予防接種に行ったハズなのになんでVtuberになってるの?? ~地味女子JKは変態猫や先輩V達にセンシティブにイジられるそうです~   作:ビーサイド・D・アンビシャス

29 / 66
第29話 妾って……トーク下手?(推されるってこういうこと)

「いやぁ~土日のレヴィクレコラボ凄かったなぁ~。

燃え盛る謝罪会見場に相対する堕天使と雷神。

二人の一騎打ちは『ほんとにマイ〇ラか?』『SEK〇ROじゃね?』とのコメントで大いに盛り上が……」

 

「………………」

 

「……姫宮さん、今日なんか調子悪い? むっっっちゃ見てくるやん」

 

「へ? あ、気にしないで。

 ただ三波くんがいつもどういう風に考えて喋ってるのか見てるだけだから」

 

 いつものお昼休み、いつもの校舎裏で、今日も今日とて三波くんは宵月レヴィアの推し語りをする。

 

 でも気付いた。

 

 お昼休みって50分くらいあるけど……その間、三波くんってずっと喋ってる。

 それも時間を感じさせず、それでいて飽きも来ないように。

 

 いつもは変態さんだなぁって思ってたけど――――実は三波くんって結構トークスキル上手い? 

 

 そう思ってから私はまじまじと三波くんの表情を、語り口をしかと観察していた。参考になるところがあったら吸収しないと!

 

 でも三波くん、なんだか唇をもにょもにょさせて黙りこくってる。

 

「どうしたの三波くん? 早く喋って? いつもはレヴィアちゃんのこといっぱい話してくれるじゃない?」

 

「ぃゃ……そ、そんなガン見されたら話し辛いっつーか……ねぇ本当に今日どうしたの⁉ 変だよ、姫宮さん⁉ なんかあった⁉」

 

 図星を突かれて、ぎくりと肩を揺らす。

 

「ゎ、わかる……の?」

「さすがにね⁉ もうなに? 

俺で良ければ話聞くからさ……その鬼気迫る目やめて?」

 

 うむむむぅ、なんだろう。

 三波くんに気付かれたの、なんか――――なんか、悔しい。

 

 むしゃくしゃが顔に伝わって、眉間にしわが寄っていく。

 三波くんはそんな私を困惑しながら待っている。この流れは……言わないといけないよね。

 

「その、私の妹が言ってたんだけど」

 

 今朝、伽夜ちゃんに言われたことをそのまま話した。

 ちょっとVtuberにうるさい妹でね、って一言を付け加えて。

 

 そしたら三波くんは

 

「wwwwwwッ、ふひっ、ぅふひひひひひはははははははwwwwwww」

 

 膝を叩いて、聞いたことない笑い方をしていた。

 

 わぁ……晒したい、この笑顔。

 クラスの女子達に。至近距離で見せてあげたい。

 

「な、なるほどねww 妹さんの言い分もちょっと分かるよ、ふひはww。要はプロレスでしょ? 確かにそれ出来たら面白いけどさ……でもさぁ~」

 

 ひぃひぃ、と目に浮かんだ涙を拭って。

 三波くんは晴れやかに断言した。

 

 

「レヴィアたんって別にトーク上手いわけじゃないからねぇ~~~⁉ むしろ下っ手くそだとおも」

 

 

「指突!」

「あべしっ!」

 

 反射で飛び出した私の抉りくすぐりに、三波くんはぶっ倒れた。

 

「な……なぜ」

「知らない。手が滑った」

 

 バカ。三波くんのヴァカ! 

 口の中だけでもごもごと罵倒する。

 なんなのこの気持ち。 三波くんは未だに笑いながら、体を起こした。

 

「だってそう思わない? 振られた言葉とかにリアクションとかはできるけど、堕天使から何かアクションしたことってあんまり無いじゃん。だから妹さんの意見は分かるなぁ」

 

 しかめっ面を見られたくなくて、俯く。

 口の中に広がる苦い感情を奥歯で噛みしめて、拳を握りしめる。

 

 わかってる、わかってるよ。

 だって三波くんが今言ったことは、自分でも思っていたことだから。それをあなたの口から言われるのが――――くやし

 

「ま、だからってレヴィアたんにトーク上手くなって欲しいとか思わないけどな?」

「……え?」

 

 あっけらかんとした声音に、思わず顔を上げる。

 丸めた目で疑問を投げかける。

 

 なんで? 

 トークが下手なら上手くならなきゃ。

 

 苦手なところはすぐに直して、弱点を見つけたら無くさなきゃ……! 

 学校でも習い事でもバイトでも、そしてきっと会社でも失敗は返さないようにちゃんと克服しなきゃ。

 

 そうしなきゃ、こいつはもう駄目なんだって見切られる――捨てられるんだから。

 

 頭から言葉が溢れて、喉に詰まる私の横で。

 

「だって俺、そーいうトーク下っ手くそで、一々リアクションがおもしろかわいいレヴィアたんが大好きなんだわ」

 

 三波くんは、とろけそうな笑顔で、推しへの愛を口にした。

 

 いつものお昼休み、いつもの校舎裏で――――いつもの愛を、語る。

 

「素直なんだよなぁ、レヴィアたんって。純情っていうかさ。たまに眷属のコメントで面白いのあったら『すごいすごい』って拍手するんだよ⁉ 幼女かっての! そのくせ本人むっつりさんなのが透けて見えるんだよなぁ、リエルのコラボとかクレアとのベッドの話からして。それでいて無知! まさかM字開脚知らないだなんてなぁ、自分の眉毛がM字だからって興奮してた俺の立場よ。懺悔室に直行したくなるわ。あのピュアっぷりはステラママも抱きしめたくなるわ。まぁー何が言いたいか一言で言ったらね」

 

 ここまで10秒という、恐ろしいまでの早口。

 

 まるで、そのくらい口が回らないと、推しの魅力が語れないかのような。

 そんな彼はいつも、いつだって、大雑把に一言でまとめようとして。

 

「 俺はありのままの宵月レヴィアが大好きだ! だからレヴィアたんには、自分のやりたいことをやりまくって欲しい! 」

 

 全然一言じゃない、推し(わたし)への想いを、告げるんだ。

 

 いつも聞いている、聞いていた三波くんの変態語りが――――頭の中に溢れていた言葉をまとめて吹き消した。

 

 目をぱちぱちと瞬きしてると、彼はうんうんとしたり顔で頷いた。

 

「だから別に、取って付けたみたいにプロレストークなんかしなくて良いんだよね。妹さんにはそう伝えといて。ていうかプロレスとか煽りなんて、Vの先輩達に揉まれていけば勝手に出来るようになるしねぇ~。

 紳士はいるけど清楚はいねぇから、この業界」

 

 そう朗らかに言って、彼は私の肩を叩いた。

 遠慮がちに、ちょんちょんと。

 

「でもレヴィアたんのメスガキムーブね。一ファンの願望としては良いんじゃね?

面白そう。ナイスアイデアだねぇ妹さん」

 

 親指を立てて、伽夜ちゃんのアイデアを褒めたたえる三波くん。

 やっぱり変態さんだ。

 

 でも――――信じても良い変態さんだ。

 

 そう、思えた。

 

「……三波くん。今更なんだけどね?」

「うん? なに?」

 

「――メスガキって、何?」

「知らんと話してたんかぁあああああああああああああああああああああい‼‼‼」

 

 教えてくれた。

 




カクヨムコンテストに参加してます! 
カクヨムコン:ラブコメ部門の週間ランキング101位でした。
956分の101? ……あれ、けっこういけてる???
引き続き応援よろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859130741950

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。