予防接種に行ったハズなのになんでVtuberになってるの?? ~地味女子JKは変態猫や先輩V達にセンシティブにイジられるそうです~ 作:ビーサイド・D・アンビシャス
待ち合わせ場所が駅前になった時は、少し怖かった。
今の夕方の時間帯は会社帰りのサラリーマンや学校帰りの学生と多くすれ違う。
――会いたくない……っ!
視界に学校の制服が入る度に、胸の中が曇る。
すれ違っても声を掛けられないように、走っていく。
ダンッと強く一歩を踏みつけて、ブレーキをかける。
改札前に着いたから。
息が弾んで、赤くなった顔で改札を見回す。
スーツスーツ制服スーツ制服集団、スーツと、どんどん視線を移していくと――――縦縞ハイネックの天海先輩が見えた。
先輩もしきりに周りを見回していたけど、ふと私と目が合った。
速足でとことこ駆け寄ってくる先輩の姿に、私はくしゃくしゃに顔を歪めた。
「姫宮ちゃん!」
駆け寄った勢いのまま、天海先輩は私を抱きしめた。
私は先輩の肩に顔を埋めて、きゅっと抱きついた。
香水の香りが鼻先を撫でた。
「吐き出しちゃいな。全部聞くから。一つ、一つ」
芯が通ってるのにふわふわした、天使の羽みたいな声が、私の耳元で紡がれた。
あぁ……だめ。だめなのに――――こらえきれなかった。
天海先輩の肩が雨に降られたかのように、濡れてしまった。
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「ここがわたしの家。そういえば初めて人上げるわね」
ここって……っ。
到着した場所は、駅からそう遠くないワンルームマンションだった。
天海先輩って最寄り駅、私と同じなんだ……⁉
やがて目的の階について、先輩が「いらっしゃい」と鍵を開けて招いた。『おじゃまします』と言う意味も兼ねて、私は頭を下げて入らせてもらった。
配信では何度も顔を合わせて話したけれど……家にお呼ばれするのは、やっぱり緊張する。
先輩の三歩後ろを付いていって――――天海先輩の自室が、目の前に広がった。
青や紺色がベースになったその部屋は、世間一般的に思い浮かべることが出来る普通の男性の部屋だった。
あれ…………意外だ。
女の子より女の子してる先輩のことだから、部屋もそうだと思っていた。
きょろきょろする私の表情で分かったのか、天海先輩は返答した。
「あぁ親が来るから、その時のためにこうしてるんだ。姫宮ちゃんが想像してるのは……こっちの方じゃない?」
そう言って、先輩はクローゼットを開け放った。
そこには、一着一着が店頭に並べるほど、手入れの行き届いた可愛くておしゃれな服が揃えられていた。
息を呑む横で、先輩は皮肉るように肩をすくめていた。
「親には言ってないからさぁ――――
そう言った天海先輩の横顔が……悲しそうだったから。
私は先輩の袖をつまんだ。
先輩は一瞬、目を丸めて……黙って私の手を取った。
――――上手く伝えられるか不安だけど。
私は一つ、一つ、今までのことをビィスコードのメッセージで書いていった。
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高校1年生の頃は、まだ普通だったんです。
朝のホームルーム前、お昼休みに放課後、一人二人の友人とずっとお喋りしてて。
でも隕石が降ってから、家はめちゃくちゃで。私も必死にバイトして。
気付けば1年生の頃の友達とは、疎遠になっていました。
そのまま2年生になって、でも忙しさは変わらなくて。
つながりが欲しかった。話せる相手が欲しかった。
だからクラスデビューは成功させなきゃって、
放課後バイト三昧なのも変わらなくて、気付けば―――1人でした。
1人なのを悟られたくなくて、寝てるふりをするのが辛かった。
トイレに落ち着きを感じてる自分が虚しかった。
昼休み、ひたすら一人で学校の中をブラつくのは、嫌だった。
……せめて。
クラスの中に居させて欲しかった。
教室の中に居させて欲しかった。
だから、『姫宮さんらしさ』を突き詰めた。
度無しメガネを掛けて、読みもしない本を開いて、目立たず小さく縮こまって、頼み事を断らないことで、そういう
そうしてやっと私は――――教室に
ビィスコードに送った長い長い私の告白を、天海先輩はじっと静かに読んでいた。
読んでくれていた。