予防接種に行ったハズなのになんでVtuberになってるの?? ~地味女子JKは変態猫や先輩V達にセンシティブにイジられるそうです~   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第40話 記念歌配信かい――ッ(堕天使は砕け散った)

「あっ、お姉ちゃん⁉ 何してたの、もう配信始まっちゃうよ⁉」

「…………うん」

 

「? とにかく!遅いから勝手にサムネと配信画面作って枠立てといたからね⁉ 後は開始ボタン押すだけだから。それじゃ――楽しんでね!」

 

 遅れたのに。迷惑かけたのに。

 伽夜ちゃんはニッと笑って、押入れの扉を閉めた。

 

 PC画面には、配信が始まる前の、待機画面のアニメーションがループで流れていた。

 

[ 待機コメント ]  

・きちゃ!

・きちゃ!

・きちゃ♡

・きちゃああああああああああ

・登録者10万人おめでとうございます!

・キタァァァァァァ

 

「……あははっ。きちゃ、ってなぁに? なんか響きがかわいい」

 

 どんどん流れてくる待機コメントに目を細めて、微笑む。

 コメントの一つ一つから、喜んでくれていることが伝わってきて…………。

 

『イラスト越しにちやほやされて虚しくならないのかなぁ?』

 

 ――――ぴしっ、と頭の中から変な音が鳴った。

 

「……はじめな、きゃ」

 

 うた。

 歌を、うたわなきゃ。

 下手かもしれないけど、これが私の、好きなことだから。私の好きなものを、眷属(みんな)に知って欲しいから。

 

 配信開始ボタンをクリック。

 ヘブンズライブ専用の配信ソフトとYUTUBEが接続されて――――パァッと頬を持ち上げてみせる。

 

「け、眷属のみんな……っ……ぁっ、こ、今宵、集まっていただき大儀である。こんレビ……お、音は大丈夫か?」

 

[ コメント ] 

・こんレビー!

・こんレビ~

・こんレビ!

・大丈夫!

・パーフェクトだ、堕天使

 

「そ、それは……よかった……え、と。じゅっ、10万人記念ということで。きょ今日は初めて歌枠をしていこうとお、もう」

 

[ コメント ]

・おめでとぉおおおおお!

・10万人おめでとーーー!

・いぇーーーーーい! ギィールティ‼

・ひゃあー、めでてぇてぇぞぉ

・レヴィアたんの歌声ずっと楽しみだったー!

・あまりハジケるなよ、ボッチに見えるぞ 

 

「ぁ、はは。うるさいぞぉー、妾は孤高の堕天使故に。ハジケる? 総スカン? なんのことやら……ふ、ふぁっはっはっはっ」

 

[ コメント ] 

・?

・?

・だいじょうぶ?

・大丈夫ですか?

 

 ぴくっ、とマウスに添えていた指が跳ねる。

 

「な……なにが? そ、そんな憂慮よりも鬨の声を上げよ、眷属達。ほれ、ほれっ」

 

 流れを、流れを変えなきゃ。 

 コメント欄……の流れ、を――――――――。

 

 

[ コメント ] 

・なんか 

・声が変

・沈んでる

・震えてる

・落ち込んでる?

・だいじょうぶ?

・無理してない?

・レヴィアたんのペースで良いので

・好きなことして

・一緒に楽しみたいんやから

・絶対に無理しないでほしい

 

 ――――ぁ。

 

 止まらない。

 流れが止まらない。

 

 温かい。

 初めての配信から、なんにも、変わってない。

 眷属(みんな)は―――――温かくて。

 

 なのに。

 

『そ、そぅだね……きもちわるい、ね』

 

 ぱきり、と温かな亀裂が胸の奥から拡がった。

 

「――――ごめん、なさ、ぃ」

 

 はくはくと口がわななく。

 歯がカタカタと鳴る。

 

「ごめっ、なさ…… わたっ、わた、し……なん、でぇ……っ! えっ、なっ、ごめんなさい! ちがうのに……ぃっ! そん、そんなっ、ことおもっ、てない……のに」

 

 涙が、熱くて、喉をふさぐ。掌が、冷たくて、胸を握り潰す。

 

 一人は平気だった。

 ただ、ただ……弾かれるのが怖かった。

 いないことにされるのが嫌だった。

 

 仲良くなんてなくて良い。

 カーストの低い娘でも良い。

 便利な人扱いでも良いから。

 

 ただ存在してもいいって空気が欲しかった。

 

 そのためだけに、私は、この人達を、眷属《みんな》を―――――否定した。

 

 この、声で。

 

 コメント欄がすごく流れてる。

 もう、だめだ。こんな、とこ、見せて、せっかく、みんな、おめでとうって。

 

「ご……――……――っ!」

 

 目を見開く。

 喉に手を当てて、声を絞り出す。

 

 

 ――――声ですらない、掠れ切った音がひゅうひゅう飛び出るだけだった。

 

 

 押入れの戸が勢いよく開いて、後ろから伸びた手が配信を切断した。

 

「お姉ちゃん⁉ ねぇ、お姉ちゃん‼ どうしたの⁉ ねぇってばぁ‼」

 

 伽夜ちゃんが私の背中を擦りながら、目に涙をにじませる。

 

 私は、声が出なくなった。

 


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