今日リクエストされたお料理は、一体なんなのか--
わたしはミカ。兄さんの妹です。
日課は、毎日兄さんの食べたい料理を作ること。
普段お仕事を頑張っている兄さんのために、最大限できることをしてあげたいんです。
「ええっと……? 今日のリクエストは……」
兄さんは仕事に行く前、毎日食べたいものを紙に書いて置いていきます。
時にはざっくり、時には細かく。
その文字を見ることすら、わたしは楽しみでなりません。
机に置いてある、北欧の白い有名キャラクターが描かれたそのメモ帳に目を通します。
さて、今日の兄さんはどんな料理を御所望なのでしょうか。
ええと……? ふむふむ……。
「……っ! こ、これは……!」
わたしは、そこに殴り書きされていた漢字仮名まじりの料理名に息を呑みます。
これって、これって……!
〜 夜、兄帰宅 〜
「今日は仕事が長引いちゃったな。ミカはもう寝ちゃったかな……?」
「いえ、おかえりなさい兄さん! ミカは起きています! そりゃもう、ビンビンで!」
「……なにがビンビンなのかはわからないけど、元気そうでよかったよ。ただいま」
待ちくたびれました。
くたびれて、おばあちゃんになって、しわしわの干し柿みたいなおっぱいになってしまうかと思いました。
しかし、こうして待っていた甲斐があったというものです。
だって、こうして仕事帰りの兄さんに、出来たてを食べさせてあげられるわけですから!
「兄さん、手は洗いましたか? うがいはしましたか?」
「うん、きちんと手首まで洗ったよ」
「……乳首までですか?」
「……ミカはどんな耳をしているのかな。一度耳鼻科に行ってみたほうがいいと思う」
「えへへ、ありがとうございます!」
「……ごめん違った、脳外科だった」
兄さんとの軽快なやりとりのあと、わたしは台所へと向かいます。
フライパンを用意して、油を敷いて……
割って、フライパンに垂らして、かきまぜて……
……できた! できました!
「お待たせしました兄さん! 今夜のおかずができましたよ!」
「おお、そうか! ありがとう。 なんとなく今朝から無性にこれが食べたくて……って、なんだこれ?」
目の前に出来たての料理を運んでいくと、一目見て怪訝そうな表情を浮かべるお兄ちゃん。
もしかして、美味しそうじゃなかったのでしょうか。
「ど、どうされましたか、兄さん……」
思わず涙目になってしまうわたし。
どうしましょう、これで口に合わなかったら……切腹するしかない!
日本の文化、ハラキリで誠意を見せるしかない……!
心臓をバクバク鳴らし唇を震わせるわたしに目を向ける兄さん。
彼は、その後もう一度料理を見下ろして……。
「ええと、ミカ? これは……なにかな?」
おそるおそる、といった風に疑問を投げかけてきました。
そんな彼に、わたしは今朝兄さんが置いていったメモを見せながら言い放ちます。
「なにって……今朝お兄ちゃんがリクエストした、卵子焼きですけど!」
「ら、ららら……卵子焼き! あっ、ほんとだ! 寝ぼけて卵焼きに子がついちゃってる!」
リクエスト通りに作ったのですが、どうやら間違えちゃったみたいです。
まあ、お兄ちゃんは優しいので、全部美味しそうに食べてくれましたけどねっ!