

 

「そうって、お前、中学卒業後は芸能系の高校に通いながら、モデルの仕事を増やすって言ってたじゃねーか! 事務所の社長にも期待されてんだろ! それはいいのかよ?」

 

「社長は俺を芸能系の学校に通わせながら、モデルの仕事に専念させ、ゆくゆくは俳優の仕事にも挑戦させたかったみたいっすけど、昨日、断りの電話をしたっす」

 

「なんでだよ、もったいねー……黄瀬の個性なら俳優だって楽勝だろ」

 

「違うっす、楽勝すぎるから嫌なんすよ」

 そう言って黄瀬は、先月受けた仕事のインタビューの話を始める。

 

 

「黄瀬君、写真を見た時から思っていたけど、結構鍛えているよね? いい体格をしてるよ」

 

 気さくな雑誌記者の言葉に黄瀬は喜ぶ。

 

「マジっすか、ありがとございますっす!」

 

「ハハハ、喋り方は少し癖があるけど、キャラが立っていていいと思うな」

 

「そうっすか?」

 

「うんうん、そうだよ。……やっぱり何かスポーツをしているのかな?」

 

「運動は好きっすから、よくやるんすけど、すぐ飽きるんすよね……だから一通りのスポーツは経験あるっす」

 

「それはすごい、でもなんですぐに飽きてしまうんだい?」

 

「あー、……それは俺の個性に関係するんすけど……」

 

 

「ほー、個性か……詳しく聞いてもいいかな?」

 

「いいっすよ、俺の個性はパーフェクトコピー、個性以外のことならすぐに真似することができるっす。……サッカー、野球、テニス、色々なスポーツをやってきたっすけど、経験者のプレイを見ると大抵簡単にできてしまって、……なんつーか、熱中できないんすよ」

 

 黄瀬の話に記者はふむふむ神妙に頷く。

「そうかそうか、でもすごい個性じゃないか、黄瀬君のモデルの仕事を生で見た時にも思ったんだけど、元々の素材自体もイケてる上にポーズとか表情とかも上手だなって感じだよ。……それも個性のおかげかい?」

 

「そうっすね、初めてモデルの仕事をした時、まず有名なモデルのポーズや表情を覚えてから真似してみたっす」

 

「へ〜、黄瀬君が初めてモデルをした時の写真は僕も見たけど、ずいぶん様になっていたよ、真似するだけであれだけのことができるなら大したもんだよ」

 

「ありがとうございますっす」

 

「ハハハ、でも黄瀬君のパーフェクトコピーなら、俳優の仕事なんかもできるんじゃないかい?」

 

「そういえば、うちの社長も似たようなことを言ってくれたっすよ」

 

「やはりそうかい! 黄瀬君ならいい演技をしてくれそうだなって思ったよ! 俳優になる君もいつか見てみたいな」

 

「……まあ、考えておくっす」

 

「ハハハ、そうかそうか、……では最後の質問だ」

 

 記者は少し真剣な表情で最後の質問をする。

「今からするのは、ヒーロー飽和社会だからこその質問なんだけどね。……ズバリ、黄瀬君はヒーローになりたいかな?」

 

「自分はヒーローにあんまり興味がないっすからね、ヒーローに憧れはないっす」

 

「そうか、今どき珍しいね」

 

「よく言われるっす」

 黄瀬は笑いながら言った。

 

「やっぱり? でも黄瀬君はそのままでいいんじゃないか、……黄瀬君のパーフェクトコピーはヒーロー以外なら何にでもなれる、いい個性だよ。このまま、モデルを続けて、いずれ俳優になったら、君は絶対に成功する」

 

 

「て言うことがあったんすよ」

 黄瀬はインタビューの話を峰田にした。

 

 峰田は不思議そうな顔をする。

「それで? 今の話がどうしたんだよ?」

 

「インタビューを受けた時には、俺も特になんともなかったんすけど。……その記者の話した内容がどうも気になりだして、寝る時も飯を食ってる時も、小骨が刺さっているような疑問? みたいなものがずっとあって……」

 

 いつもチャラチャラしている黄瀬にしては、珍しく真剣な表情をして話を続ける。

 

「それで昨日、モデルの仕事が終わった後、たまたまオールマイトがヴィランを退治する瞬間を見たんすけど……」

 

「マジかよ?! オールマイトを生で見たのかよ」

 峰田が、女以外の話で興奮している。

 

 黄瀬は苦笑いをした。

「話を続けるっすよ……オールマイトの活躍は圧巻だった。……目にも止まらぬ速さで人々を救い、拳一振りで強大なヴィランを退治し、誰にも怪我をさせることなく事件を収束させる。……正直、感動したし、憧れた。でもそれ以上にどれだけ頑張ってもオールマイトには勝てないと思った。……それで俺は、記者の言葉を思い出したんすよ」

 

――ヒーロー以外なら何にでもなれる、いい個性だよ。

 

「記者のその言葉を思い出したら、少し悔しいって気持ちもあったんすげど、それ以上に楽しいと思ったんす。……今まで個性以外はなんでも真似できる個性、パーフェクトコピーがあれば、大抵の夢は叶うと思ってたっす……でもヒーローにはなれないと言われた。そしてオールマイトには勝てないと思った。……無個性でヒーローになった者は一人もいない、そして、俺の個性は個性だけは真似できない個性だ。そう考えると俺がヒーローになるなんて、すげー難しいことだと思わないっすか?」

 

 黄瀬は目をギラギラと闘志で燃やしながら最後に言う。

「今まで、学校の授業もスポーツもつまんねーと内心思ってた。でも雄英のヒーロー科なら、俺が手も足も出ないような強いヒーローの卵がたくさんいるはずなんすよ。……俺はそういう奴らに挑戦し、勝ちたい。……だからなんとしても雄英のヒーロー科に入ってやるっ!」

 

 峰田は黄瀬の雰囲気に圧倒された。しかしなんとか口を開く。

「黄瀬が雄英のヒーロー科に入る理由は分かった。そのためにオイラとナンパや合コンをする暇がないのも理解した……」

 

 峰田はがっかりしたようにため息を吐く。

「女の子にモテるために雄英を目指すオイラと違って、芸能系の道に進んだ方が黄瀬はモテるんじゃねーか、もったいない」

 

「別に女の子にモテなくなっても俺は平気っす」

 

「クソッ、これだからイケメンわよ!……」

 

 悪態をついた峰田は、仕方なさそうに笑った。

 そして彼は黄瀬の目をまっすぐ見て言う。

「雄英の今年の偏差値は79だぜ……体育は別として、テストの点数はオイラの方が上だからな。しょうがないから受験勉強手伝うぜ」

 

 峰田の心強い言葉に黄瀬も笑顔を浮かべる。

「頼りにするっすよ」

 

 峰田は黄瀬に指を差して高らかに言う。

「言っておくが、女を諦めたわけじゃねーからな! オイラが勉強を教える代わりに、黄瀬が雄英に受かったら絶対に合コンをセッティングしろよ!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。