予防接種に行ったハズなのになんでVtuberになってるの?? ~地味女子JKは変態猫や先輩V達にセンシティブにイジられるそうです~ 作:ビーサイド・D・アンビシャス
教室に入る前、私は度が入ってないメガネを掛けた。
これがいつもの私の習慣。別に視力に問題はないけれど。
「ぉ、おはよ」
「ん? あぁ……はよ~」
教室の入り口で話してた女子に挨拶する。
私の席は、廊下側の列の三番目。
迷わずに、足早に席に向かう。
「ねぇ、さっきの誰?」
「んー……覚えてなぁーい。挨拶されたからとりあえず返した」
席に着いて、教科書を机の中にしまったら、本を取り出す。
図書室で借りた古典小説。あんまり内容が入ってこない。
それでも、本を眺めてるだけでも――
「あぁ、姫宮さんだよ。ほら、図書委員の」
「……あっ! ほんとだ! 『らしい』わぁ~w」
「あっ、うちも思い出した! 掃除やってくれたり課題写さしてくれたり、すごく良い子なんだよ~」
こっちに一人、近寄ってきた。
内心ビクビクしながら、顔を上げると、その子は手を合わせて拝んだ。
「姫宮さん、今日の英語の課題写さしてくれない? おねがい!」
「いい……よ」
こういう頼みはすぐに聞く。
その方が、私らしいから。
私の名前を忘れてたその子は満面の笑みで「ありがとう」と言った。
そしてすぐお喋り仲間の所へ戻っていくその子の背中を遠い目で眺めた。
小さく縮こまって本を読んでて、おとなしくて、便利な『図書委員』。
それが、親睦会のカラオケで総スカン喰らった後、なんとか築き上げた私の
だから。
「友達感覚……かぁ~~~~」
今朝の伽夜ちゃんの指摘には、けっこう頭が痛くなった。
バレないように教室の中を見回す。
そこには、全てが出来上がった空気に満ちていた。
わいわい騒ぐ男女入り混じったグループ、足並みを揃えて牽制し合う女子のグループ、同じ趣味で仲良くなった男子のグループと女子のグループ。
組み終わったジグソーパズルみたいな景色に、私は
「……むりだょぉおおおおおお~~~~」
机に突っ伏して悶えた。
伽夜ちゃん無理だって。分かんないって友達感覚なんて。だって友達いないもん、いたけどいなくなったもん。カラオケでハジケたからいなくなったもん!
その上、更に言い合う?
煽って煽り返す?
バカなこと言ってど付き合う気軽さ⁉
「むりにきまっってんじゃんむぅ~~~~~~」
「あっ、姫宮さんが悶え苦しんでる」
「感動してんじゃない? 本に」
「えぇ、あんな体捻じれるほど……」
はっ、まずいまずい。
クラスの女子のひそひそを察知して慌てて居住まいを正す。落ち着いて私。
よくよく思い返したら、別にクラスメイトとそうしろって言われてないじゃない。
ただ眷属さん達とそうしろって言われてるだけで……出来る気がしないなぁ?
リアルでも無理なのに配信で出来る訳ないなぁ?
どうしよっかなぁ?
ふぅ、と深く息を吐いた途端――――教室の扉が勢いよく開いた。
びっくりして見てみたら、三波くんが切迫した顔で男子達に呼びかけた。
「大変だお前らぁ!」
「どしたー? ついに自分の眉毛がM字開脚に見えてきたかー?」
「ちがう、それはもうやった! これを見ろ!」
気怠げな返しをする男子達に、三波君は手に持ったそれを掲げた。
まるで王者の証か何かのように、それは光り輝き、男子達の視線を引き上げた。
「――――さっきそこで女子の上履き拾った」
見ると、それは確かにサイズ的に女子の上履きだった。
シューズの先が赤色だから3年生かな?
名前も油性ペンで書いてあるし、それなら届けに行けば良いんじゃ……。
ガタタァン‼︎ と轟音。
男子達の群れが、机を押しのけ、椅子を弾き飛ばし、三波くんの掲げる王者の証(上履き)目掛けて殺到する。
「寄越せや三波ぃ!」「出会いのきっかけ出会いのきっかけ!」「先輩女子との交際の決め手ぇ!」「学園ラブコメの冒頭ぉ!」「歳の差カップルに! 俺は! 成る!」「僕、受験頑張って彼女と同じ大学に入るんだぁ!」
「黙れ出逢いに飢えたカス共ぉ!︎ この良い匂いがする
言い合って。
「俺はDTを辞めるぞ、野郎どもぉおおーーーーーーーっっ‼‼‼」
「うわぁぁぁぁ上履き被りやがったああああ‼ きっっっ色悪りっ‼」
煽って煽り返して。
「ぐああああああああ!!!!」
「口ほどにもねぇなぁ王子様ぁ!」
「不甲斐ねぇな王子様ぁ!」
「あばよ王子様ぁ!」
「おのれぇぇぇ、これが……NTRっ!」
バカなこと言ってド突き合う。
――――全部できてるぅ‼︎
私ができないと思っていたことを、三波くんは息をするかの如く自然とできてた。
女子の反応はというと……。
「明るいねー」「傷だらけ……かっこいい」「絆創膏いるかな?」「男子(三波く)んのあーいうバカノリ好きだわぁ」
私は遠く離れた職員室に目線を送る。
先生このクラス、もう一回視力検査すべきです(主に女子)。
……それにしても。
私は本を閉じて、頬杖を突き、三波くんを見つめる。
――――今思い出したけど、私、三波くんのことド突いてたなぁ。
宵月レヴィアのエチチイラスト見せにきた時、伽夜ちゃんと同じようにくすぐって屈し屈しさせた。彼と話すようになって、まだ数日しか経ってないのに。
「これが……プロレスかぁ」
そうだよ。
思い返せば、私、Vtuberになってから色んな人にエッチなことされて困らされてきたけど――――本気で嫌だと思ったこと全然ない。
それは三波くんとの、いつものお昼休みのお喋りの時だって。
「…………すごいな」
ぽそっと独り言をつぶやいて、目を細めていたら、
「 なに見てるの? 」
横合いから飛んできた声に、スンッと凍り付いた。
ふるふると、強くて冷たい語気が流れてくる方へ振り返る。
そこにはクラスメイトの――――早乙女咲良《さおとめさくら》さんが立っていた。
早乙女さんは私の視線を追うと、すぐ三波くんに気付いた。
そして、鼻で笑って一言。
「姫宮さん……もう少し相手考えたら?」
「アッ、ハイ、ソウデスネ」
それだけ聞くと早乙女さんは「フンッ」と鼻を鳴らして、自分の席に座った。
え? なに今の反応。
もしかして早乙女さんって……三波くんのこと、好き?
だったら。
私は左斜めに座った彼女の背中に、念を送った。
違いますよぉ~~~私もうそういう感情無いですよ~~~勘違いしないでねぇ~~
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