予防接種に行ったハズなのになんでVtuberになってるの?? ~地味女子JKは変態猫や先輩V達にセンシティブにイジられるそうです~   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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過食気味の惰眠を貪る(――どうして誰も〇めてくれないの)

「それじゃあお姉ちゃん……行ってきます」

 

 沈んだ声がした後に、バタンと空っぽな音が部屋の空気を震わせた。

 布団の中でその震えを感じて、私は更に深く潜り込んだ。

 

 それでも薄ぼんやり明るくて、口の中に苦みが滲んだ。ぴったりと隙間を埋めて、吐息がこもった温い暗闇の中で、小さく丸まった。

 

 膝からつま先まで丸めて、胸元に両手を寄せて。

 唇を噛むのと同じくらいの強さで、目蓋をきつく閉じる。

 のしかかる温もりと眠気で、何もかもを鈍らせる。

 

 あの配信の後――――この暗闇からまともに出れていない。  

 

「っ~~~~~~~」

 

 眠気に沈む前の、この数分が、身をよじりたくなるくらい、きらいだ。

 だいきらいだ。

 

 しかも回数を重ねるごとに、時間が掛かる。

 ……当たり前か。疲れてないんだから。

 

 それでも横になってたらウトウトするこの感じに救われている。

 睡眠欲ってすごいね。

 なんだか、あれだよね、お腹が空いてなくても冷蔵庫を開けちゃう感じに似て――――()()()()()()()()()()()()

 

「~~――っ! ~~~~――――ぁっ」

 

何も出てこなかった喉から、ボロボロの音が吐き出てきた。

 

『そ、そぅだね……きもちわるい、ね』

 

 髪を掴む。歯を噛みしめて、もっともっと小さく丸まる。

 

 ―――なさいっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ! 

 

 自分が何を口にしたのかも忘れて、また頭の中でお話してる。

 眷属(みんな)雑談(はなし)している時みたいに。

 

「ふっ――ぅっ――――ぅぅぅぅぅ~~~~~~~っ!」

 

 私は、私を許せない……っ!

 唸りが、涙が、嗚咽が、温い闇の中を熱く、息苦しくした。

 鈍ってた頭の中が茹だって、眠気が完全に醒めた。 

 

「――――――」

 

 枕の下に手を潜らせてスマホを取る。

 ぎゅぅううと強く握りしめると、電源ボタンが長押しされた。ブルーライトが布団の中を明るくする。

 そうして電源が点いた途端――――連続した通知音が鳴り響いた。

 

 

[ ビィスコードサーバー ]

クレア「レヴィアちゃんおは~☆ 喉、大丈夫? 気にせず、この機会にいーっぱい休んじゃいなー! 治ったらオフで温泉いきましょうよ! また浴衣でイチャイ

チャしようねっ☆ チュッ♡」

 

ステラ「ママです。お元気ですか? しっかり療養してくださいね。具体的にはお布団でごろごろ食っちゃ寝しなさいね。娘の成長した(すがた)が楽しみです。

PS.ぽよ月レヴィアもまたオレの癖に刺さるからねぇ! 今度また吸ってやるから早く治せぇ! いや? あんたが家に来るなら話早いがね?」

 

[ Bine ]

 早乙女さん「姫宮さん大丈夫今日は学校来るのいやごめんなさい無理言いました休んで好きに休んで無理しないで自分のペースで来てくださああああああああああんの脳スカマン臭メス豚が精肉して吊るすぞってああああああ誤爆ったちがうの姫宮さんに送るつもりじゃとにかく気にしないでね、あの豚共の鳴き声なんかぁ!」

 

 ビィスコードにも、BINEにも、毎日メッセージが来ていた。

 

【宵月レヴィア】は今、配信活動を不定期で休止していた。

 表向きは喉の治療として、既にBwitterでも発表している。

 

 覗いてみると、みんな――――眷属(みんな)、一人一人、それぞれの言葉で心配してくれて、励ましてくれていて。

 

 クレア先輩達も、早乙女さんも、みんな心配してくれて、毎日メッセージを送ってくれて。

 

「ご……――……――っ!」

 

 優しくて温かい言葉が、真綿のように胸の中と喉を締め付けた。 

 スマホを胸に抱きしめる。 

 

 あの時の、私を囲んだ女子達は、友達でも何でもない。

 嫌われたって良い筈なのに。

 そんな相手のために私は……【宵月レヴィア】を否定した。

 

 堕天使になって出会えた人達も、堕天使のことを好きになってくれた人達も、がんばってきた自分でさえ、ぜんぶ否定した。

 

 ――気持ち悪いのは…………私だ。

 

 

 ティロンティロン♪ ティロンティロン♪

 

 胸の中のスマホが着信音で震えた。 

 この音……ビィスコードから。通話相手を確かめた。

 

 ――――リエル、先輩?

 

 どうしてって思った。

 だって今、私、声出ないから。

 通話に出れたとしても返事すらできないのに……着信は切れない。

 いつまでも、いつまでも鳴り続けている。

 

 布団の暗闇の中、私は通話ボタンをタップした。

 

「姫宮ちゃん、今から会える? 会えるならメッセージで送って」

 

 駆け込み乗車みたいな、急いだ声音が私の耳に駆け込んできた。

 目を丸めてる間に、リエル……天海先輩は私に呼びかけ続ける。

 

「今、姫宮ちゃん、ほとんど一人でしょ? ずっと一人は駄目だよ! 分かるの、わたし覚えがあるから! やっぱり――こういう時は直接会って話した方が良いよ!」

 

 男の人とは思えない透明で綺麗な声が、必死さに塗れてる。

 その必死さの後ろにある思いやりに、胸の奥が熱くなった。

 

「顔、見せて、会おう。会って話そ? 姫宮ちゃん」

 

 パジャマ姿のまま、家から飛び出す。

 外はいつの間にか、夕陽に暮れていた。

 


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