予防接種に行ったハズなのになんでVtuberになってるの?? ~地味女子JKは変態猫や先輩V達にセンシティブにイジられるそうです~   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第37話 堕天使の裏側生活音(オフの姫宮家のことですよ)

「それでは眷属達よ、今宵はここまで。グッバイ堕天(フォールン)〜〜〜」

 

 配信終了の挨拶を言って、しばらくオフで先輩達と話した後、ふすまを開ける。四つん這いで押し入れから出てきたら、伽夜ちゃんが目を細めて微笑んだ。

 

「おつかれさま――――お姉ちゃん」

 

 加湿器のついた部屋で伽夜ちゃんが作ってくれてた葛湯を飲む。喉にとろりと流れて、ホゥっと暖かな息を吐く。

 

「いつもありがとう、伽夜ちゃん。……おいしい」

「どぉいたしまして〜。飲み終わったらすぐ布団入ってね。喉と体冷えないうちに」

「ぁ、はは……配信するようになってから、至れり尽くせりだねぇ」

 

 申し訳ないけどいつも甘えてしまう。

 はぁぁぁぁ配信終わりのお布団さいこぉ〜〜♡

 溶・け・て・しまいそう〜〜。

 

「気にしないでよ……今まではあたしの方がそうだったから」

「……伽夜ちゃん?」

「電気消すよ」

 

 伽夜ちゃんはすぐに家の電気を消す。私の配信が終わったらすぐに就寝。

 これが最近の姫宮家の習慣になっていた。電気代節約節約…………ぅん?

 

 暗闇の中でもぞもぞと布団がうごめく。

 布団に潜り込んできた伽夜ちゃんがぱぁと顔を出した。

 間近に迫った妹に思わず笑みがこぼれる。

 

「またぁ?」

「またですっ」

 

 ひしっとくっついてくる伽夜ちゃん。

 寝返りを打って、私も伽夜ちゃんと向き合う。

 おでおことおでおこをくっつけて。

 目を閉じて……心に浮かんだことを、そのまま口にする。

 

 

「――――メスガキできてたかなぁ~~~~~~~~~~~????」

 

 

「できてたできてた! 行かないでって泣きつくところゾクゾクしたもん!」

「大丈夫? それ伽夜ちゃんの癖にだけ刺さってない?」

 

 今日の配信の内容が頭の中をよぎって、私はたまらず唸る。

 目蓋をきつく閉じながら、もわもわと浮かぶ不安を吐き出す。

 

「ぅぅぅ、大丈夫だったかなぁ? 

 リエル先輩カモだから、ついKILLし過ぎちゃったけど怒ってないかなぁ? 

 ステラママが話題振ってくれたのに、間が空いて上手く返せなかった。

 クレア先輩のネタが分かんないよぉ、多分漫画のネタなんだろうけど」

 

「うん。うん。それで?」

「そもそも眷属はパパじゃないし! 私のお父さんは姫宮権蔵だし! 

なんで私いざって時『パパ』って単語が飛び出すの⁉ それもこれも店長のせいだ、きっとそうだ!」

 

「そっか。そっか。それで?」

「……上手く喋れてたかな? ちゃんと楽しんでもらえたかな? 嫌われて……ないかな?」

 

 ――――()()()()()()()()()()()()()()を口にしたタイミングで、伽夜ちゃんが私の頭を撫でた。

 

 ゆっくり、はっきりと伽夜ちゃんが声を出す。

 

「大丈夫。ちゃんと出来てたよ。お姉ちゃんは、ちゃんとやれてるよ」

 

 掛けられた言葉と髪の上から伝わる温もりで、不安で唸りたい気持ちがちょっとずつ収まっていく。

 そろそろと目蓋を開けると、伽夜ちゃんの柔らかな苦笑が見えた。

 

「――いつもごめんね」

「――ほんと。いつもだね」

 

 こうして眠たくなるまで妹と話してる時間は、静かで、心地よくて、好き。

 でも、姉としては少し情けないのもまた事実で……。 

 

「ぅぅ、甘えてくるのは伽夜ちゃんの方なのにぃ……最後はいっつもこうなる」

「気にしぃなんだよ、お姉ちゃんは。でも今日は出尽くすの早かったね。バイト三昧の時はもっともっと言ってたのに……配信、楽しかったんでしょ?」

 

「ん……んーーー……そう、だね。思ったより楽しかった」

 

 普段じゃ絶対言わないようなこと言いまくって。

 眷属(みんな)も先輩達も応えてきて。

 

 ――――今まで、家族以外の人とこんな風に話せたこと、あったかなぁ?

 

 応えるように伽夜ちゃんが、私の胸に顔を埋めた。

 

「良かったね、お姉ちゃん。……ほんとう、良かった」

 

 少しだけ、じんわりと、私のパジャマに暖かな染みができる。

 ハッと息を呑んだ。

 私は、私にくっついて小さくなる妹の背を擦って、頭を撫でた。

 

「大丈夫だよ。離れないよ……もぅ大丈夫だよ」

 

 暗闇に慣れた目で、時計を見る。

 帰ってくるなら、そろそろお父さんとお母さんが帰ってくる時間だった。

 私も、レヴィアになる前は、お父さん達と同じくらいの時間に帰ってきてたなぁ。

 

 しばらく妹の背中に手を当てていると、すぅすぅと手の平に寝息を感じた。

 私は目蓋を閉じた。

 

 もう伽夜ちゃんを、一人ぼっちで寝かせたくなかった。

 


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