予防接種に行ったハズなのになんでVtuberになってるの?? ~地味女子JKは変態猫や先輩V達にセンシティブにイジられるそうです~   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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姫宮紗夜という『魂』

 待ち合わせ場所が駅前になった時は、少し怖かった。

 今の夕方の時間帯は会社帰りのサラリーマンや学校帰りの学生と多くすれ違う。

 ――会いたくない……っ!

 

 視界に学校の制服が入る度に、胸の中が曇る。

 すれ違っても声を掛けられないように、走っていく。

 ダンッと強く一歩を踏みつけて、ブレーキをかける。

 改札前に着いたから。

 

 息が弾んで、赤くなった顔で改札を見回す。

 スーツスーツ制服スーツ制服集団、スーツと、どんどん視線を移していくと――――縦縞ハイネックの天海先輩が見えた。

 

 先輩もしきりに周りを見回していたけど、ふと私と目が合った。

 速足でとことこ駆け寄ってくる先輩の姿に、私はくしゃくしゃに顔を歪めた。

 

「姫宮ちゃん!」

 

 駆け寄った勢いのまま、天海先輩は私を抱きしめた。

 私は先輩の肩に顔を埋めて、きゅっと抱きついた。

 香水の香りが鼻先を撫でた。

 

「吐き出しちゃいな。全部聞くから。一つ、一つ」

  

 芯が通ってるのにふわふわした、天使の羽みたいな声が、私の耳元で紡がれた。

 あぁ……だめ。だめなのに――――こらえきれなかった。

 

 天海先輩の肩が雨に降られたかのように、濡れてしまった。

 

           **********

 

「ここがわたしの家。そういえば初めて人上げるわね」

 

 ここって……っ。

 到着した場所は、駅からそう遠くないワンルームマンションだった。

 

 天海先輩って最寄り駅、私と同じなんだ……⁉

 やがて目的の階について、先輩が「いらっしゃい」と鍵を開けて招いた。『おじゃまします』と言う意味も兼ねて、私は頭を下げて入らせてもらった。

 

 配信では何度も顔を合わせて話したけれど……家にお呼ばれするのは、やっぱり緊張する。

 

 先輩の三歩後ろを付いていって――――天海先輩の自室が、目の前に広がった。

 

 青や紺色がベースになったその部屋は、世間一般的に思い浮かべることが出来る普通の男性の部屋だった。

 あれ…………意外だ。

 

 女の子より女の子してる先輩のことだから、部屋もそうだと思っていた。

 きょろきょろする私の表情で分かったのか、天海先輩は返答した。

 

「あぁ親が来るから、その時のためにこうしてるんだ。姫宮ちゃんが想像してるのは……こっちの方じゃない?」

 

 そう言って、先輩はクローゼットを開け放った。

 そこには、一着一着が店頭に並べるほど、手入れの行き届いた可愛くておしゃれな服が揃えられていた。

 

 息を呑む横で、先輩は皮肉るように肩をすくめていた。

 

「親には言ってないからさぁ――――()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう言った天海先輩の横顔が……悲しそうだったから。

 私は先輩の袖をつまんだ。

 

 先輩は一瞬、目を丸めて……黙って私の手を取った。

 ――――上手く伝えられるか不安だけど。

 

 私は一つ、一つ、今までのことをビィスコードのメッセージで書いていった。

 

           ***********

 

 高校1年生の頃は、まだ普通だったんです。

 

 朝のホームルーム前、お昼休みに放課後、一人二人の友人とずっとお喋りしてて。

でも隕石が降ってから、家はめちゃくちゃで。私も必死にバイトして。

 

 気付けば1年生の頃の友達とは、疎遠になっていました。

 そのまま2年生になって、でも忙しさは変わらなくて。

 

 つながりが欲しかった。話せる相手が欲しかった。

 だからクラスデビューは成功させなきゃって、親睦会(カラオケ)を全力で歌いました。ハジけ過ぎて総スカン喰らいました。

 

 放課後バイト三昧なのも変わらなくて、気付けば―――1人でした。

 

 1人なのを悟られたくなくて、寝てるふりをするのが辛かった。

 トイレに落ち着きを感じてる自分が虚しかった。

 昼休み、ひたすら一人で学校の中をブラつくのは、嫌だった。

 

 ……せめて。

 

 クラスの中に居させて欲しかった。

 教室の中に居させて欲しかった。

 だから、『姫宮さんらしさ』を突き詰めた。

 

 度無しメガネを掛けて、読みもしない本を開いて、目立たず小さく縮こまって、頼み事を断らないことで、そういう立ち位置(カースト)に納まろうとしたんです。

 

 そうしてやっと私は――――教室に存在(いる)ことが出来たんです。

 

 ビィスコードに送った長い長い私の告白を、天海先輩はじっと静かに読んでいた。

 読んでくれていた。

 


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