予防接種に行ったハズなのになんでVtuberになってるの?? ~地味女子JKは変態猫や先輩V達にセンシティブにイジられるそうです~   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第13話 眉毛ぇぇえええええ!!(まゆげぇぇぇえええ!!)

 お昼休み、教室から離れた校舎の裏で、私はハァハァと息を荒げていた。

 胸のざわつきが強すぎて、口元を抑える。

 なんでなんでなんで、って頭の中がぐるぐるする。

 

 朝に教室に入ってからずっとハラハラしていて、同じ所をうろうろ歩いている。

 やがて……彼がやってきた。

 

「あっ、姫宮さん。呼びつけてごめんね。なんとなく、この場所を語り場にした方が良いかなって思って……」

 

「三波くぅぅうううううううううううううううううううんんんん‼‼‼‼」

 

 ぐちゃぐちゃなんかどうでも良いこと言ってる三波君の言葉を遮って、私は彼の肩を掴んで揺らす。

 

「ま! まゆ、まゆっ、まゆっ、まゆゆっ!」

 

 そして……朝からずっっっと気になったのに聞けなかったことを、大声で聞けた。

 

「眉毛ぇぇぇぇぇぇえええええええーーーーーーーーーーー‼‼‼‼」

「あぁ……転んだ!」

 

 今日の朝登校したら、学校一のイケメンの眉毛が剃られていました。

 その影響は凄まじかった。

 

 女子は阿鼻叫喚、膝から崩れ落ち、涙を垂れ流し、天を恨んだ。

 男子は呵々大笑、マロ眉を描いて、笑い泣きして、肩を組んだ。

 

 私はというと、大騒ぎしてるクラスの皆から離れたところで、人知れずプルプルと衝撃に震えていた。

 

 顔のパーツというか造形自体は変わってないから、整ってて美形なのはそうなんだけど……なんか、なんか宇宙人《ミュータント》感がすっっごい!

 人間じゃない感というか違和感がバリバリ仕事してるというか。

 

 これで頭も丸刈りだったら、一周回ってイケメン僧侶に見えなくもないけども。

 

「ウソ! 絶対ウソ! お母さん言ってたもん! 男の子の『転んだ』は、情報商材のセールスくらい信じられないって‼」

「うん。俺も言ってみたけど、かなり無理のある言い分だよね。どんだけピンポイントな転び方だって話だよね」

 

「そ、そうだね……三波君」

「なに?」

「――もしかしてそんなに気にしてない?」

「うん! どうでもいいね!」

 

 目を輝かせて、臆面もなく言い切った。

 わぁ~~……すっごい悔いの無い顔。

 彼は腕を組んで、うんうんと嬉しそうで頷いた。

 

「俺は昨日とても善い行いをした。三桁は固くて、四桁の人が幸せになるようなことを成し遂げた。その代償が眉毛だよ? 軽すぎるさ」

「い、いったい何したの⁉」

 

「それは言えないけど……まぁそんなことよりさ!」

 

 彼は制服《ブレザー》のポケットからイヤホンを取り出して、片方を私に差し出した。

 春風みたいな、にこやかな笑顔で。

 

「一緒に見ようよ、お〇っこ我慢スマブラ!」

「その顔で! そんなことを! 私に言わないでくれないかなぁ⁉」

 

 私は差し出されたイヤホンを押し返した。

 ていうかもっと大事なことあるでしょおが⁉

 そうして――――ずっと手にしていたポーチを掲げて、彼の顔を見上げた。

 

「 眉毛書いたげるから、しゃがみなさい! 」 

 

 こうして私は人生で初めて、男の子の眉毛を書いてあげることになった。

 つくづく思うけど、三波君と伽夜ちゃんってホント似てる。

 目の輝きとか自分の見た目気にしない所とか。化粧ポーチ持ってきて正解だったよ……。

 

 彼には校舎裏にある、アスファルトの段々に座ってもらう。

 

「目、つむっててね」

「ん」と返事して、瞼を閉じた三波君が私を見上げる。

 

 き―――――きれいだなぁ~ホンットに! 

 伽夜ちゃんもかなりきれいな顔立ちだけれど、男の子だからかな? 

 ……妙にドギマギする。

 

 ちょっと頬が熱いまま、私はポーチからアイブロウペンシルを取り出した。

 

「は、始めるね」

「うん」

 

 ペンシルの先端を押し当てる。気分としては色鉛筆でお絵描きしてる気分。

でも書き込んでる紙は紙じゃなくて、男の子だ。

 

 昨日と打って変わって、沈黙が流れる。

 改めて、自分の置かれた状況を確認する。

 男の子と二人、校舎裏。

 相手は学校を代表するイケメン。

 

 ――下手な眉毛なんて書こうものなら……女子たちの阿鼻叫喚を思い出した。

 うぅぅ……緊張するなぁ。手先がぎこちなくなってきた。

 

 このままじゃ駄目だと思って、私は三波君に語り掛けた。

 

「あ、あのごめん、三波君。ちょっと静か過ぎるから、何かスマホで音楽掛けてくれないかな? 気晴らしというか」

「作業用BGM的な?」

「そそ、それ!」

 

 良かった、分かってくれた。

 私はホッと胸を撫で下ろしてから、またペンシルを三波君の肌に当てた。

 

『負けたらがぶ飲みぃ! ぅお〇っこぉ我慢スマブラぁぁぁあああ‼ 負けたら朝チュンASMR配信決てぇぇぇえええええい‼‼』

 

 ガリンッ‼ と手元が狂った。

 三波君の額に〇リーポッ〇―みたいな稲妻が刻まれた。

 

「痛ぁ~い」

「ちょっと⁉ な、なにしてんの、やめっ、やめてぇ! 今すぐ止めてぇ!」

「いや、これが俺の作業用BGMだから」

『カミソリの準備をしておいて貰おう。配信で眉毛も頭髪も刈らせ……』

 

 うるっっさぁい! ちょっと黙れ昨日の私ぃっ‼︎

 ペンシルが、手先が震えてまともに動かせない。

 

「ね、ねぇ三波君⁉︎ 他のBGM掛けるって選択は……?」

「やだ。俺は姫宮さんとお〇っこ我慢スマブラ見たいんだ」

 

 その曇りなき眼を見た途端、私は悟った。

 ――――あ、コイツ、変態猫(キャスパー)と同類だ。

 

 だってそうじゃなければ、どうしてこんなキラキラした目で、同級生の女子にお〇っこ我慢スマブラを勧めるだろうか?

 

 スゥゥゥっと気持ちが冷めていく。

 ……あれ、この眉毛、適当に書いても良いんじゃない?

 

 クラスの女子達の阿鼻叫喚を想像したけど――――だからナニ。

 騙されないで女子達、こいつ変態だから……今、目印つけてあげるから。

 

「いやぁ、この『あ、ぃや』って所はマジ感あって良いよね。声の震え方的に、絶対肩ブルッてして恥ずかし赤面してそうというか。この反応からすごく妄想はかどr」

 

 ゾリンッ! と書道の『跳ね』みたいに、アイブロウペンシルで肌を引っ搔いた。

 

「ぐぅああああああああああああああああああああ‼‼‼⁉」

「ほらー我慢してー。オシャレは我慢だよー?」

「そ、そうだな……オシャレは我慢」

 

 ガリン!

 

「ぎぃいいいああああああああああああ!!!!!」

 

 オシャレは我慢オシャレは我慢。

 三波くんにそう言い聞かせながら、私はごりごりとペンシルの筆圧を高めていった。

 




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