予防接種に行ったハズなのになんでVtuberになってるの?? ~地味女子JKは変態猫や先輩V達にセンシティブにイジられるそうです~ 作:ビーサイド・D・アンビシャス
「それでは眷属達よ、今宵はここまで。グッバイ
配信終了の挨拶を言って、しばらくオフで先輩達と話した後、ふすまを開ける。四つん這いで押し入れから出てきたら、伽夜ちゃんが目を細めて微笑んだ。
「おつかれさま――――お姉ちゃん」
加湿器のついた部屋で伽夜ちゃんが作ってくれてた葛湯を飲む。喉にとろりと流れて、ホゥっと暖かな息を吐く。
「いつもありがとう、伽夜ちゃん。……おいしい」
「どぉいたしまして〜。飲み終わったらすぐ布団入ってね。喉と体冷えないうちに」
「ぁ、はは……配信するようになってから、至れり尽くせりだねぇ」
申し訳ないけどいつも甘えてしまう。
はぁぁぁぁ配信終わりのお布団さいこぉ〜〜♡
溶・け・て・しまいそう〜〜。
「気にしないでよ……今まではあたしの方がそうだったから」
「……伽夜ちゃん?」
「電気消すよ」
伽夜ちゃんはすぐに家の電気を消す。私の配信が終わったらすぐに就寝。
これが最近の姫宮家の習慣になっていた。電気代節約節約…………ぅん?
暗闇の中でもぞもぞと布団がうごめく。
布団に潜り込んできた伽夜ちゃんがぱぁと顔を出した。
間近に迫った妹に思わず笑みがこぼれる。
「またぁ?」
「またですっ」
ひしっとくっついてくる伽夜ちゃん。
寝返りを打って、私も伽夜ちゃんと向き合う。
おでおことおでおこをくっつけて。
目を閉じて……心に浮かんだことを、そのまま口にする。
「――――メスガキできてたかなぁ~~~~~~~~~~~????」
「できてたできてた! 行かないでって泣きつくところゾクゾクしたもん!」
「大丈夫? それ伽夜ちゃんの癖にだけ刺さってない?」
今日の配信の内容が頭の中をよぎって、私はたまらず唸る。
目蓋をきつく閉じながら、もわもわと浮かぶ不安を吐き出す。
「ぅぅぅ、大丈夫だったかなぁ?
リエル先輩カモだから、ついKILLし過ぎちゃったけど怒ってないかなぁ?
ステラママが話題振ってくれたのに、間が空いて上手く返せなかった。
クレア先輩のネタが分かんないよぉ、多分漫画のネタなんだろうけど」
「うん。うん。それで?」
「そもそも眷属はパパじゃないし! 私のお父さんは姫宮権蔵だし!
なんで私いざって時『パパ』って単語が飛び出すの⁉ それもこれも店長のせいだ、きっとそうだ!」
「そっか。そっか。それで?」
「……上手く喋れてたかな? ちゃんと楽しんでもらえたかな? 嫌われて……ないかな?」
――――
ゆっくり、はっきりと伽夜ちゃんが声を出す。
「大丈夫。ちゃんと出来てたよ。お姉ちゃんは、ちゃんとやれてるよ」
掛けられた言葉と髪の上から伝わる温もりで、不安で唸りたい気持ちがちょっとずつ収まっていく。
そろそろと目蓋を開けると、伽夜ちゃんの柔らかな苦笑が見えた。
「――いつもごめんね」
「――ほんと。いつもだね」
こうして眠たくなるまで妹と話してる時間は、静かで、心地よくて、好き。
でも、姉としては少し情けないのもまた事実で……。
「ぅぅ、甘えてくるのは伽夜ちゃんの方なのにぃ……最後はいっつもこうなる」
「気にしぃなんだよ、お姉ちゃんは。でも今日は出尽くすの早かったね。バイト三昧の時はもっともっと言ってたのに……配信、楽しかったんでしょ?」
「ん……んーーー……そう、だね。思ったより楽しかった」
普段じゃ絶対言わないようなこと言いまくって。
――――今まで、家族以外の人とこんな風に話せたこと、あったかなぁ?
応えるように伽夜ちゃんが、私の胸に顔を埋めた。
「良かったね、お姉ちゃん。……ほんとう、良かった」
少しだけ、じんわりと、私のパジャマに暖かな染みができる。
ハッと息を呑んだ。
私は、私にくっついて小さくなる妹の背を擦って、頭を撫でた。
「大丈夫だよ。離れないよ……もぅ大丈夫だよ」
暗闇に慣れた目で、時計を見る。
帰ってくるなら、そろそろお父さんとお母さんが帰ってくる時間だった。
私も、レヴィアになる前は、お父さん達と同じくらいの時間に帰ってきてたなぁ。
しばらく妹の背中に手を当てていると、すぅすぅと手の平に寝息を感じた。
私は目蓋を閉じた。
もう伽夜ちゃんを、一人ぼっちで寝かせたくなかった。