予防接種に行ったハズなのになんでVtuberになってるの?? ~地味女子JKは変態猫や先輩V達にセンシティブにイジられるそうです~ 作:ビーサイド・D・アンビシャス
学校へ駆ける私の背に、夕陽が追い縋ってくる。
視界の片隅に流れる景色が、じわじわと夕闇に飲み込まれていく。
――お願いお願い……まだ学校にいて。
祈りが足の回転を速めていく。
焦りで、息が乱れて詰まる。
苦しくなって、だんだん顎が上がっていく。
……私なんで走ってるんだろう。
三波くんと話すなら、通話で良い。BINEで連絡を取るのも良い。なのに、どうしてこんな息を切らして、走ってるんだろう?
肺が痺れる、喉の奥から血の香りがする、視界が目の前しか見えないように狭く搾られていく。はぁはぁと息を吸う度、ごちゃごちゃした思考が
――会いたい。
顎を引く。
脇を締めて、膝を高く上げる。
酸素以上に肺の中を駆け巡る想いが、目からこぼれて散っていく。
会いたい、会いたい、会って、話したい。
いっつもいっつも推しのことばっかりで、レヴィアのことばっかり早口で喋って。
鼓膜破いてもらいたいとか意味不明な欲求あけすけに話して。
エッチな絵とかASMRとか普通に聞かせてきて。
とんだ変態さんだよ、クラスの
――――そういう風に、私は、私が嫌いな人達と同じ見方しかしてなかった。
あなたはずっと私に……【姫宮紗夜】に向かって、話してくれていたのに。
「~~~~~っ!」
三波くんっ!
校門に飛び込む。
ちらほら校舎はまだ明るいところもあって、でも漂う空気がどこか静かで。
からからの喉なんか裂けちゃえば良いっ!
そんな気持ちで彼の名前を呼ぶ。
「~~~~~っ!」
返事も私の声自体も、何も夜の校内には響いていかない。
ただ……校内の明かりが、少しずつ消えていく。
玄関にたくさんの人の足音を感じる。
もう、このタイミングを逃したら、三波くんとは会えない気がした。
焦りが募る中……私は肌寒い校舎の影を思い出した。
「――――っ!」
お願い……間に合って!
どこからか「またね」と聞こえてくる。夕闇に染まった校内を、走る。
入り慣れた校舎とは反対側の校舎っ、その裏側へ角を曲がって飛び込んだ。
ただでさえ薄暗い校舎裏は、夕闇が付け足されて……しぃんと静寂に満たされていた。
――――あぁ。
放課後の、いつもと全然違う校舎裏がうるうるとにじんで……唇を噛ん
「あれ? 姫宮さん?」
「――っ‼」
きゃっ‼
無音の悲鳴が飛び出て、両肩がびょこんと飛び上がった。
静寂に包まれていた暗闇を破って、三波くんは立ち上がった。
その位置は、私たちがいつも腰を下ろしてるアスファルトの段々があるところだった。暗すぎて見えなかったんだ……なんか…………恥ずかしっ!
私は慌てて袖で目元を拭った。そうしてホゥッと息をついた瞬間。
「姫宮さん……なんでパジャマなの?」
「……――?」
へ? なにを言って……私はおそるおそる俯いた。
きょとんと丸めた目に――――ここ数日ずっと肌に馴染んだ薄ピンクのくま柄パジャマが映りこんだ。
刹那、駆け巡る。
家を飛び出してから、学校に着くまでの、これまでの記憶。
その間ずっとパジャマだった自分を知って。
「~~~~~~~~~~~~~~っ‼‼‼‼⁉」
正しく声にならない悲鳴が、校舎裏に響き渡った。