予防接種に行ったハズなのになんでVtuberになってるの?? ~地味女子JKは変態猫や先輩V達にセンシティブにイジられるそうです~   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第38話 シルバーシールド!?(記念配信枠、なにしよう)

「ふぅぉおねぇちゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉」

 

「うるっっっっさぁっ⁉」

 

 伽夜ちゃんの奇妙な鳴き声に朝を告げられて飛び起きた。

 

 胸の中にいた伽夜ちゃんはスマホをまるで神々しい何かのように掲げて、ぴょんぴょん飛び跳ねていた。

 

「ちょっ、やめっ、やめなさい‼ 下の人に迷惑‼」

 

 ――――ドンドンドンッ‼

 お隣からの壁ドンで「ひぃあっ‼」って変な声が飛び出た。

横の人にも迷惑だったようでした。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい‼」

 

 いつも配信部屋(押入れ)で大声出してたから、申し訳なさで胸がいっぱいになる。

 私は壁に口をくっつけて謝ってから、飛び跳ねてる伽夜ちゃんの後頭部を掴んで床に押し付けた。

 

「ぐはぁあああああああああ‼‼」

「おっきぃ声出しちゃ駄目ぇ‼ なに⁉ どうしたの急に⁉ なにかあっ」

 

 突きつけられたスマホの画面に、言葉を奪われる。

 それは【宵月レヴィア】のYUTUBEチャンネル。

 その登録者数が――――――6桁に、なってた。

 

「うそ」

「銀の盾……っ‼ 貰えるよぉっ‼ ――ぅっ、ぅううわぁぁぁああやった! やったぁあ~~~~~!!!!」

 

 こぼれちゃいそうなくらいおっきな伽夜ちゃんの瞳から、大粒の涙がこぼれる。

あぁ……伽夜ちゃんがこんなに大泣きしてるの久しぶりだなぁ。

 

 ぼうっとした頭でそんなことを考えながら、10万人と表示された堕天使のチャンネルを見つめる。

 

「……?」

 

 指先が勝手に震えてる。

 胸にまで伝わって、熱く震える。

 

 ぁっ、と頭に理解が追いついた時―――――じわりと世界が暖かくぼやけた。

 壁がドンドン鳴いてるけど、全然気にならなかった。

 

         *************

 

「お姉ちゃん! 今日の配信は好きなのやって良いよ!」

「ぅええ⁉ す、好きなの⁉」

 

 隣を歩く伽夜ちゃんの方へ振り向くと、朝日を浴びて更にキラキラした笑顔を浮かべていた。

 

 今までの配信の企画は、ほとんど伽夜ちゃんが決めてきた。私は色んな単語(メスガキとか)を理解するのに必死でミーティング=質問会という有り様。

 

「10万人記念だからね♪ それにそろそろお姉ちゃんも企画考えられるようになってもらわないと困るし」

「ぁい。ホントにすみません。おっしゃる通りです」

 

 妹が敏腕マネージャー過ぎる件について、私は己の不甲斐なさを謝罪しました。

 それにしても……好きなこと、かぁ。――――Roadinng…Roading…。

 

「な、なにすれば良いと思う?」

「さっきの謝罪取り消せよ、姉」

 

 うっぐぅ! 伽夜ちゃんのキツイ口調が胸に刺さる。

 見上げてるのに見下げ果てた妹の目に心折れそうになる。伽夜ちゃんは呆れたように息をついて、

 

「自分の好きなことやれば良いんだよ。無いの?」

「ぅ……な、無いわけじゃ。ただ……」

 

 ただ好きなことをやるだけじゃ、それは、私が満足するだけで終わってしまう。

記念だから、嬉しいことだからこそ……眷属(みんな)と一緒に楽しみたい。

 

 私だけが「楽しい」「好き」ってだけで――――終わらせたくない。

 そんな感じに伝えたら、伽夜ちゃんは首を傾げて、あっけらかんと言い放った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……そぅいうものなの?」

 

「そういうもんだよ。現にいるじゃん、おねえちゃんの周りに。なんだっけ、なんかほらテニスしてた……」

「三波くんと早乙女さん?」

 

「そう、それ」

「伽夜ちゃん。あの衝撃のテニスラリーをその程度にしか覚えてないの⁉」

「あたし、興味ないから。おねえちゃん以外のことに」

 

 何ら一切の躊躇なく言い切った⁉ 

 自分がそのテニスの審判もしてたのに……シスコン恐るべし。

 

「あの二人だって、自分の好きなものベラベラ長くくっちゃべってたじゃん。でもおねえちゃん、別にそれで嫌な思いしてないでしょ?」

「し……してない。したことない」

「なら、そういうことなんだよ」

 

 伽夜ちゃんはそう微笑みながら、私の背中を優しく擦った。ベッドの中で私が伽夜ちゃんにしている時のように。撫で方が私そっくりだった。

 

「好きな……もの」

 

 口の中で、誰にも聞こえないように、つぶやく。

 

 好きなものを語る。

 そう考えると真っ先に思い浮かぶのは――――三波くんだ。

 

 毎日毎日、お昼休みの、校舎裏で、宵月レヴィアについて推し語りして。

 変態だなぁって思ったけど、なんならちょっと引いてたけども…………不思議なことにこうして思い返すと「楽しかった」と感じる自分がいた。

 

『俺はありのままの宵月レヴィアが大好きだ! だからレヴィアたんには、自分のやりたいことをやりまくって欲しい!』

 

 彼はいつだって――――自分の好きなものにまっすぐだった。

 

 足を止めた。

 伽夜ちゃんに追い越された。

 胸に手を当てた。

 

 私の好きなものは…………深く深く問いかける。

 問いかけて――まっすぐ向き合った。

 

「ぅ、た」

「うん?」

 

 先を歩いていた伽夜ちゃんが首を傾げて振り返った。

 

 恥ずかしくて、居たたまれなくて顔を俯かせる。

 心細さでおぼつかなくなってる足元が見える。知ってはいたけど、好きなことを言うのって、やっぱり怖かった。

 それでも顔を引っ張り上げて、きちんと言葉にして言う。

 

「歌枠、なんて……どうかな?」

 

 頬が熱かった。

 やっぱり恥ずかしくて、視線を少し反らした。

 口に出した途端、やっぱり脳裏に掠める、親睦会のカラオケ。

 あの時の、自分だけ浮いてしまった空気を思い出して、ぞわっと鳥肌が立つ。

 

「あっ、あの! そりゃ、下手だよ⁉ 友達無くすレベルで下手! とてもじゃないけど人に聞かせるレベルじゃない。それは分かってるんだよ⁉ でも」

 

らしくないって、また言われるかもしれない。

それでも私は、私の好きなことは――――変わらないから。

 

「下手でも……好きだから」

 

 歌うのが好き。それが私の決めた『好きなこと』。

 それでもやっぱり不安で、私は伽夜ちゃんの反応をちらりと伺った。

 伽夜ちゃんはニマニマと意地悪そうに笑っていた。

 

「良いんじゃない。記念歌枠。音源探しておくから、歌いたい曲だけ後で教えて」

「あっ……うん」

 

 テキパキと段取りの相談を決めていく伽夜ちゃん。

 そうして校門に着く頃には、あらかたの段取りはまとめられていた。

 

「じゃあ、今夜は歌枠ね! あたし押入れの防音壁のチェックと改良考えるから、帰る時間ずれるかも!」

「お、遅くならないようにね」

 

 すたすたと行ってしまう妹の背中に声を掛けたけど、届いているか不安だった。

 決めるべきことは決めて、言うべきことだけは言って、行ってしまった……有能だなぁ。

 

 でも伽夜ちゃんが動いたということは、もう今夜の配信は歌枠なのは確実だった。

 

「ぅううう、やっぱり緊張するなぁ……」

 

 バクバクした心臓を抑えながら、教室へ向かう。

 でも、どうしてだろう。緊張してるのに――――胸の奥が弾んで仕方ない。

 

 頬が緩んで、鼻歌を歌ってしまう。

 スキップはだめ、廊下ではだめ、恥ずかし過ぎる。

 そうしてる内に教室の前に着いた。私はいつものように度無しメガネを掛けて、教室の扉を開けた。

 

「ねぇこれってさぁ」「あ~なにこういうの好きなの?」「ちがうってそうじゃなくて」「ちょいちょいみんなこれ聞いてみ」「なに?」「なんだよ、なんかあんの」

「あ~そういうのあんまり見なくて。ごめんね」「ちがうの、声。声聞いて」

「10万ってすごいな」「そこそこでしょ」「大したことない」「ぶってるねぇ~」「こぅいぅのに騙されるんだろうね」「伸び方変じゃね?」「登録者何人か買ってるんじゃないの」「で、これがどうかしたの」

「声よーく聞いてみろって」「何が言いたいの」「わからん」「あー確かにあんまり喋んないからね、あの子」「でもさ」

「なに」「なんなの」「なんだよ」

「てかさ」「これさ」

「え?」

「あれ」

「あっ」

「たしかに」

 

 クラスの空気がざわついていた。

 

 首筋に悪寒が走って、「おはよう」と言うのを止めた。

 いつも通り、別々のグループで喋ってるのに、今日だけはどのグループも同じことを話してるみたいで。

 

 何をどう話してるかは知らないけど、知りたくないけど。

 とにかく気付かれないように、息をひそめながら席に座って――――――頭上に人影が落ちてきた。

 

 顔を上げたら、女の子が私の席のまん前に立っていた。

 昨日、私に課題を写させてもらえるよう頼んできた子だった。

 

「ねぇ、姫宮さん。これ知ってる?」

 

 突きつけられたスマホに映る、漆黒の堕天使。

 そのYUTUBEチャンネル。

 

 私は。

 ゆっくり。

 首を。

 横に振った。

 

「し……しらな」

 声を出した、その瞬間。

 

 ――――じっ、と一斉に視線が突き刺さった。

 


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